ヘルニア
「ヘルニア」と診断されたものの、足の付け根のふくらみ(脱腸)と、腰や首の痛み(椎間板ヘルニア)では原因も症状も全く異なり、戸惑いを感じていませんか。
この記事では、大きく「おなかのヘルニア」と「背骨のヘルニア」に分け、それぞれの原因や症状、検査方法を解説します。座っているだけで腰への圧力が1.4倍以上になる理由や、体への負担が少ない腹腔鏡手術など、近年の知見も交えて紹介します。
読み終えれば、ご自身の状態がどちらのヘルニアに当てはまるのかがわかり、適切な診療科で治療の相談をするための一歩を踏み出せます。
ヘルニアの概要
ヘルニアとは、体内の臓器や組織の一部が、本来あるべき場所から「はみ出してしまった」状態を指す言葉です。
ひとくちにヘルニアといっても、原因や症状はさまざまで、主に以下の2種類に分けられます。診療する科も異なるため、違いを理解しておくことが大切です。
種類 | おなかのヘルニア(腹部ヘルニア) | 背骨のヘルニア(椎間板ヘルニア)
診療科 | 外科・消化器外科 | 整形外科
飛び出すもの | 腸や内臓脂肪など | 椎間板の中にある髄核(ずいかく)というゲル状の組織
飛び出す場所 | おなかの壁(腹壁)の筋肉や筋膜のすき間 | 背骨の中の神経が通る管(脊柱管)
主な症状 | ・足の付け根やおへその膨らみ ・違和感や痛み | ・手足の痛みやしびれ ・筋力低下
おなかのヘルニア(脱腸)は、腹壁の弱くなった部分から腸などが皮膚の下に飛び出す状態を指し、放置しても自然に治ることはありません。
ときに、はみ出した腸が元に戻らなくなり、強く締め付けられてしまう「嵌頓(かんとん)」という危険な状態に陥ることがあります。嵌頓を起こすと、腸への血流が途絶え、組織が壊死(えし)してしまうため、緊急手術が必要です。
このような緊急時においても、体への負担が少ない腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いた手術が、有効な選択肢であることがわかっています。複数の研究報告を分析した結果、緊急時の腹腔鏡手術は、従来のお腹を大きく切開する手術に比べて入院期間が短く、術後の合併症も少ない傾向にあると報告されています※。
一方で椎間板ヘルニアは、背骨の骨の間でクッションの役割を担う椎間板の一部が飛び出し、近くの神経を圧迫する状態です。首や腰に起こることが多く、圧迫された神経の先に痛みやしびれを引き起こします。
ヘルニアの種類
ヘルニアは、体のどの部分から何が飛び出すかによって、大きく「おなかのヘルニア」と「背骨のヘルニア」に分けられます。
おなかのヘルニア
おなかの壁(腹壁)の筋肉や筋膜が弱くなった部分から、腸などの内臓が皮膚の下に飛び出す状態です。発生する場所によって、以下のような種類に分けられます。
・鼠径(そけい)ヘルニア
足の付け根(鼠径部)で発生する、最も一般的なヘルニアです。放置すると、飛び出した腸が元に戻らなくなり、強く締め付けられて血流が途絶える「嵌頓(かんとん)」という危険な状態に陥ることがあります。
嵌頓は緊急手術が必要ですが、近年では体への負担が少ない腹腔鏡手術が有効な選択肢になることがわかってきました。複数の研究を分析した結果、緊急時の腹腔鏡手術は、お腹を大きく切る手術に比べて入院期間が短く、術後の合併症も少ない傾向にあると報告されています※。
・腹壁ヘルニア
おへその出っ張り(臍ヘルニア)や、過去の手術の傷あと(腹壁瘢痕ヘルニア)から腸などが飛び出す状態です。治療では、患者さんの状態や外科医の専門性に応じて、ロボット支援手術が選択肢になることがあります。
特に、ヘルニアの穴を塞ぐ補強材(メッシュ)を、腸に直接触れない腹膜の外側に置くアプローチは、手術部位の感染症リスクを低減できる可能性があると指摘されています※。
・傍ストマヘルニア
大腸がんの手術などで作られた人工肛門(ストマ)の脇から、腸などが皮膚の下に飛び出す状態を指します。
