細菌性赤痢

急な高熱や激しい腹痛、そして何よりも不安になる血が混じった下痢。それは、赤痢菌によって引き起こされる「細菌性赤痢」かもしれません。かつては日本でも10万人以上が感染した、命にも関わる恐ろしい感染症です。

衛生環境が整った現代では過去の病気と思われがちですが、今でも海外からの持ち込みを中心に発生は続いています。その感染力は非常に強く、目に見えないわずか10〜100個の菌が体内に入るだけで感染してしまうほどです。

この記事では、細菌性赤痢の具体的な症状や原因、そして自己判断で市販薬を使うことの危険性について詳しく解説します。ご自身や大切な家族を守るため、正しい知識を身につけましょう。

細菌性赤痢の概要

細菌性赤痢は、「赤痢菌」という細菌がお腹の中に入ることで起こる、急な発熱やお腹の痛みを伴う感染症です。特に、血が混じった下痢が出るのが大きな特徴です。

この病気は感染症法という法律で「三類感染症」に指定されています。これは、集団で発生する可能性があり、社会全体で注意が必要な病気という意味です。

【細菌性赤痢の主な特徴】

  • 原因となる菌 赤痢菌(Shigella)
  • 主な症状 急な発熱、お腹の痛み、血便、しぶり腹(便意は強いのに少ししか出ない状態)
  • 感染力 非常に強く、目に見えないほど少ない菌の数(10〜100個)でも感染します。

昔の日本では、衛生的な環境が整っていなかったため、10万人以上が感染し、多くの方が亡くなる怖い病気でした。しかし、現在では水道が整備されたおかげで、患者さんの数は大きく減っています。

今の日本でかかる人のほとんどは、海外の流行地で感染し、帰国してから症状が出るケースです。

赤痢菌は、大腸の壁にある細胞の中に入り込んで増殖します。これにより腸の粘膜が傷つけられ、炎症が起こることで血便といった症状が現れるのです。

実は、一部の伝統的なお薬は、このような腸の炎症を和らげる目的で、古くから細菌性赤痢の治療に使われてきた歴史があります。この考え方は、腸に慢性の炎症が起こる潰瘍性大腸炎という別の病気の治療研究でも注目されています。

細菌性赤痢の種類

一口に細菌性赤痢といっても、原因となる「赤痢菌」には、主に4つのグループがあります。 どの種類の菌に感染するかで、症状の重さや流行している地域が大きく異なります。

菌の種類

主な特徴

ソンネ菌

(Shigella sonnei)

・日本で最も多く、感染者の7~8割を占めます。

・症状は比較的軽く、軽い下痢や熱だけで済むこともあります。

フレクスナー菌

(Shigella flexneri)

・発展途上国で多く見られます。

・腹痛や血が混じった便など、はっきりとした症状が出やすいです。

志賀(しが)赤痢菌

(Shigella dysenteriae)

・症状が最も重くなりやすい種類です。

・激しい腹痛や血便のほか、命に関わる合併症を起こすこともあります。

ボイド菌

(Shigella boydii)

・インド周辺で見られますが、他の種類に比べてまれです。

このように、どの菌に感染したかを見極めることは、適切な治療方針を決めるために非常に重要です。

また、細菌性赤痢が長引くと、大腸の粘膜が継続的に傷つけられてしまいます。 この状態は、腸に慢性的な炎症が起こる「潰瘍性大腸炎」という病気と似た側面を持ちます。

実際に、古くから慢性的な細菌性赤痢の治療に使われてきた伝統的なお薬が、潰瘍性大腸炎の治療にも役立つ可能性が研究されています。 研究によると、これらのお薬には傷ついた腸の壁を守る「バリア機能」を回復させたり、過剰な炎症を抑えたりする働きがあると考えられています。 一つの病気の治療法が、別の病気を治すヒントになるのです。

細菌性赤痢の原因

細菌性赤痢の原因は、「赤痢菌(せきりきん)」という細菌です。 この菌は感染した人の便の中にひそんでおり、何かの形で口に入ることで感染します。

赤痢菌の最も注意すべき点は、その非常に強い感染力にあります。 目に見えないほど少ない、わずか10個から100個の菌が体内に入るだけで感染が成立します。

【主な感染ルート】

  • 汚れた手指を介した感染 トイレの後や食事の前に手を洗わないと、手に付いた菌が口に入ることがあります。
  • 汚染された飲食物の摂取 菌に汚染された水や、加熱が不十分な食べ物を口にすることで感染します。
  • 菌を運ぶハエからの感染 菌の付いたハエが食べ物にとまり、そこから感染することもあります。

口から入った赤痢菌は、強い胃酸の攻撃を生き延びて大腸までたどり着きます。 そして大腸の壁の細胞の中にもぐり込み、細胞を壊しながら仲間を増やしていきます。 この働きによって腸の粘膜が深く傷つけられ、激しい腹痛や血便が起こるのです。

