肺サルコイドーシス

健康診断の胸部レントゲンで、思いがけない「影」を指摘されたことはありませんか。それは、症状がないまま進行することもある「肺サルコイドーシス」のサインかもしれません。この病気は、原因不明のまま体の様々な場所に「肉芽腫」というこぶができる難病です。

世界的なデータでは10万人に最大160人が発症し、決してまれな病気ではありません。自然に治るケースも多い一方で、進行すると肺が硬くなる「肺線維症」に至り、5年後の死亡率は約7%とも報告されています。この記事では、謎に包まれた肺サルコイドーシスの正体に迫り、その症状や検査、最新の治療法までを詳しく解説します。

肺サルコイドーシスの概要

肺サルコイドーシスは、体のさまざまな場所に「肉芽腫(にくげしゅ)」ができる病気です。肉芽腫とは、体を守る免疫細胞が集まってできた、小さなこぶのようなものです。

この肉芽腫は全身のあらゆる臓器にできる可能性があります。特に肺や、胸の中心にあるリンパ節にできやすいことが知られています。肉芽腫ができた臓器は、本来の働きが邪魔されるため、さまざまな症状があらわれることがあります。

しかし、多くの場合、自覚できる症状が何もないまま経過します。そのため、健康診断の胸部レントゲン検査などで、偶然発見されるケースも少なくありません。

この病気には、以下のような特徴があります。

  • 多彩な症状 肉芽腫ができた場所によって、咳や息切れ、目のかすみ、皮膚の発疹など、あらわれる症状が異なります。
  • 無症状のケースも多い 自覚症状がないまま時間が経ち、自然によくなることもあります。
  • 進行する可能性 一部の患者さんでは病状が進行し、肺が硬くなって呼吸が苦しくなる「肺線維症」などを引きおこすこともあります。

世界的なデータでは、10万人に2人から160人がこの病気にかかると報告されています。決してまれな病気ではなく、5年後の死亡率は約7%とされています。

症状がない場合でも、将来的に肺や心臓の機能に影響が出る可能性もあるため、専門医による定期的な経過観察がとても大切になります。

肺サルコイドーシスの種類

肺サルコイドーシスは、経過や状態によっていくつかのタイプに分けられます。ご自身の状態を知ることは、病気と向き合う上でとても大切です。主に「レントゲン写真での見え方」と「症状が続く期間」の2つの視点で分類されます。

レントゲン写真による分類(Scadding分類)

胸のレントゲン写真にうつる影の場所や広がりによって、病気の進行度をステージ分けします。この分類によって、病気が自然に良くなる可能性もある程度予測できます。

  • ステージⅠおよびⅡ 肺の入り口にあるリンパ節や、肺自体に影が見られる状態です。この段階では、30〜80%の方が自然に良くなると報告されています。
  • ステージⅢ 肺全体に影が広がっている状態です。自然に良くなる可能性は10〜40%と、少し下がります。
  • ステージⅣ 病気が進行し、肺が硬くなる「肺線維症」という状態です。残念ながら、この段階まで進むと自然に良くなることは難しいとされています。

症状が続く期間による分類

症状や病気の状態がどのくらいの期間続くかによって、以下の3つのタイプに分けられます。

タイプ

特徴

短期改善型

・一時的に症状が出ますが、多くは自然に治ります。

・治療薬が効きやすい傾向があります。

遷延型(せんえんがた)

・症状が良くなったり悪くなったりを繰り返します。

・3〜5年ほど続くことがあります。

難治型

・5年以上たっても治らず、進行してしまうことがあります。

・肺線維症に進むと、呼吸機能の低下につながります。

多くは自然に治る「短期改善型」ですが、一部は症状が長引いたり、治療が難しくなったりすることもあります。また、一度良くなっても、13%から75%の確率で再発するという報告もあり、その幅は非常に広いです。

そのため、どのタイプであっても油断せず、定期的に検査を受けてご自身の体の状態を正確に把握しておくことが重要になります。

肺サルコイドーシスの原因

肺サルコイドーシスの原因は、残念ながらまだはっきりと解明されていません。 世界中の専門家が研究を続けていますが、「原因不明の病気」とされています。

しかし、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症するのではないか、という説が有力です。 現在、原因の候補として考えられているのは、主に以下の3つです。

