ギャロウェイ・モワト症候群

国内の患者数はわずか200人ほどと報告されている、極めて珍しい指定難病「ギャロウェイ・モワト症候群」をご存知でしょうか。この病気は、生まれつき腎臓と脳という、生命を支える重要な二つの臓器に同時に影響を及ぼすことが特徴です。

多くの場合、ご両親には症状がなく、お子さんだけに突然現れることから、ご家族は大きな不安を抱えることになります。また、症状の現れ方も一人ひとり大きく異なるため、病気への深い理解が欠かせません。

この記事では、ギャロウェイ・モワト症候群の詳しい症状や原因、現在の治療法について、専門的な情報を分かりやすく解説します。ご自身やご家族の状況と向き合うための一助として、ぜひお役立てください。

ギャロウェイ・モワト症候群の概要

ギャロウェイ・モワト症候群は、生まれつき体に特徴があらわれる病気です。 日本では国の指定する難病の一つで、とても珍しいことが知られています。 2019年の調査では、患者さんの数はおよそ200人と報告されています。

この病気の主な特徴は、主に「腎臓」と「脳」の2つにあらわれます。 一人ひとりの患者さんで症状の重さや組み合わせは大きく異なります。

  • 腎臓の障害(ネフローゼ症候群) 腎臓には、体に必要なタンパク質などをろ過する大切な働きがあります。 しかし、この機能がうまく働かず、タンパク質が尿に漏れ出てしまいます。 その結果、体全体のむくみなどの症状を引き起こします。
  • 脳の発達への影響 脳の成長に影響がみられ、頭が小さい「小頭症」となることがあります。 体の動きや言葉を覚えるなどの発達が、ゆっくりになることも特徴です。 また、自分の意思とは関係なく体が震える「てんかん発作」もみられます。

このほかにも、お顔つきや手足の形に特徴があらわれることもあります。 多くの場合、ご両親には症状がなくお子さんだけに症状がみられます。 ギャロウェイ・モワト症候群は、多様な状態を含む病気の集まりなのです。

ギャロウェイ・モワト症候群の種類

ギャロウェイ・モワト症候群は、実は一つの病気ではありません。 原因や症状の重さによって分けられる、病気のグループのようなものです。 そのため、同じ病名でも患者さんごとに状態は大きく異なります。

主に、症状が現れる時期や重さによって、大きく2つのタイプに分けられます。

種類

特徴

早期発症の重症型

生まれてから3か月以内に症状が現れるタイプです。

腎臓の機能が急に悪くなったり、治療が難しいけいれんが続いたりします。

軽症型

症状が比較的軽く、ゆっくりと進行するタイプです。

腎臓の病気や発達の遅れの程度が軽く、成人するまで大きな症状が出ない方もいます。

また、国の難病の制度では、必要な治療の内容に応じて、 より詳しく「重症」「中等症」「軽症」の3段階に分類されます。

さらに、原因となる遺伝子の違いで、症状の現れ方が変わることもあります。 例えば、「LAGE3」という遺伝子が原因の場合は、 男の子だけに症状が現れるという特徴が知られています。

このように、ギャロウェイ・モワト症候群の経過は非常に多様です。 お子さんの状態を正確に把握し、今後の見通しを立てるためには、 専門の医師による詳しい診察がとても大切になります。

ギャロウェイ・モワト症候群の原因

ギャロウェイ・モワト症候群は、体の設計図である「遺伝子」の変化が原因で起こる病気です。 遺伝子の情報に変化が起きると、体の機能、特に腎臓や脳が作られる過程で影響が出ることがあります。

中心となる原因遺伝子「WDR73」

2014年に、原因の一つとして「WDR73」という遺伝子の変化が報告されました。 この遺伝子は、私たちの体が作られるときの細胞分裂という、基本的な働きに深く関わっています。

