HFpEF
「心臓のポンプ機能は正常」と言われたのに、息切れやむくみといった心不全症状に悩んでいませんか?HFpEF(左室駆出率保持型心不全)は、特に高齢者や高血圧、糖尿病を持つ方に多く見られ、「なぜ改善しないのか」と不安を感じる方も少なくありません。
この記事では、診断が難しく、治療法も複雑とされるHFpEFについて詳しく解説します。その根本的な病態から、多様な原因、現れる症状、適切な検査・診断方法、さらに最新の治療アプローチまで紹介します。
ご自身の心臓の状態を深く理解し、適切な治療や生活習慣の改善に取り組むことで、症状の緩和と生活の質の向上が期待できます。この記事が、HFpEFと向き合うあなたの一助となることを願っています。
HFpEFとは、心臓のポンプ機能が保たれているにもかかわらず、心不全の症状が現れる病気です。正式名称は「左室駆出率保持型心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction)」といいます。この病気では、心臓の左心室が血液を全身に送り出す力(駆出率)は正常範囲にあるものの、心臓の筋肉が硬くなることで、十分な量の血液を受け止めることが難しくなります。その結果、全身へ送られる血液が不足し、息切れやむくみといった心不全特有の症状が現れてしまうのです。
HFpEFは、特に高齢者や高血圧、糖尿病といった生活習慣病がある方に多く見られます。一般的な心不全(HFrEF:左室駆出率低下型心不全)とは病態が異なり、心臓が硬くなり、血液を効率よく取り込めなくなる点が大きな特徴です。
心不全治療においては、心血管疾患による死亡、罹患、入院のリスクが今なお大きな課題として認識されています※。HFpEFの治療は、このような背景の中でHFrEFとは異なる難しさがあります。なぜなら、HFrEFに有効とされている治療薬が、HFpEF患者さんには必ずしも同じ効果を示さないケースがあるためです。
たとえば、ベリシグアトという心不全治療薬に関する臨床研究では、HFrEF患者さんにおいて心血管死亡や心不全入院のリスクを減らす効果が示されました。しかし、HFpEF患者さんには明確な治療効果が認められなかったという結果が報告されています※。このように、HFpEFは病態が複雑で、一人ひとりの患者さんに合わせた治療を見つけ出すことが非常に重要とされています。現在も、HFpEF患者さんに対する新たな治療法の可能性を探るため、大規模な研究が世界中で進められています※。
HFpEFの種類
HFpEFは、心臓のポンプ機能は保たれていても、心臓の筋肉が硬くなり、血液を十分に受け止められない「拡張機能不全」を根本的な病態とする心不全です。しかし、この病気は一括りにできない多様な側面を持っており、その背景にはさまざまな要因が複雑に絡み合っています。ご自身のHFpEFがどのような特徴を持つのかを理解することは、適切な治療法を見つけるための大切な第一歩となります。
HFpEFの病態を理解するためには、主に以下の3つの側面から考えることができます。
・併存疾患との関連性
肥満、糖尿病、高血圧といった生活習慣病は、HFpEFと密接に関連しており、高頻度で重複して発症することが知られています。これらの病気は、心臓に過度な負担をかけ続け、心臓の筋肉が厚くなったり(心肥大)、硬くなったりする(心臓の線維化)原因となります。その結果、心臓が血液を取り込む能力が低下し、拡張機能不全を招いてしまうのです。併存疾患の管理は、HFpEFの進行を抑える上で非常に重要な意味を持ちます。
・心臓の構造的・機能的変化
HFpEFの患者さんの心臓には、特徴的な構造的・機能的な変化が見られます。たとえば、心臓の筋肉が厚くなる「心肥大」や、心臓の組織が硬くなる「心臓の線維化」は、心臓が十分に拡張して血液を取り込むのを妨げます。また、心臓が血液を全身に送り出す際の力(収縮機能)は保たれていても、拡張する能力が低下しているため、結果として全身に必要な血液が供給されにくくなります。これらの変化が、息切れやむくみといった心不全症状の直接的な原因となることがあります。
・心房細動(AF)の合併
心房細動(AF)は、心臓の心房と呼ばれる部分が不規則に震える不整脈の一種です。HFpEFとAFは、特に肥満、糖尿病、高血圧といった併存疾患を持つ患者さんで高頻度に重複して発症します※。HFpEFでは、心臓が硬くなることで血液の逆流が起こりやすくなり、左心房内の圧力が高まります。この圧力上昇が、心臓の構造を変化させる「心房リモデリング」を引き起こし、AFの発生を促し症状を悪化させる一因となるのです※。
