変形性肩関節症
腕を上げると肩が痛む、夜中に痛みで目が覚めるなどの症状に悩んでいませんか。肩を動かすとゴリゴリと音がするものの、「年のせいだろう」と諦めている方もいるかもしれません。
その症状は、加齢などで肩関節の軟骨がすり減る「変形性肩関節症」のサインである可能性があります。70歳代では4人に1人以上に見られるという報告もあり、決して珍しい病気ではありません。この記事では、変形性肩関節症の詳しい原因や症状、治療法について解説します。
ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めることで、痛みの原因を正しく理解できます。そして、保存療法から手術まで、今後の適切な対処法を見つけるための一歩につながるはずです。
変形性肩関節症の概要
変形性肩関節症は、肩関節のクッションである軟骨がすり減ることで、痛みや動きの制限が生じる病気です。
肩関節は、腕の骨(上腕骨)の丸い先端部分と、肩甲骨側のお皿のような部分で構成されています。本来、膝関節のように常に体重がかかるわけではないため、変性が起きにくい関節です。
しかし、加齢などによって軟骨が摩耗すると、骨同士が直接こすれ合い、関節の変形が進んでしまいます。
日本での調査では、レントゲンで明らかな変形が見つかる方の割合は年齢とともに増加する傾向にあります。40歳代では1.8%ですが、70歳代になると26.9%、つまり4人に1人以上の方に変形が見られるという報告があります。
治療はまず薬やリハビリテーションを行いますが、症状が改善しない場合は手術も検討されます。手術療法においては、より良い治療結果を目指して日々研究が進められており、例えば人工関節の手術方法(アプローチ法)の違いによる術後の経過などが詳しく比較検討されています※。
変形性肩関節症の種類
変形性肩関節症は、原因が特定できない「一次性」と、他の病気やけがに続いて起こる「二次性」の2つに大別されます。
一次性変形性肩関節症
特別な原因がなく、主に加齢に伴って肩関節の軟骨がすり減ることで発症するタイプです。
日本人を含むアジア人は欧米人と比べて発症頻度が低い傾向にありますが、食生活の欧米化や平均寿命の延伸などに伴い、近年は増加傾向にあると考えられています。
二次性変形性肩関節症
特定の病気や過去のけがが引き金となって発症するタイプです。代表的な原因を下記に整理します。
原因となる病気・けが | 特徴
腱板断裂 (腱板断裂性関節症) | ・肩を動かす筋肉の腱(腱板)が切れた状態を放置することで、関節のバランスが崩れ変形が進みます。 ・腱板断裂後にこの関節症へ進行する割合は、約1.5%と報告されています。
外傷後 | ・過去の骨折や脱臼により、関節の正常な形が失われたことが原因となります。 ・骨折に続いて発症する割合は、約0.2%とされています。
上腕骨頭壊死 | ・ステロイドの長期使用やアルコールの多量摂取などが原因で、上腕骨の先端(骨頭)への血流が悪くなり、骨が壊死(えし)してしまう病気です。
関節リウマチ | ・自己免疫の異常により関節に炎症が起き、軟骨や骨が破壊される病気です。
特に、腱板の機能が失われてしまった重度の腱板断裂性関節症などに対しては、リバース型人工肩関節置換術という特殊な手術が有効な選択肢となります。
この手術には、肩の前方から進入する方法や、筋肉の間から進入する方法など複数のアプローチがあります。どちらの方法でも術後の痛みや腕の可動域の改善には大きな差がないと報告されています※。
一方で、前方からのアプローチでは、術後に人工関節の一部が肩甲骨に接触してしまう「肩甲骨ノッチング」という合併症がやや起こりやすい傾向も示唆されています※。
変形性肩関節症の原因
変形性肩関節症の原因は、原因が特定できない「一次性」と、他の病気やけがが引き金となる「二次性」の2つに大別されます。
一次性の原因
特別な原因が見当たらず、主に加齢にともなって肩関節のクッションである軟骨がすり減ることで起こるタイプです。
40歳代から発症する方が現れはじめ、年齢とともにその割合は高くなる傾向にあります。
二次性の原因
過去のけがや特定の病気がもとになって、関節の変形が進んでしまうタイプです。代表的な原因を以下に整理します。