  • 脳への影響 脳が成長する段階で「WDR73」遺伝子がうまく働かないと、 脳が小さくなる「小頭症」などの神経系の症状につながると考えられています。
  • 腎臓への影響 腎臓には「たこ足細胞」という、とても大切な細胞があります。 この細胞は、体に必要なタンパク質が尿へ漏れ出るのを防ぐ、フィルターのような役目をします。 遺伝子の変化によりこの細胞がうまく働かなくなり、ネフローゼ症候群が起こります。

その他の原因遺伝子と遺伝のしかた

「WDR73」以外にも、複数の原因遺伝子が見つかっています。 例えば、「LAGE3」という遺伝子が原因の場合は、男の子だけに症状が現れることが特徴です。 しかし、まだ原因が特定できていない方も多く、現在も世界中で研究が続けられています。

この病気は、多くの場合「常染色体劣性(じょうせんしょくたいれっせい)遺伝」という形式をとります。 これは、ご両親がそれぞれ原因遺伝子を1つずつ持っていても症状は現れず(保因者といいます)、 お子さんがその遺伝子を両方から受け継いだ場合に病気が起こる、というものです。

ご両親の状態

お子さんに遺伝する確率

お父さん・お母さんともに保因者(症状なし)

・病気を発症する:4分の1 (25%)

・ご両親と同じ保因者になる:4分の2 (50%)

・病気の遺伝子を持たない:4分の1 (25%)

このように、ご両親に症状がなくても、お子さんに病気が現れることがあります。

ギャロウェイ・モワト症候群の症状

ギャロウェイ・モワト症候群の症状は、主に「腎臓」と「神経」に現れます。 しかし、症状の現れ方や重さは、患者さん一人ひとりで大きく異なります。 ここでは、どのような症状が見られるのか、具体的に見ていきましょう。

分類

主な症状

腎臓の症状

・体に必要なタンパク質が尿に漏れ出る(蛋白尿)

・全身がむくむ(ネフローゼ症候群)

・腎臓の働きが悪くなる(腎不全)

神経の症状

・頭が小さい(小頭症)

・てんかん発作

・発達がゆっくりになる

・筋肉の力が弱い(筋緊張低下)

腎臓にあらわれる症状

腎臓は、血液をろ過して不要なものを尿として排出するフィルターの役目をします。 この病気ではフィルターがうまく働かず、大切な栄養であるタンパク質が尿に漏れ出てしまいます。

この状態を「ネフローゼ症候群」と呼び、以下のような症状につながることがあります。

  • 全身のむくみ 血液中のタンパク質が減ることで、水分が血管の外にあふれ出します。 その結果、顔や手足、お腹など、全身がパンパンにむくんでしまいます。
  • 感染症にかかりやすい タンパク質の中には、体をばい菌から守る免疫グロブリンも含まれます。 これが失われるため、風邪などをひきやすくなることがあります。

重症の場合は、生まれた直後から腎臓の機能が急激に悪くなることもあります。

神経にあらわれる症状

脳や神経の発達にも影響が見られることがあり、以下の症状が特徴的です。

  • 小頭症(しょうとうしょう) 脳の成長がゆっくりなため、生まれつき頭の大きさが小さい状態です。 大脳や小脳の一部が小さいなど、脳の形に異常が見られることもあります。
  • 筋緊張低下(きんきんちょうていか) 全身の筋肉の力が弱く、体がぐにゃぐにゃと柔らかい状態です。 このため、ミルクを吸う力が弱かったり、呼吸がしづらかったりします。 おすわりや歩くなどの運動の発達も、ゆっくりになる傾向があります。
  • てんかん発作 自分の意思とは関係なく、体がけいれんしたり、意識がなくなったりします。 お薬が効きにくい「難治性てんかん」となることも少なくありません。

その他の特徴

腎臓や神経の症状以外にも、体にさまざまな特徴が見られることがあります。

  • 顔つきの特徴 おでこが狭い、耳が大きくて低い位置にある、などがみられます。
  • 目の症状 両方の目の向きがずれてしまう「斜視」が見られることがあります。 視力や聴力に影響が出る場合もあります。
  • 消化器の症状 食べたものが胃から食道へ逆流しやすくなることがあります。

