心室中隔欠損症
お子さんが心室中隔欠損症と診断され、不安な気持ちを抱えていませんか?生まれつき心臓に穴が開いているこの病気は、先天性心疾患の中でも比較的多く見られるものの一つです。特に、希少疾患であるCHARGE症候群の患者さんの76.6%に先天性心疾患が認められ、その中で心室中隔欠損症は21%を占めると報告されています。
この記事では、心室中隔欠損症の概要から種類、原因、症状を解説し、具体的な検査方法や、経過観察、カテーテル治療、手術、薬物療法といった多様な治療選択肢について詳しくご紹介します。
この情報を通じて、病気への理解を深め、お子さんにとって最適な治療方針を医師と共に検討し、長期的なケアについて前向きな一歩を踏み出すきっかけとなるでしょう。
心室中隔欠損症の概要
心室中隔欠損症は、生まれつき心臓の壁に穴が開いている状態を指します。心臓は4つの部屋に分かれており、全身へ酸素を送る左心室と、肺に血液を送る右心室を隔てる壁を「心室中隔」と呼びます。
この心室中隔に穴(欠損孔)があると、本来は混ざらないはずの、全身へ送られる酸素を多く含む血液と、肺へ送られる酸素の少ない血液が混じり合ってしまいます。その結果、肺に送られる血液の量が増えすぎたり、心臓に大きな負担がかかったりすることが考えられます。
心室中隔欠損症は、生まれつきの心臓病である先天性心疾患(CHD)の中でも、特に多い病気の一つです。全身にさまざまな症状があらわれる希少な疾患であるCHARGE症候群の患者さんにも、先天性心疾患は76.6%と高い割合で見られ、その中で心室中隔欠損症(VSD)は21%を占めると報告されています※。先天性心疾患は、CHARGE症候群の罹患率(病気にかかる割合)や死亡率にも大きく影響する重要な要因であると考えられています※。また、CHARGE症候群の患者さんの半数以上が心臓手術を受けている状況も明らかになっています※。加えて、先天性心疾患に起因する摂食障害が、その後の予後(病気の経過や結末)に大きな影響を及ぼす可能性も指摘されています※。
心室中隔の穴(欠損孔)の大きさや位置によって、心臓への負担や現れる症状は大きく異なります。小さな穴であれば、自然に閉鎖することもありますが、穴が大きい場合には、心臓への負担が大きくなるため、手術などの治療が必要になることがあります。多くは乳幼児期に発見されますが、中には大人になってから診断されるケースも存在します。
心室中隔欠損症の種類
心室中隔欠損症は、心臓の壁に開いた穴(欠損孔)の位置や特徴によって、大きく4つの種類に分類されます。この分類は、お子さんの症状の程度を把握し、適切な治療方針を決める上で大切な情報といえます。
主要な欠損の種類は、次のとおりです。
・膜様部欠損(まくようぶけっそん)
心室中隔の中でも、特に上部に位置する薄い「膜様部」に穴が開くタイプです。心室中隔欠損症の中で最もよく見られ、成人になってから見つかるケースもあります。
・筋性部欠損(きんせいぶけっそん)
心室中隔の筋肉の部分に開く穴で、複数ある場合もあります。比較的小さな穴が多く、自然に閉鎖する傾向が見られます。
・漏斗部欠損(ろうとぶけっそん)
右心室から肺動脈へと血液が流れ出る出口に近い部分(「漏斗部」と呼びます)に穴が開くタイプです。大動脈弁のすぐ近くに位置することが特徴です。
・流入部欠損(りゅうにゅうぶけっそん)
心臓に血液が流れ込む入り口に近い部分、具体的には右心室と左心室の間にある弁(三尖弁と僧帽弁)に近い心室中隔の下部に穴が開くタイプです。
これらの心室中隔欠損症をはじめとする先天性心疾患は、全身にさまざまな症状が現れる希少疾患であるCHARGE症候群の患者さんにも高い割合で見られます。報告によると、CHARGE症候群の患者さんの76.6%に先天性心疾患が認められ、その中で心室中隔欠損症は21%を占めるとされています※。先天性心疾患は、CHARGE症候群の罹患率や死亡率に影響する重要な要因の一つと考えられています※。
また、心室中隔欠損症の発生には、環境要因も影響している可能性が指摘されています。特に、妊娠中の母親が大気汚染にさらされること、例えば二酸化硫黄(SO2)への暴露が、心室中隔欠損症のリスクと関連がある可能性も研究で示唆されています※。