・肩の使いすぎ
スポーツや重労働などで長年にわたり肩に繰り返し負担がかかることで、軟骨の摩耗が進みます。
・過去の外傷
肩周辺の骨折や脱臼といったけがにより、関節の正常な形やバランスが崩れてしまったことが原因となります。
・他の病気
以下のような病気が引き金となって、二次的に関節の変形が起こることも少なくありません。
・腱板断裂(けんばんだんれつ):肩を動かす重要な筋肉の腱(腱板)が切れた状態を放置すると、関節の安定性が失われ、変形が進行します(腱板断裂性関節症)。腱板の機能が著しく低下した重度のケースでは、リバース型人工肩関節置換術という特殊な手術が検討されます。この手術は、肩の前方からメスを入れる方法と、筋肉の間から進入する方法がありますが、術後の痛みや腕の動きやすさの改善という点では、どちらの方法でも同様の治療成績が報告されています※。
・関節リウマチ:免疫の異常によって関節に炎症が起き、軟骨や骨そのものが破壊されてしまう病気です。
・上腕骨頭壊死(じょうわんこっとうえし):ステロイド薬の長期使用やアルコールの多量摂取などが原因で、腕の骨の先端(骨頭)への血流が悪くなり、骨の組織が死んでしまう(壊死する)病気です。
変形性肩関節症の症状
変形性肩関節症の症状は、主に「肩の痛み」と「動きの悪さ」の2つです。病気の進行度によって、症状の現れ方は少しずつ変わります。
初期の段階では、腕を上げたり回したりした後にズキっとした痛みを感じる程度です。しかし、軟骨のすり減りが進むにつれて、徐々に痛みが強くなっていきます。
特に、夜眠っている時や、じっとしていても痛む「夜間痛」や「安静時痛」が現れるようになると、眠りを妨げられるなど生活の質が大きく下がることも少なくありません。
代表的な症状を以下に整理します。
・痛み
・腕を動かしたときに痛む(運動時痛)
・夜、寝ているときに痛む(夜間痛)
・じっとしていても痛む(安静時痛)
・痛みの場所は、脇の下から肩の外側にかけて感じることが多い
・動きの制限(可動域制限)
軟骨がすり減り、骨の形が変わることで関節の動きが悪くなります。また、痛みが強いほど腕を動かさなくなるため、関節が固まって動きがさらに制限されるという悪循環に陥る傾向があります。
・腕が上がりにくい(特にバンザイの動き)
・背中に手が回らない(エプロンの紐を結ぶ、背中を洗うなど)
・髪を洗う、服を着替えるといった日常の動作が難しくなる
・その他のサイン
・肩を動かすと「ゴリゴリ」「ジャリジャリ」と骨がこすれるような音がする(関節音)
・肩の力が入りにくくなったと感じる(筋力低下)
・関節の周りが腫れて、熱っぽく感じることがある
これらの症状が悪化し、薬やリハビリテーションで改善が見られない場合には、手術が選択肢となることがあります。
例えば、リバース型人工肩関節置換術という手術では、肩の前方からメスを入れる方法と、筋肉の間から進入する方法があります。どちらの方法を選んでも、術後の痛みや腕の動きやすさの改善度合いには大きな差がないことが報告されています※。
気になる症状があれば、「年のせいかな」と自己判断せず、一度専門の医療機関へご相談ください。
変形性肩関節症の検査・診断
変形性肩関節症の診断は、まずお話を詳しく伺う「問診」と肩の状態を直接確認する「身体診察」から始め、そのうえで画像検査によって診断を確定します。
医師が「いつから、どのような時に痛むのか」「日常生活でどのような動作に困っているか」などを丁寧にお聞きします。その後、実際に腕を動かしていただき、どのくらい動くか(可動域)、どの角度で痛みが出るかなどを確認します。
問診と診察である程度の見当をつけた後、診断を確実なものにするために、以下のような画像検査を行います。
検査の種類 | 目的とわかること
X線(レントゲン)検査 | ・関節の状態を評価する、最も基本となる検査です。 ・関節の隙間の広さ(軟骨のすり減り具合)や、骨のトゲ(骨棘:こつきょく)の有無、骨の変形の程度を確認します。 ・これらの情報から、変形性肩関節症の重症度を客観的に分類します。
