肩石灰沈着性腱炎

ある日突然、はっきりとした原因もないのに肩に激痛が走る。夜も眠れないほどの痛みで、腕を上げることもままならない…。そのつらい症状の正体は、もしかしたら肩の腱に「石灰」がたまる「肩石灰沈着性腱炎」かもしれません。

この病気は特に30代から60代の女性に多く見られ、肩の痛みを訴える方の約1割から2割が該当するともいわれています。原因が完全には解明されていないため、突然の激痛に「なぜ?」と不安を感じる方も少なくないでしょう。

この記事では、肩石灰沈着性腱炎の原因から、症状のタイプ、そして注射やリハビリ、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、つらい痛みを乗り越えるための一助としてお役立てください。

肩石灰沈着性腱炎の概要

肩を動かすための「腱板(けんばん)」というすじに、石灰(カルシウムのかたまり)がたまってしまう病気です。

はっきりとした原因がないのに、ある日とつぜん肩に激しい痛みが走るのが大きな特徴です。肩の痛みをうったえる方のうち、およそ1割から2割はこの病気が原因であるといわれています。

この病気には、レントゲンなどの詳しい検査をする前から病気を推測できる、いくつかの特徴があります。

  • 起こりやすい人 30代から60代の女性に多く見られます。
  • 痛みの特徴 特に夜に痛みが強くなることが多く、眠れないほどの激痛におそわれることもあります。
  • 動きの制限 痛みのため、腕を横から上げたり、前に伸ばしたりする動きがむずかしくなります。
  • 関連する病気 糖尿病や甲状腺の病気など、体の代謝に関わる病気を持っている方にも見られることがあります。

これらの特徴は、医師が病気を早期に疑い、適切な検査や治療へつなげるための大切な手がかりとなります。石灰があっても症状が出ない方もいますが、急な肩の痛みを感じたときにはこの病気の可能性も考えられます。

肩石灰沈着性腱炎の種類

肩石灰沈着性腱炎は、症状のあらわれ方によって、大きく2つのタイプに分けられます。ご自身の症状がどちらに近いかを知ることは、適切な治療への第一歩です。

急な激痛の「急性型」と長引く痛みの「慢性型」

この病気は、突然の激しい痛みにおそわれる「急性型」と、比較的おだやかな痛みが続く「慢性型」があります。

種類

主な症状

レントゲンでの見え方

急性型

・ある日突然、肩に激しい痛みが走る<br>・じっとしていてもズキズキと痛む<br>・夜も眠れないほど痛みが強い<br>・腕をほとんど動かせなくなる

輪郭がぼんやりとした、雲のような淡い影

慢性型

・肩を動かしたときの痛みや、ひっかかり感<br>・重だるいような鈍い痛み<br>・特定の角度に腕を上げると痛む

輪郭がはっきりとした、濃い石灰の影

急性型は、体内にたまった石灰が吸収される過程で、急に強い炎症が起きることで発症します。一方、慢性型は石灰が腱の中に長く留まり、肩を動かすたびに腱と骨がこすれて痛むと考えられています。

手術が必要になった場合の種類

多くは飲み薬や注射などで症状が改善します。しかし、痛みが長く続く場合には手術が検討されます。

手術には、小さなカメラ(関節鏡)を使う方法があります。主に、石灰を取り除くだけの手術と、石灰を取り除いたあとに傷ついた腱を縫い合わせる手術があります。

海外の1,172人の患者さんを対象とした研究では、どちらの手術でも肩の機能は大きく改善したと報告されています。

しかし、手術後の合併症が起こる割合は、石灰を取り除くだけの手術で約1.8%でした。これに対し、腱を縫う手術では約9.1%と少し高くなる傾向がありました。

この結果から、石灰を取り除いた後の傷は、すべてを縫い合わせる必要があるのか、専門家の間でも慎重に検討が続けられています。

肩石灰沈着性腱炎の原因

「なぜ急に肩に石灰がたまるの?」と、 多くの方が不思議に思うかもしれません。 実は、この病気が起こるはっきりとした原因は、 まだ完全には解明されていないのが現状です。

しかし、いくつかの要因が関係していると考えられています。 有力な説は、肩の腱が老化したり、傷ついたりすることです。 加齢によって腱の弾力が失われると、傷つきやすくなります。

また、腕を動かすときに腱が骨にたびたびぶつかることで、 腱の内部に小さな傷がつき、性質が変化してしまいます。 この部分に血液中のカルシウムが付着して、 石灰としてたまると考えられているのです。

さらに、体の病気や体質との関連も指摘されています。 最近の多くの研究をまとめた報告においても、 糖尿病や甲状腺の病気など、体の代謝に関わる病気を持つ方に、 この病気が起こりやすいことが示されています。

