ウイルス性胃腸炎

突然の吐き気や下痢に襲われる「おなかの風邪」、ウイルス性胃腸炎。多くの方が一度は経験したことのある、つらい症状ではないでしょうか。実はこの病気、ノロウイルスやロタウイルスなど原因は様々ですが、ウイルス自体を退治する特効薬はまだ存在しないのです。

では、どうすればこの苦しみから早く抜け出せるのでしょう?さらに、日本の研究では、症状がない人の体内でさえ、知らないうちに消化管が傷ついている可能性が示唆されています。あなたの体にも、気づかぬうちに変化が起きているのかもしれません。

この記事では、原因ウイルスの見分け方から、命に関わる脱水症状を防ぐ正しい対処法までを徹底解説します。適切な知識を身につけ、つらい症状から一日も早く回復するためにお役立てください。

ウイルス性胃腸炎の概要

ウイルス性胃腸炎は「おなかの風邪」とも呼ばれます。 急な吐き気や嘔吐、下痢、腹痛などの症状が特徴です。 これはウイルスが胃や腸に感染して起こる病気です。

1972年にノロウイルスが発見されて以降、研究は進歩しました。 現在では、世界中で胃腸炎を引き起こす主なウイルスは、 実は数種類に限られることがわかってきています。

  • 代表的な原因ウイルス
  • ノロウイルス
  • ロタウイルス
  • アデノウイルス
  • サポウイルス など

残念ながら、ウイルスそのものを直接退治する特効薬はありません。 そのため、治療はつらい症状を和らげる対症療法が中心です。 特に、嘔吐や下痢で失われる水分を補給することが最も重要です。 安静にして、体力の消耗を防ぐことも回復への近道となります。

近年、乳幼児向けのロタウイルスワクチンが世界的に普及し、 重症化する患者さんが大幅に減るなど、大きな成果を上げています。 このように、診断や予防に関する研究は日々進歩を続けています。

ウイルス性胃腸炎の種類

「おなかの風邪」の原因ウイルスには、いくつかの種類があります。 原因となるウイルスによって、流行する季節や症状に違いがあります。 ほとんどの場合、血の混じらない水のような下痢が特徴です。

代表的な原因ウイルスと、その特徴を下の表にまとめました。 ご自身の症状と照らし合わせて、原因を推測する参考にしてください。

ウイルス名

主な特徴

感染経路の例

潜伏期間の目安

ノロウイルス

冬に流行しやすく、非常に強い感染力を持つ。

カキなどの二枚貝、感染した人の手指

1~2日

ロタウイルス

乳幼児に多い。白っぽい便が出ることがある。ワクチンで予防が可能。

感染した人の手指、おもちゃ、汚染された水や食べ物

1~3日

アデノウイルス

風邪の症状と胃腸症状が同時に出ることがある。下痢が1週間以上と長引く傾向がある。

咳やくしゃみなどの飛沫、感染した人の手指

5~7日

サポウイルス

ノロウイルスと症状が似ているが、比較的軽症で済むことが多い。

カキなどの二枚貝、感染した人の手指

半日~2日

一方で、体の抵抗力が落ちているときには注意が必要です。 ヘルペスウイルスなどが、血便を伴う特殊な胃腸炎を起こすことがあります。 これは胃や腸の粘膜がただれてしまう「潰瘍性」の胃腸炎です。

また、最近では新型コロナウイルスが胃腸炎の原因となることもあります。 このように、ウイルスの種類を知ることは、適切な対応につながります。

ウイルス性胃腸炎の原因

ウイルス性胃腸炎は、目に見えないウイルスが原因です。 ウイルスが体の中に入ることで、つらい症状が始まります。 では、ウイルスは一体どうやって体へ侵入するのでしょうか。

主な感染ルートは、次の2つに分けられます。

  • 接触感染 ウイルスが付いたドアノブやおもちゃに触れた手で、 無意識に口や鼻をさわることでウイルスが侵入します。
  • 経口(糞口)感染 感染した人の便や吐物に含まれるウイルスが、 食べ物や水を介して口から入ることで感染します。 特に、加熱が不十分なカキなどの二枚貝は注意が必要です。

胃腸炎を引き起こす代表的なウイルスはいくつか知られています。 ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどが有名です。 最近では、2019年以降、新型コロナウイルスが原因となることもあります。

また、普段は問題にならないウイルスが原因になることもあります。 例えば、体の抵抗力(免疫)が落ちている状態のときです。 ヘルペスウイルスなどが、血便を伴う特殊な胃腸炎を、 引き起こすことがあるため注意が必要になります。 原因はウイルスの種類や体の状態によって様々です。

ウイルス性胃腸炎の症状

ウイルスが胃や腸の壁に感染すると、炎症が起こります。 体はウイルスを外に出そうとして、つらい症状を引き起こします。 突然の吐き気や下痢、おなかの痛みが代表的なサインです。

