神経因性膀胱

「トイレが近い」「急な尿意で間に合わない」「スッキリ出しきれない」。年齢のせいだと諦めがちなそのおしっこの悩み、もしかしたら脳や脊髄から膀胱へとつながる「神経」のトラブルが原因かもしれません。

この神経の不調によって排尿のコントロールが効かなくなる状態を「神経因性膀胱」と呼びます。症状は尿が漏れてしまうタイプと、逆に出せなくなるタイプとに正反対にあらわれ、原因も脳卒中や脊髄損傷、糖尿病など様々です。

放置は腎臓への深刻なダメージにつながるだけでなく、ある研究では治療の選択を巡ってご家族が「意思決定後悔」に悩むという報告も。この記事では、後悔しないために知っておきたい神経因性膀胱の正しい知識と治療法を解説します。

神経因性膀胱の概要

おしっこをためたり出したりする膀胱の働きは、 脳からの命令が神経を伝わって細かく調整されます。

この脳や脊髄、膀胱へつながる神経のどこかに問題が起こり、 おしっこのコントロールがうまくいかなくなる状態を 「神経因性膀胱」と呼びます。

私たちの体がおしっこを調節する仕組みは、以下のとおりです。

  • おしっこをためる時 脳からの命令で膀胱の筋肉はゆるみ、 尿道の出口はしっかり閉じています。
  • おしっこを出す時 脳からの命令で膀胱の筋肉が縮み、 尿道の出口がゆるみます。

神経因性膀胱は、この一連の命令や連携が乱れる病気です。 そのため、おしっこが漏れたり、逆に出せなくなったりと、 人によって様々な症状があらわれます。

治療法も内服薬から手術まで多岐にわたります。 特に、お子さんの治療では、ご家族がどの治療法を選ぶか、 慎重な判断が求められることがあります。

ある研究では、お子さんの手術後にご家族が 「この選択で本当に良かったのか」と深く悩む、 「意思決定後悔」を経験することがあると報告されています。

このような後悔を減らすためにも、病気や治療について 正しく理解し、医師と十分に話し合うことが大切です。

神経因性膀胱の種類

神経のどこに問題があるかによって、症状は正反対の形で現れます。 大きく2つのタイプに分けられるので、確認してみましょう。

  • 弛緩性(しかんせい)膀胱 膀胱の筋肉がゆるんで、うまく縮めなくなるタイプです。
  • 痙性(けいせい)膀胱 膀胱が過敏になり、勝手にギュッと縮んでしまうタイプです。

これらの特徴が混じり合った「混合型」の場合もあります。 タイプによって治療法が全く異なるため、見極めがとても重要です。

弛緩性膀胱

「おしっこを出せ」という脳からの命令がうまく伝わらない状態です。 膀胱の筋肉がゆるみ、おしっこを押し出す力が弱くなってしまいます。

おしっこを出しきれずに膀胱に尿が残りやすくなります。 この状態が続くと、腎臓の機能が悪化する危険性も高まります。 治療として、カテーテルという管で定期的に尿を出すことがあります。

しかし、神経因性膀胱が原因で膀胱の出口が変形していると、 カテーテルの挿入が難しくなる場合があることも報告されています。 無理な操作は尿道を傷つけるため、専門的な処置が必要です。

【主な症状】

  • 尿の勢いが弱い
  • お腹に力を入れないと尿が出にくい
  • 排尿後も尿が残っている感じがする(残尿感)
  • 尿がたまりすぎて、あふれ出るように漏れてしまう

痙性膀胱

「まだためておけ」という脳からのブレーキが効かない状態です。 自分の意思とは関係なく、膀胱の筋肉が勝手に縮んでしまいます。

尿が十分にたまっていないのに、急に強い尿意を感じます。 そのため、何度もトイレに行きたくなったり、間に合わずに漏れたりします。

特に脊髄損傷などが原因の場合に注意が必要です。 尿道を締める筋肉(尿道括約筋)まで過剰に活動してしまうため、 排尿がスムーズにいかなくなることもあります。

タイプ

膀胱の状態

主な症状

弛緩性膀胱

筋肉がゆるみ、うまく縮まない

尿が出にくい、残尿、あふれて漏れる

痙性膀胱

筋肉が過敏で、勝手に縮む

急な尿意、頻尿、間に合わずに漏れる

神経因性膀胱の原因

おしっこの指令を出す「神経」のどこかに問題が起こることが、 神経因性膀胱の始まりです。

脳から出た命令は、背骨の中を通る「脊髄」という太い神経を通り、 そこから膀胱へと伝わります。 この指令系統のどこか一か所でも問題が起こると、 膀胱はうまく働けなくなってしまうのです。

原因となる病気やケガは、主に以下の3つの場所に分けられます。

神経の場所

原因となる病気やケガの例

脳の病気

・脳卒中(脳梗塞、脳出血)

・パーキンソン病

・認知症

・多発性硬化症

脊髄の病気

・脊髄損傷(交通事故や転落など)

・椎間板ヘルニア

・腰部脊柱管狭窄症

末梢神経の病気

・糖尿病による神経障害

・骨盤内の手術(直腸がん、子宮がんなど)による神経の損傷

特に、交通事故などによる脊髄損傷は代表的な原因です。 脊髄損傷が原因の場合、尿道を締める筋肉が過剰に活動してしまい、 おしっこが出しにくくなることがあると研究で示されています。

また、糖尿病や骨盤内のがんの手術によって、 膀胱につながる末梢神経が傷つくことも原因となります。

神経のトラブルは、膀胱の出口の形にまで影響を及ぼすこともあります。 その結果、おしっこを出すための管(カテーテル)の挿入が、 難しくなるケースがあることも報告されています。