心室中隔欠損症の原因
心室中隔欠損症は、多くのケースで遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合い、発症すると考えられています。
生まれつきの心臓の病気である先天性心疾患は、特定の遺伝子の異常や染色体異常が原因となることがあります。たとえば、ダウン症候群など、一部の症候群では心室中隔欠損症を合併する確率が高くなることがわかっています。
また、お母さんの妊娠中の生活習慣や、特定の感染症への罹患、服用した薬なども、お子さんの心臓の形成に影響を与える場合があります。
近年の研究では、お母さんが妊娠中に大気汚染にさらされることが、お子さんの心室中隔欠損症を含む先天性心疾患の発症と関連する可能性が示唆されています※。
具体的には、複数の研究結果を統合して分析する「システマティックレビューとメタアナリシス」による調査で、以下の点が報告されています。
・粒子状物質(PM10):大気中に浮遊する微小な粒子状物質であるPM10への継続的な暴露は、先天性心疾患全体の発生リスクを統計的に有意に高める可能性が示されています※。
・二酸化硫黄(SO2):大気汚染物質の一つである二酸化硫黄(SO2)への継続的な暴露は、心室中隔欠損症と有意な「負の関連」があるとされています。これは、SO2濃度が高いと心室中隔欠損症の発生リスクがわずかに低下する可能性を示唆するものです※。
・一酸化炭素(CO):同じく大気汚染物質である一酸化炭素(CO)への継続的な暴露は、ファロー四徴(複数の心臓奇形を併せ持つ複雑な先天性心疾患)と呼ばれる病気の発生リスクを高めることがわかっています※。
これらの大気汚染物質がお子さんの心臓の形成にどのように影響するかは、さらなる研究が待たれます。しかし、全ての心室中隔欠損症において原因が特定できるわけではなく、多くの場合、原因は不明とされています。
心室中隔欠損症の症状
心室中隔欠損症の症状は、欠損孔の大きさや心臓にかかる負担の程度によって大きく異なります。全く症状がない場合から、日常生活に影響が出るケースまでさまざまです。
1. 欠損孔が小さい場合(軽症)
欠損孔が小さいケースでは、ほとんど症状が現れません。健康診断や他の病気の検査で心臓の雑音(心雑音)が見つかり、偶然に診断されることも少なくありません。乳幼児期には自然に欠損孔が閉鎖することがあるため、特別な治療を行わず経過観察となるケースも多く見られます。
2. 欠損孔が大きい場合(中等度から重症)
欠損孔が大きい場合、心臓への負担が大きくなるため、成長とともにさまざまな症状が現れやすくなります。
欠損孔が大きい場合の症状は、時期によって以下のように変化することがあります。
・乳幼児期
・哺乳不良や体重増加不良: 疲れやすさから、母乳やミルクを飲むのに時間がかかったり、途中で休憩したりすることが多く、十分な栄養が摂れずに体重が増えにくいことがあります。
・多呼吸: 呼吸が速くなる、苦しそうに呼吸するといった状態が見られます。これは、肺に血液が過剰に送られることで肺の血管がうっ血し、呼吸に負担がかかるためです。
・多汗: 汗を非常によくかくようになります。特に授乳中などに目立つことがあります。
・呼吸器感染症の繰り返し: 肺に血液が多く流れ込むことで肺がうっ血しやすくなり、肺炎などの呼吸器感染症にかかりやすく、重症化しやすい傾向があります。
・学童期以降
・運動時の息切れや疲れやすさ: 運動時や体を動かしたときに、すぐに息切れしたり、周りの子どもよりも疲れやすかったりすることがあります。これは、心臓のポンプ機能が効率的に働かず、全身に十分な酸素が行き渡りにくくなるためと考えられます。
・成長障害: 体重や身長が平均よりも低い状態が続く場合があります。
3. 肺高血圧症を合併した場合
心室中隔欠損症が長期間にわたると、肺高血圧症(はいこうけつあつしょう)を合併することがあります。これは、肺に流れ込む血液量が慢性的に増えることで、肺の血管に過度な圧力がかかり、血管が硬くなったり狭くなったりして、肺への血液の流れが悪くなる病態です。
