扁桃周囲膿瘍
唾も飲めないほどの喉の激痛や口が開きにくい症状は、「扁桃周囲膿瘍」かもしれません。これは扁桃の周りに膿がたまる病気で、20〜30代に多くみられます。放置すると呼吸困難につながる可能性もあり、緊急の対応が求められます。
この記事では、扁桃周囲膿瘍の詳しい症状や原因、診断方法を解説します。抗菌薬の投与や膿を出す処置といった具体的な治療法も、研究データと共に紹介します。
ご自身の症状と照らし合わせることで病気への理解が深まり、適切な受診のタイミングや治療の流れがわかります。不安を和らげ、速やかに医療を受けるための判断ができるようになります。
扁桃周囲膿瘍の概要
扁桃周囲膿瘍は、急性扁桃炎などが悪化し、のどの奥深くにある扁桃の”周り”の組織にまで細菌感染が広がって、膿がたまってしまう病気です。
膿の袋(膿瘍)が作られることで、片側ののどに耐えがたいほどの激痛が生じたり、口が開きにくくなったりします。
これは単なるのどの風邪の延長線上にあるものではなく、緊急の対応を必要とする状態といえます。
もし治療が遅れると、以下のような命に関わる事態に発展する可能性があります。
・頸部膿瘍(けいぶのうよう):炎症が首の深くにまで広がる
・呼吸困難:膿の袋が空気の通り道である気道を圧迫する
・敗血症:細菌が血液に入り込み、全身の臓器に障害を引き起こす
主に20〜30代の成人に多くみられますが、「伝染性単核球症」という特殊なウイルス感染症がきっかけで起こる強い扁桃炎から発症することもあります。
ある研究では、この伝染性単核球症の治療でステロイド薬を使用しても、扁桃周囲膿瘍のような重い合併症の発生率は減らなかったと報告されています※。
扁桃周囲膿瘍の種類
扁桃周囲膿瘍と一言でいっても、膿がたまる場所や炎症の進み具合によって、いくつかの状態に区別されます。どこに、どの程度炎症が広がっているかを見極めることは、その後の治療方針を大きく左右するため非常に重要です。
分類は主に、「膿がたまる場所」と「炎症の進行度」という2つの視点から行われます。
まず、膿がたまる場所によって以下のように分けられます。
・扁桃周囲膿瘍
扁桃のすぐ隣のスペースに膿がたまる、最も典型的な状態です。
・副咽頭間隙膿瘍(ふくいんとうかんげき-のうよう)
炎症がさらに奥深く、首の重要な血管(内頸動脈など)や神経が通っている「副咽頭間隙」というスペースまで広がった状態を指します。命に関わる危険性がより高いといえます。
また、炎症がどのくらい進んでいるかによっても区別されます。
・扁桃周囲蜂窩織炎(ほうかしきえん)
膿の袋(膿瘍)ができる一歩手前の段階で、組織が全体的に赤くブヨブヨと腫れ上がっている状態です。
・扁桃周囲膿瘍
蜂窩織炎がさらに進行し、膿が特定の場所にたまって袋状になった状態を指します。
この「蜂窩織炎」と「膿瘍」を正確に見分けることは、治療法を選ぶうえで欠かせません。
蜂窩織炎であれば抗菌薬の点滴が治療の中心となりますが、膿瘍ができてしまうと、針を刺したり切開したりして膿を外に出す処置が必要になるからです。
しかし、どちらも見た目は赤く腫れているため、診察だけで判断するのは難しいケースも少なくありません。
そこで診断の補助として、超音波(エコー)検査で膿のたまり具合を確認することがあります。
ある研究報告では、この超音波検査は扁桃周囲膿瘍を「除外する」ことには高い感度(見逃しが少ない)を示す一方で、「確定する」ための特異度(誤診が少ない)は中程度であると結論づけられています※。
つまり、超音波検査は膿瘍が「ない」と判断するのには比較的役立ちますが、「ある」と断定するには、まだ限界があることも示唆されているのです。
扁桃周囲膿瘍の原因
扁桃周囲膿瘍は、急性扁桃炎が悪化した結果として発症しますが、その引き金は単なる「のどの風邪」だけではありません。
原因となるのは、溶連菌やブドウ球菌といった細菌ですが、実際には複数の細菌が混ざり合った「混合感染」であることがほとんどです。
特に、酸素の少ない環境を好む「嫌気性菌」が関わることが多く、これが扁桃の奥深くで膿の袋(膿瘍)を形成する一因と考えられています。
扁桃炎の治療が不十分であったり、体の抵抗力が落ちていたりすると、これらの細菌が扁桃の組織を越えて周囲に侵入し、炎症を広げてしまいます。
