肺動脈血栓塞栓症

「最近、階段を上るだけで息が切れる」「足のむくみが気になる」。そんな体のサインを、単なる疲れや年齢のせいだと見過ごしていませんか?もしかすると、それは心臓から肺へ血液を送る血管の血圧が異常に高くなる「肺動脈性肺高血圧症」の兆候かもしれません。

この病気は、全国の患者数が4,000〜5,000人ほどとされ、国から「指定難病」に定められています。腕で測る血圧とは異なり、気づかないうちに心臓に深刻な負担をかけ、特に妊娠可能な年齢の女性に発症しやすいという特徴があります。

かつては治療が難しい病気とされていましたが、近年では新しい治療薬の登場で状況は大きく変わりました。この記事では、肺動脈性肺高血圧症の原因や症状、そして大きく進歩した最新の治療法について詳しく解説します。ご自身の体を守るための知識を得ていきましょう。

肺動脈性肺高血圧症の概要

肺動脈性肺高血圧症とは、心臓から肺へ血液を送るための血管「肺動脈」の血圧が異常に高くなってしまう病気です。これは腕で測る通常の血圧とは異なり、肺の中にある非常に細い血管が狭くなることで心臓に大きな負担がかかります。

この病気は患者さんの数が少なく、全国で4,000〜5,000人ほどとされ、国から「指定難病」に定められています。比較的若い方、特に妊娠可能な年齢の女性に発症することが多いのも特徴の一つです。

かつては治療がとても難しい病気でしたが、近年では新しいお薬が次々と開発され、治療成績は大きく向上しています。お薬を指示通りにきちんと飲み続けることが、病気の進行を抑える上で非常に重要になります。

最近の研究では、お薬をきちんと続けることで入院の回数や期間が減り、医療費の負担も軽くなる可能性が示されています。お薬を飲む回数が多かったり、自己負担額が大きかったりすると治療の継続が難しくなることも報告されていますが、主治医とよく相談しながら治療を進めていくことが大切です。

肺動脈性肺高血圧症の種類

肺動脈性肺高血圧症は、原因によっていくつかの種類に分けられます。原因を特定することは、適切な治療方針を決めるための大切な手がかりです。

主な種類は、以下の4つに分類されます。

種類 | 特徴

1. 特発性(とくはつせい) | さまざまな検査をしても、はっきりとした原因が見つからないタイプです。若い方、特に女性に多い傾向があります。

2. 遺伝性 | ご家族に同じ病気の方がいるなど、遺伝子の関わりが考えられるタイプです。近年、原因となる遺伝子が少しずつ解明されています。

3. 薬物・毒物によるもの | 特定の薬や化学物質などが原因で発症するタイプです。過去に食欲を抑える薬などが原因になった例もあります。

4. 他の病気に伴うもの | 膠原病や心臓、肝臓の病気など、別の病気が原因で発症するタイプです。原因となる病気の治療も重要になります。

特に、「4. 他の病気に伴うもの」では、原因によって治療への考え方が異なります。例えば、膠原病(こうげんびょう)という、体の免疫が自分自身を攻撃してしまう病気に伴う場合があります。

・全身性強皮症に伴う場合

ある研究では、「ボセンタン」というお薬が肺の血管の圧力を下げる効果が期待できると報告されています。特に治療開始から1年未満で効果がより見られやすいとされています。

・全身性エリテマトーデスに伴う場合

体の免疫の働きを調整する治療によって、肺の血圧の状態や体の機能が改善したという報告があります。ただ、どのような方に効果が高いかなど、まだ研究が必要な段階です。

このように、原因によって治療のアプローチも変わるため、まずはどの種類にあてはまるのかを正確に診断することが治療の第一歩となります。

肺動脈性肺高血圧症の原因

この病気がなぜ起こるのか、詳しい仕組みはまだ研究中です。

しかし、肺の細い血管で起こる、次の3つの変化が関係すると考えられています。

・血管がキュッと縮むこと(血管収縮)

・血管の壁が分厚くなること

・血の塊(血栓)ができること

これらの変化を引き起こす「おおもとの原因」は、患者さんごとに異なります。

原因によって、大きく4つのタイプに分けられます。

原因のタイプ | 具体的な内容

1. 特発性 | さまざまな検査をしても、はっきりとした原因が見つからない場合です。若い方、特に女性に多い傾向があります。

2. 遺伝性 | 遺伝子の変異が関係しているタイプです。ご家族に同じ病気の方がいなくても、遺伝子の変異が見つかることがあります。

3. 薬物や毒物 | 過去に使われた食欲を抑える薬など、特定の薬や化学物質が原因となることがあります。

4. 他の病気 | もともとある他の病気が原因で発症するタイプです。

特に重要なのが「4. 他の病気に伴うもの」です。

例えば、体の免疫システムが自分自身を攻撃してしまう膠原病(こうげんびょう)が原因となることがあります。

ある研究では、膠原病の一種である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因の場合、体の免疫を調整する治療で肺の血圧が改善したと報告されています。

