マイコプラズマ肺炎

しつこい咳が続き、ただの風邪ではないのかもしれないと不安になっていませんか。マイコプラズマ肺炎は患者の約8割を14歳以下の子どもが占め、特に冬場に流行しやすい呼吸器の感染症です。

この記事では、マイコプラズマ肺炎の症状や原因、風邪との違いを解説します。抗菌薬が効きにくい特徴に加え、近年では漢方薬を併用した治療の有効性も報告されています。

ご自身の症状と照らし合わせることで、適切な対処法と治療の選択肢が明確になります。つらい症状から早期に回復するための、次の一歩を踏み出す一助となるでしょう。

マイコプラズマ肺炎の概要

マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という少し変わった性質を持つ細菌が原因で起こる呼吸器の感染症です。

この細菌は、一般的な細菌が持つ「細胞壁」を持たないという特徴があります。そのため、多くの抗菌薬が効きにくく、肺炎球菌などが原因の定型的な肺炎とは区別して「非定型肺炎」に分類されます。

一年を通して感染の可能性がありますが、特に空気が乾燥する晩秋から冬にかけて流行が拡大する傾向にあります。

感染の中心は5歳から35歳くらいまでの若い世代で、患者さんの約8割は14歳以下の子どもが占めているのが特徴です。一度感染すると免疫はできますが、生涯続くものではないため、大人になってからも繰り返し感染することがあります。

治療の基本は抗菌薬ですが、近年、特に子どものマイコプラズマ肺炎治療において、抗菌薬と漢方薬を組み合わせるアプローチが注目されています。

複数の臨床研究を統合・分析した報告によると、抗菌薬(アジスロマイシン)と漢方薬を併用した治療は、抗菌薬単独の治療に比べて治癒率や有効率を向上させることが示されました。

さらに、咳や発熱といった症状が続く期間を短縮し、治療に伴う副作用の発生率を低下させる可能性も示唆されており、より安全で効果的な治療選択肢として期待されています※。

マイコプラズマ肺炎の種類

マイコプラズマ感染症は、炎症がどこまで広がっているかによって、主に「気管支炎」と「肺炎」の2つの病態に分けられます。

空気の通り道である気管や気管支で炎症がとどまっている状態が「マイコプラズマ気管支炎」です。

一方、炎症がさらに奥の「肺胞(はいほう)」という、酸素と二酸化炭素を交換する重要な場所にまで及ぶと「マイコプラズマ肺炎」と診断されます。

肺胞はガス交換という生命維持に不可欠な役割を担っているため、ここに炎症が広がると呼吸機能に直接影響が出ます。そのため、一般的に気管支炎よりも肺炎の方が症状は重くなりやすいといえます。

両者の違いを下記に整理します。

病態の種類 | 炎症が起きている主な場所 | 症状の特徴

マイコプラズマ気管支炎 | 気管・気管支(空気の通り道) | ・頑固な咳が中心 ・肺炎に比べると症状は軽い傾向

マイコプラズマ肺炎 | 肺胞(ガス交換を行う場所) | ・激しい咳に加え、発熱や呼吸困難感を伴うことがある ・重症化のリスクがある

気管支炎の段階で適切な治療を受けられれば、肺炎への進行を防げる可能性があります。長引く咳や発熱といった症状があれば、自己判断せず早めに医療機関を受診してください。

マイコプラズマ肺炎の原因

マイコプラズマ肺炎の原因は、「肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)」という細菌への感染です。

この細菌は、一般的な細菌が持つ「細胞壁」という硬い殻のような構造を持たない、少し変わった性質があります。

多くの抗菌薬は、細菌の細胞壁を壊すことで効果を発揮します。そのため、もともと細胞壁を持たない肺炎マイコプラズマには、ペニシリン系やセフェム系といった種類の抗菌薬が効きにくいという特徴があります。