HFpEFの治療法は限られていますが、AFに対してはカテーテルアブレーション(CA)という治療法が注目されています。CAは、不整脈の原因となる心臓の部位を焼灼することで、AFの発生を抑え、心臓への負担を軽減する治療です。この治療によってAFの負荷が減少し、患者さんのQOL(生活の質)を改善したり、入院するリスクを減らしたりする可能性が示唆されています※。現在も、HFpEF患者さんのAFに対するCAの有効性や、その治療が患者さんの予後(今後の見通し)にどう影響するかについて、世界中で大規模な研究が進められています※。
このように、HFpEFは一括りにはできない、さまざまな要因が複雑に絡み合った病気です。ご自身のHFpEFがどのような特徴を持つのかを理解することは、適切な治療法を見つけるための大切な第一歩となるといえます。
HFpEFの原因
HFpEFの発症には、心臓そのものの機能的な変化だけでなく、全身の健康状態やさまざまな持病が深く関わっています。これらの要因が複雑に絡み合い、心臓のポンプ機能が保たれているにもかかわらず、心不全症状を引き起こすことがあります。
HFpEFに影響を与える主な要因は、以下のとおりです。
・加齢
年齢を重ねると、心臓の筋肉は自然と厚くなり、弾力性が失われやすくなります。これは、心臓の組織にコラーゲンが増えるなどの変化が影響していると考えられています。心臓が硬くなると、血液を十分に吸い込むための「拡張機能」が低下し、全身に送る血液量が不足しやすくなります。多くのHFpEF患者さんは高齢者であることが知られており※、加齢はHFpEFの重要な原因の一つです。
・高血圧
高血圧が長く続くと、心臓は常に高い圧力に逆らって血液を全身に送り出す必要があります。この状態が慢性的に続くことで、心臓の筋肉は過度な負荷に耐えようと壁が厚くなり(心肥大)、次第に硬く変化していきます。結果として、心臓が十分に広がって血液を受け入れることが難しくなり、HFpEFを発症しやすくなります。
・糖尿病
糖尿病は、高血糖状態が続くことで全身の血管にダメージを与えます。特に心臓の小さな血管(微小血管)にも影響を及ぼし、心臓の筋肉に十分な酸素や栄養が行き渡りにくくなります。このダメージが心臓の柔軟性を低下させ、拡張機能の障害につながり、HFpEFのリスクを高める要因となります。
・肥満
肥満は、高血圧や糖尿病など、他のHFpEFのリスク要因を悪化させるだけでなく、心臓自体にも直接的な負担をかけます。体脂肪が増えることで全身に供給すべき血液量が増加し、心臓がより多くの仕事をしなければならなくなります。また、肥満は慢性的な炎症反応を引き起こし、心臓の機能に悪影響を与えると考えられています。
肥満のあるHFpEF患者さんの場合、体重を減らすことで心不全の症状が改善したり、生活の質(QOL)が向上する可能性が指摘されています※。例えば、特定のお薬(セマグルチド)を用いた臨床試験では、HFpEF患者さんで体重減少とQOL改善の効果が示されています※。また、食事や運動などの「ライフスタイル介入」による体重減少も、HFpEF患者さんの症状改善につながることがわかっています※。
このように、HFpEFの治療や研究では、肥満が重要な要素として注目されており、最近の心不全が悪化したHFpEF患者さんを対象とした大規模な臨床研究(PARAGLIDE-HF試験など)でも、「高度肥満」の患者さんが治療効果を評価する上で重要な群の一つとして含まれています※。
・その他の要因
慢性腎臓病は、腎機能の低下により体内の水分や塩分バランスが崩れ、心臓に負担をかけます。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺の病気ですが、心臓に血液を送る肺動脈の圧力を上昇させ、心臓に間接的な負担を与えることがあります。また、睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まることで体内の酸素濃度が低下し、心臓にストレスをかけるため、HFpEFの発症や悪化に関連すると考えられています。
