尿道腫瘍

排尿時の違和感や下着に付着する予期せぬ出血。「もしかして病気のサイン?」と不安に感じていませんか。その症状の正体は、おしっこの通り道にできる「尿道腫瘍」かもしれません。

尿道腫瘍と聞くと怖いイメージがあるかもしれませんが、命に関わることが少ない「良性腫瘍」と、「悪性腫瘍(尿道がん)」に分けられます。実は、尿道がんは非常にまれながんで、すべてのがんの中でも発生率は1%以下とされています。

この記事では、尿道腫瘍の種類や原因、男女別の症状から治療法までを詳しく解説します。まれな病気だからこそ、自己判断は禁物です。ご自身の状態と照らし合わせ、不安を解消する第一歩としてお役立てください。

尿道腫瘍の概要

尿道腫瘍とは、おしっこの通り道である「尿道」にできる、 こぶやイボのような「できもの(腫瘍)」のことです。 この腫瘍は、その性質によって大きく2つのタイプに分けられます。

  • 良性腫瘍(りょうせいしゅよう)
    こちらはがんではない、比較的おとなしい性質のできものです。 周りの組織に広がったり、命に関わったりすることは稀です。 女性の場合、閉経後(年を重ねて生理がこなくなること)に、 「尿道カルンクル」という良性のできものができることがあります。 これは痛みがなければ、急いで治療する必要は少ないです。 男性に良性の腫瘍ができることは、非常にまれです。
  • 悪性腫瘍(あくせいしゅよう)
    こちらは「がん」のことで、尿道にできるがんは「尿道がん」と呼ばれます。 周りの組織に食い込んだり(浸潤)、体の他の場所に飛び火したり(転移)する、 注意が必要なタイプのできものです。 ただ、尿道がんは非常にまれながんで、 すべてのがんの中でも発生率は1%以下とされています。 どちらかというと、男性よりも女性に少し多く見られます。

このように、尿道腫瘍にはすぐに心配しなくてよいものから、 しっかりと検査や治療が必要な「がん」まで様々な種類があります。

尿道腫瘍の種類

尿道にできる「できもの」には、様々な種類があります。 命に別状の少ない「良性腫瘍」と、「悪性腫瘍」である「がん」に分かれます。

良性の腫瘍にも、いくつか種類があります。 代表的なものには、以下のようなものが挙げられます。

  • 嚢腫(のうしゅ) 液体がたまった、ふくろ状のできものです。
  • 乳頭腫(にゅうとうしゅ) カリフラワーのように、いぼ状に盛り上がるできものです。
  • 腺腫(せんしゅ) 粘液などをつくる「腺」という組織からできるものです。
  • 線維腫(せんいしゅ) 筋肉のような硬い組織からできるこぶです。
  • 血管腫(けっかんしゅ) 血管が集まってできた、赤あざのようなできものです。

ほとんどの良性腫瘍は、症状がなければ急いで治療する必要はありません。 ただし、乳頭腫のように体の外に近い部分にできたものは注意が必要です。 まれにがんになったり、治療後に再発したりする可能性も考えられます。

一方、悪性の腫瘍は「尿道がん」と呼ばれます。 尿道がんは、がん細胞の見た目(組織型)によって、さらに細かく分けられます。

尿道がんの主な種類

特徴

移行上皮がん

おしっこをためる膀胱の壁と同じタイプの細胞からできるがんです。

扁平上皮がん

皮膚の表面をおおう細胞と似たタイプの細胞からできるがんです。

腺がん

粘液などを分泌する「腺細胞」が、がんになったものです。

このように、尿道腫瘍と診断されても、その正体は様々です。 気になる症状があれば自分で判断せず、専門の医療機関を受診しましょう。 そして、正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩です。

尿道腫瘍の原因

尿道腫瘍がなぜできるのか、その詳しい原因はまだはっきりとわかっていません。 しかし、研究によって「これを放っておくと腫瘍ができやすくなる」という、 いくつかの危険な要因(リスク因子)が考えられています。

