尿道下裂

生まれてきた大切なお子さんのおちんちんの形を見て「おしっこの出口の位置が違うかも?」と感じたり、健診で「尿道下裂(にょうどうかれつ)」の可能性を指摘されたりしたかもしれません。これは男の子の赤ちゃん200人から300人に1人の割合で見られる生まれつきの状態で、決して珍しいものではありません。

しかし、聞き慣れない病名に「将来、排尿や生活に影響は?」「手術は必要なの?」と、大きな不安を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。これは誰のせいでもなく、誰にでも起こりうることです。大切なお子さんのことだからこそ、ご心配されるのは当然のことです。

この記事では、尿道下裂の原因や種類、そしてお子さんの心と体への負担が少ない最適な治療法について、専門的な情報をわかりやすく解説します。お子さんの健やかな未来のために、まずは正しい知識を身につけ、不安を解消していきましょう。

尿道下裂の概要

尿道下裂(にょうどうかれつ)とは、生まれつきの状態です。 おしっこの出口(外尿道口)が、おちんちんの先っぽではなく、 それより手前側(根元側)に開いている状態を指します。

男の子の赤ちゃん200人から300人に1人ほどの割合で見られます。 決して珍しいものではなく、誰にでも起こりうる状態です。 尿道下裂には、主に次の3つの特徴があります。

  • おしっこの出口の位置 おしっこの出口が、本来あるべきおちんちんの先からずれています。 ずれの程度はさまざまで、亀頭のすぐ下にある軽いものから、 おちんちんの途中、袋(陰嚢)、さらにはおしりの穴の近く(会陰部)にまで及ぶこともあります。
  • おちんちんの曲がり(陰茎弯曲) 多くの場合、おちんちんが下向きにおじぎをするように曲がっています。 これは、お腹側の皮膚の下に、つっぱった硬い組織があるために起こります。
  • 皮(包皮)の形 おちんちんの皮の付き方が特徴的です。 背中側の皮が多く、お腹側の皮が足りない状態になっています。 そのため、亀頭が露出しているように見えることがあります。

このように、尿道下裂は状態の個人差が非常に大きいのが特徴です。 程度が軽いものから、見た目が女の子の陰部に近いものまであります。 ほとんどは生まれたときや乳幼児健診のときに見つかります。

尿道下裂の種類

尿道下裂は、おしっこの出口(外尿道口)の場所によって、いくつかの種類に分けられます。 どこに出口があるかで、症状の重さや治療の方法が変わるため、この分類はとても大切です。

大きく分けると、体の中心から見て出口が「遠い」か「近い」かで名前がついています。 おちんちんの先っぽに近い方を「遠位型(えんいがた)」、根元に近い方を「近位型(きんいがた)」と呼びます。

種類

おしっこの出口の場所

主な特徴

遠位型(えんいがた)

(症状が比較的軽いタイプ)

・亀頭(おちんちんの先)

・おちんちんの先の方

・出口のずれは比較的小さいです。

・おちんちんの曲がりは無いか、あっても軽いことが多いです。

近位型(きんいがた)

(症状が比較的重いタイプ)

・おちんちんの根元

・袋(陰嚢)

・おしりの穴の近く(会陰部)

・出口のずれが大きいです。

・おちんちんが下向きに強く曲がっていることが多いです。

・見た目が女の子の陰部に近いこともあります。

遠位型は、尿道下裂の中でも症状が軽いタイプです。 一方、近位型は出口が体の中心に近くなるほど、おちんちんの曲がりが強くなるなど、症状が重くなる傾向があります。

このように、同じ尿道下裂という診断でも、お子さん一人ひとりの状態は大きく異なります。 どの種類にあたるのかを正しく診断し、その子に合った治療方針を考えることが、とても重要になります。

尿道下裂の原因

尿道下裂がなぜ起こるのか、その原因はまだ完全にはわかっていません。 しかし、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で成長する過程での、 いくつかの要因が関係していると考えられています。 大切なことは、決してお母さんの妊娠中の過ごし方が悪かったわけではないということです。 誰のせいでもなく、誰にでも起こりうる生まれつきの体の特徴の一つです。

主な原因としては、次の3つが考えられています。

  • ホルモンの影響 お腹の赤ちゃんが男の子の場合、「男性ホルモン」という指令によって、 おちんちんや尿道が作られます。 妊娠16週ごろまでに、この男性ホルモンの働きで、 尿道は一本の管になるように形作られていきます。 このホルモンの働きが少しうまくいかないことで、 尿道が正常な位置まで作られないことがあると考えられています。
  • 遺伝的な要因 ご家族に尿道下裂の方がいる場合など、生まれ持った体の設計図(遺伝子)が、 関係している可能性も報告されています。 ただし、必ず遺伝するというわけではありません。
  • その他の要因 赤ちゃんが小さく生まれること(低出生体重児)や、 胎盤の機能などが関係している可能性も考えられています。 また、特定の化学物質(環境ホルモン)などの影響も、 原因の一つではないかという研究も進められています。

これらの要因が一つだけでなく、複数重なり合って起こると考えられています。 原因がはっきりと特定できないことも多く、誰かを責める必要はまったくありません。

尿道下裂の症状

尿道下裂の症状は、主におしっこの仕方と見た目の2つにあらわれます。 多くは生まれた直後や乳幼児健診の際に医師に指摘されて気づきます。 ご家族がおむつ交換の際に気づくこともあります。

