上大静脈症候群

朝起きたら顔がパンパンにむくんでいる、シャツの一番上のボタンが閉めにくい。そんな経験を、単なる疲れや寝不足のせいだと思っていませんか?そのサインは、心臓へ血液を戻す太い血管がせき止められる「上大静脈症候群」という病気の警告かもしれません。

この病気は、患者さんの約7割に顔や腕のむくみ、約5割に息苦しさが現れると報告されています。原因として最も多いのは肺がんですが、近年、心臓のペースメーカーなどの医療機器が原因となるケースも注目されており、その場合の平均発症年齢は50歳と、決して他人事ではないのです。

この記事では、見過ごしがちな症状のチェックリストから、意外な原因、そしてステント治療などの最新の治療法までを詳しく解説します。あなたの体のSOSサインを見逃さないために、ぜひご一読ください。

上大静脈症候群の概要

上大静脈は、心臓へ血液を戻すためのとても太い血管です。 この血管は、体の上半身から血液を集めて心臓へ送り返す、 大切な役割を担っています。

具体的には、以下の場所を流れた血液が上大静脈に集まります。

  • 頭
  • 首
  • 両腕
  • 胸の上部

何らかの原因でこの血管が狭くなったり、押しつぶされたり、 詰まったりすると、血液が心臓へスムーズに戻れなくなります。 その結果、行き場を失った血液が上半身にたまってしまいます。

血液がたまることで、顔や腕がむくむ、首や胸の血管が浮き出る、 息苦しい、頭が痛いといったさまざまな症状が現れるのです。 この状態を「上大静脈症候群」と呼びます。

原因の多くは、肺がんなど胸の中にできた腫瘍による圧迫です。 また、治療で血管に入れたカテーテルが原因で、 血の塊(血栓)ができて血管をふさぐこともあります。

この病気は大人に多いですが、赤ちゃんに起こることもあります。 特に、生まれてすぐの新生児がかかるのは非常にまれなケースで、 治療が難しくなることも報告されています。 治療は原因によって異なり、お薬だけでなく手術が必要な場合もあります。

上大静脈症候群の種類

上大静脈症候群は、何が原因で血管が狭くなるかによって、 大きく2つの種類に分けられます。 原因を正しく知ることが、適切な治療への第一歩になります。

1. 悪いできもの(悪性腫瘍)が原因のタイプ

最も多い原因は、肺がんや悪性リンパ腫といった、 胸の中にできる「悪いできもの」です。 これらが大きくなると、すぐ近くにある上大静脈を、 外側からぎゅっと押しつぶしてしまいます。 その結果、血液の流れがせき止められてしまうのです。

2. 悪いできもの以外(良性)が原因のタイプ

がん以外の原因で起こるタイプもあります。 最近特に注目されているのが、治療で体に入れる機械が、 原因となるケースです。

例えば、心臓の働きを助けるペースメーカーなどがこれにあたります。 機械から伸びる細い管(リード)が血管の中にある期間が長くなると、 血のかたまり(血栓)ができてしまうことがあります。 ある研究では、リードを入れてから平均約10年で発症したと報告されています。 また、このタイプの患者さんの平均年齢は50歳と、 比較的若い世代にも起こりうる点も特徴です。

原因をまとめると、以下のようになります。

種類

主な原因の例

悪いできもの(悪性腫瘍)

・肺がん

・悪性リンパ腫 など

悪いできもの以外(良性)

・ペースメーカーなどの医療機器

・大きな血管のこぶ(大動脈瘤) など

ご自身の症状がどの種類にあてはまる可能性があるのか、 正確に診断してもらうことがとても大切です。

上大静脈症候群の原因

上大静脈症候群が起こる原因は、大きく分けて2つのパターンがあります。 血管が体の外側から押されて狭くなる場合と、 血管の内側から詰まってしまう場合です。

原因として最も多いのは、肺がんなどの「悪いできもの(悪性腫瘍)」です。 胸の中にできた腫瘍が大きくなることで、 すぐ隣にある上大静脈を外からぎゅっと押しつぶしてしまいます。 これにより、血液の流れがせき止められてしまうのです。

しかし、原因は悪いできものだけではありません。 最近では、病気の治療に使う機械が原因となるケースも注目されています。 これらは、血管の内側が詰まるパターンにあたります。

  • 治療で体に入れる管(カテーテル)
    点滴や栄養補給、血液透析のために長期間血管に入れる管が、 血の塊(血栓)を作る原因になることがあります。 特に血液透析の治療で使う管が、まれに深刻な合併症として、 この病気を引き起こすことが報告されています。
  • 心臓のペースメーカーなど
    心臓の動きを助ける機械から伸びるコード(リード)も、 血管の中に血の塊を作ってしまう可能性があります。
  • 大きな病気の治療後
    大人だけでなく、お子さんでも注意が必要です。 例えば、骨髄移植といった大きな治療の合併症として、 血の塊ができて発症したという報告もあります。

このように、上大静脈症候群はがんだけでなく、 治療のための医療機器や、他の病気の合併症が原因となることもあります。 正しい治療を行うためには、原因を正確に突き止めることが何よりも大切です。

上大静脈症候群の症状

上大静脈という血液の通り道が狭くなると、 上半身の血液が心臓へ戻りにくくなり渋滞を起こします。 この血液の渋滞によって、特に首から上の部分に、 さまざまなサイン(症状)が現れます。

