肺がん

2023年の統計で、日本人男性のがん死亡原因の第1位となった肺がん。「自分はタバコを吸わないから大丈夫」と、どこか他人事のように感じていませんか?しかし、その常識は今、大きく変わりつつあります。

実は、喫煙習慣のない人でも、肺がんになるリスクは私たちの日常に潜んでいます。例えば、換気が不十分なキッチンでの調理。ある研究では、これだけで肺がんのリスクが約1.5倍に高まる可能性が指摘されているのです。

この記事では、こうした身近に潜む原因から、風邪と間違いやすい初期症状、そして近年目覚ましく進歩している最新の治療法までを詳しく解説します。あなたと、あなたの大切な人を守るための正しい知識を学びましょう。

肺がんの概要

肺がんは、肺の中の細胞ががん細胞に変わってしまう病気です。 がん細胞は無秩序に増え続け、周りの正常な組織を壊します。 さらに、血液やリンパの流れに乗って、体の別の場所に移動(転移)することもあります。

肺がんは、日本で最も命に関わるがんの一つです。 2023年の統計では、がんで亡くなった方のうち、肺がんは男性で最も多く、女性でも2番目に多いという結果でした。 特に70歳代になると患者さんの数が急激に増える傾向にあります。

肺がんの最大の原因は喫煙ですが、タバコを吸わない人でもかかることがあり、これを「非喫煙者肺がん」と呼びます。 最近の研究では、私たちの身近な生活習慣にも、肺がんのリスクを高める可能性が指摘されています。

【タバコ以外で考えられる肺がんのリスク】

  • 調理のときに出る煙(調理油煙)
  • 炒め物など、油を使った料理で出る煙には注意が必要です。
  • 換気が不十分なキッチンでの調理
  • 複数の研究で、換気が悪いと肺がんのリスクが高まることが示されています。
  • ある研究では、換気が悪いとリスクが約1.5倍になるという報告もあります。
  • 調理に石炭などを使うこと
  • 換気が悪い場所で石炭を使うと、リスクが約2倍に高まる可能性も指摘されています。

一方で、調理をするときに換気扇をしっかりと使うことで、リスクを下げられることもわかっています。 このように、肺がんは喫煙習慣がない方にとっても、決して無関係ではない病気なのです。

肺がんの種類

肺がんは、がん細胞を顕微鏡で見たときの大きさや形で、大きく2つのタイプに分けられます。 がんの性質や治療の進め方が全く違うため、どちらのタイプかを知ることがとても大切です。

非小細胞肺がん

肺がん全体の約85%を占めるのが「非小細胞肺がん」です。 小細胞肺がんと比べると、比較的ゆっくりと大きくなる傾向があります。 この非小細胞肺がんは、さらに次の3つの種類に分けられます。

種類

主な特徴

腺がん

・肺がんの中で一番多いタイプです。

・タバコを吸わない人や女性にも見られます。

・肺の奥の方(肺野部)にできやすいです。

扁平上皮がん

・タバコを吸うことと深く関係しています。

・肺の入り口に近い太い気管支(肺門部)にできやすいです。

大細胞がん

・がん細胞が大きく見えるタイプです。

・大きくなるスピードが速い傾向があります。

最近の研究では、非小細胞肺がんの治療が大きく進歩しています。 私たちの体には、がん細胞を攻撃する「免疫」という仕組みがあります。 しかし、がん細胞の中には、この免疫から隠れるためのバリアを持っているものがあります。

新しい治療法では、このバリアを壊す薬(免疫チェックポイント阻害薬)と、従来の抗がん剤を一緒に使います。 この併用療法によって、治療の効果が大きく上がることがわかってきました。 以前は、バリアを多く持つがん細胞にしか効かないと考えられていました。 しかし、バリアが少ないがん細胞でも、この治療法が有効である可能性が研究で示されています。

小細胞肺がん

肺がん全体の約15%を占めるのが「小細胞肺がん」です。 このタイプは、非小細胞肺がんに比べて大きくなるスピードが速いのが特徴です。 早い段階から体の他の場所に広がりやすい(転移しやすい)性質を持っています。

