S状結腸軸捻転

突然の激しい腹痛と、パンパンに張るお腹。それはただの便秘ではなく、命に関わる「S状結腸軸捻転」のサインかもしれません。この病気は、大腸の一部がまるで水道のホースのように根元からねじれ、便やガスの通り道を完全に塞いでしまう危険な状態です。

さらに深刻なのは、腸に栄養を送る血管も一緒にねじれ、血流が止まってしまう点です。放置すれば腸が壊死し、命を脅かす事態に発展します。実際、アメリカでは大腸閉塞の10~15%がこの病気によるものと報告されており、決して他人事ではありません。

この記事では、S状結腸軸捻転の詳しい原因や見逃してはいけない初期症状、そして時間との勝負になる治療法について詳しく解説します。長年の便秘が原因になることもあるこの病気について、ご自身や大切な家族の体を守るための正しい知識を身につけましょう。

S状結腸軸捻転の概要

S状結腸軸捻転とは、大腸の一部がねじれてしまう病気です。 お腹の左下あたりには、S字にカーブした「S状結腸」があります。 この部分が、まるで水道のホースのように、根元から回転します。

腸がねじれると、便やガスの通り道が完全にふさがれてしまいます。 この状態を「腸閉塞(ちょうへいそく)」と呼びます。 さらに深刻なのは、腸に栄養を送る血管も一緒にねじれる点です。 血流が止まると、腸の組織が死ぬ「壊死(えし)」や、 腸に穴が開く「穿孔(せんこう)」を起こす危険があります。 これは命に関わる緊急事態であり、一刻も早い対応が必要です。

ある報告では、アメリカで起こる大腸閉塞の10~15%が、 この結腸捻転によるものだとされています。 腸の血流が悪くなる「虚血(きょけつ)」や穿孔を防ぐため、 疑わしい症状があれば迅速な診断と治療が不可欠なのです。

S状結腸軸捻転の治療では、主に3つの目標を立てます。

  • ねじれの解消 まずはねじれを元に戻し、便やガスの通り道を確保します。
  • 腸の状態確認 血流が止まっていた腸が、元気かどうかを確認します。
  • 再発の予防 一度ねじれた腸は再びねじれやすいため、予防策を講じます。

これらの目標を達成するため、迅速な治療が求められます。

S状結腸軸捻転の種類

大腸がねじれてしまう病気は、ねじれる場所で種類が分かれます。 これらをまとめて「結腸軸捻転症(けっちょうじくねんてんしょう)」と呼びます。 ある研究によると、結腸軸捻転症のほとんどは、 「S状結腸」か「盲腸」のどちらかで発生すると報告されています。

  • S状結腸軸捻転症 大腸の出口に近い、アルファベットのS字部分がねじれるタイプです。 結腸軸捻転症の中で最も多く、ご高齢の方に起こりやすいです。 長年の便秘で腸に負担がかかっていることも関係します。
  • 盲腸軸捻転症 小腸と大腸のつなぎ目にあたる盲腸がねじれるタイプです。 S状結腸の次に多く、比較的お若い方に起こることもあります。 生まれつき腸が固定されにくいなど、体の構造が影響します。

種類

ねじれる場所

主な特徴

S状結腸軸捻転症

大腸の肛門に近い部分(S状結腸)

最も多いタイプ。ご高齢の方や便秘の方に多い。

盲腸軸捻転症

小腸と大腸のつなぎ目(盲腸)

2番目に多い。比較的若い方にも起こりうる。

結腸軸捻転症は、どのタイプでも命に関わる危険な状態です。 腸への血流が途絶えると、腸の組織が死んでしまうためです。 そのため、どちらのタイプであっても迅速な診断と治療が求められます。

S状結腸軸捻転の原因

S状結腸がねじれてしまう原因は、一つだけではありません。 生まれつきの体の特徴と、生活の中での要因が重なって起こります。 これらがどのように関係するのか、具体的に見ていきましょう。

生まれつきの体の特徴(先天的な原因)

もともと体のつくりとして、S状結腸がねじれやすい方がいます。 腸が動きやすい構造になっていることが、主な理由です。

  • 大腸が通常より長い 結腸過長症(けっちょうかちょうしょう)とも呼ばれます。 腸が長い分、お腹の中でたるみやすく、ねじれの原因になります。
  • 腸を支える膜が長い 腸間膜(ちょうかんまく)という膜が、腸を支えています。 この膜が長いと、腸が振り子のように動きやすくなります。

生活の中での要因(後天的な原因)

日々の生活習慣や、かかっている病気が原因となることもあります。 ご自身の生活に当てはまるものがないか、確認してみてください。

  • 長年の便秘 たくさんの便が腸にたまると、S状結腸は重くなります。 重くなった腸が動くことで、根元からねじれやすくなります。
  • 加齢や寝たきりの生活 体を動かす機会が減ると、腸の動きも悪くなりがちです。 また、加齢でお腹の脂肪が減ると、腸が固定されにくくなります。
  • 他の病気や手術の影響 パーキンソン病などの神経の病気や、お腹の手術後に、 腸が動きにくくなったり、癒着したりして発症することがあります。 まれに、腸を支える膜が硬くなる「硬化性腸間膜炎」という病気が、 腸のねじれを引き起こすことも報告されています。

