三尖弁閉鎖症

生まれつき心臓の弁が開かず、血液の流れが妨げられる先天性の病気「三尖弁閉鎖症」。チアノーゼや呼吸困難といった症状が現れ、治療には複数回の手術と長期的な管理が不可欠です。

治療の道のりは決して平坦ではなく、不安を感じる方も少なくないでしょう。しかし、近年ではフォンタン手術を受けた患者さんのうち約3人に1人(30.6%)が、術後に優れた状態を保つ「スーパーフォンタン」になれるという、希望に満ちた研究結果が報告されています。

この記事では、三尖弁閉鎖症の詳しい病態から最新の治療法、そして「スーパーフォンタン」という未来への希望までを解説します。ご自身の状況と照らし合わせ、前向きな情報を得る一助としてください。

三尖弁閉鎖症の概要

三尖弁閉鎖症(さんせんべんへいさしょう)は、 生まれつき心臓の構造にみられる病気の一つです。 まずは、健康な心臓の働きから見ていきましょう。

私たちの心臓には4つの部屋があり、血液の流れを保つため、 部屋と部屋の間には「弁」という扉がついています。

  • 三尖弁の役割
  • 全身を巡った血液は「右心房」という部屋に戻ります。
  • 次に三尖弁という扉を通り「右心室」へ送られます。
  • そして右心室から肺へと送られ、酸素を受け取ります。

三尖弁閉鎖症では、この三尖弁が生まれつき開かず、 まるで壁のようになっている状態です。 そのため、血液が右心房から右心室へ進めません。

体に酸素を十分に届けにくくなるため、 皮膚や唇が青紫色に見える「チアノーゼ」が現れます。

治療には手術が必要となり、長期的な管理が大切です。 まれですが、手術後に肺の血管に血のかたまりが詰まる 「肺塞栓症」という合併症が起こる可能性があります。

この合併症では、呼吸困難や咳、発熱などがみられ、 肺炎の症状と似ているため注意深く観察する必要があります。

三尖弁閉鎖症の種類

三尖弁閉鎖症は、心臓の形や血管のつながり方によって、 いくつかの種類(病型)に分けられます。

種類を細かく調べることは、一人ひとりの患者さんに、 最も合った治療計画を立てるためにとても大切です。 主に、次の2つのポイントで分類されます。

分類のポイント

どんな状態か

1. 大きな血管の位置

・心臓から出る大きな血管が正常な位置にあるか

・大動脈と肺動脈の位置が入れ替わっているか

2. 肺への血液の流れ

・肺へ血液を送る血管(肺動脈)が閉じているか

・肺へ血液を送る血管(肺動脈)が狭いか

・特に流れの制限がないか

この組み合わせで、「大きな血管の位置は正常で、 肺動脈が狭くなっているタイプ」などと診断されます。

どのような種類でも、手術後の経過は個人差があります。 しかし、近年では希望となる研究結果も報告されています。

フォンタン手術という治療を受けた後、 優れた運動能力を保てる状態になることがあります。 これを「Super-Fontan(スーパーフォンタン)」と呼びます。

ある研究では、フォンタン手術を受けた患者さんのうち、 約3人に1人(30.6%)がこの状態になれたとされます。 また、三尖弁閉鎖症の患者さんは、 このスーパーフォンタンになりやすい傾向もわかっています。

治療後の生活を考える上で、ひとつの希望となりうる情報です。 詳しい分類や治療方針は、医師としっかり相談しましょう。

三尖弁閉鎖症の原因

この病気は、お母さんのお腹の中で赤ちゃんの心臓が、 形づくられる過程で起こるのが直接的な原因です。 本来できるはずの三尖弁という扉がうまく作られません。

では、なぜ三尖弁が正しく形成されないのでしょうか。 その根本的な原因は、今の医学でもはっきりと、 わかっていないのが実情です。

ただ、以下のような要因が関係していると考えられています。

  • 遺伝子の情報
  • 体の設計図である遺伝子の、わずかな違いが影響する可能性。
  • 妊娠初期の環境
  • お母さんが妊娠の初めに特定のウイルスにかかることなど。
  • 一部の薬剤の影響
  • 妊娠中に使われた薬が関係するケースも考えられます。

多くの場合、どれか一つが原因というわけではありません。 いくつかの要因が複雑に重なって起こると考えられています。

また、病気そのものの原因とは別に、 治療の過程で起こる問題についても知っておきましょう。 例えば、手術後に「肺塞栓症」という合併症が起こることです。

これは、肺につながる血管に血のかたまりが詰まる状態で、 咳や熱、息苦しさといった症状が現れます。 この症状は肺炎とよく似ているため、注意が必要です。

実際に、肺炎の治療をしてもなかなか良くならず、 CTなどを使った詳しい検査で肺塞栓症とわかることもあります。 このように、手術などの医療行為がきっかけとなって、 新たな問題が起こる可能性も考えられています。

三尖弁閉鎖症の症状

三尖弁閉鎖症の症状は、主に酸素をたっぷり含んだ血液が、 全身にうまく行き渡らないために起こります。 症状の出方には個人差がありますが、多くは生後すぐに見られます。

最も特徴的なサインは「チアノーゼ」と呼ばれる状態です。 血液中の酸素が少なくなることで、皮膚や唇、爪などが、 青紫色に見えるため、すぐに気づかれることが多いです。

