味覚障害

食事の味がわかりにくくなったり、何を食べても嫌な味に感じたりしていませんか。国内では年間24万人以上が味覚の異常を訴えて受診しており、食生活の質を大きく左右する身近な問題といえます。

この記事では、味覚障害を引き起こす原因や症状のタイプを詳しく解説します。さらに、近年研究が進むアルツハイマー病といった認知機能との関連性についても、わかりやすく紹介します。

ご自身の状況と照らし合わせることで、味覚異常の背景にある原因を推測し、適切な対処法を見つける一助となります。身体からのサインを見逃さないためにも、ぜひ最後までお読みください。

味覚障害の概要

「食べ物の味がしない」「本来とは違う変な味がする」といった、味覚に関する異常全般を味覚障害と呼びます。

私たちの味覚は、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という小さな器官がセンサーの役割を果たし、キャッチした味の情報を神経を通じて脳へ送ることで成り立っています。この一連のプロセスのどこか一つにでも不具合が生じると、味覚に異常を感じるようになります。

日本国内では、年間24万人以上の方が味覚障害を訴えて医療機関を受診しており、その数は増加傾向にあります。

近年、この味覚障害が認知機能の重症度と関連する可能性がわかってきました。あるメタ分析(複数の研究結果を統合して分析する手法)によると、アルツハイマー病の患者さんでは、健康な方と比べて味を識別する力、特に酸味を感じる力が低下していることが示されています。

また、パーキンソン病の患者さんの中でも、軽度認知障害(MCI)を合併している方は、そうでない方と比べて甘味、塩味、酸味などを感じる力が低下しているという報告もあります。このように、味覚の変化が認知症の早期発見につながるサインとなる可能性も考えられており、さらなる研究が進められています。※

味覚障害の種類

味覚障害の症状は、単に「味がしない」だけでなく、その現れ方によっていくつかのタイプに分けられます。ご自身の症状がどのタイプに近いか、確認してみてください。

症状の現れ方はさまざまで、下表のように分類されます。

タイプ | 症状の具体例

味覚減退・味覚消失 | ・味の濃さが全体的に薄く感じる ・まったく味がわからなくなる

異味症(いみしょう) | 甘いはずのものが苦く感じるなど、本来とは違う味として認識してしまう

自発性異常味覚 | 何も口にしていないのに、常に苦味や塩味、金属のような味を感じる

解離性味覚障害 | 甘味・塩味・酸味・苦味・旨味のうち、特定の味(例:甘味だけ)がわからなくなる

悪味症(あくみしょう) | 何を食べても嫌な味に感じ、食事が不快になる

これらの症状は、一つだけ現れることもあれば、複数が重なって現れることも少なくありません。

また、味覚の変化は、他の病気のサインとして現れることもあります。

うつ病や統合失調症などの心の不調と味覚は関連があると考えられており、ある研究では、味覚障害のある人はうつ症状を経験しやすいことが報告されています。特に、甘味をおいしいと感じる度合いや、味を見分ける能力との関連が深い可能性が示唆されています。※

さらに、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経認知症でも、味覚機能の低下がみられることがわかっています。例えば、アルツハイマー病では特に酸味を、パーキンソン病に軽度認知障害が合併した場合は甘味・塩味・酸味を感じる力が低下しやすいといった特徴が報告されているのです。こうした味覚の変化が、認知機能の低下を早期に発見するためのサイン(化学感覚生体マーカー)となる可能性も指摘されており、研究が進められています。※

味覚障害の原因

味覚障害は、味を感じ取る仕組みのどこかに異常が生じることで起こり、その原因は一つとは限りません。複数の要因が複雑に絡み合っているケースも少なくないため、ご自身の生活習慣や体調と照らし合わせながら、考えられる原因を探っていきましょう。

味覚障害を引き起こす主な原因を、以下で詳しく解説します。

・味のセンサー「味蕾(みらい)」の機能低下

味を感じる舌の細胞「味蕾」は、約10~12日という短いサイクルで次々と新しく生まれ変わっています。この活発な新陳代謝に不可欠な栄養素が「亜鉛」です。

偏った食事や過度な飲酒、一部の薬剤の影響などで亜鉛が不足すると、味蕾の再生がうまくいかなくなり、味を感じる力が低下します。

また、加齢も味蕾の機能に影響を与える一因です。味蕾の数は年齢とともに減少し、唾液の分泌量も少なくなるため、味を感じにくくなる傾向があります。

・薬剤の副作用

服用しているお薬が、副作用として味覚に影響を及ぼすことがあります。

血圧を下げる薬や抗がん剤、抗生物質などが知られていますが、最近では、難治性の慢性的な咳に使われる一部の治療薬(P2X3受容体拮抗剤)でも、副作用として味覚の変化が報告されています。※