また、赤痢菌は腸に直接ダメージを与えるだけではありません。 感染をきっかけに、お腹の中の細菌バランス(腸内フローラ)も大きく乱してしまいます。 研究によると、腸内でのビタミン代謝などが変化することも分かっています。

さらに、腸の壁が持つ、体内に悪いものが侵入するのを防ぐ「バリア機能」も低下させます。 こうした腸内環境全体の悪化が、症状をさらに悪くする一因と考えられています。

細菌性赤痢の症状

赤痢菌が体の中に入ると、1日~3日ほど静かに潜んでいます。 この潜伏期間の後に、さまざまな症状があらわれ始めます。

症状の出方には個人差がありますが、主に次のような順番で進みます。

【細菌性赤痢の主な症状】

  • からだ全体の症状
  • ゾクゾクする寒気(悪寒)と、38℃以上の急な発熱
  • 体のだるさ、倦怠感
  • お腹の症状
  • はじめは水のような下痢
  • だんだん強くなるお腹の痛み
  • 膿や血液がまじった便(膿粘血便)
  • しぶり腹(便意は強いのに、少ししか出ないスッキリしない状態)

最初は発熱や水のような下痢から始まることがほとんどです。 しかし、赤痢菌が腸の壁の細胞に侵入して壊し始めると、症状は次の段階へ進みます。

腸の粘膜が深く傷つけられることで、お腹の痛みが強くなります。 そして、便には血液や、菌と戦った白血球の死骸である膿が混じるようになるのです。

体が菌と戦う過程で、体内に「酸化ストレス」という負担がかかります。 これにより、体を守る「免疫」のバランスが崩れてしまうこともあります。 こうした体の防御システム(腸管バリア機能)の破壊や免疫の乱れが、症状を悪化させる原因の一つと考えられています。

特に小さなお子さんでは、食欲がなくなったり、吐いてしまったりすることも珍しくありません。 下痢の回数が1日に20回以上になるケースもあるため、注意深く様子を見る必要があります。

菌の種類によっては軽い下痢だけで終わることもありますが、自己判断は危険です。 気になる症状があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。

細菌性赤痢の検査・診断

お腹の痛みや血便などの症状から細菌性赤痢が疑われる場合、まず原因を正確に突き止めるための検査を行います。 自己判断で市販の下痢止めなどを使うのは危険です。 原因菌を特定し、適切な治療につなげるために検査は欠かせません。

診断を確定させるために、主に便を使った2つの検査が行われます。

  • 便培養検査 便を採取し、「培地」という菌のエサが入ったお皿で育てます。 数日後に赤痢菌が増えていれば、感染が確定します。 原因となる菌そのものを直接見つけるための、基本となる検査です。
  • 遺伝子検査(PCR法など) 便の中に、赤痢菌が持つ特有の「設計図(遺伝子)」がないか調べます。 この方法は非常に感度が高く、目に見えないほど少ない菌の数でも検出できます。 より早く、正確に診断を下すために役立ちます。

これらの検査は、単に赤痢菌を見つけるだけが目的ではありません。 細菌性赤痢と症状が似ている「潰瘍性大腸炎」という病気と見分けるためにも、非常に重要です。

どちらの病気も、腸の壁が持つ「バリア機能」が壊れることや、体を守る「免疫」のバランスが崩れることが症状に関わっています。 原因が細菌なのか、体の内側の問題なのかを正確に診断することが、回復への大切な第一歩となるのです。 気になる症状があれば、必ず医療機関を受診してください。

細菌性赤痢の治療

細菌性赤痢の治療は、次の2つの柱を組み合わせて進めます。 つらい症状を和らげること、そして原因の菌を退治することです。

自己判断で市販の下痢止めを使うのは絶対に避けてください。 菌を体の外に出す働きを邪魔して、かえって回復を遅らせる危険があります。

治療の2つの柱

治療法

内容

ポイント

体を楽にする治療

(対症療法)

下痢や発熱などの

症状を和らげる治療

・脱水を防ぐための水分と塩分の補給

・お腹の調子を整える整腸剤の使用

原因をやっつける治療

(抗菌薬療法)

赤痢菌を退治する治療

・抗菌薬(抗生物質)の内服

・医師の指示通り最後まで飲み切ることが重要

まず最も大切なのは、下痢や熱で失われた水分を補うことです。 体からは水分だけでなく塩分も失われるため、経口補水液などが適しています。

次に、原因である赤痢菌を直接やっつけるために、抗菌薬を使います。 症状が良くなっても、菌が体内に残っている可能性があります。 途中でやめると、菌が薬の効かない「耐性菌」に変化することがあるため、必ず医師に指示された期間、薬を飲み切ることが大切です。

また、これらの治療とあわせて、弱った腸そのものを助ける考え方もあります。 研究では、伝統的なお薬が持つ、傷ついた腸の壁を守る「バリア機能」を回復させたり、過剰な炎症を抑えたりする働きが注目されています。 これは、体本来の力を助け、腸内環境を整える治療法です。

治療法は患者さんの年齢や症状によって異なります。 必ず医療機関で診察を受け、医師の指示に従いましょう。