  • 免疫システムの過剰な反応 私たちの体を細菌などの異物から守る「免疫」という仕組みがあります。 この免疫が、何らかのきっかけで過剰に反応してしまうという考え方です。 その結果、体を守る細胞が集まりすぎて「肉芽腫」というこぶができます。
  • 特定の異物への反応 免疫が反応するきっかけとなる「異物」の正体も、まだ特定されていません。 例えば、ニキビの原因として知られるアクネ菌や、その他のウイルス、 化学物質などが引き金になるのではないか、という説があります。
  • 遺伝的な要因 ご家族で発症することがあるため、遺伝的な体質も関係すると考えられています。 特定の遺伝子を持つ人が、サルコイドーシスになりやすい可能性も報告されています。

ここで最も大切なことは、この病気は「がん」ではないということです。 また、周りの人にうつる「感染症」でもありません。 原因がわからないと不安に思うかもしれませんが、病気の性質を正しく理解しましょう。

肺サルコイドーシスの症状

肺サルコイドーシスの症状は、体のどこに「肉芽腫(にくげしゅ)」という免疫細胞の集まりができるかによって、人それぞれ大きく異なります。症状は、大きく分けて2つのタイプに分けられます。

  • 臓器特有の症状 肉芽腫ができた特定の臓器にあらわれる症状
  • 全身症状 体のどこに肉芽腫ができても共通してあらわれる症状

日本では、この病気の患者さんの8割以上で肺に異常が見つかります。しかし、咳や息切れといった自覚できる症状がないことも少なくありません。実際に、患者さんの約3〜4割は、はっきりとした症状がないまま過ごしています。

肉芽腫ができる場所ごとの主な症状

肉芽腫ができる場所によって、以下のようなさまざまな症状があらわれることがあります。日本の患者さんの約8割は、複数の臓器に同時に異常が見られるといわれています。

できる場所

主な症状

肺

・乾いた咳や痰

・階段をのぼった時の息切れ

・胸の痛み

※進行すると肺が硬くなる「肺線維症」に至ることもあります

眼

・目のかすみ(霧視)

・光をまぶしく感じる(羞明)

・視力の低下

・目の充血や痛み

皮膚

・赤や紫色の盛り上がった発疹(結節性紅斑)

・皮膚の下にできる、痛みのないしこり

心臓

・脈が乱れる(不整脈)

・動悸や息切れ

・めまいや失神

※心臓の症状は命に関わることもあるため特に注意が必要です

神経

・顔の筋肉が動かしにくくなる(顔面神経麻痺)

・手足のしびれや力の入りにくさ

体全体にあらわれる全身症状

肉芽腫ができる場所に関わらず、体全体に次のような症状があらわれることもあります。これは、肉芽腫ができることで「サイトカイン」という物質が体内に増え、全身に炎症反応が広がるためと考えられています。

  • 原因不明の発熱が続く
  • 体が重く、疲れやすい(倦怠感)
  • 関節や筋肉が痛む
  • 食欲がなく、体重が減る

このように症状は人それぞれで、はっきりとした症状がないまま健康診断などで偶然見つかることも多い病気です。少しでも気になる症状があれば、放置せずに専門の医療機関に相談することが大切です。

肺サルコイドーシスの検査・診断

肺サルコイドーシスは、症状がないまま健康診断などで見つかることが多い病気です。咳などの症状がなくても、体の中では変化が起きている可能性があります。そのため、病気が疑われた場合は、いくつかの検査を組み合わせて正確な診断を目指します。

検査は、体への負担が少ないものから順番に行うのが基本です。

STEP1:基本的な検査

まずは、画像検査や血液検査で体の中の状態を大まかに調べます。

  • 画像検査(レントゲン・CT検査) 胸のレントゲンやCT写真を撮ります。 肺やその周りに「肉芽腫」という免疫細胞の集まりが、影としてうつっていないかを確認します。
  • 血液検査・尿検査 血液や尿を調べて、特定の物質が増えていないかを確認します。 サルコイドーシスでは、肉芽腫が作り出す「ACE」という酵素や、カルシウムの値が高くなることがあります。