主な感染経路は、「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。

感染経路 | 具体的な感染シーン

飛沫感染 | ・感染者の咳やくしゃみを吸い込む ・学校や家庭など閉鎖空間で感染者と長時間過ごす

接触感染 | ・感染者が使ったタオルや食器を共有する ・細菌が付いたドアノブや手すりを触った手で、自分の口や鼻、目に触れる

感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、通常2〜3週間と比較的長いことが知られています。これは、体内で肺炎マイコプラズマがゆっくりと増殖するためと考えられており、いつどこで感染したのか特定しにくい一因となっています。

発熱やしつこい咳といった症状は、体内に侵入した細菌を異物と認識し、外に追い出そうとする体の正常な防御反応(免疫応答)によって引き起こされます。

一度感染しても生涯にわたる免疫は獲得できないため、大人になってからも繰り返し感染する可能性があります。

マイコプラズマ肺炎の症状

マイコプラズマ肺炎の最も特徴的な症状は、熱が下がった後も3〜4週間ほど続く「しつこい乾いた咳」です。

風邪の症状とよく似た発熱やだるさから始まるため、初期の段階で見分けるのは簡単ではありません。感染から2〜3週間ほどの潜伏期間を経て、症状がゆっくりと現れます。

症状の経過を以下に整理します。

時期 | 主な症状 | 特徴

初期 (発症〜5日目頃) | ・発熱(37〜38℃程度) ・全身の倦怠感(だるさ) ・頭痛、のどの痛み | ・風邪の症状とよく似ている ・この段階では咳は目立たないか、あっても軽いことが多い

中期以降 | ・乾いた咳(乾性咳嗽) | ・痰の絡まない「コンコン」という咳が徐々に強くなる ・特に夜間から明け方にかけて激しく咳き込む ・一度咳き込むとなかなか止まらない

この頑固な咳は、体内に侵入した肺炎マイコプラズマを排出しようとする体の防御反応によるものと考えられています。

熱が下がっても咳だけが長く続くため、体力の消耗につながりやすいのが厄介な点です。

ただし、このつらい咳や発熱が続く期間は、適切な治療によって短縮できる可能性があります。実際に、抗菌薬と漢方薬を組み合わせた治療が、咳や発熱の期間を短縮したという研究報告もあります※。

また、多くは軽症で回復しますが、一部では呼吸器以外の合併症を引き起こすため注意が必要です。これは、肺炎マイコプラズマに対する体の免疫反応が、誤って自身の体の他の部分を攻撃してしまうことで起こるといわれています。

【主な合併症の例】

・耳鼻科系: 中耳炎

・神経系: 無菌性髄膜炎、脳炎

・消化器系: 肝炎、膵炎

・その他: 関節炎、心筋炎、溶血性貧血 など

長引く咳や気になる症状があれば、「ただの風邪」と自己判断せず、早めに医療機関を受診してください。

マイコプラズマ肺炎の検査・診断

マイコプラズマ肺炎の診断は、症状が風邪とよく似ているため、問診や聴診に加え、原因を特定するための客観的な検査を組み合わせて総合的に行います。

はじめに、しつこい咳や発熱といった症状がいつから、どのように続いているかを詳しくお伺いします(問診)。その上で、聴診器を使って胸の音を注意深く聞き、肺炎に特徴的な「肺ラ音(はいらおん)」と呼ばれる雑音がないかを確認します。この肺ラ音は治療効果を測る目安にもなり、適切な治療によって消失までの期間が短くなったという研究報告もあります※。

より詳しく診断するために行われる主な検査を、下表にまとめました。

検査の種類 | 主な検査方法 | この検査でわかること

画像検査 | 胸部レントゲン(X線)検査 | ・肺に肺炎特有の影(浸潤影:しんじゅんえい)があるか ・炎症がどのくらい広がっているか

血液検査 | 採血 | ・体内の炎症の強さを示すCRP値などを測定 ・マイコプラズマに対する抗体(体が作った防御物質)の量を調べる(※診断の補助として用いられる)