また、高血圧や脂質異常症といった生活習慣病との関連も研究されています。

これらの病気が直接の原因となるかはまだ解明されていませんが、心臓や血管の健康を考える上で注意が必要です。

肺動脈性肺高血圧症の症状

この病気は、はじめは症状がとても軽く、気づきにくいのが特徴です。

そのため、単なる疲れや風邪のせいだと勘違いしてしまうことが少なくありません。

しかし、病気は静かに進行し、心臓への負担は増え続けます。

以下のようなサインは、体が発している重要な危険信号かもしれません。

・体を動かしたときの息切れや疲れやすさ

心臓が肺へ血液をうまく送れないため、全身が酸素不足になります。

以前は平気だった階段や坂道で、すぐに息が上がってしまいます。

・足のむくみ

心臓のポンプ機能が弱まると、全身の血液の流れが滞ります。

その結果、水分が足などの下の方にたまり、むくみとして現れます。

・胸の痛みや圧迫感、動悸

細くなった肺の血管へ血液を送るため、心臓は過剰に頑張ります。

この心臓への大きな負担が、胸の痛みやドキドキ感の原因です。

・めまいや失神

体を動かしたときに、脳へ十分な酸素が届きにくくなるために起こります。

ある研究では、運動時に脳への酸素供給が減少しやすい可能性が示されています。

これらの症状は、病気が進行すると安静にしているときでも現れるようになります。

一つでも当てはまる症状があれば、年のせいなどと自己判断せず、できるだけ早く専門の医療機関に相談することが非常に大切です。

肺動脈性肺高血圧症の検査・診断

この病気の症状は、他の病気と見分けるのが難しいことがあります。

そのため、いくつかの検査を段階的に組み合わせ、慎重に診断を進めます。

まずは肺の血圧が高い状態(肺高血圧症)があるかを確認します。

次に、その原因が他の病気ではないかを一つずつ調べていきます。

代表的な検査には、以下のようなものがあります。

検査の種類 | どのような検査か

心エコー検査 | 体に負担の少ない超音波で心臓の動きを観察します。特に心臓の右側の部屋(右心室)の機能を詳しく調べることが、病気の重さや今後の見通しを予測する上で非常に重要であると、複数の研究で示されています。

心肺運動負荷試験(CPET) | マスクを着けて自転車をこぐなど、運動中の心臓や肺の働きを調べます。この病気の患者さんでは運動時に脳への酸素供給が減少しやすい可能性が研究で示唆されており、体の状態をより詳しく把握するために行います。

右心カテーテル検査 | 腕や足の付け根の血管から細い管を心臓まで入れ、肺動脈の血圧を直接測定します。この検査は、肺動脈性肺高血圧症の診断を確定させるために欠かせない、最も正確な方法です。

その他の検査 | 胸のレントゲン写真やCT検査、心電図、血液検査なども行います。心臓や肺の状態を多角的に評価し、他の病気が隠れていないかを総合的に判断するために重要です。

これらの専門的な検査結果をもとに、診断が確定して初めて治療が始まります。

この病気は診断に豊富な経験が必要なため、専門の医療機関で検査を受けることが勧められます。

肺動脈性肺高血圧症の治療

この病気の治療は、近年大きく進歩しました。

新しいお薬が使えるようになり、治療の選択肢が増えています。

治療の中心は、心臓の負担を軽くするための薬物療法です。

狭くなった肺の血管を広げるお薬

治療では、狭くなった肺の血管を広げる「肺血管拡張薬」が中心となります。

このお薬は、血管への作用の仕方の違いから、大きく3つのタイプに分けられます。

薬のタイプ | 主な働き

①プロスタサイクリン(PGI₂)製剤 | 血管を広げる作用のほか、血液が固まるのを防ぐ働きも助けます。

②エンドセリン受容体拮抗薬 | 血管を強く縮める物質(エンドセリン)の働きを妨げます。

③PDE5阻害薬・sGC刺激薬 | 血管を広げる物質(一酸化窒素)の働きをサポートします。

これらのうち1種類から始めることも、複数を組み合わせることもあります。

例えば、膠原病の一種である全身性強皮症に伴う場合は、②の「ボセンタン」というお薬が肺の血圧を下げる効果が期待できると報告されています。

特に、治療を始めてから1年未満でより効果が見られやすいとされています。

治療を続けることの重要性

この病気は長く付き合っていくため、お薬を指示通りに続けることが非常に大切です。

ある研究では、お薬をきちんと続けることで入院の回数や期間が減り、医療費の負担も軽くなる可能性が示されています。

しかし、お薬を飲む回数が多かったり、自己負担額が大きかったりすると、治療の継続が難しくなることも報告されています。

治療に関する不安や困ったことは、遠慮なく医師や薬剤師に相談してください。

また、全身性強皮症を合併している方は、骨粗しょう症のリスクが約3倍高まるという研究結果もあります。

肺だけでなく、全身の状態を総合的に管理していくことが重要です。