夜中に肩がズキズキと痛んで目が覚める、腕を上げようとすると鋭い痛みが走る。そのつらい症状は、肩の筋肉のすじが切れる「肩腱板断裂」が原因かもしれません。
実は、ある国内の調査では70代の約半数にこの腱板断裂が見つかりました。しかし、驚くべきことにその多くは無症状だったのです。腱が切れていても痛まない人がいる一方で、なぜあなたの肩はこれほど痛むのでしょうか?
この記事では、肩腱板断裂の原因から、手術をしない保存療法までを詳しく解説します。あなたの痛みの本当の理由と、ご自身に合った治療法を見つけるために、ぜひご一読ください。
肩腱板断裂の概要
肩を動かすには、肩の奥深くにある筋肉が大切です。 この筋肉は「腱板(けんばん)」と呼ばれています。 腱板は4つの筋肉の「すじ」が集まってできています。 ちょうど一枚の板のように骨にくっついています。
腱板には、主に次のような大切な役割があります。
- 腕の骨がずれないようにする 肩の関節を安定させる働きを持っています。
- 腕をスムーズに動かす 腕を上げたり、内外にひねったりする動きを助けます。
この腱板は、年齢を重ねることで変化したり、ケガをしたりして切れることがあります。 これを「肩腱板断裂」と呼びます。 断裂の多くは、加齢により腱がもろくなる「変性」が原因です。
しかし、腱板断裂には重要な特徴があります。 それは、切れていても痛みなどの症状が出ない場合があることです。 ある国内の調査では、70代の方の約半数に腱板断裂が見つかりました。 しかし、その多くは特に症状を感じていませんでした。
また、すべての断裂が時間とともに悪化するわけではありません。 断裂が大きくなっても、症状が変わらない方もいます。 このように、腱板断裂は単純な病気ではないのです。 そのため、画一的な治療ではなく、一人ひとりの状態に合わせた慎重な判断が求められます。
肩腱板断裂の種類
肩腱板断裂は、切れ方や原因によって種類が分かれます。 ご自身の肩の状態を知り、治療法を考える上で大切です。 断裂は主に「原因」と「切れ具合」の2つの視点で分類します。
原因による分類
けがをした記憶がなくても、断裂が起こることがあります。 断裂の多くは、はっきりとした原因がないものです。
- 変性断裂(へんせいだんれつ) 加齢や長年の肩の使いすぎで、腱がすり減り起こります。 肩腱板断裂の大部分が、この変性断裂にあたります。 日常生活の何気ない動作で、自然に切れてしまうのです。
- 外傷性断裂(がいしょうせいだんれつ) 転んで手をつくなど、はっきりとしたケガが原因です。 重いものを持ち上げた時などに切れることもあります。
切れ具合による分類
腱がどのくらい切れているかで、大きく2つに分けられます。
- 完全断裂(かんぜんだんれつ) 「全層断裂」とも呼ばれ、腱が骨から完全に剥がれています。 筋肉のすじが、完全に切れてしまっている状態です。
- 不全断裂(ふぜんだんれつ) 「部分断裂」とも呼ばれ、腱の一部が切れています。 腱が薄くなったり、部分的に傷ついたりした状態です。
これらの分類は、治療の方針を決める上でとても重要です。 しかし、断裂があっても症状が出ない方も珍しくありません。 断裂が進行しない場合もあり、一人ひとり状態は異なります。 そのため、画一的な治療ではなく丁寧な診察が求められます。
肩腱板断裂の原因
肩腱板断裂が起こる原因は、一つだけではありません。 多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合って発症します。 主な原因は「加齢による変化」と「外傷(ケガ)」です。
加齢による変化(変性)
最も多い原因は、年齢とともに腱の質が変化することです。 これを「変性(へんせい)」と呼び、腱がもろくなります。 腱の内部では、主に次のような変化がゆっくりと進みます。
- 腱のすり減り 肩を動かすたび、腱板は骨と骨に挟まれやすい構造です。 長年のうちに、少しずつこすれてすり減っていきます。
- 血の巡りの低下 年齢を重ねると、腱への血流が乏しくなります。 そのため、腱が傷つきやすく、また治りにくくなります。
- 筋肉の質の変化 腱につながる筋肉が痩せたり、脂肪が増えたりします。 筋肉の質が悪くなると、腱への負担が増えるのです。
ある海外の研究では、けがをした人の年齢が、断裂の増加を決める主な要因であると報告されています。 このように、加齢による変化が断裂の最大の土台となります。
外傷(ケガ)
転んで強く手をついたり、重い物を持ち上げたりすること。 このような一度の大きな力で、腱板が切れることもあります。 しかし、ケガが原因の場合でも注意が必要です。 背景には、加齢によってもろくなった腱が隠れていることも少なくありません。
これらの原因が組み合わさるため、多くの場合、はっきりとした原因の記憶がないまま断裂が進行しているのです。
肩腱板断裂の症状
腱板が切れても、必ずしも痛みが出るとは限りません。 症状の現れ方は、断裂の大きさや原因で大きく異なります。 全く症状がない方から、強い痛みに悩む方まで様々です。 そのため、症状だけで断裂の程度を判断することは難しいのです。
代表的な症状は、肩を動かした時の痛みや夜中の痛みです。 特に60代の方に多く、夜の痛みが受診のきっかけになります。
主な症状
肩腱板断裂でみられる、主な症状は次のとおりです。