お薬を飲み始めてから味がわかりにくくなったと感じる場合は、自己判断で中断せず、必ず処方した医師や薬剤師にご相談ください。

・全身の病気やケガの影響

味覚の異常は、他の病気が原因で引き起こされることもあります。

・嗅覚の低下

風邪や新型コロナウイルス感染症などで鼻がつまり、においがわからなくなると、食べ物の「風味」が感じられなくなり、結果として味覚が低下したように感じることがあります。

・内科的な病気

糖尿病、腎臓病、鉄欠乏性貧血といった病気は、体内の代謝や神経の働きに影響を与え、味覚障害を引き起こす可能性があります。

・脳・神経の障害

顔面神経麻痺や脳梗塞、頭部のケガなどによって、味の情報を脳へ伝える神経経路が傷つくと、味覚に異常が生じます。

特に、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経認知症では、認知機能の低下とともに味覚の識別能力が落ちることがわかってきました。例えば、アルツハイマー病の患者さんでは酸味を感じる力が、パーキンソン病に軽度認知障害が合併した患者さんでは甘味・塩味・酸味を感じる力が低下しやすいと報告されています。※

・心の問題(心因性)

強いストレスや不安、うつ病などが、味覚に影響を及ぼすことは少なくありません。

特に統合失調症の患者さんでは、味覚の異常がうつ症状と関連している可能性が指摘されています。ある研究では、甘味をおいしいと感じる度合いや、味を見分ける能力と、うつ症状の間に深い関連がある可能性が示唆されました。※

・口の中の問題

舌の表面が荒れる「舌炎」や、唾液の分泌が減る「口腔乾燥症(ドライマウス)」も味覚障害の直接的な原因となります。唾液には、食べ物の味成分を溶かして味蕾に届けるという大切な役割があるためです。

味覚障害の症状

味覚障害の症状は、単に「味がしない」というだけでなく、その現れ方は多岐にわたります。

ご自身の症状がどのタイプに近いか、以下の表で確認してみてください。

タイプ | 症状の具体例

味覚減退・味覚消失 | ・味の濃さが全体的に薄く感じる ・まったく味がわからなくなる

異味症(いみしょう) | 甘いものが苦く感じるなど、本来とは違う味として認識してしまう

自発性異常味覚 | 何も口にしていないのに、常に苦味や塩味、金属のような味を感じる

解離性味覚障害 | 甘味・塩味・酸味・苦味・旨味のうち、特定の味(例:甘味だけ)がわからなくなる

悪味症(あくみしょう) | 何を食べても嫌な味に感じ、食事が不快になる

これらの症状は、食事の楽しみを奪うだけでなく、日常生活にさまざまな支障をきたす可能性があります。

例えば、味が薄く感じるために無意識に味付けを濃くしてしまい、塩分や糖分の過剰摂取から高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクを高めることがあります。

また、食欲そのものが低下して栄養不足に陥ったり、食べ物の腐敗に気づかず食中毒を起こしたりする危険性も考えられます。

さらに、味覚の異常が、他の病気のサインとして現れることもあります。

心の不調との関連も指摘されており、ある研究では、味覚に異常がある人はうつ症状を経験しやすいことが報告されています。特に、甘いものをおいしいと感じる度合いや、味を見分ける能力との関連が深い可能性が示唆されています。※

加えて、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経認知症でも、味覚機能の低下がみられることがわかってきました。例えば、アルツハイマー病では特に酸味を、パーキンソン病に軽度認知障害が合併した場合は甘味・塩味・酸味を感じる力が低下しやすいといった特徴が報告されているのです。こうした味覚の変化が、認知機能の低下を早期に発見するためのサイン(化学感覚生体マーカー)となる可能性も指摘されており、研究が進められています。※

