ミルクを飲むだけでびっしょり汗をかいたり、体重がなかなか増えなかったり…。大切なお子さんのそんなサインに、不安を感じていませんか?もしかしたらそれは、生まれつき心臓の壁に穴が開いている「心内膜床欠損症」の症状かもしれません。この病気は特にダウン症のお子さんによく見られ、重いタイプでは約85%の赤ちゃんに哺乳時の異常な発汗や体重増加不良といった症状があらわれることが知られています。
放置すると心不全などにつながる可能性があり、多くは乳幼児期の手術が必要となりますが、近年の医療技術の進歩で治療成績は大きく向上しています。この記事では、心内膜床欠損症の原因から症状、最新の治療法までを詳しく解説します。病気への正しい理解を深め、不安を和らげるための一助としてご一読ください。
心内膜床欠損症の概要
心内膜床欠損症(しんないまくしょうけっそんしょう)は、生まれつき心臓の構造に特徴を持つ病気の一つです。「房室中隔欠損症」とも呼ばれ、特にダウン症(21トリソミー)のお子さんによく見られます。
人の心臓には4つの部屋があり、壁によって仕切られています。この病気では、心臓が作られる過程で壁の一部がうまく形成されず、穴が開いた状態になってしまいます。
この病気の主な特徴は、次の2つです。
- 心臓の壁の異常 心臓の部屋を隔てる壁(心房中隔や心室中隔)に穴が開いています。
- 血液の流れの変化 穴があるため、本来混ざらないはずの血液が混ざり合ってしまいます。 これにより、心臓や肺に大きな負担がかかります。
治療をしないままでいると、心臓の働きが悪くなる心不全や、肺の血圧が高くなる肺高血圧症といった、生涯にわたって影響を及ぼす合併症を引き起こす可能性があります。そのため、多くの場合、乳幼児期に手術による治療が必要です。
近年の医療技術の進歩で治療成績は大きく向上しましたが、生涯にわたって定期的な検査やケアが大切になる病気です。
心内膜床欠損症の種類
心内膜床欠損症は、心臓の穴の場所や大きさ、弁の状態によって、いくつかの種類(病型)に分けられます。どの種類かによって症状のあらわれ方や治療方針が大きく変わるため、タイプを正確に知ることがとても大切です。
主に、心臓の部屋を仕切る壁の穴の場所や、血液の逆流を防ぐ弁の状態によって、以下の3つのタイプに分類されます。
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種類
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心臓の穴と弁の状態
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特徴
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完全型
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心房と心室の両方に大きな穴があり、弁も1つの共通弁になっています。
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最も一般的なタイプです。心臓への負担が大きく、心不全などの合併症を起こしやすいため、早めの手術が必要になります。
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不完全型
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心房に穴がありますが、心室の壁には穴がありません。弁は2つに分かれていますが、形に異常があることが多いです。
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完全型に比べて、症状が比較的ゆっくりあらわれることがあります。
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移行型
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完全型と不完全型の間の特徴を持ちます。心房の穴に加えて、心室にも比較的小さな穴があります。
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症状の出方は、心室の穴の大きさなどによって変わります。
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特に完全型は、心臓の上下の部屋(心房と心室)の両方に穴が開いているため、血液の流れが大きく乱れがちです。これにより心臓や肺に常に大きな負担がかかり、生涯にわたって心不全や不整脈などの合併症に注意が必要となります。
どのタイプかを正確に診断することが、その子に合った治療計画を立てるための大切な第一歩となるのです。
心内膜床欠損症の原因
心内膜床欠損症は、お腹の赤ちゃんの心臓が作られる過程で、壁や弁がうまく形成されないことで発症します。原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
1. 心臓が作られる過程の問題
妊娠のとても早い時期に、心臓の中心にある「心内膜床」という部分が、部屋を分ける壁や血液の逆流を防ぐ弁へと変化します。この心内膜床の発達がうまくいかないことが、病気の直接的な原因です。
以前は心内膜床自体の問題が主な原因と考えられていました。しかし最近の研究では、その周りの組織がうまく育たないことも、原因になりうることがわかってきています。
2. 遺伝的な要因
遺伝的な要因が、発症に大きく関わることが知られています。
- 染色体異常 特にダウン症候群(21トリソミー)を持つお子さんによく見られます。
- 遺伝子 心臓の形作りに関わる遺伝子が影響することがあります。 マウスの研究では100種類以上の遺伝子が候補として挙がっています。 しかし人の場合は原因が一つに決まることは非常にまれで、遺伝的な背景はとても多様です。 また、体の臓器の配置が通常と異なる「異所性症候群」という病気とも関連が指摘されています。
3. 環境的な要因
遺伝的な要因に加え、妊娠中のお母さんの体の環境も影響する可能性があります。例えば、お母さんがもともと糖尿病であることなどが挙げられます。
このように、心臓が作られる過程での問題に、遺伝的な要因や環境的な要因が組み合わさって発症すると考えられています。
心内膜床欠損症の症状
心内膜床欠損症の症状は、心臓の穴の大きさや場所、弁の状態によって大きく異なります。特に、心臓の穴が大きい「完全型」の場合、心臓が疲れてバテてしまう「心不全」という状態になりやすいです。
赤ちゃんにあらわれる主な症状
完全型では、生後まもなく心不全のサインがあらわれることが多く、約85%の赤ちゃんで哺乳時の異常な発汗や体重増加不良が見られます。
- 息づかいが速い、苦しそう 肺にたくさんの血液が流れ込むため、肩で息をしたり、呼吸の回数が増えたりします。
- ミルクを飲むのが大変になる 飲むという行為は赤ちゃんにとって重労働です。すぐに疲れてしまい、飲むのに時間がかかります。
- 体重がなかなか増えない ミルクを十分飲めないうえに、速い呼吸でエネルギーをたくさん使うため、体重が増えにくくなります。 標準的な体重と比べて、15〜20%ほど低くなることもあります。
- 汗をたくさんかく 心臓が常に全力で働いているため、寝ている時やミルクを飲んでいる時にびっしょり汗をかきます。
年齢とともにあらわれる症状
症状のあらわれ方は、年齢によっても特徴があります。軽いタイプでは、小さい頃は気づかれないことも少なくありません。
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年齢
