肺真菌症

長引くせきや微熱。「ただの風邪」だと自己判断していませんか?その不調、実は私たちのすぐそばにいる「カビ」が肺に炎症を起こす「肺真菌症」かもしれません。

私たちは毎日、目に見えない多くの真菌(カビ)を吸い込んでいますが、通常は免疫機能が退治してくれます。しかし、加齢や持病などで免疫力が低下すると、普段は無害なカビが体内で増殖し、風邪や肺炎とよく似た症状を引き起こすのです。

この記事では、見過ごされやすい肺真菌症の正体から、喘息との意外な関係、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、早期発見にお役立てください。

肺真菌症の概要

肺真菌症とは、私たちの身のまわりにいる「カビ」を吸い込むことで、肺に炎症が起こる病気です。「真菌(しんきん)」というのが、カビの専門的な呼び名になります。

真菌が原因の病気と聞くと、足にできる水虫を思い浮かべる方もいるかもしれません。水虫のように体の表面にできるものを「表在性真菌症」と呼びます。これに対し、肺真菌症は体の奥深くで起こる「深在性真菌症」に分類されます。

最近の研究では、鼻から肺までの空気の通り道は、一つのつながった器官として捉えられています。これを「Unified Airway(統合気道)」と呼び、気道の病気を全体的に考える上で大切な概念です。

この考え方に基づくと、真菌が喘息やアレルギー性鼻炎などにも深く関わっていることがわかってきました。これは、真菌がアレルギーに関わる体の仕組み(タイプ2免疫応答)を刺激することがあるためです。

肺真菌症を引き起こす真菌には、主に以下のような種類があります。

  • アスペルギルス 室内のホコリや土壌など、どこにでもいるカビです。
  • クリプトコッカス ハトのフンなどで汚染された土壌に多く存在します。
  • カンジダ 健康な人の口の中や皮膚にもいる常在菌の一種です。
  • ムコール 土や腐った植物、パンなどにも生える身近なカビです。

どの種類の真菌に感染するかによって、病気の性質や経過、治療法などが大きく異なります。

肺真菌症の種類

肺真菌症は、原因となるカビの種類や体の反応によって、いくつかのタイプに分かれます。 同じ「風邪」でも、ウイルスによって症状が違うのに少し似ています。 肺真菌症を正しく知るために、代表的な種類を見ていきましょう。

肺真菌症の主な種類

原因のカビ(真菌)の例

特徴

肺アスペルギルス症

アスペルギルス

最も多い種類です。体の状態によってさらに3つのタイプに分かれます。

肺クリプトコッカス症

クリプトコッカス

ハトのフンで汚染された土などにいます。健康な人でもかかることがあります。

肺カンジダ症

カンジダ

もともと口や皮膚にいるカビですが、免疫力が落ちると悪さをします。

肺ムコール症

ムコール

パンなどに生えるカビも原因になることがあります。進行が速いのが特徴です。

ニューモシスチス肺炎

ニューモシスチス

肺の中でじわじわと広がる、間質性肺炎という特殊な肺炎を起こします。

特に多い肺アスペルギルス症は、体の状態によってさらに以下の3つのタイプに分けられます。

  • 侵襲性肺アスペルギルス症(IPA) 免疫力がとても弱っている時に、カビが血管に入り込み全身に広がることがある危険な状態です。
  • 慢性肺アスペルギルス症(CPA) 結核などで昔、肺に傷ができた場所にカビがすみつき、ゆっくりと病気を進行させます。
  • アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) カビそのものではなく、カビに対するアレルギー反応で喘息のような症状が起こります。 これは、体がカビを異物と認識し、過剰に攻撃してしまう「タイプ2免疫応答」という仕組みが関係しています。 この反応は鼻から肺までつながった気道全体で起こることがあります。

このように、同じ肺真菌症でも、種類によって全く違う顔を見せるのです。

肺真菌症の原因

私たちの周りの空気や土の中には、目に見えないカビ(真菌)がたくさんいます。 私たちは毎日、知らず知らずのうちに多くの真菌を吸い込んで生活しています。 しかし、ほとんどの人は病気になりません。 それは、体に備わっている「免疫」という防御システムが真菌を退治してくれるためです。

ところが、何らかの理由で免疫の力が弱まると、真菌が肺で増殖してしまいます。 これを「日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)」と呼びます。 体の警備員である免疫が弱った隙を狙って、普段は大人しい真菌が悪さをするのです。

特に、以下のような方は免疫力が低下しやすく、感染のリスクが高まるため注意が必要です。

  • ご高齢の方 加齢に伴い、体の防御機能が自然と低下するためです。
  • 過去に肺の病気をした方 肺結核などで肺に傷跡が残っていると、カビが住みつきやすくなります。
  • 特定のお薬を使っている方 ステロイド剤、免疫抑制剤、抗がん剤などは、病気の治療に必要ですが、 体の免疫力を抑える働きがあります。
  • 持病をお持ちの方 白血病やエイズ(AIDS)、コントロールが不十分な糖尿病などです。 また、新型コロナウイルス感染症にかかった後も注意が必要です。

一方で、喘息のようなアレルギーが関わる病気では、少し違う仕組みも関係します。 鼻から肺までの空気の通り道は一つにつながっており、「Unified Airway(統合気道)」と呼ばれます。 この気道で、吸い込んだ真菌がアレルギー反応(タイプ2免疫応答)のスイッチを押してしまうのです。 これにより気道の炎症が悪化し、肺真菌症の一因となることがあります。

