ヌーナン症候群

お子さんの成長で「身長の伸びがゆっくりかな?」「他の子と少し違う特徴があるかも?」と、ふと感じたことはありませんか。もしかすると、それは「ヌーナン症候群」のサインかもしれません。約1000人から2500人に1人の割合で生まれると言われ、決して珍しい病気ではないのです。

しかし、症状の現れ方は一人ひとり大きく異なるため、診断されていない方もいると考えられています。特徴的なお顔つきや心臓の病気、ゆっくりとした成長など、そのサインは様々です。

この記事では、ヌーナン症候群の原因から診断、そして最新の治療法までを詳しく解説します。特に、成長ホルモン治療が持つ、身長を伸ばすだけではない多面的な効果にも触れ、お子さんの可能性を支えるための正しい知識をお届けします。

ヌーナン症候群の概要

ヌーナン症候群は、生まれつき体の設計図である「遺伝子」の、 わずかな変化によって体に様々な特徴があらわれる病気です。 細胞が成長したり増えたりする時に、大切な働きをする遺伝子に、 変化が起きることが原因とされています。

およそ1000人から2500人に1人の割合で生まれると言われており、 決して珍しい病気ではありません。 しかし症状のあらわれ方は一人ひとり大きく異なるため、 診断されていない方もいると考えられています。

この病気を持つ方には、いくつか共通した体の特徴があります。 もちろん、すべての特徴が全員にあらわれるわけではありません。

ヌーナン症候群の主な特徴

分類

具体的な特徴の例

お顔つき

両方の目の間が広い、上まぶたが下がっているなど

心臓

生まれつき心臓に病気がある(先天性心疾患)など

成長

身長の伸びがゆっくりなこと(低身長)

その他

胸の骨の形が少し違う、あざができやすいなど

ヌーナン症候群を根本的に治す治療法はまだありません。 しかし、あらわれている症状を和らげるための治療はあります。 例えば、特徴の一つである低身長には、成長ホルモン治療があります。 この治療は身長を伸ばすだけでなく、他の面にも良い影響を与えます。

多くの研究で、成長ホルモン治療は体全体のバランスを整え、 発達をサポートすることが報告されています。 具体的には、筋肉と脂肪のバランスを整えたり、運動する力を高めたり、 心の成長にも良い影響を与える可能性が示されています。 一人ひとりの状態に合わせたサポートをしていくことが大切です。

ヌーナン症候群の種類

ヌーナン症候群は、原因となる体の設計図(遺伝子)のちがいにより、 いくつかの種類に分けられています。

私たちの体の中では、細胞が成長したり変化したりする時に、 命令を伝えるリレーのような仕組みが働いています。 この仕組みは「RAS/MAPK(ラス・マップキナーゼ)シグナル伝達経路」と呼ばれます。 ヌーナン症候群は、このリレーの選手(遺伝子)に変化が起きている状態です。

現在、原因としてわかっている主な遺伝子は以下のとおりです。 どの遺伝子に変化があるかによって、症状のあらわれ方が少しずつ違うこともあります。

【ヌーナン症候群の原因となる主な遺伝子】

  • PTPN11
  • 最も多く、ヌーナン症候群と診断された方の約半分でみられます。
  • SOS1
  • RAF1
  • RIT1
  • KRAS など

しかし、遺伝子検査を受けても、2割から4割ほどの方は、 原因となる遺伝子の変化が見つからないことがあります。

これは、まだ発見されていない新しい原因遺伝子が存在する可能性を示しています。 世界中の研究者が解明に向けて努力を続けており、 日々新しいことがわかってきています。

ヌーナン症候群の原因

ヌーナン症候群は、体の設計図である遺伝子の変化が原因で起こります。 この遺伝子の変化には、大きく分けて2つのパターンがあります。 一つは親から子へ受け継がれるもので、もう一つは新しく発生するものです。

【遺伝子の変化が起こる2つのパターン】

  • 親から受け継ぐ場合 両親のどちらかがヌーナン症候群である場合に、 原因となる遺伝子をお子さんが受け継いで発症します。
  • 新しく変化が起こる場合(突然変異) ご両親に症状がなくても、お子さんの遺伝子に新しく変化が起こることがあります。 実は、この「突然変異」によって発症するケースが多いと言われています。

私たちの体の中では、細胞が成長したり増えたりする時に、 「RAS/MAPK(ラス・マップキナーゼ)経路」という仕組みが働いています。 これは、細胞に「成長しなさい」と命令を伝えるスイッチのようなものです。

ヌーナン症候群では、このスイッチの部品となる遺伝子に変化が起きています。 そのため、スイッチが常に「オン」の状態になり、命令が過剰に伝わります。 この結果、心臓や骨、皮膚など、体の様々な部分の成長に影響が出るのです。

ただし、遺伝子検査をしても、約2割から4割の方は原因が特定できません。 これは、まだ発見されていない原因遺伝子が存在するためと考えられています。 しかし、原因遺伝子がわからなくても、症状から診断し治療を始めることは可能です。

ヌーナン症候群の症状

ヌーナン症候群であらわれる症状は、一人ひとり違います。 これは、みんなの顔や性格が違うのと同じです。 また、体の成長とともに症状のあらわれ方が変わることもあります。 ですから、これからお話しする症状が全て出るわけではありません。