これらのリスク因子は、男性と女性で少し内容が異なります。 主に「長期間にわたる尿道への刺激」と、「特定のウイルスへの感染」です。 これらの要因が、尿道の細胞に少しずつダメージを与えてしまうのです。

【長期間にわたる尿道への刺激】 おしっこの通り道である尿道が、長い間刺激を受け続ける状態です。 細胞が何度も傷つけられ、それを治すことをくり返すうちに、 まれに間違った細胞(腫瘍細胞)が生まれてしまうことがあります。

  • くり返す尿道の炎症 性感染症や尿道炎などを何度もくり返す状態です。 特に男性では、炎症が原因で尿道がせまくなる「尿道狭窄(きょうさく)」が、 リスクになる可能性が指摘されています。
  • 尿道カルンクル 閉経後の女性の尿道の出口にできる、良性のできものです。 これがある女性のうち、約2.5%に尿道がんが見つかるという報告もあります。

【特定のウイルスへの感染】 ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染も、原因の一つと考えられています。 このウイルスは子宮頸がんの原因としても知られています。

  • ヒトパピローマウイルス(HPV) HPVには多くの種類(型)がありますが、特に「16型」や「18型」が、 尿道腫瘍の発生に関わっていると指摘されています。 ある報告では、女性の尿道がん(扁平上皮がん)の約6割で、 このウイルスが見つかったとされています。

これらの原因は、一つだけではなく複数がからみあって影響すると考えられます。 気になる症状があれば、早めに専門医へ相談することが大切です。

尿道腫瘍の症状

尿道腫瘍の症状は、男女で現れ方が少し異なります。 また、できものができた場所や大きさによっても変わってきます。 どのようなサインがあるのか、具体的にみていきましょう。

【男性にみられる主な症状】 男性の場合、できものが尿道を内側から圧迫してしまいます。 そのため、おしっこの通り道がせまくなることで起こる症状が中心です。

  • 尿が出にくい、勢いが弱い 腫瘍が物理的な壁となり、おしっこの流れを邪魔するために起こります。
  • 尿がまっすぐ飛ばず、散らばる せまくなった出口から、おしっこが不規則な方向へ飛び散ります。
  • 尿もれ(溢流性尿失禁:いつりゅうせいにょうしっきん) 尿を出しきれず、あふれた分が自分の意思と関係なくもれてしまいます。
  • おしっこに血が混じる(血尿)、尿道から出血する できものの表面はもろく、おしっこが通る刺激で出血しやすくなります。
  • 排尿のときや、普段から尿道に痛みを感じる できものが神経を刺激したり、炎症を起こしたりすることで痛みが出ます。

【女性にみられる主な症状】 女性の場合は、男性に比べて尿道が短いため、出血に関する症状が多いです。 また、体の外からできものに気づきやすいという特徴もあります。

  • 尿道から出血する 下着に出血がつくことで、気づかれることが多い症状です。
  • おしっこがまったく出せなくなる(尿閉:にょうへい) できものが尿道の出口を完全にふさいでしまうことで起こります。
  • トイレの回数が増える(頻尿) できものが膀胱の近くを刺激し、尿が溜まっていなくても尿意を感じます。
  • 自分でしこりに触れて気づく お風呂で体を洗うときなどに、尿道の出口にこぶのようなものを感じます。

特にご高齢の女性の場合、加齢による排尿トラブルと症状が似ています。 そのため、病気のサインを見過ごし、発見が遅れることがあります。 一つでも当てはまる症状があれば、年のせいだと自己判断はしないでください。 早めに泌尿器科などの専門の医療機関を受診することが大切です。

尿道腫瘍の検査・診断

尿道にできものが疑われる場合、その正体を正確に突き止めることが重要です。 体への負担が少ない検査から始め、段階的に詳しく調べていきます。 どのような検査で、何がわかるのかを一つずつ見ていきましょう。