具体的には、お子さんの成長につれて次のような症状がみられます。

【おしっこに関する症状】

  • 尿がまっすぐ飛ばない おしっこの出口が下を向いているため、尿が真下に落ちたり、 あちこちに飛び散ったりします。 そのため、トイレを汚しやすくなることがあります。
  • 立ったままおしっこがしにくい 症状の程度によっては、立った姿勢での排尿が難しくなります。 お友達のように立ったままできず、座ってする必要があるかもしれません。

【見た目や形に関する症状】

  • おちんちんが下向きに曲がっている(陰茎弯曲) おちんちんがおじぎをするように「く」の字に曲がってみえます。 この曲がりは、普段は目立たなくても、 勃起したときにはっきりとわかることが多いです。
  • 皮(包皮)の形が特徴的 おちんちんの背中側の皮が多く、お腹側の皮が足りない状態です。 そのため、亀頭が露出しているように見えることがあります。

これらの症状は、お子さんの成長過程で様々な影響を及ぼす可能性があります。 排尿の問題だけでなく、将来の性交渉に支障が出ることが考えられます。 また、お友達との見た目の違いから、心理的な悩みを抱えることもあります。

尿道下裂の検査・診断

尿道下裂は、ほとんどの場合、特別な検査をしなくても診断できます。 生まれた直後の診察で、赤ちゃんの体の見た目からわかることが大半です。 お医者さんが目で見て、おちんちんの形を丁寧に確認して診断します。

診察では、主に以下の4つのポイントを確認します。

  • おしっこの出口の位置 本来あるべき場所から、どれくらい手前側(根元側)にあるかを見ます。
  • おちんちんの曲がり具合 下向きにおじぎをするように曲がっていないかを確認します。
  • 皮(包皮)の状態 背中側の皮が多く、お腹側の皮が足りないという特徴的な形かを見ます。
  • 精巣(睾丸)の状態 袋の中に「たま」が2つとも、きちんと降りてきているかを確認します。

ほとんどのお子さんは、この診察だけで診断がつきます。 しかし、尿道のずれが大きい場合や、精巣が袋の中にない「停留精巣」 という状態を伴う場合は、追加で詳しい検査を行うことがあります。 これは、体の性の成り立ちに他の特徴がないかを確かめるためです。

追加で行うことがある検査には、以下のようなものがあります。

  • 画像検査 お腹にゼリーを塗って機械をあてる、痛くない超音波(エコー)検査で、 お腹の中に子宮などがないかを調べます。
  • 血液検査 少しだけ血を採って、体の設計図(染色体)や、 体を作る指令(ホルモン)の値を調べます。

これらの検査で、お子さんの体の状態を正確に把握することができます。 その上で、一人ひとりに合った治療の方針を決めていきます。

尿道下裂の治療

尿道下裂は、残念ながらお薬で治したり、成長とともに自然に治ったりすることはありません。 そのため、治療には手術が必要です。 手術と聞くとご不安に思われるかもしれませんが、お子さんが将来、心と体の両面で健やかに生活できるようになるための、とても大切な治療です。

手術の目的は、大きく分けて次の3つです。

目的

なぜ大切なの?

1. おしっこをまっすぐ前に飛ばせるようにする

立ったままおしっこができるようになり、トイレで困ることがなくなります。

2. おちんちんの曲がりをまっすぐにする

勃起したときにまっすぐになり、将来の性生活で支障が出ないようにします。

3. 見た目を自然な形に整える

お友達との違いに悩むことなく、自信を持って成長できるようにします。

手術に最適な時期

手術は、お子さんの心と体への負担が少ない時期を選ぶことが重要です。 一般的には、生後6ヶ月から1歳半ごろに行われることが多いです。

この時期が選ばれるのには、次のような理由があります。

  • 心への負担が少ない 物心がつく前なので、手術を受けた記憶が残りにくいです。
  • おむつで管理しやすい おむつが取れる前の方が、手術後の傷の管理がしやすいという利点があります。
  • 体の回復力が高い 赤ちゃんの体は回復力が高く、傷の治りが早い時期です。

手術の方法

尿道下裂の手術は、お子さん一人ひとりの状態に合わせて方法を選ぶ「オーダーメイド治療」です。 手術方法は200種類以上あるとも言われ、非常に専門的な技術が求められます。

主に、おちんちんの余っている皮(包皮)の皮膚などを使って、新しい尿道を作り、おちんちんの先までつなげます。 多くは1回の手術で終わりますが(一期的手術)、症状が重い場合は、まずおちんちんの曲がりを直し、その後に尿道を作るというように、2回に分けて行うこと(二期的手術)もあります。

手術後の注意点

この手術は非常に繊細なため、経験豊富な医師が行っても、術後に合併症が起こる可能性がゼロではありません。 たとえば、新しく作った尿道の途中から尿が漏れたり(尿道皮膚瘻)、尿道が狭くなったりする(尿道狭窄)ことがあります。

だからこそ、手術経験が豊富な小児泌尿器科の専門医がいる医療機関を選ぶことが何よりも大切です。 また、手術をして終わりではなく、お子さんの成長に合わせて長期的に状態を見守っていく必要があります。