子宮後転

婦人科検診で「子宮後転」と告げられ、「何かの病気だろうか?」と不安に感じていませんか。実は、子宮後転は女性の約5人に1人に見られる、いわば生まれつきの「個性」のようなものです。ほとんどの場合、症状もなく心配はいりません。

しかし、その「個性」が、妊娠という特別な時期に「約3000人に1人」の確率で起こる、注意すべき状態へと変わる可能性があることはご存知でしょうか。また、つらい月経痛や腰痛が、子宮後転と関係しているケースもあります。

この記事では、子宮後転の基本的な知識から、まれに起こる症状や妊娠中の注意点までを詳しく解説します。過度な心配を安心に変えるために、ご自身の体について深く知っていきましょう。

子宮後転の概要

婦人科検診などで「子宮後転」と聞いて、心配になった方もいるでしょう。 これは、子宮が本来の位置より後ろ、つまり背中側に傾いている状態です。

実は、子宮後転は決して珍しいことではありません。 およそ5人に1人の女性に見られる、生まれつきの「個性」のようなものです。 そのため、普段は特に症状がなく、病気とは考えられていません。 検診や妊娠をきっかけに、偶然指摘されることがほとんどなのです。

ただし、ごくまれに妊娠中に特別な注意が必要になることがあります。 「子宮後転妊娠」と呼ばれ、約3000人に1人の割合で起こる状態です。 これは、妊娠12週から14週頃に子宮が大きくなる過程で起こります。 骨盤からお腹の中へ、子宮がうまく移動できない状態を指します。

妊娠14週から16週を過ぎても自然に元の位置へ戻らない場合もあります。 その際は、子宮を正しい位置に戻す処置(整復)が必要になることもあります。 基本的には、子宮後転は多くの女性に見られる個性の一つです。 過度に心配せず、正しい知識を持っておきましょう。

子宮後転の種類

子宮後転は、その原因や子宮の状態によって、主に2つの種類に分けられます。 子宮が動くかどうかで、タイプが異なります。

1. 可動性(かどうせい)子宮後転

  • 特徴 子宮が自由に動くことができる状態です。 これは、生まれつき(先天性)のものがほとんどです。
  • 解説 子宮そのものは柔らかく、病的な問題はありません。 そのため、特別な症状を引き起こすことはまれです。 多くの場合、治療の必要もない「個性」と考えてよいでしょう。

2. 固定性(こていせい)子宮後転

  • 特徴 子宮が骨盤内の他の臓器とくっついて(癒着:ゆちゃく)しまっています。 その結果、子宮の動きが制限されてしまった状態です。
  • 解説 後天的な原因が多く、子宮内膜症や骨盤内の炎症が関係します。 このタイプでは、月経痛や性交痛、腰痛などを伴いやすいです。 原因となっている病気の治療が必要になることがあります。

種類

特徴

主な原因

症状の有無

可動性

子宮が自由に動く

先天的なものが多い

ほとんどない

固定性

子宮が癒着して固定

子宮内膜症、骨盤内炎症など

症状が出やすい

妊娠に伴う特殊な子宮後転

妊娠中に「子宮後転妊娠」という、まれな状態が起こることがあります。 これは「妊娠子宮陥入(かんにゅう)」とも呼ばれます。 発生頻度は約3,000人に1人とされています。

妊娠12〜14週頃になると、子宮は骨盤の中からお腹の中へとせり上がります。 この時、子宮が骨盤の中に挟まってしまうのが子宮後転妊娠です。 尿が出にくくなるなどの症状を引き起こし、母子に影響を与える可能性があります。

ある研究では、妊娠20週より前に診断された方が、母子ともによい結果につながりやすいことが示唆されています。 このことからも、定期的な妊婦健診がいかに大切かがわかります。

子宮後転の原因

子宮が後ろに傾く原因は、大きく2つに分けられます。 生まれつきの個性である場合と、後から何らかの原因で起こる場合です。

多くは生まれつき(先天性)のもので、特に治療の必要はありません。 しかし、後から起こる(後天性)場合は、他の病気が隠れていることがあります。

後天的な原因とは

後天的に子宮後転が起こる主な原因には、以下のものが考えられます。 病気によるものと、体の変化によるものに分けて見ていきましょう。

原因の分類

具体的な内容

病気が原因

・子宮内膜症や骨盤内の炎症

子宮の周りで炎症が起き、臓器同士がくっつく「癒着」が生じます。

その結果、子宮が後ろに引っ張られて固定されてしまいます。

・子宮筋腫や骨盤内の腫瘍

子宮やその周りにできたこぶ(腫瘍)によって、

子宮が物理的に後ろ側へ押されることがあります。

体の変化が原因

・妊娠や出産

子宮を支える靭帯(じんたい)という組織が伸びてゆるみ、

子宮の位置が変わりやすくなるためです。

・加齢にともなう変化

骨盤の底を支える筋肉(骨盤底筋群)がゆるみ、

子宮を支える力が弱まることが影響します。

妊娠中は特に注意が必要なケースも

妊娠中に起こる「妊娠子宮陥入(かんそう)」は、特に注意が必要です。 これは、大きくなる子宮が骨盤に挟まってしまうまれな状態で、約3,000~10,000人に1人の割合で起こるとされています。

この状態は、母体や胎児に深刻な影響を及ぼす可能性があります。 例えば、早産や腎臓の機能不全、子宮のトラブルにつながりかねません。

ある研究では、妊娠20週より前にこの状態が診断された方が、母子ともに良好な結果につながりやすいことが示唆されています。 このことからも、定期的な妊婦健診で子宮の状態を確認することが、いかに重要であるかがわかります。

