みぞおちにハンマーで殴られたような激痛が走り、背中にまで痛みが広がる…。もし、このような経験があるなら、それは単なる胃痛ではないかもしれません。その正体は、消化酵素が暴走し、膵臓が自らを溶かしてしまう恐ろしい病気「膵炎」の警告サインである可能性があります。
アルコールの飲みすぎや胆石が二大原因として知られていますが、近年では一部のがん治療薬が発症リスクを約2倍に高めるという報告もあり、誰にとっても無関係とは言えません。この記事では、突然襲ってくる急性膵炎と、静かに進行する慢性膵炎の違いから最新の治療法まで、命に関わることもあるこの病気の全てを徹底解説します。
膵炎の概要
膵炎(すいえん)とは、お腹の奥にある「膵臓(すいぞう)」という臓器に炎症が起こる病気です。膵臓は胃の裏側にあり、私たちの体にとって2つの重要な役割を持っています。
- 消化酵素(しょうかこうそ)の分泌 食べ物を分解して、栄養を吸収しやすくするための消化液(膵液)を作ります。
- ホルモンの分泌 血糖値を下げるインスリンなど、体の調子を整えるホルモンを作ります。
通常、強力な消化酵素は膵臓から十二指腸に送られてから働き始めます。しかし、何らかの原因で消化酵素が膵臓の中で活性化してしまうことがあります。その結果、膵臓自体を消化し始めてしまい、強い炎症が起こるのが膵炎です。
原因は様々ですが、近年では、一部のがん治療薬が原因となることが知られています。「免疫チェックポイント阻害剤」という薬が、副作用として膵炎を起こすことがあるのです。ある研究では、この薬を使うと膵炎になるリスクが約2倍(2.04倍)になると報告されました。この薬で膵炎が起こる割合は0.93%と頻度は高くありませんが、注意すべき副作用です。
膵炎の種類
膵炎は、症状の進み方によって大きく2つのタイプに分けられます。 突然火が燃え上がるような「急性膵炎」と、火種がくすぶり続けるような「慢性膵炎」です。 それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
急性膵炎
何らかの原因で、膵臓に突然強い炎症が起こる病気です。 多くの場合、適切な治療で膵臓は元の元気な状態に戻ります。 しかし、炎症が非常に激しいと重症化することがあります。 重症化すると他の臓器にも悪影響を及ぼし、命に関わることもあるため注意が必要です。
慢性膵炎
膵臓の炎症が長い間続いたり、繰り返されたりする病気です。 その結果、膵臓の細胞が少しずつ壊れて硬くなっていきます。 一度壊れてしまった組織は元に戻りません。 進行すると膵臓の働きが失われ、消化不良や糖尿病になることがあります。
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項目
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急性膵炎
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慢性膵炎
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起こり方
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突然、激しい症状で始まります。
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長い時間をかけてゆっくり進行します。
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主な症状
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みぞおちの激痛、背中の痛み、吐き気、発熱などです。
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繰り返すお腹や背中の痛み、体重減少、下痢などです。
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治療の後
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ほとんどの場合、膵臓の機能は元に戻ることが期待できます。
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壊れた組織は回復せず、失われた機能は元に戻りません。
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また、膵炎は何が原因で起こったかによっても分類されます。
- アルコール性膵炎 長期間にわたる多量の飲酒が原因で、最も多いタイプです。
- 胆石性膵炎 胆のうにできた石(胆石)が、膵液の出口をふさぐことで起こります。
- 薬剤性膵炎 一部のがん治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)などが原因となることがあります。 ある研究では、この薬を使うと膵炎になるリスクが約2倍になると報告されています。
- 自己免疫性膵炎 体の免疫システムが、間違って自分の膵臓を攻撃してしまう病気です。
- 特発性膵炎 いろいろな検査をしても、はっきりとした原因が見つからないタイプです。
膵炎の原因
膵炎がなぜ起こるのか、その原因は一つだけではありません。 最も多いのは「アルコールの飲みすぎ」と「胆石」です。 この2つが主な原因ですが、他にもいくつか知られています。
原因として最も多いのが、長期間にわたる多量の飲酒です。 アルコールが体内で分解されるときに、膵臓に負担がかかります。 この負担が積み重なると、膵臓の細胞が傷つき炎症を起こします。
次に多い原因が、胆のうの中にできる「胆石」です。 この石が胆管という管を転がり落ちて、膵液の出口をふさぎます。 行き場を失った膵液が膵臓にあふれ、炎症を引き起こすのです。 体の状態によっては胆石ができやすいこともあり、例えば脊髄損傷を負った方は胆石ができやすいことが知られています。
他にも、以下のような原因で膵炎が起こることがあります。
- お薬の副作用 がん治療で使われる「免疫チェックポイント阻害薬」など、一部のお薬は膵炎の原因になることがあります。 ある研究では、このお薬を使うと膵炎になるリスクが約2倍になると報告されました。 ただし、実際に起こる頻度は1%未満と、それほど高くはありません。
- 脂質異常症 血液中の中性脂肪という成分が、極端に高い状態が続くと膵炎を引き起こすことがあります。
- 原因不明のもの さまざまな検査をしても、はっきりとした原因が見つからない膵炎もあります。 これを「特発性(とっぱつせい)膵炎」と呼びます。
