腎盂腎炎

急な高熱や寒気、そして背中や腰に感じる鈍い痛み。「ただの風邪だろう」と、つい軽く考えてしまっていませんか。その症状、もしかすると腎臓が発している危険なSOSサイン、「腎盂腎炎」かもしれません。腎盂腎炎は膀胱炎が悪化して発症することが多く、ある研究では患者の7割が女性であったとの報告もあります。

さらに驚くべきことに、この病気は専門家の間でも診断基準が統一されておらず、ある調査では急性腎盂腎炎を調べた12の研究のうち、全く同じ基準で診断していたのは、わずか17%だったとされています。この記事では、見過ごされがちな腎盂腎炎のサインや原因、そして正しい治療法について詳しく解説します。手遅れになる前に、ご自身の体を守るための知識を身につけましょう。

腎盂腎炎の概要

腎盂腎炎(じんうじんえん)とは、腎臓に細菌が感染して炎症が起きてしまう病気のことです。 腎臓の中には、作られたおしっこが一時的に集まる「腎盂」という場所があり、主にこの部分に炎症が広がります。

同じおしっこのトラブルである膀胱炎と間違えられやすいですが、炎症が起きる場所が違います。

  • 膀胱炎 おしっこを溜める袋である「膀胱」の炎症です。
  • 腎盂腎炎 おしっこを作る「腎臓」の炎症です。

多くの場合、膀胱炎が悪化して細菌がおしっこの通り道(尿管)をさかのぼり、腎臓にまで達することで腎盂腎炎を発症します。

そのため、腎盂腎炎では膀胱炎で見られる排尿時の痛みや頻尿などの症状に加えて、以下のような全身にわたる症状があらわれるのが特徴です。

  • 38度以上の高い熱
  • 寒気や体のふるえ
  • 背中や腰のあたりを叩くと響くような痛み
  • 吐き気や体のだるさ

実は、どのような状態を腎盂腎炎とするかの判断基準は、専門家の間でも研究によって少しずつ異なることがあります。 ある調査では、急性腎盂腎炎について調べた12の研究のうち、全く同じ基準で診断していたのは、わずか2つ(約17%)だけだったと報告されています。

このように診断の基準が一つに定まっていないため、医師は慎重に診断を進めます。 尿検査や血液検査の結果だけでなく、患者さんからお聞きする症状などを組み合わせて、総合的にみて腎盂腎炎かどうかを判断します。 気になる症状があれば、自己判断せずに早めに医療機関を受診することがとても大切です。

腎盂腎炎の種類

腎盂腎炎は、原因や症状の進み方によっていくつかの種類に分けられます。 治療法を選ぶうえでとても大切な分類なので、一緒に見ていきましょう。 腎盂腎炎は、主に2つのポイントで分類されます。

1. 尿の通り道に問題があるか 一つ目は、尿の通り道にもともとの病気や異常があるかどうかによる分類です。

  • 単純性(たんじゅんせい)腎盂腎炎 尿の通り道に問題がなく、健康な方に起こる腎盂腎炎です。 突然、高熱などの症状があらわれることがほとんどです。
  • 複雑性(ふくざつせい)腎盂腎炎 尿路結石や糖尿病などの持病がある方に起こる腎盂腎炎です。 細菌の通り道に障害物があったり、体の抵抗力が落ちていたりするため、 治りにくく、繰り返しやすいという特徴があります。

2. 症状の現れ方 二つ目は、症状の現れ方の違いによる分類です。

種類

特徴

急性腎盂腎炎

突然、38度以上の高熱や寒気、腰の強い痛みなどがあらわれます。

慢性腎盂腎炎

はっきりした症状が出ないことが多いのが特徴です。微熱やだるさなど、軽い症状のため気づかないうちに腎臓の働きが弱ることがあります。

これらに加えて、まれではありますが注意が必要な特殊なタイプもあります。

  • 黄色肉芽腫性(おうしょくにくげしゅせい)腎盂腎炎 慢性の腎盂腎炎が重くなった特殊な状態です。 ある研究によると、典型的な患者像は50代から60代の女性で、 約7割の方に腎臓の石が見つかると報告されています。 診断がとても難しく、手術で腎臓を取り除くことが主な治療法です。 ただ、近年の研究では、死亡率は以前考えられていたよりも低いことがわかっています。

腎盂腎炎の原因

腎盂腎炎は、ほとんどの場合、細菌が原因で起こる病気です。 原因となる細菌の多くは、実は私たちの腸の中に普段からいる大腸菌なのです。

何らかのきっかけで、この大腸菌がおしっこの出口から体の中へ侵入します。 そして、おしっこの通り道(尿路)を川登りするようにさかのぼって腎臓にたどり着き、炎症を引き起こします。

特に女性は、男性に比べて尿道が短く、細菌の入り口が肛門や腟に近いため、細菌が侵入しやすい体の構造になっています。 ある研究では、腎盂腎炎の一種にかかった患者さんのうち、70%が女性であったと報告されています。

腎盂腎炎を引き起こす「きっかけ」

普段は体の防御機能によって防がれていますが、以下のような要因があると腎盂腎炎を発症しやすくなります。

  • 体の抵抗力が落ちている
    過労やストレス、糖尿病などの持病があると、 細菌と戦う体の力が弱まってしまいます。
  • おしっこの流れが悪い
    尿路結石や前立腺肥大症などがあると、 おしっこの流れがせき止められてしまいます。 流れが滞ると、細菌が洗い流されずに増殖しやすくなるのです。 ある特殊な腎盂腎炎の研究では、患者さんの約69%に結石が見つかったという報告もあり、 尿の流れは非常に重要です。
  • 生活習慣など
    トイレを我慢したり、水分をとる量が少なかったりすると、 膀胱の中に細菌がとどまる時間が長くなり、増殖の機会を与えてしまいます。