赤ちゃんにみられる主な症状

特に生まれたばかりの赤ちゃんでは、次のような症状に注意が必要です。

  • チアノーゼ
  • ミルクを飲んだり、泣いたりした時に顔色や唇の色が悪くなります。
  • 呼吸の異常
  • 呼吸の回数が多く、いつもより息が速い、または苦しそうにします。
  • 哺乳力の低下
  • ミルクを飲む力が弱く、途中で疲れてしまい飲むのをやめてしまいます。
  • 体重が増えにくい
  • ミルクを飲んでいるように見えても、体重の増え方がゆっくりです。
  • 疲れやすい(易疲労性)
  • 元気がなく、あまり活発に動かない様子が見られます。

成長後や手術後に起こりうる症状

治療を受けた後でも、注意が必要な合併症が起こる場合があります。 その一つに「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」があります。 これは、肺の血管に血のかたまりが詰まってしまう病気です。

咳や熱、息苦しさ、そして背中の痛みなどが出ることもあります。 これらの症状は肺炎とよく似ているため、見分けるのが難しいです。

実際に、肺炎の治療を続けてもなかなか良くならず、 CTで血管を詳しく調べて、初めて肺塞栓症だとわかることもあります。 気になる症状があれば、自己判断せずに医師に相談することが大切です。

三尖弁閉鎖症の検査・診断

三尖弁閉鎖症が疑われる場合、心臓の状態を正確に知るため、 いくつかの検査を組み合わせて慎重に診断を進めます。 咳や息苦しさなどの症状は、他の病気でも見られるためです。 正しい診断が、適切な治療への第一歩となります。

診断の中心となるのは、**心エコー検査(心臓超音波検査)**です。 体に負担をかけずに、リアルタイムで心臓の動きを観察できる、 とても大切な検査です。 この検査では、主に以下の点を確認します。

  • 三尖弁の状態
  • 扉である三尖弁が、本当に閉じているかを確認します。
  • 心臓の部屋の大きさ
  • 血液の流れが滞ることで、心房などの部屋が大きくなっていないか調べます。
  • 血液の流れ方
  • 心臓の中で、血液がどのように流れているかを色で表示して評価します。

この他にも、心臓の大きさや肺の血管の様子を見る胸部X線検査や、 心臓のリズムの乱れ(不整脈)がないかを調べる心電図検査も行います。

さらに、手術後の合併症などを詳しく調べるために、 より詳細な検査が必要になることがあります。 特に重要となるのが、**CT血管造影(CTA)**という検査です。 これは造影剤という薬を注射し、血管を鮮明に映し出します。

この検査は、手術後に起こりうる「肺塞栓症」の診断に役立ちます。 肺塞栓症は、咳や熱、息苦しさといった症状が出ることがあり、 肺炎と見分けるのが非常に難しい場合があります。 実際に、肺炎の治療を続けても症状が良くならないため、 CTAで詳しく調べて初めて肺塞栓症だと判明するケースも報告されています。

これらの検査結果を総合的に判断し、病気のタイプを正確に診断します。 そのうえで、一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。

三尖弁閉鎖症の治療

三尖弁閉鎖症の治療は、手術によって血液の流れを、 正常な状態に近づけることが基本となります。

お子さんの体の成長や心臓の状態に合わせて、 複数回に分けて段階的に手術を行うのが一般的です。 生まれたばかりの赤ちゃんの体は小さいためです。

治療のゴールは「フォンタン手術」

治療の最終的な目標は「フォンタン手術」です。 この手術で、心臓の部屋の負担を減らしながら、 全身に酸素を届ける新しい血液のルートを作ります。

しかし、一度にこの手術を行うことは難しいため、 体の成長に合わせて準備段階の手術を行います。

段階

手術名

時期の目安

手術の目的

第1段階

シャント手術

生後まもなく

肺への血流が少ない場合に行います。

体の大動脈と肺動脈の間に、

新しい血液の通り道(シャント)を作ります。

第2段階

両方向性グレン手術

生後3〜6ヶ月頃

上半身から心臓へ戻る血液を、

心臓の部屋を通さずに、

直接、肺へ流れるようにします。

第3段階

フォンタン手術

1歳半〜3歳頃

治療の総仕上げです。

下半身からの血液も直接、肺へ流し、

新しい血液循環を完成させます。

手術後の希望「スーパーフォンタン」

近年、フォンタン手術後の経過に関する、 希望の持てる研究結果が報告されています。

手術を受けた患者さんの中には、運動能力などが、 特に優れている状態になる方々がいます。 これを「Super-Fontan(スーパーフォンタン)」と呼びます。

ある研究では、フォンタン手術を受けた患者さんのうち、 **約3人に1人(30.6%)**がこの状態になれたとされます。 さらに、三尖弁閉鎖症の患者さんは他の病気の方より、 このスーパーフォンタンになりやすい傾向もわかっています。

また、スーパーフォンタンと診断された患者さんの、 **術後20年の生存率(心臓移植なし)は100%**でした。 これは、治療後の生活の質を考える上で、 非常に心強い情報といえるでしょう。

手術後も、定期的な検査と診察で心臓の状態を、 しっかり管理していくことが大切です。