膵炎の症状
膵炎の最も代表的な症状は、お腹の上のほうや背中の痛みです。 「みぞおち」と呼ばれる部分に、突然ハンマーで殴られたような激痛が走ります。 痛みは背中にまで広がることが多く、体を「く」の字に曲げると少し楽に感じます。
痛み以外にも、膵炎では次のような症状があらわれることがあります。
- 吐き気や嘔吐 激しい痛みにともなって、何度も吐いてしまうことがあります。 食事や水分をとることが難しくなります。
- 発熱 膵臓の強い炎症が原因となり、38度以上の高熱が出ることがあります。
- 食欲不振 痛みや吐き気によって、食べたいという気持ちがなくなります。
- お腹の張り お腹がパンパンに張って、ガスが溜まったように苦しく感じます。
ただし、症状の現れ方は人によって異なり、注意が必要なケースもあります。 例えば、がん治療で使われる「免疫チェックポイント阻害剤」というお薬が原因の場合です。 ある研究では、このお薬で膵炎が起こるリスクが約2倍になると報告されています。 この場合、激しい痛みがなくても、血液検査で初めて異常が見つかることも少なくありません。
また、脊髄損傷などで体の感覚に変化がある方は、はっきりとした痛みを感じにくいことがあります。 このような方は、なんとなくお腹の調子が悪いといった非定型的な症状を示す場合があるため注意が必要です。 これらの症状が見られた場合は、我慢せずにすぐに医療機関を受診してください。
膵炎の検査・診断
膵炎が疑われる場合、まず症状を詳しくお聞きし、お腹を診察します。 その上で、診断を確定するためにいくつかの検査を組み合わせて行います。 これらの検査は、膵臓の状態を多角的に調べるための大切な手がかりです。
血液検査
膵臓に炎症が起きると、細胞が壊れて中の消化酵素が血液に漏れ出します。 そのため、血液検査でこれらの酵素の数値を調べることは診断に不可欠です。
- アミラーゼ、リパーゼ 膵臓の細胞が壊れることで数値が上がるため、膵臓からのSOSサインと言えます。
- CRP、白血球 体の中でどれくらい強い炎症(火事)が起きているかを示す数値です。
- 肝機能、胆道系酵素 胆石が原因で膵炎が起きている場合に、数値が上がることがあります。
画像検査
膵臓やその周りの様子を、直接目で見るように確認するための検査です。 それぞれの検査には特徴があり、目的に応じて使い分けられます。
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検査の種類
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特徴
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腹部超音波(エコー)検査
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体への負担が少なく手軽に行えるため、最初に行われることが多い検査です。膵臓の腫れや、原因となる胆石の有無などを確認します。
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CT検査
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膵臓の状態をより詳しく立体的に調べることができます。炎症がどこまで広がっているかや、重症度を評価するのに役立ちます。
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MRI検査(MRCP)
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磁気の力を使う検査で、特に胆汁や膵液が通る「管」の状態を詳しく見るのが得意です。胆石による詰まりなどを鮮明に映し出します。
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特殊な内視鏡検査
より詳しく原因を調べたり、同時に治療を行ったりする検査もあります。
- 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP) 口からカメラ(内視鏡)を入れ、膵液の出口から細い管を通して詳しく調べる検査です。 もし胆石が詰まっていれば、その場で取り除く治療もできます。
この検査は非常に専門的な技術を必要とします。 多くの研究結果を分析した信頼性の高い報告によると、検査を行う医師や施設の経験数が重要であることがわかっています。 経験豊富な医師や施設ほど、検査の成功率が高まる傾向にあります。 さらに、検査後の出血といった合併症が起こるリスクも低くなることが示されています。
これらの検査結果をパズルのピースのように組み合わせ、総合的に判断して膵炎の診断と重症度の評価が行われます。
膵炎の治療
膵炎の治療で最も大切なのは、炎症という火事を起こしている膵臓を休ませることです。 そのため、基本的には入院して治療を進めます。 まずは食事や水分を口から摂るのをやめて、膵臓を刺激しないようにします。 体に必要な水分や栄養は、点滴でしっかり補給するので安心してください。
治療法は、膵臓の炎症の強さ(重症度)によって変わります。
- 軽症の場合 点滴や痛み止め、炎症を抑えるお薬を使った治療が中心です。 多くの場合、これらの治療で数日から1週間ほどで回復に向かいます。
- 重症の場合 炎症が全身に広がり、呼吸や血圧が不安定になることがあります。 その際は集中治療室(ICU)で、体の状態を細かく管理しながら治療を行います。
また、膵炎が長引くと、特別な治療が必要になることもあります。
- 膵臓の周りに液体がたまった時(膵液貯留) たまった液体を体の外に出す「ドレナージ」という治療を行います。 最近では、口から入れたカメラ(内視鏡)を使う方法が増えています。 多くの研究を分析した信頼性の高い報告によると、この方法は体に傷をつける方法に比べ、治療の成功率が高く、入院期間も短くなる傾向があります。 再治療の回数や死亡率も少なくなることが示されており、患者さんの負担が少ない治療法と考えられています。
- 胆石で管が詰まった時 胆石が膵液の出口をふさいでいる場合、内視鏡を使って「ステント」という細い管を置きます。 このステントが新しい通り道となり、膵液の流れを良くします。 ステントには金属製とプラスチック製があります。 複数の研究をまとめた報告では、金属製のステントはプラスチック製に比べ詰まりにくく、再び治療が必要になるリスクを減らすことが期待できるとされています。
どの治療法を選ぶかは、一人ひとりの体の状態によって異なります。 担当の医師とよく相談しながら、最適な治療を進めていきましょう。