心室中隔欠損症に起因する肺高血圧症は、成人期に達した先天性心疾患(ACHD:Adult Congenital Heart Disease)に合併する肺動脈性肺高血圧症(PAH:Pulmonary Arterial Hypertension)の一種であり、その治療には専門的な管理が求められます。実際、ギリシャの肺高血圧症レジストリ(HOPEレジストリ)による研究では、PAH-ACHD患者の生存率は、病態のリスク層別化や適切な薬物療法によって改善される可能性が示されています※。しかし、病状が進行し、唇や指先が青紫色になるチアノーゼが見られる「アイゼンメンジャー症候群」まで至った患者さんの生存率は、他のPAH-ACHD患者に比べて最も低いことが報告されています※。そのため、症状の早期発見と進行前の適切な介入が非常に重要といえるでしょう。
肺高血圧症を合併すると、以下のような症状が見られることがあります。
・息切れの悪化: 以前よりもさらに息切れしやすくなり、少し動いただけでも息苦しさを感じることが増えます。
・胸痛や動悸: 胸の痛みや、心臓がドキドキするといった動悸の症状が出ることがあります。
・失神やめまい: 立ち上がった時などに、めまいがしたり、意識を失ったりすることがあります。
・チアノーゼ: 病状が進行し、心臓の構造変化が進んで血液の流れが変わると、唇や指先が青紫色になることがあります。これは、アイゼンメンジャー症候群と呼ばれる重度の状態です。
心室中隔欠損症の検査・診断
心室中隔欠損症の検査と診断は、心臓の異常を早期に発見し、お子さんに合った治療計画を立てるために不可欠です。この診断プロセスは、まず身体診察から始まり、いくつかの検査を組み合わせて病状を詳しく評価していきます。
多くの場合、診断のきっかけは、乳幼児健診や学校健診で聴診器を使った際に「心雑音」が見つかることです。心雑音とは、心臓の中で血液が流れる際に、通常とは異なる音が聞こえる状態を指します。これは心臓の構造に何らかの変化があることを示唆しているため、精密な検査が必要です。
心雑音が見つかった場合、病状を正確に把握するために、次のような精密検査が行われます。
・胸部X線検査
心臓の大きさや形、肺への血流の状態を大まかに確認します。心臓が拡大していたり、肺の血管がうっ血していたりしないかを調べ、心臓への負担を推測できます。
・心電図検査
心臓が動く際の電気的な活動を記録し、心臓に負担がかかっていないか、不整脈の兆候がないかなどを確認します。
・心臓超音波検査(心エコー検査)
この検査は、心室中隔欠損症の診断において最も重要な検査です。超音波を使って心臓の動きや構造をリアルタイムで観察し、欠損孔の位置、大きさ、数、血液の流れ方や速さ、心臓の各部屋の大きさや機能、肺にかかる圧力などを詳しく評価します。これにより、病気の重症度が具体的にわかります。
・心臓カテーテル検査
心臓内のより詳しい血流の状態や圧力を知る必要がある場合や、他の先天性心疾患が合併している可能性が疑われる場合に行われます。細い管(カテーテル)を血管から心臓に進め、心臓内の圧力や酸素濃度を測定したり、造影剤を使って心臓の構造を鮮明に映し出したりします。
・CT検査やMRI検査
心臓や大血管のより詳細な三次元構造を確認するために行われることがあります。
これらの検査結果を総合的に判断し、心室中隔欠損症の診断が確定します。そして、欠損孔の大きさや位置、心臓や肺にかかる負担の程度に応じて、お子さんに最も適した治療方針が決定されます。
治療が必要と判断された場合、手術が検討されることがあります。心臓の形態異常を修復する手術は、お子さんの成長と生活の質を支える重要な治療法です。ただし、心臓手術は一度行えばそれで終わりとは限りません。特に、過去に複数回、心臓の手術(心臓を一時的に止めて行う「心肺バイパス手術」など)を受けている場合、その後の再手術では、死亡率や合併症の発生率が高まる可能性があると報告されています※。