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主な症状や特徴
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新生児期〜乳児期
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上記の心不全症状が中心です。風邪をひきやすく、肺炎をおこしやすい傾向もあります。
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幼児期〜学童期
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症状が軽い「不完全型」の場合、幼稚園や学校の心臓検診で、心臓の雑音を指摘され見つかることがあります。
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思春期〜成人期
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年齢とともに動悸や息切れ、疲れやすさを感じるようになります。治療を受けずにいると、将来的に不整脈や心不全といった、生涯にわたって影響する合併症を引きおこす可能性があります。
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症状の出方は一人ひとり違います。軽いサインでも見逃さず、気になることがあれば早めに専門の医師に相談することが大切です。
心内膜床欠損症の検査・診断
心内膜床欠損症の診断は、いくつかの検査を組み合わせて総合的に行います。 まずはお子さんの体に負担が少ない検査から、順番に進めるのが一般的です。 近年の診断技術の進歩で、心臓の状態をとても正確に把握できるようになりました。
まず、医師が聴診器を胸や背中にあてて、心臓の音を詳しく聞きます。 このとき「心雑音」という、普段は聞こえない異常な音が聞こえることがあります。 その後、次のような検査で心臓の状態をさらに詳しく調べていきます。
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検査の種類
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何を調べるか
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胸部レントゲン検査
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心臓の大きさや形、肺に流れる血液の量が多すぎないかなどを確認します。心臓に負担がかかると、レントゲン写真で心臓が大きく写ります。
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心電図検査
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胸や手足にシールを貼り、心臓が動くときの微弱な電気信号を記録します。この病気に特徴的な波の形がないか、不整脈がないかを調べます。
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心エコー検査
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診断の中心となる非常に重要な検査です。超音波で心臓の動きをリアルタイムで観察し、穴の場所や大きさ、血液の逆流の状態などを詳しく評価します。精度は95%以上と、とても信頼性の高い検査です。
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これらの基本的な検査で診断はほぼ確定しますが、手術の方針などを決めるために、さらに詳しい検査が必要になることがあります。
- 心臓カテーテル検査 足の付け根の血管から細い管(カテーテル)を心臓まで入れます。 心臓の中の圧力や血液中の酸素の量を直接測ることができます。 特に、肺の血圧がどれくらい高くなっているかを正確に知るために重要です。
- CT検査・MRI検査 心臓や周りの血管の形を、立体的な画像でより詳しく調べます。
この病気はダウン症候群との関連が考えられるため、染色体の検査を行うこともあります。これらの検査結果を総合的に判断して、一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。
心内膜床欠損症の治療
心内膜床欠損症の治療は、心臓の負担を軽くし、将来の合併症を防ぐことが目的です。治療をしないままでいると、心臓の働きが悪くなる心不全や不整脈などを引き起こす可能性があります。治療は「お薬による治療」と「手術」の2つの柱で計画的に進めます。
1. お薬による治療(内科的治療)
手術までの間、赤ちゃんの心臓が疲れすぎないように、お薬でサポートします。これは、赤ちゃんの体力をつけ、万全の状態で手術に臨むための大切な準備期間です。
主に、次のようなお薬が使われます。
- 利尿薬 おしっこと一緒に体の中の余分な水分を出し、心臓が送り出す血液の量を減らして負担を軽くします。
- 強心薬 心臓の筋肉が、ポンプとして血液を送り出す力を優しく後押しします。
- 血管拡張薬 血液の通り道である血管を広げて、血液の流れをスムーズにし、心臓の負担を和らげます。
2. 手術による治療(外科手術)
心臓にあいた穴をふさぎ、弁の形を整える手術が、この病気の根本的な治療法です。近年の医療技術の進歩で、手術の成功率は非常に高くなっています。手術のタイミングや方法は、病気のタイプによって異なります。
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病気のタイプ
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主な手術のタイミング(目安)
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手術で何をするか
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完全型
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生後3~6ヶ月ごろ
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人工の布(パッチ)で心臓の穴をふさぎます。また、1つになっている弁を丁寧に2つに分けます(心内修復術)。
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不完全型
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1~2歳ごろ
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心房にあいた穴をふさぎ、形が崩れている血液の逆流を防ぐ弁を整えます(僧帽弁形成術)。
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また、肺に流れる血液の量が非常に多く、心臓への負担が特に大きい場合は、段階的な手術を考えることもあります。まず、肺への血流を一時的に制限する「肺動脈絞扼術(はいどうみゃくこうやくじゅつ)」という手術で心臓を守り、体の成長を待ってから、心臓の中を治す手術を行います。
手術で元気になっても、生涯にわたって定期的に検査を受け、心臓の状態を確認していくことがとても大切です。