ウイルス性下痢症

突然のつらい下痢やおう吐。「お腹の風邪」として多くの人が経験しますが、その正体はウイルスが腸に感染して起こる「ウイルス性下痢症」です。ただの体調不良と軽く考えていると、特に抵抗力の弱いお子さんやご高齢の方は、危険な脱水症状に陥る可能性があります。

原因となるウイルスにはノロウイルスやロタウイルスなど多くの種類があり、実はウイルスを直接攻撃する特効薬は存在しません。中には、世界100カ国以上でワクチン接種が推奨されるほど重症化しやすいウイルスもあることをご存知でしょうか。

この記事では、ウイルス性下痢症の詳しい原因から、自己判断してはいけない危険な対処法、そしてワクチンなどの最新の予防策までを解説します。ご自身と大切なご家族を守るための正しい知識を身につけましょう。

ウイルス性下痢症の概要

ウイルス性下痢症は、ウイルスがお腹の腸に感染して起こる病気です。 おう吐や下痢が主な症状で、「お腹の風邪」とも呼ばれています。 原因ウイルスにはノロウイルスやロタウイルスなど多くの種類があります。

この病気は、目に見えないウイルスが口から入ることで感染します。 感染が広がる主な経路は、次のとおりです。

  • 手からの感染 ウイルスが付着した手で、ご自身の口や鼻に触れることで感染します。
  • 食べ物からの感染 感染した人が調理した食事や、ウイルスに汚染された二枚貝などを十分に加熱せずに食べることで感染します。

ウイルス性下痢症は、誰でもかかる可能性があります。 特に、体の抵抗力が弱い小さなお子さんやご高齢の方は注意が必要です。 下痢やおう吐で体の水分が急激に失われ、脱水症状を起こしやすくなります。

このような下痢の原因となるウイルスは、人間だけでなく動物にも存在します。 近年では、犬の下痢に関連する複数のウイルスを一度の検査で特定する研究が進められています。 こうした診断技術の進歩は、人間の病気の迅速な診断にも繋がっていきます。

ウイルス性下痢症の種類

ウイルス性下痢症は、原因となるウイルスの違いで種類が分かれます。 ウイルスの種類によって、流行る季節や症状の重さが変わってきます。 代表的なウイルスとその特徴を知っておきましょう。

ウイルスの名前

主な特徴

ノロウイルス

感染力が非常に強く、特に冬に流行しやすいウイルスです。

ロタウイルス

小さな子どもがかかると、白い便が出たり症状が重くなったりします。

アデノウイルス

お腹の風邪だけでなく、「プール熱」などの原因にもなるウイルスです。

サポウイルス

ノロウイルスと症状が似ていますが、比較的軽症で済むことが多いです。

この中でも特にロタウイルスは、乳幼児が重い胃腸炎になる主な原因です。 そのため、世界100か国以上でワクチンによる予防が推奨されています。 このワクチンには2回接種するものと、3回接種するものがあります。 病気をしっかり防ぐためには、決められた回数を打ち切ることが大切です。

さらに、同じロタウイルスでも「遺伝子型」という細かな種類が多数あります。 どの種類のウイルスが流行するかは、住んでいる地域や時期で異なります。 例えば、2015年から2021年のアジア地域の調査では、G3P[8]という型が多く報告されました。 このようにウイルスの種類は多様で、常に変化しているのです。

ウイルス性下痢症の原因

ウイルス性下痢症は、目に見えないウイルスが体に入ることで起こります。 ウイルスは私たちの身の回りの、さまざまな場所に潜んでいます。

ウイルスがお腹の中に入る主なルートは、次の2つです。

  • 食べ物や水からの感染 ウイルスで汚染された食べ物や水を口にすることで感染します。 特にカキなどの二枚貝は、十分に加熱することが大切です。
  • 人から人への感染 感染した人の便や吐いたものに触れた手で口に触れることでうつります。 ドアノブやスイッチなどを介して、間接的に感染することも多いです。

下痢の原因となるウイルスは、実は常に変化し続けています。 例えばロタウイルスには、「遺伝子型」という細かい種類がたくさんあります。 これは、同じ人間でも一人ひとり顔つきが違うのと似ています。

2015年から2021年のアジアの研究では、流行する型が調査されました。 その結果、G3P[8]という型が最も多く見つかったことが報告されています。 このように流行するウイルスの種類を調べることは、病気の予防に繋がります。

また、下痢の原因ウイルスは人間だけの問題ではありません。 犬にも特有の下痢を起こすウイルスが複数存在します。 最近では、それらを一度に特定する検査技術の研究も進められています。 このことからも、ウイルスの世界がとても広く、多様であることがわかります。

ウイルス性下痢症の症状

ウイルス性下痢症にかかると、お腹の不調と全身の症状があらわれます。 主な症状は、突然の下痢やおう吐、腹痛です。 原因ウイルスによって症状の強さや続く期間は変わります。

具体的には、以下のような症状がみられます。

  • お腹の症状 ウイルスで腸の粘膜が傷つき、水分をうまく吸収できなくなります。 その結果、水のような便が何度も出たり、吐き気や腹痛が起こったりします。
  • 全身の症状 ウイルスと体が戦っているサインとして、発熱や頭痛が起こります。 熱が上がる時には、悪寒(さむけ)や筋肉の痛みを感じることもあります。