このように、味覚の違和感は身体や心の状態を反映している場合があるため、軽視せずに医療機関へ相談することが大切です。

味覚障害の検査・診断

味覚障害の診断は、原因を正確に突き止めるため、詳細な問診を基本に、味覚機能検査や血液検査などを組み合わせて進められます。

「味がしない」「変な味がする」といった症状は、生活習慣から他の病気まで、さまざまな要因が隠れているサインです。そのため、まずは患者さんご自身のお話から原因を探る手がかりを見つけることが、診断の第一歩となります。

1. 問診

診断において最も重要な情報源となるのが問診です。原因を絞り込むため、以下のような内容を詳しくお伺いします。

・いつから、どのような味の異常を感じるか(味が薄い、違う味がする、など)

・服用中のお薬やサプリメントの種類と期間

・過去の病気やケガ、最近の体調変化(風邪、鼻づまり、など)

・食生活や飲酒、喫煙などの生活習慣

2. 味覚機能検査

問診で得た情報をもとに、味覚が客観的にどの程度機能しているかを評価します。

検査方法 | 内容

ろ紙ディスク法 | ・甘味、塩味、酸味、苦味の4つの基本味を染み込ませた小さな紙を舌に乗せる ・味の種類や濃さを正しく判別できるか調べる、味覚検査の標準的な方法

電気味覚検査 | ・舌に微弱な電流を流して味覚神経を刺激し、味を感じるかどうかを調べる ・検査の精度にはばらつきがあるため、複数の研究結果を統合した分析では、味覚障害の初期スクリーニング検査としては推奨されていません※

3. 血液検査

味を感じるセンサーである「味蕾」の細胞が、正常に生まれ変わるために必要な栄養素が足りているかを調べます。

特に、味覚に深く関わる亜鉛や、貧血の指標となる鉄などの数値を測定し、体内の栄養状態を確認します。

これらの基本的な検査に加えて、原因に応じて以下のような検査を追加することもあります。

・口腔内診察:舌の状態(舌炎)や唾液の量(ドライマウス)などを直接確認します。

・嗅覚検査:風味を感じるために重要な、においを判別する力が低下していないか調べます。

・画像検査(MRIなど):脳梗塞や腫瘍など、脳の病気が疑われる場合に行います。

味覚障害の治療

味覚障害の治療は、原因を正確に特定し、それに応じたアプローチを行うことが改善への鍵となります。治療法は原因によってさまざまですので、自己判断はせず、まずは専門医による診断が不可欠です。

味覚障害で最も多い原因とされるのが、味のセンサー「味蕾(みらい)」の新陳代謝に不可欠な亜鉛の不足です。この場合、亜鉛製剤を内服する「亜鉛補充療法」が治療の基本となります。

ただし、すぐに効果が現れるわけではなく、数カ月単位での治療継続が必要になることも少なくありません。また、自己判断で亜鉛を過剰に摂取すると、かえって他のミネラル(特に銅)の吸収を妨げてしまう可能性があるため、必ず医師の指導のもとで治療を進める必要があります。

服用中のお薬が原因で味覚に変化が生じる「薬剤性味覚障害」も珍しくありません。血圧の薬や利尿剤などが知られていますが、最近では、難治性の慢性的な咳に使われる一部の治療薬(P2X3受容体拮抗剤)が、咳を抑える効果が期待される一方で、副作用として味覚に影響を及ぼすことが報告されています※。

「薬を飲み始めてから味がわかりにくくなった」と感じる場合は、ご自身の判断でお薬をやめてしまうのではなく、必ず処方した医師や薬剤師に相談してください。

その他、原因に応じた主な治療アプローチを下表に整理します。

原因 | 主な治療アプローチ

全身の病気 | ・鉄欠乏性貧血や糖尿病など、原因となっている病気の治療を優先 ・病状が改善することで、味覚も回復に向かうことが期待できる

口の中の問題 (ドライマウスなど) | ・唾液の分泌を促すマッサージや、人工唾液、保湿剤などで口の中の潤いを保つ ・唾液は味の成分を味蕾に届ける大切な役割を担っている

心の問題 (心因性) | ・強いストレスやうつ病などが背景にある場合、カウンセリングや抗不安薬、抗うつ薬などを用いた治療を検討 ・精神科や心療内科と連携して進めることもある

このように、味覚障害の治療は多岐にわたります。味覚の違和感は、単に食事が楽しめなくなるだけでなく、栄養の偏りや生活習慣病のリスクにも繋がります。身体からの大切なサインと捉え、まずは専門の医療機関を受診しましょう。