心房細動

突然の動悸や息切れ。「年のせいかな?」と見過ごしていませんか。その不調は、心臓が発する危険なサイン「心房細動」かもしれません。このありふれた不整脈は、80歳以上になると20人に1人以上が抱えると言われ、患者数は2030年には100万人を超えると予測されています。

しかし、心房細動の本当に怖い点は、約4割の方に自覚症状がないことです。気づかぬうちに心臓に血の塊ができ、ある日突然、命に関わる脳梗塞を引き起こす可能性があるのです。この記事では、静かに進行する心房細動の正体から最新の治療法まで、ご自身の体を守るために不可欠な知識を詳しく解説します。

心房細動の概要

心臓の上にある「心房」という部屋が、けいれんするように細かく震えてしまう不整脈の一種です。 心臓がブルブルと震えることで、全身に血液を送り出すポンプの力が弱まってしまいます。 そのため、動悸や息切れ、めまいといった症状が出ることがあります。

この病気は決して珍しいものではなく、年齢とともに誰にでも起こる可能性があります。 日本の調査では、80歳以上の方のうち、男性で4.4%、女性で2.2%が心房細動を持つと報告されています。 患者さんの数は年々増えており、2030年には100万人を超えると予測されています。

しかし、約4割の方は自覚症状がないため、健康診断などで偶然見つかることも少なくありません。 心房細動で最も注意が必要なのは、心臓の中に「血栓」という血の塊ができやすくなることです。 この血栓が血流に乗り、脳の血管に詰まると「脳梗塞」を引き起こす危険性が高まります。

脳梗塞を予防するため、血液を固まりにくくするお薬(抗凝固薬)による治療がとても重要です。 最近の研究では、新しいタイプのお薬(NOACs)が注目されています。 これは、従来から使われてきたワルファリンというお薬と比較して、骨折のリスクを下げる可能性があると報告されています。 特に骨粗鬆症による骨折のリスクを低減させることが示されており、治療の選択肢が広がっています。

心房細動の種類

心房細動は、症状がどれくらいの時間続くかによって、大きく3つのタイプに分けられます。 どのタイプにあてはまるかを知ることは、適切な治療法を選ぶ上でとても大切です。

心房細動の3つのタイプ

種類

特徴

発作性心房細動

・心房細動が起きても、7日以内に自然に止まるタイプです。

・多くは数分から48時間以内におさまります。

持続性心房細動

・心房細動が7日以上続いている状態です。

・お薬や電気ショックなどの治療をしないと、正常な脈には戻りません。

永続性心房細動

・心房細動が1年以上続いている状態です。

・治療しても正常な脈に戻すのが難しい場合などがこれにあたります。

はじめは短時間で自然に治まる「発作性」でも、放置すると徐々に続く時間が長くなります。 そして「持続性」や「永続性」へと進行することがあるため、注意が必要です。

それぞれのタイプや患者さんの状態に合わせて、お薬による治療が基本となります。 しかし、お薬だけでは改善が難しい場合には、より積極的な治療法も検討されます。 その一つが、カテーテルという細い管を使った治療(カテーテルアブレーション)です。

さらに、外科的な治療とカテーテル治療を組み合わせた「ハイブリッドアブレーション」という方法もあります。 複数の研究結果をまとめた分析によると、この治療を受けた方のうち約74.6%が、平均約2年半の期間、心房細動のない状態を維持できたと報告されています。 この治療の合併症率は5.53%と比較的低いことも示されており、治療の選択肢の一つです。 ご自身の状態を正しく理解し、医師とよく相談して治療方針を決めていきましょう。

心房細動の原因

心房細動は、心臓を動かすための電気信号が乱れてしまうことで起こります。 その原因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っていると考えられています。 原因は、大きく3つのグループに分けて考えると分かりやすいでしょう。

【心房細動を引き起こす3つのグループ】

  • 心臓に直接関係する病気
  • 心臓弁膜症、心筋梗塞、心不全などがこれにあたります。
  • これらの病気によって心臓の部屋の形が変わったり、壁が硬くなったりします。
  • その結果、電気信号がスムーズに伝わらなくなることがあります。
  • 心臓以外の全身の病気
  • 高血圧、糖尿病、甲状腺の病気、睡眠時無呼吸症候群などです。
  • 例えば高血圧は、心臓に常に強い圧力で血液を送り出させます。
  • これが長く続くと心臓の筋肉が疲弊し、不整脈が起きやすくなります。
  • 生活習慣や体質など
  • 年齢を重ねること、お酒の飲みすぎ、喫煙、肥満などが挙げられます。
  • 精神的なストレスや睡眠不足といった要因も、心臓に負担をかける原因です。

特に、高血圧や心不全は心臓に大きな負担をかけ続けるため、心房細動の主な原因となります。 心不全の治療は命を守るために非常に重要ですが、その治療が心房細動を直接予防するとは限りません。

ある研究では、心不全の新しい治療薬が従来の薬に比べて死亡率を下げることが示されました。 しかし、心房細動の発生率を下げる効果については、従来の薬と差がないことも報告されています。 このように、原因となる病気の治療と心房細動の予防は、分けて考える必要があります。

複数の原因が重なって心房細動を引き起こしている場合も少なくありません。 ご自身の生活習慣を見直し、もともと持っている病気の治療をきちんと続けることが大切です。

心房細動の症状

心房細動の症状は、はっきりと自覚できる方から、全く感じない方まで様々です。 実際に、心房細動と診断された方のうち約4割は症状がないと言われています。 そのため、健康診断などで偶然見つかることも少なくありません。

