膵島腫瘍

なかなか治らない胃潰瘍、空腹時に襲われる原因不明の冷や汗や動悸。これらの症状は、胃の不調と思われがちですが、実は胃の裏側にある「膵臓」に潜む、比較的まれな腫瘍が原因かもしれません。

「膵島腫瘍」と呼ばれるこの病気は、ホルモンを作る細胞に発生します。ホルモンを過剰に放出して体に多彩なサインを送るタイプもあれば、全く症状を出さずに静かに進行するタイプもあり、その姿は千差万別です。気づきにくいからこそ、正しい知識が重要になります。

この記事では、その謎に包まれた膵島腫瘍の種類ごとの症状から、原因、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体調と照らし合わせ、病気の早期発見にお役立てください。

膵島腫瘍の概要

膵臓(すいぞう)は胃の裏側にある、とても大切な臓器です。 食べ物の消化を助ける液体(膵液)を作っています。 それと同時に、体の調子を整えるホルモンも作っています。

膵臓の中には「膵島(すいとう)」という細胞の集団があります。 この膵島は、血糖値をコントロールするホルモンを作っています。 例えば、血糖値を下げるインスリンなどが有名です。

膵島腫瘍とは、このホルモンを作る膵島の細胞にできる腫瘍です。 膵臓にできる腫瘍の中では、比較的まれな病気とされています。 この腫瘍は、大きく2つのポイントで分類されます。

  • ホルモンを作り出すかどうか
  • 機能性腫瘍
  • ホルモンを過剰に作り出し、体に様々な症状を引き起こすタイプです。
  • 非機能性腫瘍
  • ホルモンを作らない、もしくは症状が出ないタイプです。
  • 腫瘍の性質
  • 良性
  • 比較的ゆっくりと大きくなり、基本的にはその場にとどまります。
  • 悪性(がん)
  • 周りの組織に広がったり、他の臓器に移ったり(転移)するタイプです。

これらの違いによって、体に現れる症状や治療法が大きく異なります。 そのため、どのような種類の腫瘍なのかを正確に調べることが重要です。

膵島腫瘍の種類

膵島腫瘍は、ホルモンによる症状があるかで大きく2つに分けられます。 ホルモンを過剰に作る「機能性腫瘍」と作らない「非機能性腫瘍」です。 それぞれの中に、さらに細かな種類が存在します。

機能性腫瘍は、作り出すホルモンの種類によって症状が全く異なります。 代表的な機能性腫瘍は以下の通りです。

腫瘍の種類

過剰に出るホルモン

主な症状の例

インスリノーマ

インスリン(血糖値を下げる)

低血糖(強い空腹感、冷や汗、意識が遠のく)

ガストリノーマ

ガストリン(胃酸の分泌を促す)

治りにくい胃潰瘍、胸やけ、下痢

グルカゴノーマ

グルカゴン(血糖値を上げる)

血糖値の上昇、特徴的な皮膚の発疹、体重減少

VIPオーマ

VIP

大量の水のような下痢、脱水症状

一方で、非機能性腫瘍はホルモンによる症状が出ません。 そのため、腫瘍が大きくなるまで気づかれにくいのが特徴です。 腫瘍が周りの臓器を圧迫することで初めて症状が出ます。 例えば、お腹や背中の痛み、食欲不振などが挙げられます。 また、胆汁の流れ道を塞ぐと黄疸(おうだん)が出ることもあります。

膵島腫瘍の原因

膵島腫瘍がなぜできてしまうのか、その詳しい原因は、残念ながらまだはっきりと解明されていません。

ほとんどの膵島腫瘍は、遺伝とは関係なく偶然に発生します。 これを「散発性(さんぱつせい)」と呼びます。 私たちの体は、日々新しい細胞を作り続けています。 その際、細胞の設計図である遺伝子に、偶然コピーミスが起こることがあります。 この小さなミスが積み重なることが、原因の一つではないかと考えられています。 生活習慣や特定の食べ物が、直接の原因となるという証拠は見つかっていません。