このように原因は多岐にわたりますが、 時にはっきりとした原因が見つからない場合もあります。 気になる症状があれば、まずは専門の医療機関へ相談することが大切です。

神経因性膀胱の症状

神経因性膀胱の症状は、おしっこを「ためる」機能と、 「だす」機能のどちらに問題が起きているかで大きく異なります。 そのため、症状のあらわれ方は人によって様々です。

ご自身の状態を確認するために、以下のリストを参考にしてください。

【あなたの症状はどれにあてはまりますか?】

□ 尿をためるときの問題(蓄尿障害)

  • トイレに行く回数が多い(頻尿) 膀胱が過敏になり、少ししか尿がたまっていなくても、 脳に「いっぱいだ」とサインを送ってしまいます。
  • 夜中に何度もトイレに起きてしまう(夜間頻尿) 日中だけでなく、夜間も頻繁に尿意を感じる状態です。
  • 急に強い尿意を感じ、我慢するのが難しい(尿意切迫感) 突然、抑えきれないほどの強い尿意に襲われます。
  • トイレまで間に合わず、尿がもれてしまう(切迫性尿失禁) 尿意切迫感と同時に、意思とは関係なく尿が漏れてしまいます。

□ 尿をだすときの問題(排出障害)

  • 尿の勢いが弱い、出すのに時間がかかる 膀胱がうまく縮めず、おしっこを押し出す力が弱まっています。
  • お腹に力を入れないと尿が出しにくい 膀胱の力だけでは足りず、腹筋の助けが必要になります。
  • 排尿後も尿が残っている感じがする(残尿感) おしっこを出しきれず、膀胱内に尿が残っている状態です。
  • まったく尿が出なくなることがある(尿閉) 膀胱が尿でいっぱいなのに、出すことができなくなります。

このほか、尿がたまりすぎてあふれ出てしまう「溢流性尿失禁」もあります。 また、尿を出しきれない状態が続くと、膀胱の中で細菌が増えやすくなります。 そのため、膀胱炎などの尿路感染症を繰り返す原因となります。

ある研究では、特に脊髄損傷が原因の患者さんにおいて、 この尿路感染症が大きな問題となることが指摘されています。 症状が長く続くと腎臓に負担がかかり、機能が低下する危険もあるため、 気になる症状があれば早めに専門医へ相談しましょう。

神経因性膀胱の検査・診断

神経因性膀胱の診断は、まずお話を聞くことから始まります。 いつからどんな症状で困っているか、詳しく教えてください。 ご自宅で排尿の時間や量を記録した「排尿日誌」も、 診断の大きな手がかりとなる大切な情報です。

お話を聞いた後、体への負担が少ない検査から進めていきます。 どのような検査があるのか、一つずつ確認していきましょう。

【基本的な検査】

  • 尿検査 おしっこの中に血や細菌がいないかを調べます。 神経因性膀胱では尿路感染症を起こしやすいため、 おしっこの状態を確認することはとても大切です。
  • 超音波(エコー)検査 お腹にゼリーを塗り、機械を当てる痛くない検査です。 膀胱や腎臓の形、排尿後に尿が残っていないか(残尿量)、 などを直接見ることができます。
  • 尿流測定検査 専用のトイレで普段通りおしっこをするだけの検査です。 尿の勢いや量、排尿にかかる時間を測ることで、 尿を出す力に問題がないかを評価します。

これらの検査で診断が難しい場合は、より詳しく調べる検査に進みます。

【専門的な検査】

  • 尿流動態検査(ウロダイナミクス検査) 尿道から細い管を入れ、膀胱の働きを精密に調べる検査です。 おしっこをためる時や出す時の膀胱の圧力を測定し、 神経のどこに問題があるのかを探ります。

ただし、この専門的な検査は、誰もが行うわけではありません。 例えばある研究では、お薬が効きにくい過活動膀胱の女性に対し、 この検査を行っても、その後の治療の成功率に大きな差はなかった、 という結果が報告されています。

そのため、医師が患者さん一人ひとりの状態をよく診て、 本当にこの検査が必要かどうかを慎重に判断します。 これらの検査結果を総合的に判断し、診断が確定します。

神経因性膀胱の治療

神経因性膀胱の治療は、まず腎臓の機能を守ることが一番の目標です。 その上で、つらい尿路感染症を防ぎ、快適な毎日を送れるようにします。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、治療法を組み合わせていきます。

治療の主な選択肢は、以下のとおりです。

  • お薬による治療(薬物療法) 尿をためられない場合は、膀胱の過剰な動きを抑えるお薬を使います。 逆に尿を出しにくい場合は、尿道の緊張をゆるめるお薬が有効です。
  • ご自身で尿を出す訓練(間欠自己導尿) 清潔な細い管(カテーテル)を使い、自分で尿を出す方法です。 膀胱に尿がたまりすぎるのを防ぎ、腎臓や膀胱を守る大切な治療です。
  • 新しい治療の試み 脊髄損傷が原因で尿路感染を繰り返す方向けの新しい治療法です。 膀胱に低周波の振動を与え、感染を減らす効果が研究されています。
  • 手術による治療 お薬や自己導尿で改善が難しい場合に、手術を検討することがあります。 膀胱を広げる手術や、尿もれを防ぐための手術などがあります。

特に、お子さんの手術など大きな決断が必要な治療もあります。 ある研究では、手術後ご家族が「この選択で良かったのか」と悩む、 「意思決定後悔」を経験することがあると報告されました。 後悔なく治療を進めるため、医師と十分に話し合い、納得することが大切です。