外鼠径ヘルニア

足の付け根に現れる、ぽっこりとした膨らみ。立っている時や力を入れた時にだけ現れ、横になると消える…。そんな症状に心当たりはありませんか?それは「脱腸」とも呼ばれる外鼠径ヘルニアかもしれません。

この病気は薬では治らず、実は年間約15万人が手術を受けている、決して珍しくない病気です。しかし「ただの膨らみ」と軽く考えて放置すると、飛び出した腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という、命に関わる緊急事態を招く危険性もあります。

「手術が必要なの?」と不安に感じるかもしれませんが、ご安心ください。この記事では、外鼠径ヘルニアの詳しい原因から、体への負担が少ない最新の治療法までを分かりやすく解説します。正しい知識で不安を解消し、適切な一歩を踏み出しましょう。

外鼠径ヘルニアの概要

外鼠径(がいそけい)ヘルニアは、脱腸(だっちょう)とも呼ばれます。 太ももの付け根の部分である「鼠径部(そけいぶ)」が原因の病気です。 お腹の壁を支える筋肉の膜が弱くなり、すき間ができてしまいます。 そのすき間から、お腹の中にあるはずの臓器が飛び出してしまう状態です。

外鼠径ヘルニアのポイント

  • どこが? 太ももの付け根(鼠径部)の筋肉の壁にすき間ができます。
  • なにが? お腹の腸だけでなく、内臓脂肪や、女性では卵巣が飛び出すこともあります。
  • どうなる? 立ったりお腹に力を入れたりすると、付け根がぽっこりと膨らみます。横になると自然に引っ込むことが多いです。

この病気は決して珍しくなく、年間で約15万人が手術を受けています。 しかし、お薬で治したり、自然に元に戻ったりすることはありません。 放置すると、飛び出した腸などが戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という、緊急手術が必要な危険な状態に陥る可能性もあります。 そのため、治療の基本は手術となります。

手術の方法も進化しており、患者さんの体への負担を軽くする工夫がされています。 例えば、手術後の痛みを和らげる麻酔方法もその一つです。 ある研究では、背中から行う麻酔(脊髄くも膜下硬膜外麻酔)と全身麻酔を比較しました。 その結果、背中からの麻酔は、手術後の痛みが少なく、痛み止めの薬の使用量も減らせる可能性が示されています。 もし足の付け根の膨らみに気づいたら、早めに専門の医療機関へご相談ください。

外鼠径ヘルニアの種類

外鼠径ヘルニアにはいくつかの種類があります。 腸などが飛び出す「場所」と「手術の方法」で分けられます。 ご自身の状態を知るために、どんな種類があるのか見ていきましょう。

腸が飛び出す「場所」による違い

お腹の壁から腸などが飛び出す場所によって、主に2つの種類があります。

  • 間接(かんせつ)鼠径ヘルニア 本来は生まれる前に閉じるはずの通り道が残ってしまうタイプです。 お腹の中から足の付け根への道が閉じずに、そこから腸が出ます。 お子さんや若い方のヘルニアは、このタイプが多いです。
  • 直接(ちょくせつ)鼠径ヘルニア 年を重ねてお腹を支える筋肉が弱くなることが原因です。 弱くなった壁から直接、腸などが前に飛び出してきます。 ご高齢の男性によく見られるタイプです。

手術の方法による違い

治療は手術が基本で、主に2つの方法があります。 どちらも、医療用のシート(メッシュ)で穴をふさぎます。

手術方法

特徴

鼠径部切開法

足の付け根を数cm切って、ヘルニアの穴を直接見ながらふさぐ、古くからある方法です。

腹腔鏡(ふくくうきょう)手術

お腹に数カ所の小さな穴を開け、カメラと細い道具を入れて、お腹の内側から穴をふさぎます。

腹腔鏡手術は、さらに細かい違いがあります。 例えば、お腹に開ける小さな穴の場所にも複数のパターンがあります。 ある研究では、手術に慣れていない医師にとって難しい配置もあるとされました。 そのため、医師は十分なトレーニングを積むことが大切です。

また、メッシュを固定する方法も選べます。 医療用の接着剤(グルー)を使う方法や、体に溶ける留め具(タッカー)を使う方法です。 手術後の痛みを比べた研究では、接着剤で固定したほうが痛みが少ない可能性が示されました。 どの方法が最適か、医師とよく相談して決めることが重要です。

外鼠径ヘルニアの原因

外鼠径ヘルニアがなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 生まれつきの体のつくりと、大人になってからの生活習慣が関係します。 原因を2つに分けて、それぞれ詳しく見ていきましょう。

生まれつきの体のつくりが原因の場合

主に小さなお子さんのヘルニアは、生まれつきの要因がほとんどです。

お母さんのお腹の中にいる時、お腹と足の付け根は通り道で繋がっています。 この道は「腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)」と呼ばれます。 通常、この通り道は生まれる頃には自然に閉じて、なくなります。

しかし、この道がうまく閉じずに、開いたまま残ってしまうお子さんがいます。 この生まれつきの「すき間」が、腸などが飛び出す原因となるのです。

大人の生活習慣が原因の場合

大人になってから発症する方は、加齢が大きく関係します。 お腹の壁を支える筋肉や膜が、年とともにだんだん弱くなるのです。 弱くなった壁に、お腹の中から強い圧力がかかることで発症します。

このお腹の圧力を「腹圧(ふくあつ)」と呼びます。 腹圧が高くなる原因には、次のようなものがあります。

  • お仕事や日常生活での動作 重い物を頻繁に持ち上げる、長時間立ちっぱなしでいるなど、 お腹にグッと力が入り続ける状態は、壁に負担をかけます。
  • お体の状態 肥満、特に内臓脂肪が多いとお腹の中から壁を常に押してしまいます。 また、妊娠もお腹が大きくなるため腹圧が上がります。
  • 病気やその症状 慢性の便秘でトイレのたびに強くいきむこと。 喘息(ぜんそく)やひどい咳が長く続くことも原因になります。