さらに、以下のような生活習慣や体質も、発症のリスクを高める重要な要因です。
・喫煙の習慣
タバコの煙は、のどの粘膜が持つバリア機能を直接傷つけ、細菌に対する抵抗力を弱めます。また、血流を悪化させることで、炎症が治りにくい環境を作ってしまいます。
・歯周病など、口の中の衛生状態
口の中はもともと多くの細菌が存在する場所です。歯周病や磨き残しがあると口内細菌が繁殖しやすくなり、それらが扁桃に感染する機会を増やしてしまいます。
・扁桃炎を頻繁に繰り返す体質
何度も扁桃炎を繰り返していると、扁桃の表面にある「陰窩(いんか)」と呼ばれる小さなくぼみが瘢痕化して深くなり、細菌が潜伏しやすくなります。これが、感染の温床となることがあります。
また、強い扁桃炎を引き起こす「伝染性単核球症」が背景にある場合も少なくありません。
この病気の治療でステロイドが検討されることがありますが、抗生物質と併用するかぎり、扁桃周囲膿瘍のような重い合併症のリスクは大きく変わらないとの報告があります※。
一度、扁桃周囲膿瘍が重症化し、診断のためにCT検査が必要になったケースでは、その後の再発リスクが約1.9倍に高まるというデータも示されています※。
これは、CTを要するほど炎症が広範囲に及んでいたことが、再発しやすさにつながっている可能性を示唆しているのです。
このように、扁桃周囲膿瘍は単一の原因ではなく、細菌感染をベースに、個人の生活習慣や過去の病歴が複雑に絡み合って発症する病気といえます。
扁桃周囲膿瘍の症状
扁桃周囲膿瘍の症状は、膿の袋がのどの片側にできることで、通常の扁桃炎とは一線を画す特徴的なサインが現れます。
主な症状と、それが「なぜ」起こるのかを以下に整理します。
・片側の激しいのどの痛み
膿の袋が周囲の組織や神経を強く圧迫するため、唾を飲み込むことすらできないほどの激痛が生じます。この痛みは、関連する神経を介して耳の奥にまで響くことがあります。
・口が開きにくい(開口障害)
炎症が顎を動かす筋肉(咀嚼筋)にまで及ぶと、筋肉がこわばってしまい、指が1〜2本入る程度にしか口を開けられなくなります。
・こもった声
膿瘍によってのどの空間が物理的に狭められ、まるで熱いじゃがいもを口に含んだような、こもった不明瞭な声(ホットポテトボイス)になるのが特徴です。
・よだれや口臭
激しい痛みで唾液を飲み込めずに口から垂れ流してしまうほか、膿をつくる細菌(特に酸素の少ない環境を好む嫌気性菌)が原因で、強い口臭が発生します。
・高熱と首の腫れ
強い細菌感染と体内の炎症反応を反映して38℃以上の高熱が出たり、体の防御反応として首のリンパ節が腫れて痛んだりします。
また、これらの症状は、強い扁桃炎を引き起こす「伝染性単核球症」というウイルス感染症がきっかけで現れることも少なくありません。
実際に、この病気で入院した患者を対象とした海外の研究では、治療法にかかわらず扁桃周囲膿瘍のような重い合併症が起こりうることが確認されています※。
とりわけ、症状が進行して息苦しさを感じ始めた場合は、腫れ上がった膿瘍が空気の通り道である気道を圧迫している危険なサインです。窒息に至る可能性もあるため、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。
扁桃周囲膿瘍の検査・診断
扁桃周囲膿瘍の診断は、まず医師がのどの状態を直接観察することから始まり、膿の有無や炎症の広がりを正確に把握するために、必要に応じて画像検査や穿刺(せんし)といった追加の検査を組み合わせて行われます。
はじめに、以下のような特徴的な症状があるかをお聞きし、診断の手がかりとします。
・いつから、どちら側ののどが痛むか
・唾も飲めないほどの激しい痛みがあるか
・口が開きにくいか
・熱や声のこもりはないか
次に、口を大きく開けていただき、ペンライトで照らしながらのどの奥を直接観察します。
このとき、片側の扁桃やその周りが極端に赤く腫れていたり、のどちんこ(口蓋垂)が腫れていない方に押しやられていたりといった所見がみられれば、扁桃周囲膿瘍が強く疑われます。
視診だけでは判断が難しい場合や、炎症の広がりを詳しく評価する必要がある場合には、次のような検査を追加します。
・ファイバースコープ検査
鼻から細いカメラ(内視鏡)を挿入し、肉眼では見えにくい喉の奥深くの状態を直接モニターで確認します。膿の袋による腫れが空気の通り道(気道)をどのくらい狭くしているかを評価し、呼吸困難のリスクを判断するために重要です。