CT検査 | ・X線よりもさらに詳しく、骨の状態を立体的に評価するための検査です。 ・骨の変形や欠損の程度を正確に把握できるため、手術が必要と判断された場合に「手術の設計図」として極めて重要な役割を果たします。 ・例えば、リバース型人工肩関節置換術を行う際、骨の状態に合わせてメスを入れる方向(アプローチ法)を計画しますが、前方からでも筋肉の間からでも、術後の痛みや腕の動きの改善度合いには大きな差がないと報告されています※。このような緻密な計画にCTの情報は不可欠です。
MRI検査 | ・骨だけでなく、X線には映らない軟骨や、肩を動かす重要なスジである「腱板(けんばん)」といった組織の状態を詳しく調べる検査です。 ・特に、腱板断裂が変形性肩関節症の原因(二次性)となっていないかなど、痛みの根本的な原因を特定するために役立ちます。
これらの検査結果を総合的に分析し、変形性肩関節症の進行度や種類を正確に特定したうえで、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療計画を立てていきます。
変形性肩関節症の治療
変形性肩関節症の治療は、まず手術以外の「保存療法」で痛みをコントロールし、肩の動きを取り戻すことから始めます。
数カ月間、保存療法を続けても痛みが和らがない場合や、着替えや洗髪といった日常の動作に深刻な支障が出ている場合には、「手術療法」が次の選択肢となります。
どの治療法を選ぶかは、ご自身の年齢や活動量、そして「今後どのような生活を送りたいか」という希望をふまえて、医師と一緒に慎重に決めていくことが大切です。
保存療法
手術以外の方法で、痛みや炎症を和らげ、肩の機能を回復させることを目指します。主に以下の治療法を組み合わせて行います。
・薬物療法
痛みや炎症を抑える飲み薬(消炎鎮痛剤)や湿布薬を使用します。これはあくまで症状を一時的に和らげる対症療法です。
・関節内注射
関節の状態に応じて、2種類の注射を使い分けます。
・ヒアルロン酸注射:関節の潤滑油として働き、動きを滑らかにして痛みを和らげます。
・ステロイド注射:炎症を強力に抑える作用があります。痛みが非常に強い場合に有効ですが、頻繁な使用は軟骨や腱を傷める可能性があるため、間隔をあけて慎重に行います。
・リハビリテーション
「痛いから動かさない」でいると、関節が固まり、さらに動きが悪くなるという悪循環に陥ります。この悪循環を断ち切るために、リハビリテーションは極めて重要です。
・硬くなった関節の動きを改善するストレッチ
・肩を支える筋肉(特に腱板)を鍛える運動
・肩甲骨や背骨(胸椎)の動きを良くする訓練
手術療法
保存療法で十分な効果が得られず、夜も眠れないほどの痛み(夜間痛)が続くなど、生活の質が著しく低下している場合に手術を検討します。
・関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)
数ミリの小さな穴からカメラ(関節鏡)を入れ、関節内を掃除(クリーニング)する手術です。変形が比較的軽い場合に選択されることがあります。
・人工肩関節置換術
すり減って変形した関節の表面を、金属やポリエチレンでできた人工の関節に置き換える手術です。特に、肩を動かす重要な腱(腱板)の機能が失われている重度のケース(腱板断裂性関節症)では、リバース型人工肩関節置換術という特殊な手術が有効な選択肢となります。
このリバース型人工肩関節置換術には、肩のどこからメスを入れるかによって、主に2つの方法(アプローチ法)があります。
アプローチ法 | 特徴
前方上方アプローチ | ・肩の前側の上方から筋肉(三角筋)を分けて進入する方法
三角筋胸筋間アプローチ | ・胸の筋肉(大胸筋)と肩の筋肉(三角筋)の間から進入する方法
近年の研究では、これら2つのアプローチ法を比較した結果、術後の「痛み」や「腕の動きやすさ(可動域)」の改善度合いには、どちらの方法でも大きな差はないことがわかっています※。
一方で、術後に人工関節の一部が肩甲骨に接触してしまう「肩甲骨ノッチング」という合併症は、前方上方アプローチでやや起こりやすい傾向も示唆されています※。
とはいえ、どちらのアプローチ法も全体的には良好な治療成績を示しており、医師は患者さん一人ひとりの骨や筋肉の状態をCTなどで詳細に評価し、最適な方法を選択します。