<ウイルス性胃腸炎の主な症状>

  • 吐き気・嘔吐 ウイルスを体の外へ排出しようとする反応です。
  • 下痢 水のような便が特徴で、これも排出反応の一つです。
  • 腹痛 胃や腸がけいれんするように、キリキリと痛みます。
  • 発熱 37〜38度程度の熱が出ることがあります。
  • 全身のだるさ 体がウイルスと戦っているため、体力を消耗します。

これらの症状は、原因ウイルスによって続く期間が異なります。 特に注意してほしいのが「脱水症状」と「血便」です。

嘔吐や下痢が続くと、体から水分と塩分が大量に失われます。 これが「脱水症状」で、命に関わることもあるため最も危険です。 こまめな水分補給が何よりも大切になります。

また、まれに便に血が混じる「血便」が出ることがあります。 これは、ヘルペスウイルスなどが原因で起こるサインです。 腸の壁に潰瘍(かいよう)という、ただれができているかもしれません。 特に体の抵抗力(免疫)が落ちている方は注意が必要です。

実は、ノロウイルスに感染しても症状が出ない方もいます。 しかし、症状がなくても体の中では変化が起きているようです。 ある日本の研究では、症状のないノロウイルス感染者の方は、 十二指腸に潰瘍が治った跡が見つかる割合が高いと報告されました。 知らないうちに、ウイルスが胃腸に影響を与えているのです。

ウイルス性胃腸炎の検査・診断

ウイルス性胃腸炎の診断は、主に問診で行われます。 いつから、どんな症状があるかなどを詳しくお聞きします。 周りの流行状況などから、総合的に判断するのが一般的です。

多くの場合、原因ウイルスを特定する特別な検査はしません。 どのウイルスが原因でも、治療の基本方針は同じだからです。 つまり、水分補給と、症状を和らげる対症療法が中心です。

ただし、原因をはっきりさせるための検査が全くないわけではありません。 次のような場合には、検査を行うことがあります。

  • 迅速診断検査 便を少しだけ使って、15分ほどで結果がわかる検査です。 ノロウイルスやロタウイルスなどを調べることができます。 ただし、保険が使えるのは重症化しやすい3歳未満のお子さんや、 65歳以上の方などに限られています。
  • その他の検査 症状が非常に重い場合や、他の病気が疑われる場合に行います。 細菌による胃腸炎の可能性を調べるために、 血液検査や便の細菌培養検査などをすることがあります。

実は、症状がなくてもウイルスが体に影響を与えているかもしれません。 日本の研究で、症状のないノロウイルス感染者を調べた報告があります。 その方々の十二指腸(胃のすぐ先にある腸)を胃カメラで見たところ、 潰瘍(かいよう)という傷が治った跡が見つかる割合が高かったのです。 知らないうちに、ウイルスが消化管を傷つけている可能性があるのです。

気になる症状があれば、自己判断せず医療機関に相談してください。 適切な診断を受けることが、回復への第一歩となります。

ウイルス性胃腸炎の治療

ウイルス性胃腸炎には、ウイルスを直接攻撃する特効薬がありません。 ウイルスは人の細胞の中に入り込んで増えるなど、仕組みが複雑です。 そのため、有効な薬の開発はとても難しく、現在も研究が続いています。

治療の目的は、つらい症状を和らげ、回復を助けることです。 これを「対症療法」と呼び、ご自身の免疫力が頼りになります。 治療の基本は、次の3つのポイントに集約されます。

  • 十分な水分補給(脱水対策) 下痢や嘔吐で失われる水分と塩分(電解質)を補うことが最も大切です。 水やお茶だけでは塩分が足りないため、経口補水液を選びましょう。 一度にたくさん飲むと吐き気を誘うので、少量ずつこまめに飲むのがコツです。 水分が口から摂れない場合は、病院での点滴が必要になります。
  • 症状を和らげる薬(薬物療法) つらい症状を軽くするために、必要に応じて薬を使います。 おなかの調子を整える整腸剤や、吐き気を抑える制吐剤などが中心です。 自己判断で市販の下痢止めを使うのは避けましょう。 ウイルスを体外に出す働きを妨げ、回復が遅れる恐れがあります。
  • 安静と食事 体力を消耗しないよう、ゆっくりと体を休めることが回復への近道です。 吐き気が治まり食欲が出てきたら、おかゆなど消化の良いものから始めましょう。

まれにウイルス感染が、他の病気の引き金になることもあります。 例えば、ノロウイルスが原因で「IgA血管炎」を発症した例が報告されています。 IgA血管炎は、免疫の異常で血管が炎症を起こす病気です。 症状が重い、水分が摂れないなど、心配な場合は医療機関に相談してください。