顔を強くぶつけた後、鼻の形が変わったり急に息苦しくなったりしていませんか。その症状は単なる打撲ではなく「鼻中隔骨折」のサインかもしれません。鼻中隔骨折は顔の骨折で最も多い鼻骨骨折の42〜96%に合併すると報告されており、決して珍しいケガではありません。
この記事では、鼻中隔骨折の主な症状や原因、放置した場合のリスクを解説します。また、見逃すと深刻な後遺症につながる「鼻中隔血腫」という合併症や、検査から治療までの具体的な流れも紹介します。
ご自身の状態を正しく理解し、適切な対処法を知ることで、将来的な鼻の変形や慢性的な鼻づまりといった後遺症を防ぐための一歩を踏み出せるようになります。
鼻中隔骨折の概要
鼻中隔骨折とは、鼻の左右の空間を隔てている壁(鼻中隔)が、骨折や脱臼を起こした状態を指します。
この骨折は単独で起こることはまれで、顔の骨折で最も頻度の高い鼻骨骨折に伴って発症することがほとんどです。報告によっては、鼻骨骨折の42〜96%に鼻中隔骨折が合併するとされています※。
鼻中隔は一枚の板ではなく、奥にある硬い骨の部分(篩骨垂直板・鋤骨)と、手前側の柔らかい軟骨(四角軟骨)からなる複雑な構造をしています。
これらの骨と軟骨が、鼻筋の形を維持し、呼吸の際の空気の通り道を確保するという2つの重要な役割を担っているのです。特に、鼻の中央部分にある「キーストーンエリア」と呼ばれる部分は、鼻全体の構造を支える要(かなめ)ともいえる場所です※。
そのため、鼻中隔を骨折すると、鼻が曲がるといった見た目の問題だけでなく、深刻な鼻づまりなど呼吸機能にも影響が及ぶ可能性があります※。
また、骨と軟骨からできている複雑な構造のため、一度折れると整復しても適切に固定するのが難しく、変形が残ってしまった場合には、後日改めて手術が必要になるケースも少なくありません。
鼻中隔骨折の種類
鼻中隔骨折は、骨の折れ方で分類するよりも、緊急の対応が必要となる「鼻中隔血腫(びちゅうかくけっしゅ)」という合併症を起こしているかどうかが、その後の経過を左右する最も重要なポイントになります。
鼻中隔血腫とは、鼻の仕切りである鼻中隔の内部に、血液のかたまりができてしまう状態です。
鼻中隔は、内頸動脈と外頸動脈という2つの主要な血管から血液が供給される、非常に血流が豊富な場所です※。そのため、骨折の強い衝撃で血管が破れると、軟骨を覆って栄養している「軟骨膜」の下に血液が溜まり、血腫を形成することがあります。
この鼻中隔血腫を放置してしまうと、以下のような深刻な事態につながる可能性があります。
- 軟骨が溶けてしまう(壊死)
血腫が風船のように膨らむことで軟骨膜が押し上げられ、軟骨への栄養供給がストップしてしまいます。その結果、軟骨組織が死んでしまい(壊死)、溶けてしまうことがあります。
- 鼻が変形してしまう(鞍鼻)
軟骨が壊死すると、鼻筋を支える力が失われ、鼻の中央部がへこんだ「鞍鼻(あんび)」と呼ばれる変形をきたす原因になります。
- 細菌に感染する
血液のかたまりは細菌にとって格好の栄養源となるため、感染を起こして膿がたまってしまう(鼻中隔膿瘍)リスクもあります。
一度溶けてしまった軟骨をもとに戻すことは難しく、鼻の変形は永続的な後遺症となる可能性があります。
そのため、鼻中隔血腫は、見つかり次第すぐに切開してたまった血液を取り除く緊急処置が必要です。鼻を強くぶつけた後、急に両方の鼻づまりがひどくなったり、鼻全体が大きく腫れたりした場合は、「ただの打撲」と考えず、速やかに耳鼻咽喉科や形成外科を受診してください。
鼻中隔骨折の原因
鼻中隔骨折は、顔面に強い衝撃が加わる外傷によって引き起こされます。日常生活でのふとした事故からスポーツ、交通事故まで、その原因は多岐にわたります。
具体的には、以下のような状況で起こりやすいです。
- スポーツ中のケガ
ボクシングや空手といった格闘技はもちろん、サッカーやバスケットボールなど、選手同士が激しく接触するコンタクトスポーツでの衝突。
- 交通事故
自動車事故のほか、バイク・自転車での転倒時にハンドルや地面で顔を強打する。
- 転倒・転落
階段から足を踏み外したり、歩行中につまずいて転んだりするなど、日常生活における不意の事故。
- 暴力行為
喧嘩などで顔を殴られる。
特に注意したいのが、お子様のケガです。子どもは活発に動き回るため転倒などが多く、一見すると些細なケガのように思えても、実は鼻中隔骨折に至っているケースも少なくありません※。
また、国内では頻度は高くないものの、銃による創傷(銃創)のような、極めて強い外力が原因となることも報告されています※。
このように、鼻中隔骨折はさまざまな場面で起こる可能性があります。顔面を強く打った際は、「ただの打撲」と軽視せず、早めに耳鼻咽喉科や形成外科を受診することが重要です。
