肩関節脱臼

スポーツや転倒などで起こる身近な怪我、肩関節脱臼。実は、体にある全ての関節脱臼のうち約半数を肩関節が占めていることをご存知でしょうか。なぜこれほど肩は外れやすいのか、その秘密は腕を自由に動かすための特別な構造に隠されています。

しかし、単なる脱臼と侮ってはいけません。研究によれば、脱臼した方のうち約5人に1人は骨折を伴うと報告されており、自己判断で元に戻そうとすることは、さらなる怪我につながる大変危険な行為です。

この記事では、肩関節脱臼が起こる原因から種類、そして専門的な治療法までを詳しく解説します。ご自身の体を守るためにも、ぜひ正しい知識を身につけていきましょう。

肩関節脱臼の概要

肩関節の脱臼は、スポーツや転倒などで起こる身近な怪我の一つです。 実は、体にある全ての関節脱臼のうち、約半数を肩関節が占めています。

なぜ肩はこれほど脱臼しやすいのでしょうか。 その理由は、肩関節が持つ特別な構造にあります。 腕の骨の丸い先端(上腕骨頭)は、肩甲骨の浅い受け皿(関節窩)にはまっています。

この構造のおかげで、私たちは腕をあらゆる方向に大きく動かせます。 しかしその反面、骨による支えが少ないため、とても不安定です。 そのため、何かの拍子に骨が受け皿から外れやすいのです。

また、脱臼は単に骨が外れるだけの怪我ではありません。 ある研究では、肩を脱臼した方のうち約17.5%に骨折が見られました。 これは、およそ5人から6人に1人の割合で骨折を伴うことを意味します。

特に、以下のような場合に骨折のリスクが高まるため注意が必要です。

  • 40歳以上の方 年齢が上がるにつれて骨がもろくなるため、骨折しやすくなります。
  • 女性の方 男性に比べて骨が細く、骨密度が低い傾向があるためです。
  • 初めて脱臼した場合 関節の周りの組織が、繰り返しの脱臼に慣れていないためです。
  • 強い衝撃で怪我をした場合 交通事故や高い所からの転落など、大きな力で怪我をすると骨折しやすくなります。

このように、肩の脱臼は骨折につながる可能性があるため、自己判断は危険です。 自分で元に戻そうとせず、必ず専門の医療機関を受診してください。

肩関節脱臼の種類

ひとくちに肩の脱臼といっても、実はいくつかの種類があります。 主に「骨がずれる方向」と「ずれ方の程度」によって分けられます。 正しい診断と治療のため、ご自身の状態を知ることが大切です。

骨がずれる方向による分類

腕の骨の丸い先端(上腕骨頭)が、受け皿の骨(関節窩)からどの方向にずれたかで、以下のように分類されます。

種類の名前

特徴

前方脱臼

腕の骨が体の前側にずれるタイプです。<br>全脱臼の95%以上を占める、最も多い脱臼です。

後方脱臼

腕の骨が体の後ろ側にずれるタイプです。<br>全脱臼の2〜4%と比較的まれですが、注意が必要です。

下方脱臼

腕の骨が下側にずれる、非常にまれなタイプです。

前方脱臼は、転んで手をついた時など、腕が後ろに反るような動きで起こります。 一方、後方脱臼は、てんかんの発作や、体の前で強くぶつかった時などに起こることがあります。

後方脱臼は症状がはっきりしない場合も多く、見逃されやすい特徴があります。 ある研究では、後方への不安定さは、特に若い活動的な方で起こりやすいと指摘されています。 激しい痛みではなく、肩の奥の痛みや力の入りにくさ、動かした時のクリック音などが主な症状となることもあります。

ずれ方の程度による分類

骨がどのくらいずれているかによっても、呼び方が変わります。

  • 完全脱臼 腕の骨と受け皿の骨が、完全に関節面での接触を失った状態です。 強い痛みと、肩の見た目の変形が起こり、腕を動かせなくなります。
  • 亜脱臼(あだっきゅう) 関節が外れかかったり、一瞬だけ外れてすぐ元に戻ったりする状態です。 「ゴリッ」「ガクッ」という嫌な感覚や、抜けるような不安感を伴います。

これらの脱臼を何度も繰り返す状態を「反復性肩関節脱臼」と呼びます。 どの種類の脱臼かによって治療方針も変わるため、自己判断せず専門医に相談しましょう。

肩関節脱臼の原因

肩が外れてしまう主な原因は、スポーツや事故などによる「外傷(ケガ)」です。 どのような場面で、肩に強い力が加わりやすいのか具体的に見ていきましょう。

【肩関節脱臼が起こりやすい場面】

  • スポーツでのケガ ラグビーや柔道のように、選手同士が激しくぶつかるスポーツ。 スキーやサッカーなどで転ぶ際、とっさに手をつく動きも危険です。 ある研究では、手を伸ばした状態で転んだり、転ぶ瞬間に何かを掴んだりすることも、肩のケガにつながると報告されています。
  • 日常生活での事故 階段から落ちるなど、高い場所からの転落。 交通事故による体への強い衝撃も、原因の一つです。 特に、1階以上の高さから落ちたり、自動車事故に遭ったりすると、単なる脱臼だけでなく骨折を伴う危険性が高まります。

また、はっきりとしたケガがなくても、脱臼が起こることもあります。

  • 生まれつきの体質 関節が元々柔らかい「関節弛緩性(かんせつしかんせい)」の方は、軽い動きでも肩が外れやすい傾向があります。
  • 病気によるもの てんかんの発作などで、自分の意思とは関係なく筋肉が強くけいれんしたときに、脱臼することがあります。