これらの要因は単独ではなく、複数組み合わさることで、心臓の拡張機能障害を進行させ、HFpEFへとつながることが少なくありません。患者さん一人ひとりの背景によって、関わる要因はさまざまです。
HFpEFの症状
心不全と診断されるHFpEFでは、心臓の拡張機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなるため、さまざまな症状が現れます。これらの症状は、他のタイプの心不全と似ていますが、心臓のポンプ機能(収縮機能)は保たれているにもかかわらず、心臓が硬くなることで起こる点が特徴です。ここでは、HFpEFによって引き起こされる主な症状について、そのメカニズムとともに解説します。
HFpEFでみられる主な症状は、次のとおりです。
・息切れ(呼吸困難)
HFpEFでは、硬くなった心臓が肺から送られてくる血液を十分に受け止められなくなります。そのため、肺に血液がうっ滞しやすくなり、息苦しさを感じやすくなります。特に、体を動かすと体はより多くの酸素を必要とするため、心臓への負担が増し、息切れが強まる傾向があります。
また、夜間に横になると血液が肺に戻りやすくなるため、肺へのうっ滞がさらにひどくなり、息苦しさが増すことがあります。枕を高くしたり、上半身を起こして寝たりすると楽になるのは、この肺への血液のうっ滞が軽減されるためです。
・倦怠感・疲れやすさ
心臓が全身へ送り出す血液の量が十分でないため、体中の細胞に必要な酸素や栄養が届きにくくなります。その結果、体がだるく感じたり、疲れやすくなったりするのです。これまで難なくこなせていた家事や、ちょっとした運動でもすぐに疲れてしまうといった変化があれば、注意が必要です。
・むくみ(浮腫)
HFpEFでは、心臓が血液を十分に吸い込めないため、心臓に戻るべき血液が体の方に滞留しやすくなります。これにより、体内の水分が血管の外に染み出し、足首やふくらはぎ、すねなどにむくみ(浮腫)として現れることがあります。靴下の跡がなかなか消えなかったり、顔が腫れぼったく感じたり、特に思い当たる原因がないのに体重が増えたりといった症状が見られます。
・咳や痰
心臓の拡張機能が低下し、肺の血管に血液がうっ滞すると、水分が肺の組織に染み出してきます。これにより、乾いた咳が出やすくなったり、ピンク色の泡のような痰が絡んだりすることがあります。風邪ではないのに咳が長引く場合は、心不全のサインである可能性も考えられます。
・動悸
HFpEFによって全身に必要な血液量が不足すると、心臓はそれを補おうとして、いつも以上に強く、速く拍動することがあります。これにより、心臓がドキドキしたり、脈が飛んだりするような動悸を感じる場合があります。
これらの症状は、初期にはごく軽微であるため、「歳のせいかな」と見過ごしてしまうケースも少なくありません。しかし、放置すると日常生活に大きな支障をきたし、生活の質(QOL)が大きく低下する可能性があります。
特に、肥満を合併しているHFpEF患者さんでは、意図的な体重減少が症状改善の鍵となることがあります。ある研究では、肥満のあるHFpEF患者さんに対するライフスタイル改善(食事や運動など)や、特定の薬物療法(セマグルチドなど)による体重減少が、息切れなどの症状やQOLの向上につながることが報告されています※。これらの治療は、体重減少を促し、心臓への負担を軽減することで、患者さんの状態を良くする可能性が期待されています。
少しでも「おかしいな」と感じたり、上記のような症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、医師へ相談することが大切です。
HFpEFの検査・診断
HFpEF(心臓のポンプ機能が保たれている心不全)の診断は、単一の検査で判断できるものではなく、患者さんの症状や体の状態、そして複数の検査結果を総合的に評価して確定します。特に「心不全の症状があるのに、心臓が血液を送り出す力(左室駆出率)は保たれている」という、HFpEF特有の病態を正確に見極めることが重要です。
HFpEFの診断に欠かせない検査には、次のものがあります。それぞれの検査で心臓の状態を多角的に把握していきます。
・問診・身体診察
息切れやむくみといった心不全に典型的な症状、過去の病歴などを医師が詳細に確認します。患者さんご自身が日頃感じる些細な変化が、診断の手がかりになることがあります。
・血液検査