鼻中隔骨折の症状
鼻中隔骨折が起きると、鼻血や鼻づまりといった症状のほか、鼻の形そのものに変化が生じます。顔を強くぶつけた後に、以下のようなサインが見られたら骨折を疑う必要があります。
- 止まりにくい鼻血(鼻出血)
鼻中隔は血流が非常に豊富なため、骨折によって血管が傷つき、なかなか止まらない鼻血が出ることがあります。一度止血できても、軽い刺激で繰り返し出血することも少なくありません。
- 急な鼻づまり(鼻閉)
骨折で鼻中隔が曲がったり、内部の腫れや血のかたまり(血腫)ができたりして、空気の通り道が物理的にふさがれてしまいます。そのため、急に息苦しさや強い鼻づまりを感じるようになります。
- 鼻の形の変化(外鼻変形)
鼻の骨格を支える鼻中隔が折れることで、鼻筋が左右どちらかに曲がったり、鼻全体が低くなったように見えたりします。これは鼻の構造的な支えが失われたサインといえます。
- 鼻の中の腫れ(鼻中隔血腫)
鼻の中をのぞいたとき、左右を隔てる壁が紫色にぷっくりと風船のように腫れている場合、緊急性の高い「鼻中隔血腫」の可能性があります。これは軟骨の内側で出血が起きている状態で、放置すると軟骨が溶けてしまう危険なサインです。
特に注意が必要なのが、お子様のケースです。
子どもは転んだりぶつかったりすることが多く、大人から見れば「たいしたことないケガ」に見えるかもしれません。しかし、一見すると軽い打撲でも、鼻中隔骨折を起こしている可能性は十分に考えられます。
小児の場合、放置してしまうと鼻の成長に影響を及ぼし、将来的な鼻の変形や慢性的な鼻づまりにつながるなど、深刻な後遺症を残すことがあります※。気になる症状があれば自己判断せず、速やかに耳鼻咽喉科や形成外科を受診してください。
鼻中隔骨折の検査・診断
鼻中隔骨折の診断は、問診や視診・触診といった基本的な診察から、鼻腔内の直接観察、CT検査までを段階的に行い、総合的に判断します。
顔面で最も頻度の高い鼻骨骨折には、42〜96%という高い確率で鼻中隔骨折が合併しているため、骨の状態を正確に評価することが極めて重要です※。
診断は、主に以下の流れで進められます。
- 問診と身体診察(視診・触診)
いつ、どこで、どのようにケガをしたのかといった受傷時の状況を詳しくお伺いします。そのうえで、鼻の外見に曲がりや腫れがないか、押さえて痛む場所はどこかなどを丁寧に確認します。
- 鼻腔内の直接観察(鼻鏡・内視鏡検査)
鼻鏡(びきょう)や内視鏡といった専用の器具を使い、鼻の内部を直接観察します。この検査の最大の目的は、放置すると軟骨が溶けてしまう危険な合併症「鼻中隔血腫(血のかたまり)」を見逃さないことです。あわせて、鼻中隔の曲がり具合や粘膜の状態も詳しく調べます。
- 画像検査(CT検査)
骨折の全体像を正確に把握するために、CT検査を行います。CT検査では、骨折線を立体的に描出できるため、骨のズレの程度や、周囲の骨への影響まで詳細に評価できます。これは、手術の必要性を判断し、治療方針を決定するうえで不可欠な情報といえます。
鼻中隔骨折は、鼻の形という見た目の問題だけでなく、鼻づまりといった呼吸機能にも影響を及ぼす可能性がある骨折です※。そのため、これらの検査を通して慎重に診断を下し、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てることが重要になります。
鼻中隔骨折の治療
鼻中隔骨折の治療は、まず緊急性の高い合併症への対応を最優先し、骨折そのものを治す手術は後日行う、という二段階で進めるのが基本です。
最初に、放置すると鼻の軟骨が溶けてしまう危険な合併症「鼻中隔血腫(びちゅうかくけっしゅ)」が起きていないかを確認します。
もし鼻中隔に血のかたまり(血腫)が見つかった場合は、軟骨が壊死して鼻の形が崩れる(鞍鼻)のを防ぐため、感染予防の観点からも、ただちに切開して溜まった血液を取り除く緊急処置を行います。
骨折自体の根本的な治療は、顔の腫れが落ち着いてから手術で整復するのが一般的です。これは、鼻の内部を支える鼻中隔が骨と軟骨からなる複雑な構造をしており、すぐに正確な位置で固定するのが難しいためです。
手術(鼻中隔矯正術など)の際の麻酔方法は、全身麻酔と局所麻酔から選択されます。
どちらの方法が良いか迷われるかもしれませんが、複数の研究報告を分析した結果によると、どちらの麻酔を選んでも、治療後の見た目の満足度や鼻の変形が残る確率、再手術の必要性といった点で、統計的に大きな差はないことがわかっています※。
そのため、麻酔方法の選択は、骨折の重症度や患者さんご本人がどちらの方法を希望されるかといった点に基づいて、医師が総合的に判断します※。