考えられるリスク要因を以下にまとめます。

  • 体の病気 糖尿病、甲状腺の病気、関節リウマチ、 腎臓の結石、痛風など
  • 体質的な要因 遺伝的な要因が関係する可能性も考えられています

肩の使いすぎやスポーツでのケガが、 直接の原因になることは少ないとされています。 これらの要因が複雑にからみあって発症すると考えられます。

肩石灰沈着性腱炎の症状

この病気の症状は、ある日突然、非常に強い痛みとして現れることが特徴です。 多くの場合、特にきっかけがないのに、肩に激しい痛みを感じて発症します。

最近の多くの研究をまとめた報告でも、 急に始まる激しい痛みが最も多い症状だとされています。 症状の現れ方には個人差があり、主に2つのタイプに分けられます。

1. 急性の症状 急に始まる、耐えがたいほどの痛みが特徴です。

  • 突然の激痛 じっとしていてもズキズキと痛み、特に夜間に強くなる傾向があります。 痛みで眠れなかったり、夜中に目が覚めてしまったりすることも少なくありません。
  • 動きの制限 痛みが非常に強いため、腕を上げたり回したりできなくなります。 特に、腕を横から上げる動きや、前に伸ばす動きで強い痛みを感じます。 着替えなどの日常的な動作も困難になることがあります。
  • 腫れや熱感 痛む部分が腫れたり、熱っぽく感じられたりすることもあります。

2. 慢性の症状 急な痛みが過ぎた後や、初めからゆるやかな症状が続く場合です。

  • 動かしたときの痛み 腕を特定の角度に上げたときに、痛みや引っかかるような違和感を覚えます。
  • だるさや重さ 肩のあたりが重く、だるい感じが続くことがあります。

ご自身の症状に当てはまるか、以下のリストで確認してみましょう。

  • □ はっきりした原因もなく、急に肩が痛みだした
  • □ 夜になると痛みがひどくなり、眠れないことがある
  • □ 痛くて腕を上げることができない
  • □ 痛い方の肩を下にして横になれない
  • □ 痛む部分が少し熱を持っている感じがする

これらの症状が一つでも当てはまる場合は、この病気の可能性があります。 痛みを我慢せず、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

肩石灰沈着性腱炎の検査・診断

突然の激しい肩の痛みで病院を訪れた場合、 医師はまず、詳しいお話をお聞きします。 いつから、どのような時に痛むのかを確認し、 肩を直接見て、触って、動かして診察します。

痛みの原因を正確に突き止めるためには、 多くの場合、画像を使った検査が必要です。

  • レントゲン検査 この病気の診断で、基本となる検査です。 レントゲンを撮ると、石灰が白いかたまりとして、 はっきりと写るため、診断がつきやすいです。
  • 超音波(エコー)検査 レントゲンでは見えない腱の状態を観察できます。 石灰の位置や大きさをリアルタイムで確認します。 検査器具で軽く押し、痛みの原因を特定します。
    超音波は診断だけでなく、治療でも活躍します。 近年の研究では、超音波で石灰を確認しながら、 注射や洗浄を行う治療の有効性が示されています。 診断から治療まで、一貫して役立つ検査です。
  • MRI検査やCT検査 腱が切れているなど、他の病気が疑われる場合や、 手術を考える時に、より詳しく調べる検査です。 全員に必要な検査ではありません。

肩石灰沈着性腱炎の治療

この病気の治療は、まず手術をしない方法から始めます。 多くの方は飲み薬や注射、リハビリなどで改善します。 痛みの段階に合わせて、最適な治療法を選びましょう。

ステップ1:痛みを抑える治療

激しい痛みがある時期は、まず炎症を鎮めることが大切です。

  • 安静と薬物療法 まずは肩を安静にし、痛みや炎症を抑えるための 飲み薬や貼り薬を使います。
  • 注射療法 痛みが非常に強い場合は、炎症を抑える作用のある ステロイドなどを肩に直接注射することがあります。 痛みを和らげる効果が期待できます。

ステップ2:機能を回復させる治療

痛みが少し落ち着いてきたら、次の治療を考えます。

  • 理学療法(リハビリ) 肩の動きを良くし、機能を回復させるために行います。 専門家による包括的なリハビリは、 機能改善にとても有効であることが研究で示されています。
  • 体外衝撃波治療(ESWT) 体の外から特殊な衝撃波を当てて石灰を砕き、 体が吸収しやすくする治療法です。 リハビリと組み合わせることで、 痛みを和らげる効果が高いと報告されています。
  • 超音波ガイド下穿刺・洗浄 超音波(エコー)で石灰を見ながら針を刺し、 生理食塩水などで洗い流します。 ステロイド注射と併用することで、 石灰そのものをなくす効果が期待できます。 長期的に見ると、体外衝撃波治療より 痛みの改善に有効な場合があると報告されています。

ステップ3:手術療法

これらの治療を続けても症状が改善しない場合に検討します。

  • 関節鏡視下手術 数ミリの小さな穴からカメラ(関節鏡)を入れて、 モニターで確認しながら石灰を取り除く手術です。 傷が小さく、体への負担が少ないのが特徴です。 石灰を取り除いた後、弱くなった腱を縫うこともあります。 しかし、腱を縫うと合併症が起こる可能性が 少し高くなるという報告もあるため、 腱の状態をみて慎重に判断されます。