症状の出方は、血液の流れが悪くなるスピードによって人それぞれです。 ゆっくりと症状が進むこともあれば、急に悪化することもあります。 ある研究報告によると、患者さんの約7割に顔や腕のむくみ、 約5割に息苦しさ、そして約4割にめまいが見られたとされています。

ご自身の体調と見比べられるように、チェックリストを用意しました。 当てはまるものがないか、確認してみましょう。

【上大静脈症候群の症状セルフチェック】

  • 顔や腕のむくみ・腫れ
    朝起きた時に、顔やまぶたがパンパンに腫れている、 シャツの一番上のボタンが閉めにくい、 指輪がきつくなった、などがサインです。
  • 呼吸の苦しさ
    体を横にしたり、おじぎをしたりすると息苦しさが増します。 階段を上るなど、少し動いただけでも息切れすることがあります。
  • 頭の症状
    頭に血がたまることで、頭痛やめまい、 立ちくらみが起こりやすくなります。 ひどい場合は意識がもうろうとすることもあります。
  • 見た目の変化
    顔や腕の皮膚が赤紫色っぽく見えることがあります。 また、首や胸の表面にある血管が、 網の目のように青く浮き出て見えるのも特徴的なサインです。

これらの症状は、体のSOSサインです。 特に息苦しさが強い場合や、意識がはっきりしない場合は、 命に関わる危険な状態の可能性があります。 気になる症状があれば、決して自分で判断せず、 すぐに医療機関を受診してください。

上大静脈症候群の検査・診断

顔のむくみや息苦しさなどの症状があると、とても心配になりますよね。 上大静脈症候群が疑われる場合、原因を正確に突き止めるために、 いくつかの検査を段階的に行い、原因を探っていきます。

まずは患者さんのお話を詳しく伺い、お体の状態を丁寧に診察します。 いつから症状があるか、どんな時にひどくなるかなどをお聞きし、 顔や腕の腫れ、首や胸の血管の浮き出ていないかなどを確認します。

その後、体の内部を詳しく調べるために画像検査を行います。 これらの検査をパズルのように組み合わせることで、 病気の全体像を正確にとらえることが、とても大切になります。

検査の種類

わかること

胸部X線検査

体の影絵をとるような検査です。胸全体を撮影して、肺や心臓、血管の影に大きな異常がないか、まず大まかに確認します。

造影CT検査

血管の詳しい地図を作る検査です。お薬を注射しながら撮影し、血管が狭い場所や原因となっている「できもの」を詳しく調べます。

MRI検査

磁石の力で体の断面を撮影します。CT検査とは違う角度から、血管やその周りの組織の状態をより詳しく評価できます。

超音波検査

体の表面から音波をあてて、血管の中の血液の流れや、血のかたまり(血栓)がないかをリアルタイムで確認します。

特に、治療で血管に管(カテーテル)を入れている方の場合、 それが原因で血のかたまりができていないかを念入りに確認します。 原因によって治療法が全く異なるため、正確な診断が治療への第一歩です。

上大静脈症候群の治療

上大静脈症候群の治療は、2つの大きな目標を同時に目指します。 一つは「病気の根本的な原因を取り除く治療」です。 もう一つは「顔のむくみや息苦しさなど、今つらい症状を和らげる治療」です。

どちらの治療を優先するか、どう組み合わせるかは、 原因や患者さん一人ひとりの体の状態を考えて、 慎重に決めていくことがとても大切です。

1.病気の根本的な原因を取り除く治療

病気の大元を治すことで、根本的な解決を目指します。

  • 悪いできもの(がん)が原因の場合
    お薬でがん細胞をやっつける「化学療法(抗がん剤)」や、 放射線をあててがんを小さくする「放射線療法」を行います。
  • がん以外のものが原因の場合
    原因に合わせた治療を行います。例えば心臓のペースメーカーや、 点滴の管(カテーテル)が原因で血の塊ができた場合は、 原因の機械を取り除くことを検討します。
    ある研究では、ペースメーカーの管を抜いた後に、 風船やステントで血管を広げる治療が行われています。 しかし、同じ場所に新しい管を入れると症状が再発することもあるため、 慎重な判断が求められます。

2.今あるつらい症状を和らげる治療

血液の渋滞を解消して、息苦しさやむくみを楽にする治療です。

  • カテーテルを使った血管内治療
    細い管(カテーテル)を血管の中に入れて行う治療です。 体への負担が比較的小さいのが特徴です。
  • ステント留置術
    狭くなった血管に「ステント」という金属の網状の筒を入れ、 内側から血管を広げて血液の通り道を確保します。
  • 血栓溶解療法
    血の塊(血栓)が原因の場合、カテーテルから直接薬を届け、 血の塊を溶かします。骨髄移植という大きな治療を受けたお子さんで、 この治療が成功したという報告もあります。
  • 手術による治療
    原因のできものを取り除いたり、新しい血管をつないで、 血液の新しい通り道(バイパス)を作ったりします。 お薬での治療が難しい、生まれたばかりの赤ちゃんの手術で、 症状が良くなったケースも報告されています。
  • お薬による治療
    体の余分な水分を減らしてむくみをとるお薬(利尿薬)や、 炎症を抑えるお薬(ステロイド)などを使います。

このように、治療法はたくさんあります。 どの方法が一番良いかは、患者さんごとに異なります。 そのため、複数の専門家がチームを組んで話し合い、 最適な治療方針を決めることが、とても大切になります。