心臓に負担がかかっている時に増加する「BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)」や「NT-proBNP」といったホルモンの値を測定します。これらの数値が高い場合、心不全の可能性が強く疑われます。血液検査は、心臓の状態を数値で客観的に捉える上で重要です。
・心電図
心臓の電気的な活動を記録し、不整脈の有無や心臓の筋肉が厚くなっていないか(心肥大)といった兆候を探します。心臓のリズムの乱れや構造的な変化のヒントを得ることができます。
・胸部X線検査
心臓の大きさ(胸部レントゲン写真上の心臓の影)や、肺に水分が溜まっていないか(肺うっ血)を確認します。肺うっ血は、心臓が血液を十分に吸い込めず、肺に血液が滞っているサインです。
・心エコー検査(心臓超音波検査)
この検査はHFpEFの診断において特に重要です。超音波を使って心臓の動き、弁の状態、血流などをリアルタイムで確認できます。心臓が血液を送り出す力(左室駆出率)が保たれているかはもちろん、HFpEFで問題となる「拡張機能」(心臓が血液を吸い込む力)に異常がないかを評価します。
さらに、心エコー検査では、心臓の構造や機能が時間とともにどう変化したかを詳細に評価することも可能です。たとえば、ある研究では、HFpEFの治療法の一つである心房シャント治療の効果を評価する際に、以下のような詳細な心エコーデータが用いられました※。
心エコーの指標 | その指標が示す意味 | 治療後の変化から考えられること
左心室拡張末期容積 (LVEDV) | 左心室が血液を最も貯め込んだ時の容積 | 減少傾向 ・左心室の過度な膨張が抑えられ、負荷が軽減される可能性※
左心房最小容積 (LAVmin) | 左心房が血液を送り出した後の最小容積 | 減少傾向 ・左心房にかかる負担が軽くなる可能性※
左心室収縮期組織ドップラー速度 | 左心室の筋肉が収縮する際の速度 | 改善傾向 ・心筋の収縮効率が向上する可能性※
左心房駆出分画 | 左心房が血液を送り出す効率 | 改善傾向 ・左心房から左心室への血液供給がスムーズになる可能性※
右心室/右心房容積 | 右心室・右心房に貯まる血液の量 | 増加傾向 ・左心系の負荷軽減により、右心系に一時的に血液が貯まりやすくなる可能性※
これらの詳しい指標を評価することで、心臓のどの部分にどのような変化が起きているのかを把握し、HFpEFの病態を深く理解することに役立ちます。また、治療によってこれらの数値がどのように変化するかを追跡することで、治療効果を客観的に判断する手がかりにもなります※。
・心臓カテーテル検査・心臓MRI
より詳しい情報が必要な場合や、他の検査では診断が難しいケースでは、これらの精密検査が検討されます。心臓カテーテル検査は、カテーテル(細い管)を血管から挿入して心臓内の圧力を直接測ったり、造影剤を使って血管の状態を詳しく見たりする検査です。心臓MRIは、磁気と電波を使って心臓の筋肉や血流をさらに鮮明に画像化できる検査です。
これらの多岐にわたる検査結果に加えて、患者さん一人ひとりの状態を総合的に判断することで、専門医はHFpEFの診断を確定します。HFpEFは非常に複雑な病態を持つため、詳細な検査と専門的な知識に基づいた評価が、適切な診断と治療への第一歩となるのです。
HFpEFの治療
HFpEF(心臓のポンプ機能が保たれた心不全)の治療は、単一の薬や方法で完結するものではありません。この病気は患者さん一人ひとり、その背景や病態が異なるため、病気の原因となっている問題を特定し、それに応じた治療戦略を立てることが極めて重要です。現在、治療の中心は薬物療法、生活習慣の改善と併存疾患の管理、そして特定のケースでデバイス治療が検討されます。
薬物療法
HFpEFの薬物療法は、つらい症状を和らげ、病気の進行を抑えることを目的とします。一般的な心不全治療薬が必ずしもHFpEFに有効とは限らないため、近年も新しい治療薬の研究が活発に進められています。
・サクビトリル/バルサルタン
この薬は、心臓の負担を軽減し、体内の余分な水分を排出するのを助ける作用があります。最近心不全が悪化したHFpEFまたはHFmrEF(駆出率が軽度低下した心不全)の患者さんを対象に、サクビトリル/バルサルタンの安全性と効果を評価する大規模な臨床試験「PARAGLIDE-HF試験」が行われています。この研究は、過去の試験で十分に検討されなかった多様な患者層(例えば、初めて心不不全を発症したHFpEF患者さんや高度肥満の患者さんなど)への効果を検証しており、今後のHFpEF治療に重要な知見をもたらすことが期待されています※。