S状結腸軸捻転の症状

S状結腸がねじれると、多くの場合、症状は突然あらわれます。 便やガスの通り道が完全にふさがれてしまうためです。 以下のような症状が、複数同時に現れたら注意が必要です。

  • 突然の激しいおなかの痛み これまでに経験したことのないような、強い痛みが急に起こります。 体を動かすなどの、ささいなきっかけで始まることもあります。
  • おなかがパンパンに張る 腸の中にガスや便がたまり、風船のようにおなかが膨らみます。 外から見て、おなかが左右非対称に盛り上がることもあります。
  • 吐き気や嘔吐 腸の中身が行き場を失い、口から逆流してしまうために起こります。
  • 便やおならが全く出なくなる 腸の通り道が、完全にふさがれていることを示す重要なサインです。

これらの症状を放置すると、非常に危険な状態へと進みます。 ねじれた腸には血液が流れなくなり、組織が死んでしまうのです。 この状態を「壊死(えし)」と呼び、腸に穴が開くこともあります。

症状からこの病気を強く疑い、迅速な診断と治療が不可欠です。 健康な腸と命を守るため、ためらわずに医療機関を受診してください。

S状結腸軸捻転の検査・診断

S状結腸軸捻転は、腸への血流が止まる危険な状態です。 腸が死んでしまう「壊死(えし)」や、穴が開く「穿孔(せんこう)」を防ぐため、 症状からこの病気を強く疑い、急いで診断を下す必要があります。 診断は、いくつかの検査を組み合わせて慎重に行われます。

  • 問診・触診 まず、医師が患者さんから症状を詳しくお聞きします。 「いつから痛いか」「どんな痛みか」などが重要です。 次にお腹を直接触って、張りの強さや痛みの場所を確認します。
  • 画像検査 体の内部を「見る」ことで、腸の状態を正確に把握します。
  • レントゲン検査 お腹の中のガスの状態を確認する、基本的な検査です。 ねじれた腸はガスでパンパンに膨らみ、 大きなコーヒー豆のように見えることがあります。
  • CT検査 体を輪切りにしたような、とても詳しい画像を撮影します。 腸のねじれの場所や、血流の状態までわかります。 命に関わる腸の壊死が起きていないか判断できます。
  • 超音波(エコー)検査 放射線を使わないため、体への負担が少ない検査です。 最近では、特に小さなお子さんの診断で役立つことが増え、 その有用性が注目されています。
  • 血液検査 血液を調べることで、体全体の健康状態を確認します。 体の中で炎症が起きていないか、脱水がないかを調べます。

これらの検査結果を総合的に見て、診断を確定させます。 腸の壊死や穿孔は命に関わるため、 一刻も早く診断し、治療へ移ることが最も大切なのです。

S状結腸軸捻転の治療

S状結腸軸捻転の治療は、時間との勝負です。 ねじれによる腸の血流障害(虚血)や、 腸に穴が開く穿孔を防ぐため、迅速な対応が求められます。 治療の目標は、主に以下の3つです。

  • ねじれの解消 まずは腸のねじれをほどき、便やガスの通り道を確保します。
  • 腸の状態確認 血流が止まっていた腸が、元気かどうかを確かめます。
  • 再発の予防 再びねじれないように、根本的な対策を考えます。

治療法は、主に「内視鏡治療」と「手術」の2つです。 どちらの方法を選ぶかは、腸の壊死の有無や患者さんの体力など、 様々な状態を考慮して、慎重に判断されます。

内視鏡治療

多くの場合、まずはお腹を切らない内視鏡治療が試みられます。 お尻からカメラ(内視鏡)を入れ、ねじれを直接見てほどきます。 この方法は体への負担が少なく、研究によれば、 75%以上のケースでねじれを解消できると報告されています。

しかし、この治療には大きな注意点があります。 それは、再発する可能性が非常に高いことです。 ある報告では、再発率は30%から90%にもなるとされています。 そのため、根本的な解決にはならない場合があるのです。

手術治療

内視鏡で治療できない場合や、再発を防ぎたい場合に手術を行います。 特に、以下のような状況では手術が必要です。

  • 腸がすでに死んでいる(壊死)、またはその疑いが強い
  • 内視鏡でねじれが戻らない、または危険と判断された
  • 短い期間で何度も再発を繰り返している

手術では、ねじれの原因であるS状結腸を切除し、つなぎ直します。 これにより、再発を根本的に防ぐことが可能になります。 腸の壊死が進んでいる場合の緊急手術は命を救うために不可欠ですが、 一度内視鏡で治した後に、計画的に手術を行うこともあります。