  • 視診(ししん)と触診(しょくしん) 医師が目で見て、手で触れる、診察の基本となるものです。 尿道の出口のできものの有無や、しこりの硬さ、大きさを確認します。 女性では、足の付け根のリンパ節が腫れていないかも調べます。 リンパ節は、がん細胞が体の他の場所に広がる通り道になることがあるためです。
  • 尿の検査(尿検査・尿細胞診) おしっこを採取して、異常がないかを詳しく調べる検査です。 尿検査では、目には見えないわずかな出血もわかります。 尿細胞診では、尿の中にがん細胞がはがれ落ちていないかを、 顕微鏡を使って探します。
  • 膀胱尿道鏡検査(ぼうこうにょうどうきょうけんさ) 細いカメラ(内視鏡)を尿道から入れて、中の様子を直接観察します。 できものの場所や大きさ、形などを正確に評価するために行います。 この検査は精度が高く、悪性のできものを見つける感度は、 約83%と報告されています。
  • 組織の検査(生検:せいけん) できものが良性か悪性(がん)かを確定させるための、最も重要な検査です。 内視鏡で観察しながら、疑わしい部分の組織をほんの少しだけ採ります。 その組織を顕微鏡で詳しく調べ、最終的な診断を下します。
  • 画像検査(CT、MRI) 生検でがんと診断された場合に行う、より精密な検査です。 がんが周りの臓器へ広がっていないか(浸潤)、 あるいは他の場所へ飛び火していないか(転移)を調べます。 特にMRI検査は、リンパ節への転移を調べるのに優れており、 その正確性は90%以上とされています。

これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりの状態を正確に把握します。 そして、その診断に基づいて最適な治療方針を一緒に考えていきます。

尿道腫瘍の治療

尿道腫瘍の治療は、できものの性質によって大きく変わります。 おとなしい性質の「良性」か、暴れる性質の「悪性(がん)」か。 この違いが、治療方法を決めるための最初の分かれ道です。

また、悪性のがんであっても、その深さや広がり具合は様々です。 一人ひとりの状態を正確に見極め、最適な治療法を考えます。

おとなしい性質の「良性腫瘍」の場合

良性のできものは、体に悪さをしないことがほとんどです。 そのため、特に症状がなければ急いで治療する必要はありません。

  • 尿道カルンクル 閉経後の女性にみられる、代表的な良性のできものです。 痛みがなければ塗り薬を使ったり、そのまま様子を見たりします。 痛みが強かったり、大きくなったりした場合は、 手術で切り取ることもあります。
  • その他の良性腫瘍 出血や痛みなどの症状がある場合は、治療を検討します。 電気の熱で焼いたり、手術で切り取ったりする方法があります。

暴れる性質の「悪性腫瘍(尿道がん)」の場合

尿道がんの治療は、がんの状態に合わせたチーム戦です。 手術や放射線、お薬などを組み合わせて、がんに立ち向かいます。 治療法は、主にがんの「深さ」によって決まります。

がんの深さ

主な治療法

浅いがん(表在性)

(表面にとどまっているもの)

・内視鏡(細いカメラ)を使った手術

・レーザーや電気でがんを焼く治療

深いがん(浸潤性)

(奥深くまで食い込んでいるもの)

・手術でがんを広く切り取る

・放射線治療(特殊な光を当てる)

・抗がん剤を使ったお薬の治療

深いがんの場合、がんができた場所によっては、より大きな手術が必要です。 周りの組織やリンパ節を一緒に取ることもあります。 また、尿の新しい通り道を作る手術(尿路変向術)を行うこともあります。

どの治療法を選ぶかは、とても大切な決定です。 ご自身の体のことですから、わからないことは何でも質問してください。 医師とよく話し合い、納得のいく治療を一緒に選んでいきましょう。