これらの要因がいくつか重なったときに、腎盂腎炎を発症するリスクが高まります。

腎盂腎炎の症状

腎盂腎炎になると、体は様々なSOSサインを出します。 風邪の症状と似ていることもありますが、特徴的な症状を知っておくことで、早めに気づくことができます。

腎盂腎炎の主な症状は、急に起こることが多いです。 以下のような症状が見られたら注意が必要です。

  • 高い熱と寒気 38度以上の高熱が出ることが多く、ガタガタと体が震えるような強い寒気を伴います。これは体の中で細菌と戦っているサインです。
  • 背中や腰の痛み 腎臓がある背中や脇腹、腰のあたりに痛みを感じます。炎症で腎臓が腫れるため、片側だけが痛むことが多いです。叩くと響くような痛みが特徴的です。
  • トイレの悩み もともと膀胱炎が悪化して起こることが多いため、「トイレが近くなる」「おしっこをするときに痛む」といった症状が先にあらわれることもあります。
  • 体のだるさ 吐き気や食欲がなくなるなど、全身のだるさを感じることも少なくありません。

実は、これらの症状の現れ方は人によって様々です。 専門家の間でも、どの症状を腎盂腎炎とするかの判断基準は、研究によって少しずつ異なることがあります。 ある調査では、急性腎盂腎炎の診断基準を比べたところ、12の研究のうち、全く同じ基準を使っていたのは、わずか2つ(約17%)だけだったと報告されています。

このように診断が難しいため、自己判断はとても危険です。 症状がはっきりしない「慢性腎盂腎炎」という状態もあり、放置すると腎臓の働きが弱ってしまうこともあります。 気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。

腎盂腎炎の検査・診断

腎盂腎炎が疑われる場合、原因の細菌を見つけ、炎症の程度を詳しく調べるために、いくつかの検査を行います。 なぜ複数の検査が必要なのか、一つずつ見ていきましょう。

まず、基本となるのが尿検査です。 尿の中に、細菌と戦う体の兵隊である「白血球」や、病気の原因である「細菌」がいないかをチェックします。

検査の種類

確認すること

尿検査

尿に白血球や細菌、血液が混ざっていないかを確認します。

尿培養検査

原因となっている細菌の種類と、どの薬が効くかを調べます。

尿検査で感染のサインが見つかったら、さらに詳しく調べる尿培養検査も重要です。 原因の細菌を特定し、その細菌に最も効果のあるお薬(抗菌薬)を選ぶための大切な検査です。

次に、体全体の炎症の広がりを調べるために血液検査も行います。 体の中で強い炎症が起きると増える白血球の数や、「CRP」という炎症の強さを示す数値などを測定します。

さらに、腎臓の様子を直接目で見るために、画像検査も行います。 お腹にゼリーを塗って機械をあてる超音波(エコー)検査や、体の断面を撮影するCT検査などがあります。 これらの検査で、腎臓が腫れていないか、膿の塊ができていないかなどを詳しく確認します。

実は、専門家の間でも腎盂腎炎の診断基準は一つに定まっていません。 ある調査では、急性腎盂腎炎を調べた12の研究のうち、全く同じ基準で診断していたのは、わずか2つ(約17%)だけだったと報告されています。

だからこそ医師は、これらの検査結果と、患者さんからお聞きする症状(熱や腰の痛みなど)をパズルのように組み合わせて、総合的に腎盂腎炎かどうかを慎重に判断するのです。

腎盂腎炎の治療

腎盂腎炎の治療は、原因である細菌をやっつけることが基本です。 治療の主役となるのは、「抗菌薬」という細菌を退治するお薬です。 症状の重さによって、ご自宅での治療か入院が必要かが決まります。

抗菌薬による治療

抗菌薬は、体のなかにいる細菌の増殖を抑えたり、破壊したりします。 症状の重さに応じて、お薬の使い方が異なります。

  • 飲み薬(経口薬) 症状が比較的軽い場合は、飲み薬の抗菌薬で治療します。 治療期間は、通常1~2週間ほどです。
  • 点滴 高い熱があったり、吐き気で食事がとれなかったりする場合です。 症状が重いときには入院し、点滴で直接血管にお薬を届けます。

最近は、これまでのお薬が効きにくい細菌(耐性菌)が増えています。 そのため、お薬選びは非常に重要です。 ある複数の研究をまとめた報告では、単純性の腎盂腎炎に対して、 セファロスポリン系と呼ばれるお薬が有効な選択肢だと示されました。

治療で最も大切なのは、症状が良くなっても油断しないことです。 処方されたお薬は、必ず最後まで飲み切るようにしてください。 途中でやめると細菌が生き残り、再発や耐性菌の原因になります。

その他の治療

お薬での治療とあわせて、ご自身の回復力を高めることも大切です。 以下の点を心がけ、体の回復をサポートしましょう。

治療法

内容

水分補給

水分をたくさん摂り、尿の量を増やして細菌を体外へ洗い流します。

安静

体をゆっくり休めて体力を回復させ、細菌と戦う免疫力を助けます。

また、尿路結石など、腎盂腎炎の根本的な原因がある場合は、 その病気の治療も並行して行います。 まれですが、腎盂腎炎が重症化し特殊な状態になることもあります。 ある研究では、このような場合、抗菌薬と手術を組み合わせることが、 標準的な治療法であると報告されています。