代表的な症状には、以下のようなものがあります。 体のどの部分に、どんな特徴があらわれるか見ていきましょう。

分類

具体的な症状の例

お顔や体の見た目の特徴

・両方の目の間が広い

・まぶたが少し下がっている

・耳が低い位置についている

・首が短く、横にひだがある(翼状頸)

・胸の骨の形が少し違う(鳩胸、漏斗胸)

心臓や血液の病気

・生まれつき心臓に病気がある(特に肺動脈弁狭窄症)

・心臓の筋肉が厚くなる病気(肥大型心筋症)

・血が止まりにくく、あざができやすい

成長や発達に関する特徴

・身長の伸びがゆっくり(低身長)

・思春期が少し遅れてくることがある

・言葉の発達に時間がかかることがある

・勉強などがゆっくり進むことがある

その他の特徴

・男の子で、精巣がお腹の中にある(停留精巣)

・リンパの流れが悪く、手足がむくみやすい

・皮膚や髪の毛に特徴があらわれることもある

これらの症状の中でも、特に多くの方にみられるのが低身長です。 身長の伸びがゆっくりなことに対しては、成長を助ける治療があります。 この治療は「成長ホルモン治療」と呼ばれています。

最近の研究では、この成長ホルモン治療の素晴らしい点がわかってきました。 実は、ただ身長を伸ばすだけではないのです。 多くの研究で、体全体のバランスを整えて発達を助ける効果も報告されています。

具体的には、筋肉と脂肪のバランスをより良くしたり、 運動する力を高めたりする可能性があるとされています。 さらに、心の成長にも良い影響を与えるかもしれないと考えられています。

このように症状のあらわれ方や程度は、本当に人それぞれです。 気になることや心配なことがあれば、どんな小さなことでも、 専門の医師に相談することがとても大切です。

ヌーナン症候群の検査・診断

ヌーナン症候群の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 お医者さんが、体の特徴や症状、ご家族の状況などの情報を集め、 パズルのピースを組み合わせるように、丁寧に判断していきます。

診断は、主に次のようなステップで進められます。

1. お話を聞き、体をしっかり見る(問診・診察)

  • 問診 まず、どんな症状で困っているか、詳しくお話を聞きます。 ご家族に同じような特徴を持つ方がいるかも大切な情報です。
  • 診察 次にお顔つきや胸の形など、体の様子を丁寧に観察します。 ヌーナン症候群に見られる特徴がないかを確認するためです。

2. 体の中の状態を詳しく調べる(各種検査) 診察で必要と判断した場合、次のような検査で体を詳しく調べます。

  • 血液検査 血を少し採って、体全体の健康状態や、血の固まりやすさなどを調べます。
  • 身体測定 身長や体重を測り、これまでの成長記録と見比べます。 ヌーナン症候群の特徴である、ゆっくりな成長ペースでないかを確認します。
  • 画像検査 心臓の超音波(エコー)検査などを行います。 合併することの多い心臓の病気が隠れていないかを調べます。

3. 体の設計図を調べる(遺伝子検査) 診断をより確かなものにするため、遺伝子検査を行うことがあります。 血液を使って、ヌーナン症候群の原因遺伝子に変化がないかを調べます。 この検査は、健康保険を使って受けることができます。

ただし、ヌーナン症候群の方でも、約4割の方は、 現在の検査では原因となる遺伝子の変化が見つかりません。 そのため、遺伝子検査の結果だけで全てが決まるわけではないのです。

これらの問診や診察、各種検査の結果をすべて集めて、 お医者さんが総合的に判断し、最終的な診断がくだされます。

ヌーナン症候群の治療

ヌーナン症候群そのものを、根本から治す治療法はまだありません。 しかし、あらわれている症状を和らげるための治療法はたくさんあります。 これを「対症療法(たいしょうりょうほう)」と呼びます。

治療は、小児科や心臓、ホルモンの専門家など、 多くの先生がチームを組んで、一人ひとりに合った計画を立てます。 まるでオーダーメイドの服を作るように、あなたに最適な治療を考えます。

主な症状と治療法

あらわれる症状に合わせて、次のような治療が行われます。

症状や体の特徴

どんな治療をするの?

身長の伸びがゆっくり

3歳ごろから、成長を助ける「成長ホルモン治療」を

受けることができます。注射でホルモンを補います。

心臓の病気

生まれつき心臓に病気がある場合は、

お薬を飲んだり、手術をしたりして治療します。

血がとまりにくい

血が固まりにくい原因を調べて、それに合った治療をします。

手術や歯を抜く前には、必ずお医者さんに伝えましょう。

停留精巣(男の子)

精巣がお腹の中に留まっている場合、

将来のために手術で正しい位置に固定します。

発達のサポート

言葉の練習をしたり、体の動かし方を学んだり、

専門家によるサポート(療育)を受けることができます。

成長ホルモン治療が持つ大切な役割

ヌーナン症候群の低身長に対して行われる成長ホルモン治療。 実は、この治療には身長を伸ばすだけではない、大切な役割があります。

世界中の多くの研究をまとめた信頼性の高い報告によると、 成長ホルモン治療には、成長を助ける以外の効果も期待されています。 例えば、体全体のバランスを整える働きがあることがわかってきました。

具体的には、筋肉と脂肪のバランスを良くしたり、 運動する力を高めたりする可能性があるとされています。 さらに、心の成長や行動面にも良い影響を与えるかもしれないのです。

このように、成長ホルモン治療はお子さんの成長を総合的に支えるため、 とても重要な治療の選択肢の一つとして考えられています。