胸膜炎

息を深く吸うだけで胸に鋭い痛みが走る、少し動いただけでも息が切れる。こうした症状はとても不安になりますよね。もしかすると、それは肺を包む膜に炎症が起きる「胸膜炎」のサインかもしれません。

胸膜炎は、肺の周りに「胸水」がたまることで起こりますが、その背後には肺炎や結核といった感染症だけでなく、命に関わる「がん」などの病気が隠れている可能性もあります。原因によって治療法は全く異なるため、放置せずに原因を突き止めることが何よりも大切です。

この記事では、胸膜炎の詳しい原因や症状の見分け方、診断の正確性が85%以上とされる最新の検査法、そして具体的な治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、不安を解消するためにお役立てください。

胸膜炎の概要

胸膜炎とは、肺の外側をおおっている「胸膜」に炎症が起こる病気です。 私たちの肺は、風船のように自分で膨らんだり縮んだりできません。

胸の筋肉や横隔膜が動くことで、肺は呼吸をしています。 このとき肺がスムーズに動けるように、2枚の薄い膜で包まれています。

  • 臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)
  • 肺の表面にぴったりとくっついている膜です。
  • 壁側胸膜(へきそくきょうまく)
  • 胸の内側(胸壁がわ)をおおっている膜です。

この2枚の膜の間には「胸腔」という、ごくわずかなすき間があります。 胸腔には「胸水」という液体が少量あり、潤滑油の働きをしています。

何らかの原因で胸膜に炎症が起こると、この胸水が異常に増えます。 たまった胸水が肺を圧迫し、息切れや胸の痛みといった症状が現れるのです。

原因は様々ですが、細菌による感染症もその一つです。 かつてはインフルエンザ菌b型(Hib)が重い胸膜炎の原因でした。 しかし、Hibワクチンの普及により、この菌が原因の病気は大きく減りました。 現在では、ワクチンで防げない別の型のインフルエンザ菌(NTHi)が、中耳炎や肺炎などの主な原因として知られています。

胸膜炎の種類

胸膜炎は、肺を包む膜にたまる胸水の性質によって、大きく2つの種類に分けられます。 原因を突き止め、一人ひとりに合った治療法を選ぶために、どちらの種類かを特定することがとても大切です。

滲出性(しんしゅつせい)胸膜炎

胸膜そのものに炎症が起こり、血管からタンパク質や血液の成分がしみ出して、胸水がたまるタイプです。 原因には以下のような病気が挙げられます。

  • 感染症
  • 肺炎や結核などが原因となります。
  • 悪性腫瘍(がん)
  • 肺がんや、乳がんなどが胸膜に転移した場合です。
  • 膠原病(こうげんびょう)
  • 関節リウマチなど、免疫の異常が関わる病気です。

日本では、この滲出性のうち「がん性胸膜炎」と「結核性胸膜炎」が多くを占めています。

漏出性(ろうしゅつせい)胸膜炎

胸膜自体に問題はなく、心臓や肝臓などの病気の影響で、体の水分バランスが崩れることが原因です。 血管から水分だけがじわじわと漏れ出して、胸水がたまります。

  • 心不全
  • 肝硬変
  • ネフローゼ症候群(腎臓の病気)

種類

特徴

主な原因

滲出性胸水

胸膜の炎症が原因。タンパク質などがしみ出す。

感染症、がん、膠原病など

漏出性胸水

全身の病気が原因。水分だけが漏れ出す。

心不全、肝硬変、腎臓の病気など

これらの種類を特定するため、胸水を抜いて成分を調べます。 原因が不明な場合は、超音波で確認しながら胸膜の組織を少量採る「胸膜生検」を行います。 近年の研究では、この超音波を使った胸膜生検は診断の正確性が85%以上と非常に高いことが示されました。 特に造影剤という薬を使うと、精度は98%以上に向上します。 体への負担が比較的少なく、安全に実施できる検査法です。

胸膜炎の原因

胸膜炎を引き起こす原因は一つではなく、実にさまざまです。 原因を正確に突き止めることが、適切な治療への大切な一歩となります。 原因は、大きく「感染症」と「感染症以外の病気」に分けられます。

感染症が原因の場合

細菌やウイルスが肺やその周りに感染して、炎症が起こるケースです。

  • 肺炎
  • 肺炎がこじれて、炎症が肺を包む胸膜にまで広がることがあります。
  • 特にインフルエンザ菌は、肺炎の主な原因菌として知られています。
  • かつてはHibという型の菌が重い感染症の原因でしたが、ワクチンのおかげで激減しました。
  • しかし、研究によれば、現在ではワクチンで防げない別の型(NTHi)が、肺炎などを引き起こすことがわかっています。
  • 結核
  • 日本では、結核菌が原因となる「結核性胸膜炎」も比較的多く見られます。

感染症以外の病気が原因の場合

感染症以外にも、さまざまな病気や要因が胸膜炎の引き金になります。

  • がん(悪性腫瘍)
  • 肺がんが胸膜に広がったり、乳がんなどが転移したりする「がん性胸膜炎」です。
  • 感染症・がん以外の病気
  • 関節リウマチなどの膠原病(こうげんびょう)や、心不全、肝硬変なども原因となります。
  • その他
  • 特定の薬の副作用や、アスベスト(石綿)の吸入が原因となることもあります。
  • また、メタンフェタミンなどの薬物使用も注意が必要です。ある研究では、これらの薬物使用者は、胸膜炎を含むさまざまな肺の病気のリスクが高まると報告されています。