椎間板ヘルニア
背骨の骨と骨の間でクッションの役割をしている「椎間板」の中身(髄核)が飛び出し、近くの神経を圧迫する状態です。
・頚椎椎間板ヘルニア
首の骨(頚椎)の間で起こるヘルニアです。飛び出した椎間板が腕へ向かう神経を圧迫するため、肩から腕、指先にかけての痛みやしびれ、力の入りにくさなどが現れます。
・腰椎椎間板ヘルニア
腰の骨(腰椎)で起こる、最も多いタイプの椎間板ヘルニアです。お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、足先へと続く「坐骨神経」が圧迫されるため、いわゆる坐骨神経痛と呼ばれる激しい痛みやしびれが代表的な症状といえます。
ヘルニアの原因
ヘルニアが起こる根本的な原因は、体の組織が加齢とともに弱くなることと、そこに物理的な負担が加わることの組み合わせです。
「おなかのヘルニア」と「椎間板ヘルニア」では、組織が弱くなる仕組みと負担のかかり方が異なります。
おなかのヘルニア(脱腸)
おなかのヘルニアは、加齢にともない腹壁(おなかの壁)の筋肉や筋膜が薄く、弱くなった場所が「土台」となって発症します。
この弱くなった部分に、日常のさまざまな動作で腹圧(おなかの内側からの圧力)がかかることで、腸などの内臓が外に押し出されるのです。
特に、以下のような状態や動作が腹圧を高める引き金となります。
・肥満や妊娠によるおなかへの持続的な圧力
・慢性的な咳、喘息
・便秘による排便時のいきみ
・重い荷物を持ち上げる仕事や運動
なお、小児の場合は生まれつきおなかの壁にすき間(トンネル)が残っていることが原因であり、成人のケースとは異なります。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアの根本には、加齢による椎間板の「変性」があります。
背骨の骨と骨の間でクッションの役割を担う椎間板は、もともと水分を豊富に含むゲル状の組織です。しかし、年齢とともに水分が失われて弾力性が低下し、硬くなっていきます。
硬くなった椎間板に強い圧力がかかると、外側の膜(線維輪)が破れ、中身の髄核(ずいかく)が神経の通り道へと飛び出してしまうのです。
具体的には、次のような習慣や動作が椎間板への負担を大きくします。
・長時間のデスクワークや車の運転
・猫背や前かがみといった悪い姿勢の継続
・急に重いものを持ち上げる動作
特に座っている姿勢は、立っている時よりも腰の椎間板にかかる圧力が1.4倍以上になるといわれており、注意が必要です。
このように「ヘルニア」とは、体の組織が本来あるべき場所から脱出した状態を指す言葉です。そのため、頭部の外傷で脳が圧迫されて飛び出す「脳ヘルニア」のように、命に関わる重篤な状態もヘルニアの一種に含まれます。こうした深刻なケースでは、患者さんの年齢や脳のずれの程度が、治療後の経過に大きく影響することが研究でわかっています※。
ヘルニアの症状
ヘルニアの症状は、体のどの部分から何がはみ出すかによって全く異なります。大きく分けて、おなかのヘルニアでは「ふくらみ」、背骨のヘルニアでは神経の圧迫による「痛みやしびれ」が主なサインです。
おなかのヘルニア(脱腸)の症状
内臓を支えているおなかの壁(腹壁)の筋肉や筋膜が弱くなった部分から、腸などが皮膚の下に飛び出すことで症状が現れます。
主な症状は以下のとおりです。
・特徴的なふくらみ
足の付け根やおへそ、過去の手術の傷あとなどがポコッとふくらみます。
・ふくらみの変化
立ったり、咳をしたり、おなかに力を入れたりするとふくらみが目立ち、横になると自然に引っ込む(還納する)ことが特徴です。
・その他の感覚
ふくらんだ部分に、違和感や引きつれるような痛みを伴うこともあります。
最も注意すべきなのは、飛び出した腸が元に戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態です。これは、はみ出した腸の根本が締め付けられて血流が途絶え、組織が壊死(えし)してしまう危険なサインであり、激しい腹痛や吐き気を伴う場合は緊急手術が必要になります。