子宮後転の症状

子宮後転は、ほとんどの場合で特別な症状はありません。 婦人科検診などで偶然指摘されることが多く、心配いらない個性です。

しかし、人によっては子宮の位置が原因で、症状が出ることがあります。 特に、子宮内膜症などが原因で子宮が固定されている場合に多いです。 ご自身の状態と照らし合わせて、チェックしてみましょう。

【子宮後転でみられることがある症状】

  • つらい月経痛(生理痛) 子宮が後ろに傾くと、経血がスムーズに出にくくなることがあります。 そのため子宮が強く収縮し、痛みが強まる場合があります。
  • 腰痛や下腹部痛 後ろに傾いた子宮が、骨盤の中にある血管や神経を圧迫します。 これが原因で、腰に重たい痛みを感じることがあります。
  • 性交渉のときの痛み 子宮の位置によっては、性交渉のときに奥の方が圧迫されます。 その結果、不快感や痛みを感じることがあります。
  • おしっこや便通のトラブル 子宮が前にある膀胱や、後ろにある腸を圧迫することが原因です。 おしっこが出にくくなったり、便秘になったりします。

妊娠中は特に注意が必要

妊娠中は「妊娠子宮陥入(しきゅうかんにゅう)」に注意が必要です。 これは約3,000~10,000人に1人の割合で起こるまれな状態です。 大きくなった子宮が骨盤に挟まり、抜け出せなくなることで生じます。

最も重要なサインは「おしっこが全く出せなくなる(尿閉)」ことです。 ある報告では、妊娠14週で尿閉の症状が現れたケースもあります。 放置すると、腎臓の機能不全や早産、子宮破裂のリスクがあります。 母子ともに危険な状態になりかねないため、早期の対応が重要です。

気になる症状や、妊娠中におしっこの異常を感じた場合は、 自己判断せず、かかりつけの産婦人科へすぐに相談してください。

子宮後転の検査・診断

子宮後転は、婦人科検診などで偶然指摘されることがほとんどです。 症状がなければ、多くの場合で心配はいりません。 しかし、つらい月経痛や性交痛がある場合は注意が必要です。 子宮内膜症などの病気が隠れていないか、詳しく調べる検査を行います。

子宮後転の診断や、原因を探るための主な検査は以下のとおりです。

  • 内診 医師が腟の中から指を入れ、子宮の位置や動きを確認します。 子宮が自由に動くか、癒着で固定されていないかを調べる基本の診察です。
  • 超音波(エコー)検査 腟の中から細い器具を入れ、子宮や卵巣を観察します。 モニターで子宮の傾きや、子宮筋腫などの有無を映像で確認できます。
  • MRI検査 超音波検査で診断が難しい場合などに行われます。 体の断面を撮影し、骨盤内の癒着の範囲を立体的に評価できます。

検査の種類

わかること

どんな時に行うか

内診

子宮の位置、大きさ、動きやすさ

基本的な診察として最初に行う

経腟超音波検査

正確な子宮の傾き、子宮筋腫などの有無

ほとんどのケースで内診と同時に行う

MRI検査

骨盤内の詳しい状態、癒着の程度の評価

超音波で判断が難しい場合など

妊娠中の検査は特に重要

妊娠中に子宮後転と診断された場合、まれですが注意が必要です。 大きくなる子宮が骨盤に挟まる「妊娠子宮陥入」が起こるためです。 ある研究では、妊娠20週より前にこの状態を診断することの重要性が示されています。

早期に診断された場合、早産や帝王切開になるリスクが低くなります。 また、自然に治ったり、簡単な処置で済んだりする割合も高まるのです。 母子ともに安全な出産を迎えるため、定期的な妊婦健診は必ず受けましょう。

子宮後転の治療

子宮後転は、多くの場合で特別な症状がなく、治療の必要はありません。 体の「個性」の一つとして、そのまま経過を見ることがほとんどです。

しかし、つらい月経痛や性交痛、排尿のトラブルがある場合は別です。 また、子宮内膜症などの病気が原因で後転している場合も治療を考えます。 症状や原因に応じた治療法を、一緒に見ていきましょう。

治療の目的

主な治療法

痛みを和らげる

・薬物療法

痛みが強い場合は、鎮痛剤を使います。

子宮内膜症が原因なら、低用量ピルなどのホルモン療法も行います。

原因を取り除く

・手術

子宮内膜症などによる癒着(ゆちゃく)が原因の場合、

お腹のカメラ(腹腔鏡)で癒着をはがす手術をすることがあります。

妊娠中の特別な治療

妊娠中に「妊娠子宮陥入(しきゅうかんにゅう)」が起こることがあります。 これは約3,000人に1人という、まれな状態です。 大きくなった子宮が骨盤に挟まり、抜け出せなくなってしまいます。

この状態になると、おしっこが出にくくなるなどの症状が現れます。 もし妊娠14〜16週を過ぎても自然に治らない場合は、治療が必要です。 子宮を正しい位置に戻す「整復(せいふく)」という処置を行います。

最近では、体への負担が少ない新しい治療法も報告されています。 経腟超音波の機械を使い、子宮を優しく元の位置へ戻す方法です。 この方法で多くの方が無事に症状を改善し、出産に至っています。

しかし、まれに尿路感染症などを起こし、母子に危険が及ぶ場合もあります。 その際は、帝王切開による早めの分娩が選択されることもあります。 子宮後転でも心配はいりませんが、気になる症状はすぐ医師に相談しましょう。