このように原因は多岐にわたるため、問診では生活習慣や過去の病気、お仕事の内容など、詳しくお伺いすることが重要になります。

胸膜炎の症状

胸膜炎になると、原因によってさまざまなサインが現れます。 胸が痛い、息が苦しいといった症状は、とても不安になりますよね。 これらの症状は、肺の周りに「胸水」という液体がたまることで起こります。

代表的な症状は、鋭い胸の痛みです。 特に、次のような動きで痛みは強くなります。

  • 息を深く吸い込んだとき
  • 咳やくしゃみをしたとき
  • 体をひねるなど、動いたとき

これは、炎症で敏感になった胸膜が、肺の動きでこすれるためです。 痛みは「チクチク」「ズキズキ」と感じられ、背中に広がることもあります。

また、胸水がたまると肺が圧迫され、十分に膨らめなくなります。 そのため、息切れや呼吸の苦しさを感じるのも、よくある症状の一つです。 いつもは平気な階段の上り下りでも、息が上がってしまうかもしれません。

【胸膜炎の主な症状チェックリスト】 □ 胸の痛み (特に呼吸や咳で強くなる) □ 息切れ、呼吸が苦しい □ 空咳(からぜき)や痰(たん) □ 発熱や寒気 □ 胸の違和感や圧迫される感じ

肺炎などが原因の場合、38度以上の高熱や咳、痰を伴うことが多いです。 さらに炎症が進むと、胸の中にうみがたまる「膿胸(のうきょう)」になることも。

ある研究では、メタンフェタミンなどの薬物の使用が、膿胸や肺膿瘍といった重い肺の感染症のリスクを高めることが報告されています。 これらの重い感染症が、胸膜炎につながる可能性も指摘されています。

胸水が非常に多くなると、心臓まで圧迫されて血圧が下がることもあります。 気になる症状があれば、決して我慢せず、早めに医療機関へご相談ください。

胸膜炎の検査・診断

胸の痛みや息苦しさといった症状がある場合、まず原因を探します。 原因を正確に突き止めるため、いくつかの検査を順に行います。 患者さんの体への負担が少ない検査から始めるのが基本です。

まず、胸部エックス線(レントゲン)やCT検査といった画像検査です。 胸の中に「胸水」がたまっているか、どのくらいあるかを確認します。 同時に、肺炎やがんの影など、原因になる病気がないかも調べます。

血液検査も行い、体の中で炎症がどのくらい起きているか見ます。 白血球の数やCRPという炎症反応の数値で判断します。 これらは、体がばい菌などと戦っているサインになります。

これらの検査で原因がはっきりしない場合は、より詳しい検査に進みます。 代表的なものが、胸にたまった胸水を直接調べる「胸水検査」です。

  • 胸水検査(胸腔穿刺)
  • 胸に細い針を刺して、原因となっている胸水を少しだけ抜き取ります。
  • 抜き取った胸水の色や成分を分析し、細菌やがん細胞がいないか調べます。

胸水検査でも診断がつかない場合、胸膜の組織を直接調べます。 「胸膜生検」という、胸膜の一部を採って顕微鏡で見る検査です。 最近では、より安全で正確な方法が用いられています。

超音波(エコー)で胸の中をリアルタイムに見ながら行う方法です。 この超音波を使った胸膜生検は、とても診断の精度が高いです。 ある研究では、診断の正確さは85%以上と報告されています。

さらに精度を上げるため、造影剤というお薬を使うこともあります。 このお薬を使うと、診断の正確さは98%以上にまで高まります。 体への負担が少なく、安心して受けられる検査法の一つです。

これらの検査結果を総合的に判断し、最適な治療法を決めていきます。

胸膜炎の治療

胸膜炎の治療は、主に2つの目標を立てて進めていきます。 1つは、胸膜炎の根本的な「原因」となっている病気を治すことです。 もう1つは、たまった胸水による「息苦しさ」などの症状を和らげることです。

具体的な治療法は、原因や患者さんの体の状態によって異なります。

原因となっている病気への治療

治療の基本は、胸膜炎を引き起こしている大元の病気を治すことです。 原因に応じて、以下のようなお薬が使われます。

  • 細菌による感染症
  • 抗菌薬(抗生物質)を使って原因菌をなくします。
  • 結核菌による感染症
  • 抗結核薬という専用の薬で治療します。
  • がんが原因の場合
  • 抗がん剤や分子標的薬など、がんの種類に合わせた治療を行います。

このように、原因を正確に見極めることが、治療の最も重要な第一歩です。 そのため、問診では生活習慣なども詳しくお伺いします。 ある研究では、特定の薬物使用が、胸にうみがたまる「膿胸」という重い状態のリスクを高めることが報告されています。

症状を和らげる治療

胸水がたくさんたまると、肺が圧迫されて息苦しくなります。 このつらい症状を取り除くために、次のような治療が行われます。

  • 胸腔ドレナージ
  • 胸水の量が多い場合や、感染でうみのようになっている時に行います。
  • 胸の壁から肺との間に細い管(ドレーン)を入れ、胸水を体の外に出します。
  • 最近の研究では、この管を入れる治療と同時に、胸の中をきれいな液体で洗い流す「胸腔内灌流(きょうくうないかんりゅう)」という方法も注目されています。この方法は、胸の中にうみが残るのを防ぎ、入院期間が短くなる可能性も示されています。
  • 胸膜癒着術(きょうまくゆちゃくじゅつ)
  • がんなどが原因で、胸水を抜いても繰り返し溜まってしまう場合に行います。
  • 薬を使い、胸膜を意図的にくっつけます。
  • これにより、胸水がたまるスペース自体をなくして再発を防ぎます。

どの治療法を選ぶかは、一人ひとりの原因や体の状態によって大きく異なります。 詳しい治療方針については、担当の医師とよく相談することが大切です。