椎間板ヘルニアの症状
背骨のクッションである椎間板の中身が飛び出し、近くを通る神経を圧迫することで、その神経が支配する領域に特有の症状を引き起こします。
部位 | 主な症状
首(頚椎)の場合 | ・腕や手に向かう神経が圧迫される ・肩から腕、指先にかけての鋭い痛みや電気が走るようなしびれ ・手に力が入りにくくなる(筋力低下)
腰(腰椎)の場合 | ・お尻から足先へと続く「坐骨神経」の圧迫 ・お尻、太ももの裏、ふくらはぎ、足の指先など、特定のラインに沿った激しい痛みやしびれ(坐骨神経痛)
特に腰椎椎間板ヘルニアは、日常生活に支障をきたすほどの強い痛みを伴うことも少なくありません。そのため、手術が必要になった際には、術後の痛みをいかにコントロールし、回復の質を高めるかが重要視されます。手術後の痛みを効果的に和らげ、より質の高い回復を促すための神経ブロックといった処置も、有効な選択肢であることがわかってきました※。
また、ごくまれですが、ヘルニアが脊髄の末端にある太い神経の束を強く圧迫すると、尿や便が出にくくなる「膀胱直腸障害」が起こりえます。これは神経に回復不能なダメージが及ぶ危険があるため、ただちに医療機関を受診すべき緊急の状態です。
ヘルニアの検査・診断
ヘルニアが疑われる場合、診断はまず丁寧な問診と身体診察から始まり、画像検査によって確定するのが一般的です。
おなかのヘルニア(脱腸)と背骨のヘルニア(椎間板ヘルニア)では、原因や症状が全く異なるため、検査のアプローチも変わってきます。
おなかのヘルニア(鼠径ヘルニアなど)
おなかのヘルニアの診断は、問診と触診が基本です。
・問診と触診
いつから、どの部分が、どんな時にふくらむのか(例:立ち上がった時、咳をした時など)を詳しくお伺いします。
そのうえで、実際に立った状態でおなかに力を入れていただき、ふくらみの状態を確認します。横になるとふくらみが自然に引っ込むか(還納するか)どうかも、診断の重要な手がかりです。
・画像検査
診断を確定し、より詳しく状態を把握するために画像検査を行います。
体に負担の少ない超音波(エコー)検査は、ヘルニアの穴から何が飛び出しているか(腸か、脂肪か)を確認するのに有効です。より詳しく調べる必要がある場合はCT検査を行い、ヘルニアの穴の大きさや位置を立体的に評価します。
椎間板ヘルニア(頚椎・腰椎)
椎間板ヘルニアでは、神経の圧迫が症状の根本にあるため、神経の状態を詳細に調べることが重要になります。
・問診と身体診察
痛みやしびれがどこに、どのように現れるかをお聞きします。
そのうえで、神経学的診察(ハンマーで膝を叩くなど)で反射の状態を調べたり、手足の感覚や筋力をテストしたりして、どの神経が圧迫されているかの見当をつけます。
・画像検査
椎間板ヘルニアの確定診断には、MRI検査が極めて重要です。レントゲンでは骨しか映りませんが、MRIなら椎間板や神経といった軟らかい組織の状態を鮮明に映し出せるため、ヘルニアが神経をどの程度圧迫しているかを正確に把握できます。
ただし、画像上のヘルニアの大きさと、患者さんが感じる症状の強さは必ずしも一致しません。
そのため、画像所見に加えて、以下のような客観的な指標を用いて総合的に状態を評価することが、適切な治療方針を決める上で重要になります。
評価指標 | 内容
VAS(痛みの評価) | 患者さん自身が感じる痛みの強さを数値で評価
ODI(機能障害評価) | 痛みが日常生活にどの程度支障をきたしているかを評価
JOAスコア(日本整形外科学会評価) | 運動機能や感覚機能の障害の程度を点数で評価
これらの指標は、治療の効果を客観的に判断する際にも用いられます。例えば、内視鏡手術に自身の血液から作る成分(PRP)を加える治療法が、痛みの軽減や機能回復の点でより高い効果を示すことが、こうした指標を用いた研究で報告されています※。
