腎不全

「沈黙の臓器」と呼ばれる腎臓。その働きがかなり悪くなるまで、はっきりとしたサインは現れません。なんとなく体がだるい、朝の顔のむくみが気になる…。そんな見過ごしがちな日常の不調が、実は腎臓から送られてくる危険信号かもしれません。

日本で新たに透析治療を始める方の原因で最も多いのは、実は糖尿病です。気づかないうちに病状は静かに進行し、一度失われた腎機能は、残念ながら元に戻すことが非常に難しいのが現実です。新薬の開発も難航しており、自分の体を守る知識が今まで以上に重要になっています。

この記事では、腎不全がなぜ起こるのかという原因から、自分で気づくための初期症状、そして大切な腎臓の機能を守るための治療法について詳しく解説します。手遅れになる前に、あなたの体が出している小さなサインを見逃さないために、ぜひご一読ください。

腎不全の概要

腎臓は、血液をきれいにするフィルターのような臓器です。 体の中でいらなくなったゴミ(老廃物)や余分な水分を、 尿として体の外に出す、とても大切な役割を担っています。

腎不全とは、この腎臓のフィルター機能が弱ってしまい、 体を健康に保つための働きが十分にできなくなった状態です。 腎臓には、体を正常に保つための多くの働きがあります。

  • 血液のお掃除 体の中のいらないゴミ(老廃物)を外に出します。
  • 水分・塩分の調整 体の水分や塩分の量をちょうどよく保ちます。
  • 血圧のコントロール 血圧を調整するホルモンを出します。
  • 血液をつくるお手伝い 赤血球をつくるよう命令するホルモンを出します。
  • 骨を丈夫にする 骨を強くするビタミンDを活発にします。

腎臓の働きが落ちると、体に毒素がたまってしまったり、 むくみや高血圧が起きたりと、さまざまな不調が現れます。 腎不全の治療は簡単ではなく、新しいお薬の開発も難航しています。

例えば、遺伝で腎臓に水の袋がたくさんできる病気があります。 この病気に期待された新薬(venglustat)がありました。 しかし、実際の研究では腎機能の低下を早める結果となり、 このお薬の開発は残念ながら中止されることになりました。 このように、腎臓病の治療法は今も研究が続けられています。

腎不全の種類

腎不全は、腎臓の働きが悪くなるスピードによって、 「急性腎不全」と「慢性腎不全」の2つに分けられます。 それぞれの違いを、詳しく見ていきましょう。

急性腎不全

数時間から数日という短い時間で、急に腎臓が悪くなる状態です。 ひどい脱水や薬の副作用、大きなけがなどが原因で起こります。 原因をきちんと治療すれば、腎臓の働きが元に戻る可能性があります。

慢性腎不全

数ヶ月から数年かけて、ゆっくりと腎臓の働きが悪くなる状態です。 一度悪くなった腎臓の機能は、元に戻すことが難しいのが特徴です。

  • 主な原因 糖尿病が原因で起こる「糖尿病性腎臓病」が代表的です。 これは、腎臓がほとんど働かなくなる末期腎臓病の 主な原因でもあり、注意が必要です。
  • 生活への影響 病気が進むと、透析などの治療が長く必要になることがあります。 治療が続くと、患者さんの毎日の生活の満足度(QoL)や、 精神的な面に大きな影響をおよぼすことも少なくありません。 ある研究では、対話を通じた心のケアによって、 患者さんの不安や抑うつが和らいだという報告もあります。

下の表で、2つの腎不全の違いを簡単にまとめています。

種類

急性腎不全

慢性腎不全

スピード

速い(数時間~数日)

ゆっくり(数ヶ月~数年)

回復

回復する可能性がある

元に戻すのは難しい

主な原因

脱水、薬、けがなど

糖尿病、高血圧など

腎不全の原因

腎臓の働きが悪くなる腎不全には、さまざまな原因があります。 原因を正しく知ることは、病気の進行を食い止め、 あなたに合った治療法を見つけるための第一歩になります。

腎不全の主な原因は、大きく3つに分けられます。 生活習慣病、腎臓そのものの病気、そして遺伝によるものです。 特に注意が必要なのは、日々の生活習慣が関わる病気です。

原因となる病気

特徴

糖尿病性腎臓病

糖尿病の合併症で、透析導入の最も多い原因です。高い血糖値が腎臓の血管を傷つけ、機能を奪います。

腎硬化症

高血圧が原因です。高い圧力で血管が硬くなり、腎臓への血流が悪くなって機能が低下します。

慢性糸球体腎炎

血液をきれいにするフィルター「糸球体」に、長く炎症が続く病気です。

多発性嚢胞腎

腎臓に水の袋(嚢胞)がたくさんできる遺伝性の病気です。

特に、糖尿病性腎臓病は末期腎不全の主な原因です。 既存の治療だけでは腎機能の低下を十分に防げないこともあり、 腎臓の働きを示すeGFRという値を守る新薬の研究が進んでいます。

この他にも、市販薬を含む痛み止めの使いすぎや、 前立腺肥大症などで尿の流れが妨げられることも原因となります。 原因は一つとは限らないため、定期的な検診が大切です。

腎不全の症状

腎臓は「沈黙の臓อก」とも呼ばれ、働きがかなり悪くなるまで、 はっきりとしたサインが出にくいという特徴があります。 そのため、気づかないうちに病気が進むことも少なくありません。