これらの要因に加えて、喫煙もリスクを高めると考えられています。 タバコは体の組織を弱くし、お腹の壁のもろさにつながるためです。 体の変化と日々の生活習慣が重なり、ヘルニアは起こりやすくなります。

外鼠径ヘルニアの症状

「あれ、足の付け根がぽっこり膨らんでいる」。 外鼠径ヘルニアの症状は、こうした気づきから始まることがほとんどです。 このふくらみは、お腹の壁のすき間から腸などが飛び出してくることで起こります。

多くの場合、このふくらみには次のような特徴が見られます。

  • 立っている時やお腹に力を入れた時に出てくる
  • 横になったり、手で優しく押したりすると引っ込む
  • 初めのうちは痛みはなく、違和感がある程度

しかし、そのままにしていると、徐々に引っ張られるような鈍い痛みに変わることがあります。

特に注意すべき危険なサイン「嵌頓(かんとん)」

外鼠径ヘルニアで最も危険なのは「嵌頓(かんとん)」という状態です。 これは、飛び出した腸が締め付けられ、お腹の中に戻らなくなる緊急事態です。 血の流れが止まり、腸が腐ってしまう(壊死する)危険があります。

<嵌頓を疑う症状チェックリスト>

  • □ ふくらみが急に硬くなった
  • □ 手で押しても引っ込まない
  • □ 吐き気や嘔吐がある
  • □ これまでになかった激しい痛みを感じる

これらのサインが一つでもあれば、命に関わるため、すぐに医療機関を受診してください。

また、治療は手術が基本ですが、術後にも注意が必要です。 ごくまれに、手術した部分にリンパ液が漏れ出てたまってしまう合併症も報告されています。 もし術後に気になる症状があれば、遠慮なく医師に相談しましょう。

外鼠径ヘルニアの検査・診断

足の付け根のふくらみに気づいたら、まずは病院で診察を受けましょう。 多くの場合、特別な機械を使わなくても、お話を聞き、体を診るだけで診断できます。

診察では、主に次の2つのことを行います。

  • 問診(もんしん) いつから、どんな時に膨らむかなど、症状について詳しくお聞きします。
  • 視診(ししん)・触診(しょくしん) 実際に足の付け根を見て、触って状態を確かめます。 立った状態と横になった状態での変化や、咳をしてもらい、 ヘルニアの状態を確認します。

基本的にはこの診察で診断がつきますが、より詳しく調べることもあります。 他の病気ではないかを確認し、治療の方針を正確に決めるためです。

検査の種類

内容

超音波(エコー)検査

体に害のない音波を使い、お腹の中の様子を画面に映して見ます。痛みはありません。

CT検査

体の断面図を撮影して、ヘルニアの種類や複雑な状態を詳しく調べます。

こうした詳しい検査は、安全な手術計画を立てるために非常に重要です。 特に、お腹にカメラを入れる「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」では、 ヘルニアの正確な位置を把握することが、手術の成功につながります。

ある研究では、手術に使う道具を入れる穴の開け方によって、 手術の難しさが変わることが示されています。 医師は手術の前に、こうした検査結果から体の内部を正確に把握します。 その上で、一人ひとりに合った最も良い治療法を計画するのです。 気になる症状があれば、まずは専門の医療機関で相談してください。

外鼠径ヘルニアの治療

外鼠径ヘルニアは、お薬で治したり、自然に元に戻ったりはしません。 そのため、治療の基本は手術となり、飛び出す原因の穴をふさぎます。 手術と聞くと不安に思うかもしれませんが、体への負担が少ない方法もあります。

現在、多くの手術では「メッシュ」という網目状のシートを使います。 弱くなったお腹の壁の穴を、このメッシュで補強するのです。 手術の方法は、主に次の2種類から、患者さんの状態に合わせて選びます。

手術方法

特徴

鼠径部切開法

足の付け根を数cm切って、ヘルニアの穴を直接見ながらメッシュでふさぐ、古くからある方法です。

腹腔鏡(ふくくうきょう)手術

お腹に数カ所の小さな穴を開け、カメラと細い道具を入れて、お腹の内側からメッシュで穴をふさぎます。

腹腔鏡手術は傷が小さく、体への負担が少ないとされています。 メッシュを固定する方法も進化しており、手術後の痛みを減らす工夫があります。 ある研究では、体に溶ける留め具より医療用の接着剤で固定した方が、痛みが少ない可能性が示されました。

手術中の麻酔について

手術は、眠った状態で行う「全身麻酔」か、下半身だけに効く「背中からの麻酔」で行います。 どちらにも良い点があり、医師が患者さんに合わせて最適な方法を判断します。

麻酔の種類

メリットの可能性

デメリットの可能性

全身麻酔

眠っている間に手術が終わります。

手術後にのどの違和感などが出ることがあります。

背中からの麻酔

手術後の痛みが少なく、痛み止めを使う量も減らせます。

手術後に頭痛が起こることがあります。

ある研究では、背中からの麻酔は手術後の痛みを和らげる効果が高いと報告されています。

まれに起こる合併症について

手術の安全性は高いですが、ごくまれに合併症が起こることもあります。 例えば、手術した場所に「リンパ液」という体液が漏れ出てたまることがあります。 もし手術後に気になる腫れや痛みがあれば、すぐに医師へ相談することが大切です。

手術は日帰りで可能な場合もあり、費用は高額療養費制度の対象になることもあります。 まずは専門の医師とよく相談し、ご自身に合った治療法を選びましょう。