ヘルニアの治療
ヘルニアの治療は、原因となっている「おなかのヘルニア」か「背骨のヘルニア」かによって、アプローチが全く異なります。おなかのヘルニアは手術が基本ですが、椎間板ヘルニアは多くの場合、手術以外の方法で症状の改善を目指します。
おなかのヘルニア(脱腸)の治療
おなかのヘルニアは放置しても自然に治ることはないため、治療の基本は手術です。手術の目的は、腹壁に開いてしまった穴をふさぎ、内臓が再び飛び出さないようにすることです。
手術には主に3つの方法があり、患者さんの状態やヘルニアの種類に応じて最適なものが選ばれます。
手術方法 | 特徴
腹腔鏡(ふくくうきょう)手術 | ・おなかに数カ所の小さな穴を開け、カメラと器具を挿入して行う ・傷が小さく痛みが少ないため、回復が早い ・現在の手術の主流
ロボット支援手術 | ・腹腔鏡手術を、より精密な操作が可能な支援ロボットを用いて行う ・複雑なヘルニアの修復で力を発揮する
開腹手術 | ・ヘルニアのある部分を直接切開して修復する、従来からの方法
手術では、多くの場合「メッシュ」と呼ばれる人工のシートを用いて、弱くなった腹壁を補強します。
特に注意が必要なのは、飛び出した腸が元に戻らなくなり、締め付けられてしまう「嵌頓(かんとん)」という状態です。これは腸が壊死(えし)する危険があるため緊急手術が必要ですが、このような緊急時であっても、体への負担が少ない腹腔鏡手術が有効な選択肢であることがわかっています。複数の研究報告を分析した結果、緊急時の腹腔鏡手術は、お腹を大きく切開する従来の手術に比べて入院期間が短く、術後の合併症も少ない傾向にあると報告されています※。
また、腹壁ヘルニアの修復では、ロボット支援手術も選択肢の一つです。特に、ヘルニアの穴を塞ぐ補強材(メッシュ)を、腸に直接触れない腹膜の外側に置くアプローチは、手術部位の感染症リスクを低減できる可能性があると指摘されています※。
椎間板ヘルニアの治療
椎間板ヘルニアは、飛び出したヘルニアが自然に小さくなることも多く、ほとんどの場合は手術をせずに症状を和らげる「保存療法」から治療を開始します。
・保存療法
神経の炎症を抑え、痛みの悪循環を断ち切ることが目的です。
・安静: 痛みが強い急性期は、腰や首に負担のかからない楽な姿勢で休みます。
・薬物療法: 痛みや炎症を抑える薬(NSAIDsなど)や、神経の痛みに特化した薬(神経障害性疼痛治療薬)を服用します。
・ブロック注射: 痛みの原因となっている神経の周辺に局所麻酔薬などを注射し、直接痛みをブロックする方法です。
これらの保存療法を2〜3カ月続けても痛みが改善しない場合や、日常生活に大きな支障をきたしている場合には、手術が検討されます。
・手術療法
飛び出したヘルニアを物理的に取り除き、神経への圧迫をなくすことが目的です。
・内視鏡下手術(MED、FESSなど): 皮膚の切開が1〜2cmと小さく、筋肉へのダメージを最小限に抑えながらヘルニアを摘出します。体への負担が少なく、社会復帰が早いのが大きな利点です。
・椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア): ヘルニアに直接薬剤を注入し、その保水力を低下させることでヘルニアを縮小させる治療法です。切開が不要な点が特徴です。
・再生医療(PRP療法)との併用: 近年、内視鏡手術に患者さん自身の血液から作るPRP(多血小板血漿)を併用するアプローチも行われています。手術単独の場合と比べて、術後の痛みを和らげ、機能的な回復を促し、さらには再発率を低下させる効果が期待できるという研究結果も出てきています※。
ただし、「足に力が入らない」「尿や便が出にくい(膀胱直腸障害)」といった症状がある場合は例外です。これらは神経に深刻なダメージが及んでいるサインであり、回復が難しくなる前に緊急手術が必要となります。