一方で、心臓がうまく血液を送れないことで、次のようなサインが出ることがあります。 ご自身の体調と比べて、当てはまるものがないか確認してみましょう。

【心房細動の主な症状チェックリスト】

  • 動悸 胸がドキドキする、バクバクと脈打つような不快な感覚です。
  • 脈の乱れ 脈が飛んだり、リズムがバラバラになったりする感じがします。
  • 息切れ 階段を上るなど、少し体を動かしただけで息が苦しくなります。
  • 胸の不快感や痛み 胸のあたりがモヤモヤしたり、圧迫されるような感じがしたりします。
  • だるさ・疲れやすさ 全身に十分な血液が巡らないため、体がだるく疲れやすくなります。
  • めまい・立ちくらみ 脳への血流が一時的に不足することで、ふらつきを感じます。

これらの症状は、心拍数が1分間に100回から150回以上にまで速くなることで起こります。 また、心臓の手術がきっかけで心房細動が起こることもあります。 例えば、心臓の弁の病気に対する治療では、その方法で術後の起こりやすさが異なります。 ある研究では、カテーテルを使った治療の方が、胸を開く手術に比べて心房細動の発生率が低いことが報告されています。 症状の有無にかかわらず、脈の異常や気になる症状があれば、放置せずにご相談ください。

心房細動の検査・診断

動悸や息切れを感じたり、健康診断で脈の異常を指摘されたりした場合は、心房細動の可能性を考え、詳しい検査を行います。 検査の目的は、心房細動かどうかを確定させること、そしてその原因や心臓の状態を詳しく調べることです。

心房細動の診断と原因の特定には、以下のような検査を組み合わせて行います。

検査の種類

どのような検査か

問診・脈診

どのような症状がいつからあるかなど、詳しくお話をうかがいます。

また、手首で脈をとり、リズムが乱れていないかを確認します。

心電図検査

心臓が動く時に出す弱い電気信号を波形として記録する検査です。

心房細動に特徴的な、不規則でギザギザした波形が出ていないかを確認します。

24時間ホルター心電図

小さな心電計を体につけて、一日中の心臓の動きを記録します。

症状が時々しか出ない「発作性心房細動」を見つけるのに役立ちます。

心エコー検査

超音波を使って、心臓の形や大きさ、血液を送り出す動きを調べます。

脳梗塞の原因となる血の塊(血栓)が心臓の中にできていないかを確認します。

血液検査

甲状腺の病気や貧血など、心房細動の原因となる心臓以外の病気がないかを調べます。

これらの検査によって、心房細動だけでなく、心臓弁膜症など隠れた心臓の病気が見つかることもあります。 原因となる病気を正確に突き止めることは、その後の治療方針を決める上で非常に重要です。

例えば、心臓の弁の病気に対する治療法によっては、心房細動の起こりやすさが変わることが報告されています。 ある研究では、カテーテルを使った治療は、胸を開く手術に比べて心房細動の発生率が低いことが示されました。 ご自身の状態を正しく把握するためにも、気になる症状があれば放置せず、まずは検査を受けることが大切です。

心房細動の治療

心房細動の治療には、大きく分けて3つの大切な目的があります。 これらの目的を達成するため、お薬やカテーテルなどを使います。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、治療法を組み合わせていきます。

【心房細動治療の3つの柱】

  1. 脳梗塞の予防 これが最も重要な目的です。心臓にできた血の塊が脳に飛ぶのを防ぎます。
  2. つらい症状の改善 動悸や息切れといった、生活の質を下げる症状を和らげます。
  3. 心臓への負担を減らすこと 不整脈が続くと心臓が疲れてしまうため、その負担を軽くします。

薬による治療

お薬による治療は、心房細動と向き合う上での基本となります。 目的別に、主に3種類の薬が使われます。

  • 抗凝固薬(こうぎょうこやく) 「血をサラサラにする薬」とも呼ばれ、脳梗塞を予防します。 心臓の中に血の塊(血栓)ができるのを防ぐ、非常に重要な薬です。
  • レートコントロール薬 速くなりすぎた脈拍を適切な速さに整え、動悸などの症状を和らげます。 心臓が無理なく働けるように、ペースを落ち着かせる役割があります。
  • リズムコントロール薬 乱れた心臓のリズム自体を、正常な状態に戻すことを目指す薬です。 ただし、心不全を合併している場合、その治療薬が心房細動を直接減らすとは限りません。 ある研究では、心不全の新しい薬は死亡率を下げたものの、心房細動の発生率は従来の薬と差がなかったと報告されています。

カテーテルや手術による治療

お薬だけでは症状が良くならない場合、より積極的な治療を考えます。

  • カテーテルアブレーション 足の付け根などから細い管を入れ、不整脈の原因を熱で焼く治療です。 心房細動を引き起こす異常な電気信号の発生源を直接治療します。
  • ハイブリッドアブレーション 外科的な治療とカテーテル治療を組み合わせた方法です。 複数の研究を分析した結果、この治療を受けた方の約75%が、平均約2年半、正常な脈を維持できたと報告されています。 合併症が起こる割合も5.53%と比較的低く、有効な選択肢の一つです。

どの治療法が最適かは、年齢や症状によって異なります。 ご自身の状態をよく理解し、医師と相談して決めていきましょう。