・ベリシグアト
ベリシグアトは、心臓の血管を広げ、心臓の機能を改善する作用を持つ薬です。左室駆出率低下型心不全(HFrEF)の患者さんにおいては、心血管系の死亡や心不全による入院のリスクを減らす効果が認められています。しかし、残念ながらHFpEFの患者さんでは、この薬による明確な治療効果は確認されていません※。そのため、HFpEF患者さんに対するベリシグアトの潜在的な効果をさらに詳しく調べるためには、大規模な研究が求められています※。
生活習慣の改善と併存疾患の管理
HFpEFの患者さんの多くは、高血圧、糖尿病、肥満といった他の病気(併存疾患)を抱えています。これらの併存疾患はHFpEFの発症や悪化に深く関わっているため、それらを適切に管理することが、HFpEFの症状改善や進行抑制に直接つながると考えられています。
・体重減少
肥満のあるHFpEF患者さんにとって、体重を減らすことは非常に重要です。体脂肪が増えると、心臓は全身に血液を送り出すためにより多くの仕事をしなければならず、心臓への負担が大きくなります。GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドのような薬物療法や、食事の見直し、適度な運動といったライフスタイル介入は、体重を減らすだけでなく、息切れなどの心不全症状の改善や生活の質(QOL)の向上につながる可能性があることが示されています※。
・心房細動の治療
心房細動(AF)は、心臓の心房が不規則に震える不整脈で、HFpEFの患者さんに高頻度で合併します。HFpEFでは、硬くなった心臓が血液を十分に吸い込めないため、心臓の左心房に圧力がかかりやすくなります。この圧力の上昇は、心房の構造を変形させる「心房リモデリング」を引き起こし、AFの発生や悪化を助長します※。AFの治療法としてカテーテルアブレーション(CA)が注目されています。CAは、AFの原因となる心臓内の異常な電気信号の発生源を焼灼することで、AFの発作を抑制する治療法です。この治療によってAFの負荷が減り、患者さんのQOLが改善したり、入院するリスクが減ったりする可能性が示されています※。
デバイス治療の可能性
薬物療法や生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られないHFpEFの患者さんには、医療デバイスを用いた治療が検討されることがあります。
・心房シャントデバイス
心房シャントデバイスは、心臓の左心房にかかる高い圧力を軽減することを目的として、心臓内に設置される小さなデバイスです。これは、左心房の過度な拡張を抑え、心臓の形を良い状態に戻す(リバースリモデリング)効果が期待されます。
ある研究では、心房シャントデバイスの治療を受けた患者さんの心臓の構造と機能に、以下のような変化が見られました※。
心臓の指標 | 治療による変化 | その変化が示す意味
左心室拡張末期容積 (LVEDV) | 減少 | 左心室が血液を最も貯め込んだ時の容積が減り、心臓の過度な膨張が抑えられる可能性があります。
左心房最小容積 (LAVmin) | 減少 | 左心房が血液を送り出した後の最小容積が減り、左心房にかかる負担が軽くなる可能性があります。
左心室収縮期組織ドップラー速度 | 改善 | 左心室の筋肉が収縮する速度が向上し、心筋の収縮効率が高まる可能性があります。
左心房駆出分画 | 改善 | 左心房から左心室への血液供給がよりスムーズになる可能性があります。
右心室/右心房容積 | 増加 | 左心系の負荷軽減によって、右心系に一時的に血液が貯まりやすくなる可能性があります。
特に、潜在的な肺血管疾患がなく、心臓のリズム管理デバイスを使用していない「レスポンダー」と呼ばれる特定の患者さんでは、これらの構造的・機能的変化がより良好に現れることが示唆されています※。
これらの治療は、患者さんの状態、病気の進行度、併存疾患などを考慮して、専門医が最適な方法を提案します。定期的な診察を受け、医師と相談しながら治療を進めることが大切です。