ほとんどは免疫力の低下が関係しますが、ハトのフンで汚染された土にいる「クリプトコッカス」のように、健康な方でも感染する可能性がある真菌も存在します。

肺真菌症の症状

肺真菌症の症状は、せきや発熱、たんといった風邪や肺炎とよく似ています。 そのため、カビが原因だと気づきにくいことが、この病気の特徴の一つです。

症状の現れ方は、原因のカビの種類や、その方の免疫力によって大きく異なります。 数か月から数年かけてゆっくりと進行する場合もあれば、急激に悪化する場合もあります。

【肺真菌症の主な症状チェックリスト】

  • 長引くせき 市販の薬を飲んでも、2週間以上せきが続く場合は注意が必要です。
  • たん 血が混じった「血痰(けったん)」が出ることもあり、重要なサインです。
  • 発熱 微熱がだらだらと続いたり、急に高熱が出たりします。
  • 息苦しさ、呼吸困難 階段の上り下りなど、以前は何でもなかった動作で息が切れます。
  • 胸の痛み 深く息を吸い込んだ時や、せきをした時に胸が痛むことがあります。
  • 体のだるさ(倦怠感) 特に思い当たる原因がないのに、体が重く感じられます。
  • 体重の減少 食欲がない状態が続き、だんだんと体重が落ちていきます。

また、喘息とよく似た症状を引き起こすタイプもあります。 これは、吸い込んだカビそのものではなく、カビに対するアレルギー反応が原因です。 最近の研究では、鼻から肺までの空気の通り道は一つにつながっていると考えられています。 これを「Unified Airway(統合気道)」と呼びます。

この気道で、カビに対する過剰なアレルギー反応が起こることがあります。 体を守るはずの免疫が暴走する「タイプ2免疫応答」という仕組みです。 この反応が、喘息のような頑固なせきや息苦しさを引き起こすのです。

気になる症状が続く場合は自己判断せず、早めに医療機関へご相談ください。

肺真菌症の検査・診断

肺真菌症の症状は、せきや熱など風邪や肺炎とよく似ています。 そのため、症状だけで原因がカビだと見分けるのは非常に難しいのです。 そこで、いくつかの検査を組み合わせて慎重に診断を進めていきます。

検査は、患者さんの体への負担が少ないものから順番に行うのが基本です。

  • 画像検査(胸部X線・CT検査) まずは胸のレントゲン(X線)やCTを撮影し、肺の状態を確認します。 これらの検査で肺に影が見つかることがありますが、これだけでは確定できません。
  • 血液検査 血液検査は、診断の重要な手がかりを探すために行います。 体の中にカビの成分や、カビと戦った証拠(抗体)がないかを調べます。 また、カビが原因でアレルギー反応が起きていないかも確認します。 これは「タイプ2免疫応答」という体の仕組みを調べるもので、診断の助けになります。
  • 病原体を調べる検査 診断を確定させるには、肺にいるカビそのものを見つけることが最も確実です。
  • たんの検査(喀痰検査) 採取したたんを顕微鏡で観察したり、カビを育てたり(培養)して調べます。
  • 気管支鏡(きかんしきょう)検査 たんの検査でカビが見つからない場合に行います。 口や鼻から細いカメラを入れ、肺の組織を少しだけ採って詳しく調べます。

これらの検査結果を総合的に判断し、原因となっているカビの種類を特定します。

肺真菌症の治療

肺真菌症の治療は、原因のカビの種類や体の状態を総合的にみて進めます。 治療の基本は、カビの増殖を抑える「抗真菌薬」というお薬を使うことです。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療法を慎重に選びます。

治療法は主に、お薬による治療と手術の2つに分けられます。

  • 抗真菌薬による治療 原因となっているカビの種類に合わせて、効果のある抗真菌薬を選びます。 お薬の使い方は、症状の重さによって異なります。
  • 飲み薬(内服薬) 症状が比較的軽い場合や、長期間の治療が必要な時に使います。
  • 点滴(注射薬) 重症の場合や、飲み薬では効果が出にくい時に使います。

治療は数か月から1年以上と、長期間にわたることが少なくありません。 途中でやめるとカビが再び増えてしまうため、根気強く続けることが大切です。

  • 手術による治療 肺の一部にカビが塊を作っている場合などには、手術も考えられます。 病気の部分を直接取り除くことで、根本的な解決を目指します。

治療法

どのような時に選ばれるか

具体的な治療の例

薬物療法

症状が軽い場合

病気が広い範囲にある場合

原因のカビに合わせた抗真菌薬の飲み薬や点滴

外科手術

病気の部分が肺の一部分に限られている場合

カビの塊(真菌球)などを手術で取り除く

また、カビに対するアレルギー反応で、喘息のような症状が出るタイプもあります。 これは、体を守る仕組みが過剰に反応する「タイプ2免疫応答」が原因です。 鼻から肺までの空気の通り道は一つにつながっているため、気道全体で炎症が起こります。

これまでは炎症を抑えるステロイドというお薬が中心でした。 しかし最近では、この「タイプ2免疫応答」の働きを直接抑える新しいお薬も登場しています。 これにより、治療の選択肢が広がり、より効果的な治療が期待できるようになりました。 どの治療法が最適か、医師とよく相談して決めていきましょう。