- 痛み(運動時痛・夜間痛) 腕を上げたり、後ろに手を回したりすると痛みます。 夜、痛い方の肩を下にして眠れないこともあります。 寝ている間にズキズキと痛み、目が覚めることもあります。
- 力の入りにくさ(脱力感) 腕を上げようとしても、力がうまく入らない感覚です。 筋肉の力を骨に伝える腱が切れているため起こります。 そのため、重いものを持つことが難しくなります。
- 動かしにくさ 腕は上がるものの、途中で引っかかる感じがします。 「五十肩」と違い、関節が固まることは少ない傾向です。
- 肩の音(軋轢音:あつれきおん) 腕を動かすと、肩で「ジョリジョリ」と音がします。 これは切れた腱の端が、骨にこすれて鳴る音です。
症状のチェックリスト
ご自身の症状と比べてみましょう。 一つでも当てはまれば、腱板断裂の可能性があります。
- [ ] 腕を上げるとき、肩の前や外側に痛みを感じる
- [ ] 夜、痛みで目が覚めたり、寝返りがつらかったりする
- [ ] 高い場所の物を取ろうとすると、肩が痛む
- [ ] 電車のつり革につかまる動作がつらい
- [ ] 上着を着たり脱いだりする時に、痛みが走る
- [ ] 腕を動かすと「ジョリジョリ」という音がする
大切なのは、腱板が切れても症状が出ない場合がある点です。 断裂が悪化しない方も多く、治療は症状をもとに行います。 しかし、気になる症状があれば自己判断はせずご相談ください。
肩腱板断裂の検査・診断
肩の痛みや動かしにくさで病院を訪れると、まず丁寧な問診と診察から始まります。 いつからどのような症状があるかなど、詳しくお話を伺います。
次に、肩の状態を直接確認する診察(身体所見)に進みます。 医師が腕を動かしたり、患者さんご自身に特定の動きをしてもらったりします。
【診察で確認する主なポイント】
- 腕の動き 腕がスムーズに上がるか、特定の角度で痛みが出ないかなどを確認します。
- 肩の音(軋轢音:あつれきおん) 腕を動かす時に「ジョリジョリ」という特徴的な音がしないかを聞き取ります。
- 筋肉の状態 肩の後ろ側にある特定の筋肉が、反対側と比べてやせていないかを見ます。
これらの診察で肩腱板断裂が疑われる場合、画像検査でより詳しく状態を調べます。 原因や状態を正確に把握するために、複数の検査を組み合わせることがあります。
【主な画像検査】
- X線(レントゲン)検査 骨の形や、骨と骨の間隔に異常がないかを確認します。 腱そのものは映りませんが、間接的に断裂の存在を推測できます。
- 超音波(エコー)検査 診察室で簡単に行える検査です。 腱板の断裂の有無や動きをリアルタイムで直接観察できます。
- MRI検査 腱板や筋肉の状態を非常に詳しく見ることができる検査です。 断裂の大きさや場所、質(筋肉が脂肪に変わっていないか)まで正確に把握します。 この情報は、治療の方針を決める上でとても重要になります。
これらの検査結果を総合的に判断して、診断を確定します。 しかし、ここでとても大切なことがあります。 それは、検査で断裂が見つかっても、症状が全くない方もいるということです。
ある研究では、すべての断裂が症状を引き起こすわけではないと報告されています。 そのため、治療は検査結果だけで決めるものではありません。 患者さんご自身の痛みや、生活への支障の程度に基づいて慎重に判断することが最も大切なのです。
肩腱板断裂の治療
肩腱板断裂の治療は、主に2つの方法に分けられます。 それは「保存療法」と「手術療法」です。 多くの場合は、まず手術をしない保存療法から始めます。
保存療法(手術をしない治療)
保存療法は、痛みなどの症状を和らげることを目指します。 肩の動きを良くして、日常生活の質を高めるのが目的です。 いくつかの研究をまとめた報告があります。 それによると、手術と保存療法を比べた場合、1年後の痛みの改善には大きな差がなかったとされています。 そのため、まずは保存療法で様子を見ることが一般的です。
- 運動療法(リハビリテーション) 切れた腱は元に戻りませんが、他の筋肉を鍛えます。 残っている腱や周りの筋肉を強くして肩を支えます。 ある研究では、運動療法は痛みの原因部分への圧力を減らす効果も期待できると報告されています。
- 注射 痛みが特に強い場合は、注射を行うこともあります。 炎症を抑えるお薬や、関節の動きを滑らかにするヒアルロン酸などを注射します。
手術療法
数ヶ月間、保存療法を続けても症状が良くならない場合。 また、ケガが原因で断裂した若い方などには手術を考えます。 手術は、切れた腱板を骨に縫い付けることが主な目的です。
- 関節鏡視下腱板修復術(かんせつきょうしかけんばんしゅうふくじゅつ) 肩に数ミリの小さな穴を開け、内視鏡を入れて行う手術です。 切れた腱板を骨にしっかりと縫い付けます。 傷が小さく、体への負担が少ないという特徴があります。
- 手術後のリハビリ 手術でつないだ腱が再び骨にくっつくまでには時間がかかります。 この期間にリハビリをしっかり行わないと、肩が固まる「肩関節拘縮(かたかんせつこうしゅく)」という合併症が起こり得ます。 専門家の指導のもとで、リハビリを続けることが非常に大切です。
どちらの治療法が良いかは、断裂の大きさや症状で異なります。 年齢や生活スタイルも考慮して、医師とよく相談しましょう。