急性喉頭炎

急に声がガラガラになったり、のどの痛みで声が出しにくくなったりした経験はありませんか?多くの人が「ただののど風邪だろう」と軽く考えてしまいがちですが、その症状は声を出すための重要な器官が炎症を起こす「急性喉頭炎」かもしれません。

この病気、実は子どもに多いタイプや、大人の風邪で一般的なタイプ、そして最も注意が必要な、空気の通り道を塞いで窒息する危険があるタイプまで存在します。つばを飲み込むのもつらいほどの激痛や、息を吸うときの異音は、決して見逃してはならない緊急のサインです。

この記事では、急性喉頭炎の正しい知識を詳しく解説します。原因や症状ごとの種類、そして何よりも大切な治療法や危険なサインの見分け方を知り、あなたと家族の健康を守りましょう。

急性喉頭炎の概要

急性喉頭炎(きゅうせいこうとうえん)とは、のどの奥にある「喉頭(こうとう)」が急に炎症を起こす病気です。

喉頭は、一般的に「のどぼとけ」があるあたりに位置しています。 ここには、声を出すために非常に重要な「声帯(せいたい)」という器官が含まれています。

喉頭には、主に以下の3つの大切な働きがあります。

  • 発声 左右の声帯が振動することで、私たちは声を出しています。
  • 呼吸 肺に空気を送るための、空気の通り道としての役割です。
  • 嚥下(えんげ) 食事の際、食べ物や飲み物が気管に入らないよう防いでいます。

この喉頭がウイルス感染などで炎症を起こすと、声帯が赤く腫れてしまいます。 腫れた声帯はうまく閉じたり、きれいに振動したりできなくなります。 その結果、声がかすれる、声が出しにくいといった症状が現れるのです。

「急性」という名前のとおり、症状が数日間のうちに急に現れるのが特徴です。 子どもから大人まで年齢を問わず誰にでも起こりうる、ごく一般的な病気として世界中で知られています。

急性喉頭炎の種類

急性喉頭炎とひとくちに言っても、実はいくつかの種類があります。 のどのどの部分で炎症が起きているかによって、分類されています。

炎症が起きる場所が違うと、現れる症状や注意点も変わってきます。 代表的な急性喉頭炎には、主に以下の3つのタイプがあります。

種類

炎症が起きる場所

こんな人・こんな症状に注意

急性声帯炎(きゅうせいせいたいえん)

声を出す「声帯」

・大人の「のど風邪」で一番多いタイプ<br>・主な症状は声がれ(嗄声)

急性声門下喉頭炎(きゅうせいせいもんかこうとうえん)

声帯の下の狭い部分

・小さな子どもに多い(クループ症候群)<br>・犬が吠えるような特徴的な咳が出る

急性喉頭蓋炎(きゅうせいこうとうがいえん)

空気の通り道のフタ「喉頭蓋」

・息ができなくなる危険がある最も注意が必要なタイプ<br>・つばを飲み込むのもつらいほどの強い痛み

大人がかかる「のどの風邪」の多くは、急性声帯炎です。 声帯が腫れることでうまく振動できなくなり、声がかすれてしまいます。

一方、子どもに多いのが急性声門下喉頭炎です。 子どもは大人よりものどが狭いため、少し腫れるだけで空気の通り道が細くなります。 そのため、息を吸うときに「ヒューヒュー」という音がすることがあります。

この中で最も注意が必要なのは、急性喉頭蓋炎です。 食べ物が気管に入らないようにフタの役目をしている喉頭蓋が急激に腫れます。 そして、空気の通り道を塞いでしまい、窒息の危険がある緊急性の高い病気です。

ご自身の症状がどのタイプに近いかを知っておくことも大切です。

急性喉頭炎の原因

急性喉頭炎の主な原因は、ウイルスによる感染です。 かぜやインフルエンザなどを引き起こすウイルスが、のどに侵入します。 そして、声を出すための大切な器官「声帯」に炎症を起こすのです。