しかし、注意深く体を観察すると、いくつかの変化に気づけます。 腎臓の働きが落ちてきたときに出やすいサインを見てみましょう。

  • 初期にあらわれやすい体の変化 腎臓の機能が落ち始めると、次のような変化が出ることがあります。
  • むくみ 余分な水分を外に出せず、朝に顔がはれたり、 夕方に靴下の跡がくっきり残ったりします。
  • 尿の変化 夜中に何度もトイレに起きたり、尿の色が薄くなったり、 タンパク質が漏れて尿が泡立ったりします。
  • 貧血 血液を作るホルモンが減り、だるさや疲れやすさ、 めまい、息切れなどの症状が出やすくなります。
  • 血圧の上昇 塩分や水分の調整がうまくいかず、血圧が高くなります。
  • 病気が進行した場合にあらわれやすい体の変化 さらに腎臓の働きが悪くなると、体に毒素や水分がたまります。
  • 全身の症状 体に毒素がたまることで、強いだるさや食欲不振、 吐き気、皮膚のかゆみなどが起こります。
  • 呼吸の異常 体にたまった余分な水分が肺にしみだし、 少し動いただけでも息苦しさを感じます。
  • 意識の変化 さらに毒素が脳に影響すると、意識がもうろうとします。

【腎不全のサインかも?セルフチェック】

  • 最近、足や顔がむくみやすい
  • 夜、トイレに2回以上起きる
  • 尿の泡がなかなか消えない
  • 理由もなく体がだるく、疲れやすい
  • 食欲がなく、吐き気を感じることがある

腎不全は長く付き合う病気のため、体の症状だけではありません。 将来への不安や気分の落ち込みといった、心のつらさを感じる方もいます。 ある研究では、対話を通じた心のケアによって患者さんの不安が和らぎ、 毎日の生活の満足度(QoL)が向上したという報告もあります。 気になる変化があれば、一人で悩まず早めに相談することが大切です。

腎不全の検査・診断

腎不全が疑われる場合、まず検査で腎臓の状態を調べます。 腎臓は黙々と働くため、自分では気づきにくい変化を、 客観的なデータで正確に把握することがとても大切です。 おもな検査は「尿検査」と「血液検査」の2つです。

腎臓の状態を知るための主な検査

検査の種類

何を調べるか

検査でわかること

尿検査

尿にもれたタンパク質(アルブミン)の量

腎臓のフィルター機能が壊れていないかを調べます。糖尿病などが原因の腎臓病を早く見つける手がかりにもなります。

血液検査

血液中のゴミ(クレアチニン)の量

腎臓の働きを「eGFR」という数値で計算します。この数値が低いほど、腎臓の働きが落ちていることを示します。

画像検査

超音波(エコー)検査など

腎臓の大きさや形に異常がないか、直接目で見て確認します。

特に大切なのが、血液検査からわかるeGFRという数値です。 これは「腎臓のお掃除パワー」を示す成績表のようなものです。 新しいお薬の研究でも、このeGFRの値がどれだけ保たれるか、 という点が治療効果を判断する重要な基準になっています。

検査結果をお伝えする時、私たちは数字だけを見るのではありません。 診断は患者さんの心に大きな不安を与えることがあるからです。 ある研究では、対話を通じた心のケアを行うことで、 患者さんの不安や気分の落ち込みが和らいだ、と報告されています。 私たちは検査結果と共に、あなたの気持ちにも寄り添います。 これからの生活を一緒に考えていきましょう。

腎不全の治療

腎不全の治療は、大きく2つのステップに分かれます。 残った腎臓の力を守る「保存期治療」と、 弱った腎臓の働きを補う「腎代替療法」です。 あなたの体の状態に合わせて、治療法を選びます。

1.保存期治療:腎臓のパワーを長持ちさせる

腎臓の機能がまだ残っている段階での治療です。 これ以上、腎臓に負担をかけないことが目標です。

  • 食事療法 塩分やタンパク質を控える食事です。 血圧を下げ、腎臓への負担を軽くします。
  • 薬物療法 血圧を下げるお薬や、貧血を改善するお薬を使います。 腎臓を守るためのお守りのようなものです。
  • 生活習慣の見直し 禁煙や体重管理など、日々の暮らし方を見直します。

2.腎代替療法:腎臓の働きを代わりに行う

腎臓の働きがかなり落ちてしまった時に必要です。 おもに3つの方法から、あなたに合うものを選びます。

  • 血液透析 週に2~3回病院へ通い、機械で血液をきれいにします。 透析中に軽い運動をすると、長生きできる可能性が高まります。 ある研究では、透析中に運動した人の1年後の生存率は94%で、 何もしなかった人の73%より高かったという報告もあります。
  • 腹膜透析 お腹に管を通し、自宅などで自分で透析液を交換する方法です。 病院に通う回数が少なく、生活の自由度が高いのが特徴です。
  • 腎移植 健康な腎臓を手術で体に入れてもらう治療法です。 透析が不要になり、食事制限も軽くなります。

腎不全の治療は長く続くため、心のケアも大切です。 ある研究では、対話を通じた心のケア(ナラティブケア)で、 患者さんの不安や気分の落ち込みが和らいだ、と報告されています。 治療や生活で不安なことは、いつでも私たちに話してくださいね。