これらの症状は、全ての患者さんにあてはまるわけではありません。 軽症の場合は、成人するまで大きな症状がなく、ゆっくりと進行することもあります。 この病気の症状は非常に多様であることを理解しておくことが大切です。

ギャロウェイ・モワト症候群の検査・診断

ギャロウェイ・モワト症候群の診断は、パズルのピースを組み合わせるように、 あらわれている症状と詳しい検査の結果を総合的にみて、慎重に判断されます。

この病気には、国が定めた診断の基準があり、客観的な指標に基づきます。 主に「腎臓」と「神経」の症状、そして体の特徴をあわせて診断します。

【診断のめやす】

項目

内容

主症状

(2つとも必要)

□ 脳や神経の症状(てんかん発作、発達の遅れなど)

□ 腎臓の障がい(たんぱく尿、ネフローゼ症候群など)

副症状

(1つ以上必要)

□ 顔つきや手足の形などの特徴

□ 筋肉の症状(力が弱い、目が内側に寄るなど)

□ 食道裂孔ヘルニア(胃の一部が胸側にはみ出す状態)

診断をより確かなものにするため、次のような詳しい検査が行われます。

  • 尿検査 腎臓のフィルターがうまく働いているかを確認します。 体に必要なタンパク質が尿に漏れ出ていないかを調べることが目的です。
  • 血液検査 腎臓の働きを示す数値や、タンパク質が減って栄養状態が悪化していないか、 体全体の健康状態を数字で詳しく確認します。
  • 画像検査 頭のMRI検査などを行い、脳の形や大きさに異常がないかを調べます。 脳の断面を写真のように見て、診断の助けとします。
  • 遺伝子検査 原因と考えられる遺伝子の変化を調べるために行われます。 しかし、まだ原因遺伝子が全て解明されていないため、 この検査だけで診断が確定するわけではありません。

これらの検査を通して、似たような症状があらわれる他の病気ではないか、 という点もしっかりと調べていきます。 専門の医師が全ての情報を丁寧に検討し、最終的な診断を下します。

ギャロウェイ・モワト症候群の治療

現在の医学では、残念ながらこの病気を根本から治す方法はまだありません。 そのため、治療の目標は、今あらわれている症状を一つひとつ和らげることです。 患者さんの体の負担を軽くする「対症療法(たいしょうりょうほう)」が中心となります。

治療は主に、「腎臓」と「神経」の2つの症状に対して行われます。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、治療計画を丁寧に立てていきます。

腎臓の症状(ネフローゼ症候群)への治療

腎臓の働きを守り、全身のむくみなどのつらい症状を軽くすることが目的です。

  • 食事療法 腎臓への負担をできるだけ減らすため、食事の内容を調整します。
  • お薬での治療 血圧を整えるお薬や、尿の出を助ける「利尿薬」などが使われます。 体の免疫を抑える「ステロイド」というお薬を試すこともあります。 しかし、この病気では効果が出にくいことも少なくありません。
  • 腎代替療法(じんだいたいりょうほう) 腎臓の機能が大きく低下してしまった(末期腎不全)場合に行います。 血液透析や腎移植など、腎臓の働きを機械や他の人の腎臓で補う治療です。

神経の症状への治療

てんかん発作をできるだけ抑え、お子さんの発達をサポートすることが目的です。

  • お薬での治療 てんかん発作に対しては、発作のタイプに合った「抗てんかん薬」を使います。 長くお薬を飲み続けることが、発作をコントロールするために大切です。
  • リハビリテーションや療育 体の動きや言葉の発達をうながすためのリハビリや専門的な訓練も、 お薬と同じくらい大切な治療の一つです。

このほか、遺伝に関する不安や悩みがある場合は、専門家と相談できる 「遺伝カウンセリング」というサポートを受けることもできます。 治療は患者さんの状態に合わせて、専門の医師とよく相談しながら進めていきます。