病原体検査 | のどや鼻の奥を綿棒でぬぐう (または痰を採取) | ・迅速抗原検査:約15分で結果がわかる ・核酸増幅法(LAMP法など):迅速検査より精度が高く、病原体の遺伝子を直接検出する

特に血液検査で測定するCRP値は、体内の炎症の程度を客観的に示す重要な指標です。近年の研究では、適切な治療によってこのCRP値が有意に改善することも報告されています※。

これらの検査結果を総合的に評価し、マイコプラズマ肺炎かどうかを診断します。

マイコプラズマ肺炎の治療

マイコプラズマ肺炎の治療は、原因である「肺炎マイコプラズマ」に有効な抗菌薬(抗生物質)の内服が中心です。

この細菌は、一般的な細菌が持つ「細胞壁」という構造を持っていません。多くの抗菌薬は細菌の細胞壁を壊すことで効果を発揮するため、細胞壁のない肺炎マイコプラズマにはペニシリン系やセフェム系といった種類の抗菌薬は効きません。

そのため、マイコプラズマ肺炎の治療では、以下のような特殊な抗菌薬が用いられます。

抗菌薬の種類 | 主な薬剤名 | 特徴

マクロライド系 | ・アジスロマイシン ・クラリスロマイシン | ・第一選択薬として使用される ・近年、この系統の薬が効かない「耐性菌」が増加している

テトラサイクリン系 | ・ミノサイクリン | ・マクロライド耐性菌が疑われる場合に使用 ・副作用の観点から、8歳未満の子どもへの使用は慎重に検討

ニューキノロン系 | ・トスフロキサシン | ・マクロライド耐性菌が疑われる場合に使用 ・副作用の観点から、子どもへの使用は慎重に検討

はじめに処方されるのはマクロライド系の抗菌薬ですが、近年、この薬が効かない「マクロライド耐性マイコプラズマ」が増えていることが世界的な問題となっています。

マクロライド系の薬を2〜3日服用しても熱が下がらない場合は、耐性菌の可能性を考え、テトラサイクリン系やニューキノロン系の抗菌薬への変更を検討します。

また、抗菌薬で原因菌を叩くと同時に、今出ているつらい症状を和らげる「対症療法」も並行して行われます。具体的には、激しい咳を鎮める鎮咳薬(咳止め)や、高熱による体力の消耗を防ぐための解熱剤などが処方されます。

特に小児においては、抗菌薬と漢方薬を組み合わせるアプローチも選択肢の一つです。実際に、約5,800人の子どもを対象とした複数の臨床研究を分析した結果、抗菌薬(アジスロマイシン)と漢方薬を一緒に使うことで、抗菌薬だけの治療に比べて治癒率や有効率が向上することが示されました※。

さらにこの併用療法は、つらい咳や発熱が続く期間を短縮し、治療に伴う副作用の発生率を低下させる可能性も示唆されており、より効果的な治療選択肢として期待されています※。

ご自宅では、回復を早めるために以下の点を心がけてください。

・薬を飲み切る: 症状が軽くなっても、処方された抗菌薬は自己判断で中断せず、必ず指示通りに飲み切りましょう。

・水分補給: 脱水を防ぐため、お茶やスープ、経口補水液などでこまめに水分を摂ってください。

・加湿: 空気が乾燥すると咳が悪化しやすくなります。加湿器を使ったり、濡れタオルを干したりして、部屋の湿度を50〜60%に保つと咳が和らぎます。

・安静: 体力の消耗を防ぎ、回復を促すため、十分な睡眠と休息をとることが大切です。

ただし、咳が激しくて眠れない、息苦しさを感じる、ぐったりして水分も摂れないといった場合は、重症化のサインかもしれません。その際は入院治療が必要となり、炎症を強力に抑えるステロイド薬の点滴や、呼吸を助けるための酸素投与などが行われます。

処方された薬を飲んでも症状が改善しない、あるいは悪化するようなら、自己判断で様子を見ることなく、速やかに医療機関に相談してください。