STEP2:診断を確定させるための検査

基本的な検査で病気の可能性が高いと判断されたら、診断をはっきりさせるための詳しい検査に進みます。

  • 気管支鏡検査 口や鼻から細いカメラを入れ、気管支の中を直接観察します。 そして、病気が疑われる場所の組織をほんの少しだけ採取します。 この組織を顕微鏡で調べ、「肉芽腫」があることを確認できれば、肺サルコイドーシスの診断が確定します。

STEP3:全身の状態を調べる検査

肺以外の場所に病気が広がっていないか、また病気の勢いはどのくらいかを評価するために、さらに詳しい検査を行うことがあります。

検査の種類

目的

FDG-PET/CT検査

全身で炎症が活発になっている場所を、光る画像で確認する検査です。

ある研究では、この検査は肺サルコイドーシスを見つける精度が非常に高く、他の病気と間違えにくいことが報告されています。

治療の効果を目で見て確認するためにも役立つことがあります。

ガリウムシンチグラフィ

FDG-PET/CT検査と同じように、全身の炎症の広がりを調べるための画像検査です。

ツベルクリン反応検査

本来は結核の検査ですが、サルコイドーシスの患者さんではこの反応が出ない(陰性になる)ことが多いため、診断の参考にします。

その他の検査

心臓の働きを調べる心電図検査や、肺の呼吸機能を調べる肺機能検査など、症状に合わせて必要な検査を追加します。

これらの検査結果を専門の医師が総合的に判断し、最終的な診断を下します。不安な点があれば、遠慮なく医師に質問してください。

肺サルコイドーシスの治療

肺サルコイドーシスの治療は、必ずしもお薬をすぐに使うわけではありません。 この病気は自然に良くなることも少なくないため、まずは定期的な検査で注意深く様子を見る「経過観察」が基本です。

治療をはじめるタイミング

しかし、次のようなサインが見られた場合は、お薬を使った治療を検討します。 患者さんの生活の質(QOL)を保ち、病気の進行を抑えることが治療の目的です。

  • 咳や息切れ、胸の痛みなど、つらい呼吸器の症状がある
  • 検査で肺の働き(肺機能)が低下している
  • 心臓、神経、眼など、肺以外の重要な臓器に症状が出ている
  • 血液中や尿の中のカルシウム濃度が高い状態が続いている

治療の中心は「ステロイド薬」

治療が必要と判断された場合、まず中心となるのは「副腎皮質ステロイド」というお薬です。 これは、肉芽腫によって起きている体の過剰な炎症反応を抑える働きがあります。

飲み薬が基本ですが、症状が出ている場所に合わせて、以下のようなタイプのお薬を使い分けることもあります。

  • 吸入薬 咳の症状が中心の場合に使います。
  • 点眼薬 眼に症状(ぶどう膜炎など)がある場合に用います。
  • 塗り薬 皮膚に発疹などの症状がある場合に使います。

そのほかの治療の選択肢

ステロイド薬だけでは効果が不十分な場合や、副作用などの理由で長期間使えないこともあります。 その際には、第二、第三の選択肢として「免疫抑制剤」や「抗TNF薬」といったお薬を使うことがあります。

また、治療がお薬にしっかり効いているかを確認するために、FDG-PET/CTという検査を行うことがあります。 ある研究では、この検査で炎症の勢いを見ることで、治療効果を客観的に評価できると報告されています。 炎症が治まると肺の機能も改善する傾向があるため、治療方針を決める上での大切な情報になります。

病気が進行して肺の機能が大きく低下した場合には、ご自宅で酸素を吸う「在宅酸素療法」や、最終的な選択肢として肺移植を検討することもあります。 症状が改善しにくい難治性の場合は、国の指定難病として医療費の助成を受けられることがありますので、主治医にご相談ください。