ほとんどの場合、急性喉頭炎はこのウイルス感染がきっかけとなります。 私たちの身の回りには、さまざまなウイルスが存在しています。

急性喉頭炎の主な原因ウイルス

  • ライノウイルス、コロナウイルスなど 一般的に「かぜ」の原因としてよく知られているウイルスです。
  • インフルエンザウイルス 高熱や体の痛みといった、強い全身の症状を伴うことが多いです。
  • パラインフルエンザウイルス、RSウイルス 特に小さなお子さんで、重い喉頭炎(クループ)の原因になりやすいです。
  • アデノウイルス 「プール熱」とも呼ばれ、のどの強い痛みや高熱、目の充血が出ます。

ウイルスによって声帯の粘膜が弱ってしまうこともあります。 そこに細菌が入り込んで、さらに症状を悪化させることもあります。 これを「細菌による二次感染」と呼びます。

一方で、急性喉頭炎はウイルス感染だけが原因ではありません。 のどに直接的な刺激や負担がかかることでも発症します。

感染症以外の原因

  • 声の酷使 カラオケやスポーツ観戦で大声を出すと、声帯がこすれて傷つきます。 この物理的なダメージが、炎症の引き金になるのです。
  • 刺激物の吸入 タバコの煙(ご自身が吸わなくても、周りの煙を吸う受動喫煙も含まれます)や、 汚れた空気を吸うと、声帯の粘膜が直接傷つけられます。
  • 胃酸の逆流 胃の中の強い酸が、食道を逆流してのどまで上がってくる病気です。 胃酸によって声帯が化学的なやけどのような状態になり、炎症を起こします。

このように、急性喉頭炎の原因は多岐にわたります。 多くはウイルス感染ですが、生活習慣が関係している場合も少なくありません。

急性喉頭炎の症状

急性喉頭炎になると、声帯が炎症で赤く腫れ上がります。 普段は薄くてきれいな声帯が、炎症で分厚く、重くなってしまうのです。 そのため声帯がうまく振動できず、声やのどに様々な不調が現れます。

急性喉頭炎でみられる代表的な症状は、以下のとおりです。

  • 声がれ(嗄声:させい) 急性喉頭炎で最も特徴的な症状です。 ガラガラ声やかすれ声になったり、声が出しにくくなったりします。
  • のどの痛み つばを飲み込むだけでも、ズキッとした痛みを感じることがあります。 炎症が強いと、食べ物や飲み物がしみるように感じることもあります。
  • のどの違和感 のどがイガイガ、チクチクしたり、乾燥している感じがしたりします。 また、何かが張り付いているような不快感を覚える方もいます。
  • 咳(せき) たんの絡まない「コンコン」という乾いた咳が出ることが多いです。 特にお子さんの場合、「ケンケン」と犬が吠えるような咳も特徴的です。
  • 発熱 ウイルス感染が原因の場合、38度前後の熱を伴うことがあります。

これらの症状は急に現れ、通常は1週間ほどで自然に良くなっていきます。 しかし、症状が3週間以上続く場合は、他の病気の可能性も考えられます。

すぐに病院へ行くべき危険なサイン

ほとんどの場合は軽症で済みますが、中には緊急の対応が必要なケースもあります。 以下の症状が一つでも当てはまる場合は、命の危険もあるため、夜間や休日でもすぐに医療機関を受診してください。

【危険なサイン・チェックリスト】 □ 息を吸うときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音がする □ 肩で息をするなど、呼吸が苦しそうに見える □ 水分を飲むのもつらいほどの、強いのどの痛みがある □ よだれが飲み込めず、口から垂れてしまう □ 高い熱が続いている