・画像検査
膿がたまっている正確な場所や、炎症が首の深部にまで及んでいないかを立体的に評価するために行います。
検査の種類 | 特徴
超音波(エコー)検査 | ・体に放射線の影響がない、負担の少ない検査 ・複数の研究を統合した解析によると、この検査は扁桃周囲膿瘍を「除外する」ことには高い感度(見逃しが少ない)を示す一方で、「確定する」ための特異度(誤診が少ない)は中程度と報告されています※ ・つまり、膿瘍が「ない」と判断するのには役立ちますが、「ある」と断定するには、この検査だけでは不十分な場合があります
CT検査 | ・膿瘍の正確な位置や大きさ、首の深い組織への広がりの有無を詳細に把握できる、信頼性の高い画像検査 ・ある研究では、CT検査を受けた患者さんは、受けなかった人と比べて、その後の抗生物質や痛み止めの処方が増え、再発率も高い傾向がみられました※ ・これは、CTが必要になるほど重症なケースでは、その後の治療もより慎重に行う必要があり、再発のリスクも元々高いことを示唆していると考えられます
・穿刺(せんし)・細菌培養検査
診断を確定させるための方法です。局所麻酔をした後、最も腫れている部分に針を刺し、膿が吸引できるかどうかを確認します。膿が引ければ、扁桃周囲膿瘍であると診断が確定します。
吸引した膿は、原因となっている細菌の種類を特定し、どの抗菌薬が最も効果的かを調べる「細菌培養検査」に提出します。
・血液検査
採血を行い、白血球の数やCRP(体内で炎症が起きると増えるタンパク質)の値を測定します。これにより、体内でどれほどの強さの炎症が起きているのかを客観的に評価し、治療効果の判定にも役立てます。
扁桃周囲膿瘍の治療
扁桃周囲膿瘍の治療は、膿の袋(膿瘍)ができてしまった場合、まずそれを体の外に出す「排膿(はいのう)」が最優先されます。その上で、原因となっている細菌をたたく「抗菌薬の投与」を並行して行うのが基本方針です。
痛みや腫れが強く、食事や水分も摂れない状態が多いため、多くは入院での治療が必要になります。
具体的な治療は、主に以下の2つを組み合わせて進めます。
1. 排膿処置:膿を外に出す
2. 薬物療法:細菌と炎症を抑える
はじめに、局所麻酔をしっかり効かせた後、膿がたまっている部分にアプローチします。
・穿刺(せんし)
最も腫れている部分に針を刺し、注射器で膿を直接吸い出します。
・切開排膿
膿の量が多い場合や、穿刺だけでは出しきれない場合には、メスで数ミリほど小さく切開し、膿の出口を作ります。
排膿と同時に、点滴や内服で薬の力も借りて治療を進めます。使用する薬剤は以下のとおりです。
薬剤の種類 | 目的と内容
抗菌薬 | ・原因菌をたたく治療の核となる薬です。 ・主にペニシリン系の抗菌薬が使われます。 ・以前は、酸素の少ない場所を好む嫌気性菌も考慮し、複数の抗菌薬を組み合わせることがありました。しかし、近年の研究では、ペニシリンにメトロニダゾールといった特定の薬剤を追加しても治療効果は変わらず、副作用が増えるだけかもしれないと指摘されています※。
鎮痛剤 | ・唾も飲めないほどの激しい痛みを和らげるために使用します。
ステロイド | ・のどの腫れや炎症が非常に強い場合に、それを抑える目的で短期的に使用することがあります。
膿瘍の正確な位置や炎症の広がりを調べるためにCT検査を行うことがあります。
実は、CT検査を受けた患者さんでは、受けなかった人と比べて、その後の抗生物質や強力な痛み止め(オピオイド)、ステロイドの処方が増え、救急外来への再受診や再発率も高くなる傾向が報告されています※。
これは、CT検査が単に治療法を決めるためだけでなく、重症度を判断する指標にもなっていることを意味します。つまり、CTが必要になるほど炎症が広範囲に及んでいる重症なケースでは、それだけ慎重な薬の投与が必要になり、結果として再発のリスクも元々高い状態にあると考えられるのです。
残念ながら、扁桃周囲膿瘍は一度なると繰り返しやすい病気です。
何度も再発する場合には、根本的な解決策として、炎症が完全に治まったタイミング(4〜6週間後が目安)で扁桃そのものを摘出する手術(口蓋扁桃摘出術)を検討することもあります。