タバコを吸うことと、とても強い関係があることもわかっています。 進行は速いですが、抗がん剤や放射線を使った治療が効きやすいという一面もあります。

肺がんの原因

肺がんの最も大きな原因は「喫煙」として広く知られています。 タバコを吸う方は、吸わない方と比べて肺がんになる危険性が、 4〜5倍も高くなることが研究でわかっています。

また、ご自身がタバコを吸わなくても注意が必要です。 周りの人が吸うタバコの煙を吸い込む「受動喫煙」によっても、 肺がんになるリスクが高まることが明らかになっています。

しかし、肺がんの原因はタバコだけではありません。 タバコを吸わない人でも肺がんになることがあり、 私たちの身近な生活にも、その原因が潜んでいます。

最近の研究では、非喫煙者の方の肺がんのリスクとして、 調理のときに出る煙、特に油を使った際の「調理油煙」が注目されています。 複数の研究で、調理油煙を吸い込むこととの関連が示されています。

特に換気が不十分なキッチンでの調理は注意が必要です。 ある研究では、換気が悪いと肺がんのリスクが約1.5倍に、 さらに燃料に石炭などを使うと約2倍に高まる可能性が報告されました。 調理の際は、必ず換気扇を使うように心がけましょう。

その他にも、以下のようなものが肺がんのリスクを高めると考えられています。

  • 環境や仕事で吸い込む物質 生活や仕事の環境によっては、肺に影響を与える物質を、 吸い込んでしまうことがあります。
  • PM2.5 自動車の排気ガスや工場の煙に含まれる小さな粒子です。
  • アスベスト(石綿) 過去に建物の断熱材などに使われていた物質です。
  • ラドン 地面やコンクリートなどから出てくる気体です。
  • もともと持っている病気や体質
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎といった肺の病気
  • ご家族に肺がんになった方がいること(家族歴)

このように、肺がんの原因は一つではなく、 様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

肺がんの症状

肺がんは、初期の段階では特徴的な症状が出にくい病気です。 そのため、ご自身で気づくことは難しく、健康診断や、 他の病気の検査で偶然見つかることも少なくありません。

がんが進行すると、風邪や気管支炎によく似た症状が出始めます。 しかし、「この症状があれば肺がん」という特別なサインはないため、 「いつもの風邪だろう」と自己判断してしまうのは危険です。

ご自身の体調で気になることがあれば、一度確認してみましょう。

【肺がんの主な症状チェックリスト】

  • □ 理由のわからない咳や痰が2週間以上続いている
  • □ 痰に血が混じることがある(血痰)
  • □ 胸に痛みを感じる
  • □ 階段を上るなど、少し動いただけで息切れや動悸がする
  • □ 原因不明の発熱が続く

これらの症状は、がんが気管支を刺激したり傷つけたり、 あるいは炎症を引き起こしたりすることで現れます。 特に、痰に血が混じる場合は注意が必要です。

さらにがんが大きくなったり、他の場所に広がったり(転移)すると、 体の様々な場所にサインが現れることがあります。

  • 声がかすれる 声帯を動かす神経の近くにがんができ、 神経を圧迫することで声がかすれることがあります。
  • 顔や首がむくむ 胸の中にある心臓へ戻る太い血管が、 がんに圧迫されて血の流れが悪くなることで起こります。
  • 背中や肩、腕のしつこい痛み がんが骨や神経に広がると、 なかなか治らないしつこい痛みが出ることがあります。
  • 頭痛やふらつき がんが脳に転移した場合にみられることがあります。

これらの症状は、もちろん肺がん以外の病気でも起こります。 しかし、「いつもと違うな」と感じることがあれば、 決して自己判断せず、早めに医療機関を受診することが大切です。

肺がんの検査・診断

肺がんが疑われる場合、検査は大きく3つのステップで進みます。 まずがんの場所や大きさを探し、次にがん細胞を確定させます。 最後に、がんの詳しい性質を調べて治療方針を決めます。