これらの原因によって、関節の受け皿の縁にある軟骨(関節唇)が傷つきます。 この部分が壊れると、関節を支える力が弱まり、脱臼を繰り返しやすくなるのです。

肩関節脱臼の症状

肩が外れると、突然の激しい痛みで腕が動かせなくなります。 多くの場合、自分の力ではどうすることもできず、強い不安を感じるでしょう。 患者さんが訴える主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 激しい痛みと運動制限 脱臼した瞬間に、電気が走るような激痛が肩に起こります。 腕がだらんと垂れ下がり、自分の力では全く動かせなくなります。
  • 肩の見た目の変化 健康な方の肩と比べると、肩の丸みが失われて平らになったり、 角ばった形に見えたりする「変形」が起こります。 ずれた骨の先端が、肩の前や脇の下で出っ張りとして触れることもあります。
  • 様々な感覚や音 ある研究では、痛みだけでなく様々な症状が報告されています。 力が入りにくい、腕を動かし続けると疲れやすいといった感覚も、 脱臼やその前段階である「亜脱臼」のサインかもしれません。 腕を動かしたときに「ゴリッ」という嫌な音や引っかかりを感じることもあります。

また、脱臼の強い衝撃で、肩を支える筋肉のすじ(腱板)が切れてしまうこともあります。 この腱板の傷が、脱臼が治った後の痛みの原因になる可能性も考えられます。

特に、体の後ろ側に骨がずれる「後方脱臼」では、症状がはっきりしない場合もあります。 激痛ではなく、肩の奥の痛みや力の入りにくさが主な症状となることもあるため注意が必要です。 これらの症状は、体が発する危険信号です。自己判断せず、必ず整形外科を受診してください。

肩関節脱臼の検査・診断

肩が外れたかもしれないと感じたら、自己判断はとても危険です。 自分で元に戻そうとせず、必ず専門の医療機関を受診してください。 病院では、けがの状態を正確に知るために、いくつかの検査を行います。

まず、医師が「いつ、どのように痛めたか」などを詳しく聞きます。 これを「問診」と言い、診断のための大切な手がかりになります。 次に、肩の形や腫れ、動かせる範囲などを直接見て確認します。

その後、肩の中の状態を詳しく見るために、画像検査を行います。

  • レントゲン(X線)検査 肩の脱臼を診断するうえで、基本となる最も重要な検査です。 骨が正しい位置からズレていないかを確認することができます。 さらに大切な目的は、骨折を伴っていないかを調べることです。 ある研究では、肩を脱臼した方のうち約17.5%に骨折が見られました。 これはおよそ5〜6人に1人の割合で、骨折が起きていることを意味します。
  • CT検査・MRI検査 脱臼を繰り返している場合や、より詳しい情報が必要な時に行います。 体の後ろ側にずれる後方脱臼など、分かりにくい脱臼の診断にも役立ちます。
  • CT検査 骨の状態を、レントゲンより細かく立体的に見ることができます。 肩の受け皿となる骨のすり減りや、ごく小さな骨折を見つけるのに有効です。
  • MRI検査 骨以外の、関節を支える柔らかい組織を詳しく見る検査です。 クッションの役割を持つ「関節唇(かんせつしん)」や靭帯の損傷を評価します。

これらの検査結果を総合的に判断し、今後の治療方針を決めていきます。

検査方法

主な目的

問診・身体診察

けがの状況や症状を直接確認する

レントゲン検査

脱臼の確認と、最も重要な骨折の有無を調べる

CT検査

骨折や骨のすり減り具合を詳しく評価する

MRI検査

関節唇や靭帯など、柔らかい組織の損傷を評価する

肩関節脱臼の治療

肩が外れてしまったら、決してご自身で元に戻そうとしないでください。 無理に動かすと、骨折や神経の損傷など、別の怪我につながる危険があります。 必ず整形外科を受診し、専門家による治療を受けましょう。

治療は、まず医師の手で肩関節を正しい位置に戻す「整復」から始まります。 その後の治療法は、主に手術をしない「保存療法」と「手術療法」に分けられます。

保存療法

保存療法は「固定」と「リハビリテーション」が二本柱となります。 整復後は、三角巾や専用の装具を使い、3〜4週間ほど肩を固定します。 最近では、腕を少し外に開いた状態で固定する「外旋位固定」が良いとされます。 この方法は、従来の固定法よりも脱臼の再発率を低くする可能性があるためです。

固定とあわせて、肩の機能を回復させるリハビリテーションが非常に重要です。 特にスポーツをする方では、固定と同時に筋力トレーニングを始めることが有効です。 ある研究では、この方法を取り入れた若年ラグビー選手の再発率が、他の治療群に比べて大幅に低下したと報告されています。

また、リハビリは自己流で行うよりも、専門家の指導のもとで進めることが望ましいです。 複数の研究を分析した報告によると、理学療法士などの専門家から指導を受けた方が、自己流でトレーニングするよりも肩の機能回復に良い影響を与える可能性が示唆されています。

手術療法

保存療法を続けても脱臼を繰り返す「反復性肩関節脱臼」の場合。 あるいは、スポーツへの早期復帰を強く望む場合などには、手術が選択されます。 現在は関節鏡というカメラを使い、小さな傷で体への負担が少ない手術が主流です。 この手術で、脱臼の原因となった関節のクッション(関節唇)などを修復します。

どの治療法が最適かは、ご年齢や普段の活動量、肩の状態によって異なります。 担当の医師とよく相談し、ご自身に合った治療法を決めていきましょう。