ある研究では、過去に3回以上の心肺バイパス手術を受けた患者さんでは、術後の死亡率が約2.3倍、主要な合併症の発生率が約1.6倍に高まることが示されています※。これは、年齢や手術を受ける施設の違いといった他の要因を考慮しても変わらないリスクであることがわかっています※。そのため、最初の診断から治療計画を立てる段階で、専門医と綿密に連携し、長期的な視点での治療戦略を検討することが極めて重要といえるでしょう。
心室中隔欠損症の治療
心室中隔欠損症の治療は、心臓に開いた穴(欠損孔)の大きさや、患者さんの症状、年齢、心臓や肺への負担の程度といった要素を総合的に評価し、最も適切な方法が選択されます。主な治療法には、経過観察、カテーテル治療、手術治療、そして薬物療法があります。
経過観察
欠損孔が小さく、心臓への負担が少ないと判断され、特に症状が見られない場合は、すぐに治療を始めるのではなく、定期的に診察しながら自然に穴が閉じるのを待つ「経過観察」が選択されます。乳幼児期には、このような小さな欠損孔が自然に閉鎖するケースも少なくないため、無駄な医療介入を避ける目的で、注意深くお子さんの成長を見守る方針がとられることがあります。
カテーテル治療
カテーテル治療は、太ももの付け根などから細い管(カテーテル)を血管に挿入し、心臓まで進めて専用の閉鎖器具を用いて欠損孔を塞ぐ方法です。この治療法は、開胸手術と比較して体への負担が少ないという大きな利点があります。欠損孔の位置や大きさといった特定の条件を満たしていれば、選択できる有効な治療法の一つとして検討されます。
手術治療
欠損孔が大きい場合や、心臓に大きな負担がかかっている場合、あるいは肺動脈の圧が異常に高くなる「肺動脈性肺高血圧症」へと病状が進行するリスクがある場合には、手術治療が必要です。一般的には、心臓を一時的に止めて人工心肺装置を使用し、欠損孔をパッチ(人工の布)で塞ぐ「パッチ閉鎖術」が行われます。肺高血圧症になる前に手術を行うことは、心臓と肺の長期的な健康維持に繋がるため、望ましいとされています。
ただし、心臓の手術、特に心肺バイパス手術を複数回経験している場合、その後の再手術では、死亡率や合併症のリスクが高まる可能性が指摘されています。2016年から2021年にかけて5万件以上の心肺バイパス手術を分析した大規模な研究によると、過去に3回以上の心肺バイパス手術を受けた患者さんでは、術後の死亡率が約2.3倍、主要な合併症の発生率が約1.6倍に高まることが示されました※。これは、患者さんの年齢や手術を受ける施設の規模といった他の要因を調整しても変わらない、独立した危険因子であると報告されています※。このため、最初の治療計画を立てる段階から、長期的な視点に立って、将来的な再手術のリスクも考慮した戦略が極めて重要といえます。
薬物療法
心室中隔欠損症が原因で、肺の血管の血圧が異常に高くなる「肺動脈性肺高血圧症(PAH:Pulmonary Arterial Hypertension)」を発症することがあります。実際、先天性心疾患を伴うPAH患者さんの多くは、心房中隔欠損症や心室中隔欠損症がその根本原因となっていると報告されています※。
この肺動脈性肺高血圧症に対しては、肺動脈の圧を下げるための薬物療法が行われます。特にPAH治療薬による早期からの併用療法は、患者さんの生存率改善に貢献する可能性があり、その重要性が強調されています※。一方で、病状が進行し、重度の肺高血圧症である「アイゼンメンジャー症候群」に至った患者さんの生存率は、他のPAH患者さんと比べて最も低いことが示されています※。このことから、PAHの早期発見と適切な介入が極めて重要といえます。
治療選択について
心室中隔欠損症の治療方針は、お子さんの心臓の状態、全身の健康状態、欠損孔の特性などを詳細に検査した上で、専門医が総合的に判断し決定されます。患者さん一人ひとりに最適な治療を選ぶためには、医師と十分に話し合い、治療内容や予後(病気の経過や結末)について深く理解し、納得した上で治療を進めることが大切です。不安なことや疑問に思うことがあれば、遠慮なく医師に相談しましょう。