これらの症状の中でも、特に注意が必要なのが「脱水症状」です。 下痢やおう吐で体の水分や塩分が急激に失われることで起こります。 ご自身やご家族に、次のようなサインがないか確認してください。

【危険な脱水症状のチェックリスト】

  • 口の中や舌が乾いている
  • おしっこの回数や量がいつもより少ない
  • 泣いても涙があまり出ない
  • 目が落ちくぼんでいるように見える
  • ぐったりしていて元気がない

特に小さなお子さんは、自分で不調をうまく言葉で伝えられません。 そのため、「いつもより機嫌が悪い」「ぐずりやすい」といった様子も大事なサインです。 海外の乳幼児を対象としたノロウイルスの研究でも報告されています。 ワクチンの副反応として「易刺激性/不機嫌」、つまり「ぐずりやすい」様子が確認されました。 これは、赤ちゃんが体調の不快感をぐずることで表現している証拠です。 まれにけいれんや意識の障害といった重い症状につながることもあるため、いつもと様子が違うと感じたら、早めに医療機関へ相談しましょう。

ウイルス性下痢症の検査・診断

ウイルスによる下痢が疑われる場合、まずはお話を聞くことから始めます。 いつから症状があるか、何を食べたかなどを詳しくお聞きします。 そのうえで、お腹の音を聞いたり触ったりして、診察を行います。 そして、原因を特定するために必要な検査へと進みます。

検査には、主に「便検査」と「血液検査」の2種類があります。

便検査:原因ウイルスを見つける

下痢の原因となっているウイルスを特定するための、最も大切な検査です。 綿棒で便を少し採取して調べます。

  • 簡易検査キット ノロウイルスやロタウイルスなど、よく流行するウイルスを調べます。 クリニックですぐに結果がわかり、15分ほどで診断できます。
  • 詳細な検査(PCR法など) 簡易キットで原因がわからない場合や、より正確な診断が必要な時に行います。 近年では、一度の検査で複数のウイルスを同時に調べる技術も発達しています。 これは、動物医療の研究成果が応用されたものです。 例えば、犬の下痢の原因となる複数のウイルスを一度に特定する検査が開発されました。 こうした技術の進歩が、人間の病気の迅速な診断にも繋がっています。

血液検査:体の状態を調べる

血液を少し採って、ウイルスと戦っている体の状態を把握します。 この検査で、主に次の2つのことがわかります。

  • 脱水症状の程度 下痢やおう吐が続くと、体から水分や塩分が失われます。 血液検査で体の水分バランスを数字で確認し、脱水の程度を評価します。 この結果をもとに、点滴が必要かどうかを判断します。
  • 他の病気との見分け ウイルスが原因の場合、体内の炎症を示す数値は上がりにくい傾向があります。 このため、細菌が原因の腸炎など、他の病気と見分けるための参考になります。

これらの問診、診察、検査の結果を総合的に見て診断を確定します。 そして、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てていきます。

ウイルス性下痢症の治療

ウイルス性下痢症には、ウイルスを直接攻撃する特効薬はありません。 そのため治療の目的は、つらい症状を和らげることになります。 そして、体自身の力でウイルスを外に出す手助けをすることが中心です。

この治療法を「対症療法」と呼びます。 具体的には、次の2つが治療の大きな柱となります。

治療の基本は「脱水」対策

下痢やおう吐が続くと、体から大量の水分と塩分が失われます。 この「脱水症状」を防ぐことが、回復への一番の近道です。

  • 水分補給のポイント
  • 飲むもの 水分と塩分を効率よく吸収できる「経口補水液」が最も適しています。
  • 飲み方 一度にたくさん飲むと吐き気を誘うため、少しずつこまめに飲むのがコツです。

やってはいけない自己判断

早く治したい気持ちから薬に頼りたくなりますが、注意が必要です。

  • 抗菌薬(抗生物質)の使用 ウイルスが原因の病気なので、細菌を倒す抗菌薬は効果がありません。
  • 下痢止め薬の使用 悪いウイルスを体の中に閉じ込めてしまい、かえって回復を遅らせる可能性があります。

予防こそが最大の治療法

治療が対症療法に限られるため、そもそも感染しないための予防が重要です。 特にワクチンは、重症化を防ぐうえで最も効果的な方法とされています。

  • ロタウイルスワクチン 赤ちゃんの重い胃腸炎を防ぐために、世界100か国以上で推奨されています。 このワクチンには2回接種するものと、3回接種するものがあります。 ある研究では、3回より2回接種のほうが最後まで打ち終える割合が高い国もあったと報告されています。 病気をしっかり防ぐためには、決められた回数を打ち切ることが大切です。
  • ノロウイルスワクチン 現在、赤ちゃんを対象とした新しいワクチンの開発が進められています。 最近の研究では、このワクチン候補の安全性が高く、体を守る力をしっかりつけられることが報告され、今後の効果が期待されています。

水分が全くとれない、ぐったりしているなど、脱水のサインが見られたら、早めに医療機関を受診してください。