これらの症状は、のどの腫れがひどく、空気の通り道(気道)が狭くなっているサインです。 窒息の危険があるため、決して様子を見ずに救急外来などを受診しましょう。

急性喉頭炎の検査・診断

急性喉頭炎が疑われる場合、まずは詳しい問診から始めます。 声がれやのどの痛みといった症状が、いつから現れたかなどを伺います。 診断の多くは、患者さんからのお話で、ある程度の見当がつきます。

問診の次に、のどの奥にある声帯の状態を直接目で見て確認します。 声がれの原因は、急性喉頭炎以外にも様々な病気が考えられます。 そのため、正確な診断のために、のどの奥を観察することが大切です。

この検査には「喉頭鏡(こうとうきょう)」という専門の器具が使われます。 特に、鼻から細いカメラを入れる「喉頭ファイバースコープ検査」が中心です。 モニターに声帯を映し出し、炎症の状態を詳しく観察します。

【検査で確認する主なポイント】

  • 声帯の赤みや腫れの程度 炎症があると、普段は白く滑らかな声帯が赤く腫れぼったく見えます。
  • 声帯の動き 声を出すときに、左右の声帯が正常に閉じたり振動したりするかを確認します。
  • 他の病気の有無 声帯ポリープや悪性の病気など、似た症状を示す他の病気がないかを確認します。

ほとんどの場合、これらの診察と検査で急性喉頭炎の診断がつきます。 ウイルス性が原因の単純な急性喉頭炎では、血液検査は通常行いません。 ただし、症状が重い場合は、炎症の程度を調べるために行うこともあります。

急性喉頭炎の治療

急性喉頭炎の治療で最も大切なことは、ただ一つです。 それは、炎症で腫れた声帯をしっかり休ませることです。 治療の主役は患者さん自身の「治す力」であり、お薬はその手助けをします。

治療の基本は、次の3つのポイントにまとめられます。

1. 声帯を休ませる「沈黙療法」

最も重要で効果的な治療は「声を出さないこと」です。 炎症で傷ついた声帯は、いわばケガをしている状態です。 ケガをした部分を安静にすることが、回復への一番の近道になります。

  • とにかく話さない 無理に声を出すと、声帯の腫れが悪化し、治りが遅れます。 会話が必要なときは、筆談やスマートフォンのメモ機能を使いましょう。
  • ささやき声もNG 意外に思われるかもしれませんが、ささやき声は声帯に不自然な力がかかります。 普通の声よりも、かえって負担をかけてしまうため避けてください。

2. のどを潤して守る「保湿・加湿」

声帯の粘膜が乾燥すると、バリア機能が低下し炎症が悪化しやすくなります。 のどを常に潤しておくことで、声帯の回復を早めることができます。

  • こまめな水分補給 体の中から潤すことが大切です。 水やお茶などを少しずつ、頻繁に飲むように心がけましょう。
  • 部屋の加湿 加湿器を使ったり、濡れタオルを干したりして湿度を保ちましょう。 マスクの着用も、自分の息で喉を潤す効果がありおすすめです。

3. つらい症状を和らげる「お薬での治療」

急性喉頭炎の原因は、そのほとんどがウイルスです。 そのため、細菌を退治する抗生物質(抗菌薬)は通常は効果がありません。 ウイルス性の風邪に抗生物質が効かないのと同じ理由です。

クリニックでは、あくまでつらい症状を和らげ、回復を助けるお薬を使います。

  • お薬の種類と働き
  • 消炎薬・鎮痛薬 のどの痛みや腫れといった、つらい症状を和らげるお薬です。
  • 去痰薬(きょたんやく) 痰のからみを減らし、咳を楽にするためのお薬です。
  • 吸入療法(ネブライザー) 炎症を抑えるお薬を霧状にして、のどの奥にある声帯に直接届けます。 腫れを直接和らげる効果が期待できる治療法です。

これらの治療で、通常は1週間ほどで症状は改善に向かいます。 しかし、息苦しさがある場合や症状が長引く場合は、早めに再受診してください。