1. がんの場所や広がりを調べる検査(画像検査) 体の中を写真に撮るような検査で、がんの存在を調べます。 それぞれの検査には特徴があり、組み合わせて使われます。

検査の種類

わかること

胸部X線検査

「レントゲン」とも呼ばれる基本的な検査です。

肺全体の様子を手軽に確認できます。

CT検査

体を薄いスライスにして見るような詳細な画像です。

レントゲンでは見つけにくい小さながんもわかります。

PET検査

がん細胞が正常な細胞より多くの栄養を取り込む

性質を利用し、全身への広がりを一度に調べます。

頭部MRI検査

脳への転移がないかを詳しく調べるために行います。

2. がんを確定するための検査(病理診断) 画像検査だけでは「がんの疑い」までしかわかりません。 がんかどうかをはっきりさせるため、組織の一部を採取します。 採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞の有無を確定します。

  • 気管支鏡検査 口や鼻から細いカメラを入れ、気管支の中を直接見て、 がんが疑われる部分の組織を採ります。
  • 針生検 胸の外から針を刺して、がんが疑われる部分から、 直接組織を採取する検査です。
  • 喀痰細胞診 痰の中にがん細胞が混じっていないかを調べます。 体に負担の少ない検査です。

3. 最適な治療法を見つけるための精密検査 確定診断で採取した組織を使い、がんの性質を調べます。 特に、がん細胞が持つ「PD-L1」というタンパク質の量は、 治療法を選ぶ上でとても重要な情報になります。

このPD-L1は、がん細胞が体の免疫から隠れるための道具です。 以前は、この道具が多いがんにしか効かない薬もありました。 しかし最近の研究では、驚くべきことがわかってきています。

PD-L1が少ない(1%未満)がんに対しても、 免疫の薬と抗がん剤を組み合わせることで、 生存期間を延ばす効果が期待できると報告されました。 この発見により、治療の選択肢が大きく広がっています。 精密な検査は、一人ひとりに合った治療を見つけるための、 大切な道しるべになるのです。

肺がんの治療

肺がんの治療法は、がんの種類や広がり具合(ステージ)、 そして患者さんご自身の体の状態や希望を考えて決めます。 治療は一つだけでなく、複数を組み合わせて行うこともあります。

主な治療法には、以下の4つの柱があります。

  • 手術(外科療法) がんができた部分と周りの組織を、 メスを使って取り除く方法です。 がんが肺の一部にとどまっている早期の場合に、 最も中心となる治療法です。
  • 放射線療法 エネルギーの強いX線などを体の外からがんに当てて、 がん細胞を攻撃する治療法です。 手術が難しい場合や、手術後の再発を防ぐ目的、 痛みを和らげるためにも行われます。
  • 薬物療法 薬の力で、全身に広がった可能性のある、 がん細胞を攻撃する治療法です。 薬物療法は近年大きく進歩しており、 主に次の3つのタイプがあります。

薬の種類

特徴

細胞障害性抗がん薬

昔からあるタイプの抗がん剤で、

がん細胞が増えるのを直接抑えます。

分子標的薬

がんの増殖に関わる特定の目印を

狙い撃ちする薬です。
例えば「HER2」という遺伝子に変化がある場合、
その働きを抑える薬が有効なことがあります。

免疫チェックポイント

阻害薬

私たちが持つ免疫の力を利用する薬です。

最近の研究で、がんが免疫から隠れる道具

(PD-L1)が少ない方でも、他の薬と

組み合わせることで生存期間を延ばす

効果が期待できると報告されています。

  • 緩和ケア がんの進行度に関わらず、治療と並行して行います。 痛みや息苦しさ、気分の落ち込みといった、 がんに伴うつらい症状を和らげるためのケアです。 最近の研究では、無理のない範囲で運動をすることが、 安全であるだけでなく、生活の質を高めて、 疲労感を軽くする効果も期待できるとわかってきました。

これらの治療法の中から、担当の医師とよく相談し、 一人ひとりに合った最適な治療計画を立てていくことが大切です。