ただし、ごくまれに遺伝が関係しているケースもあります。 体の設計図に生まれつき変化があることで、腫瘍ができやすくなる病気です。 ご家族に同じような病気の方がいる場合に、発症しやすくなることがあります。 膵島腫瘍と関連する、代表的な遺伝性の病気は以下の通りです。

  • 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)
  • 脳や膵臓など、ホルモンを作る様々な場所に腫瘍ができやすい病気です。
  • フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病
  • 体のいろいろな場所に、良性や悪性の腫瘍などができやすくなります。
  • 神経線維腫症1型(NF1)
  • 皮膚や神経に特徴的な症状が現れることが多い病気です。
  • 結節性硬化症
  • 脳や皮膚、腎臓など、多くの場所に良性の腫瘍ができます。

これらの病気が原因となるのは、あくまで一部のケースです。 原因がはっきりしなくても、検査で腫瘍を詳しく調べ、適切な治療を行うことが大切です。 もしご家族の病歴などで気になることがあれば、専門の医療機関にご相談ください。

膵島腫瘍の症状

膵島腫瘍の症状は、腫瘍がホルモンを作るかで大きく変わります。 ホルモンを作る「機能性腫瘍」は、体に様々なサインを出します。 一方、ホルモンを作らない「非機能性腫瘍」は静かに大きくなります。

1. ホルモンを作る腫瘍(機能性腫瘍)の症状

作り出されるホルモンの種類によって、全く異なる症状が現れます。 まるで、体のスイッチが勝手に押されてしまうような状態です。 代表的な腫瘍と、その症状を見ていきましょう。

  • インスリノーマ
  • 血糖値を下げるインスリンが、必要以上に作られてしまいます。
  • その結果、体のエネルギー源である糖分が足りなくなります。
  • 特に空腹の時に、強い空腹感や冷や汗、動悸などが起こります。
  • 症状が重いと、意識がもうろうとしてしまうこともあります。
  • ガストリノーマ
  • 胃酸を出すよう命令するガストリンが、過剰に作られます。
  • 強力な胃酸によって、胃や腸の壁が荒れてしまいます。
  • 薬を飲んでもなかなか治らない胃潰瘍や、胸やけが特徴です。
  • グルカゴノーマ
  • 血糖値を上げるグルカゴンが、過剰に作られる腫瘍です。
  • 血糖値が高くなるほか、体のあちこちに移動する発疹が出ます。
  • VIPオーマ
  • VIPというホルモンが過剰になり、腸に異常な命令を出します。
  • 大量の水のような下痢が続き、脱水症状を起こしやすくなります。

2. ホルモンを作らない腫瘍(非機能性腫瘍)の症状

このタイプの腫瘍は、ホルモンによる症状が出ません。 そのため、腫瘍が小さいうちは、ほとんど無症状で経過します。 腫瘍が大きくなり、周りの臓器を圧迫して初めて症状が出ます。

  • お腹や背中の痛み
  • 腫瘍が大きくなり、周りの神経や臓器を押しつぶすことで起こります。
  • 食欲の低下
  • 腫瘍が胃や腸を圧迫し、食べ物があまり入らなくなります。
  • 黄疸(おうだん)
  • 胆汁という消化液の通り道を、腫瘍が塞ぐことで起こる症状です。
  • 体の皮膚や、目の白目の部分が黄色っぽく見えるのが特徴です。

これらの症状は、他の病気でも見られることがあります。 しかし、気になる症状が続く場合は自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。

膵島腫瘍の検査・診断

膵島腫瘍の疑いがある場合、段階的に検査を進めて診断を確定します。 まず「ホルモンが異常に出ていないか」を血液や尿で確認します。 次に「腫瘍がどこにあるか」を、様々な画像検査で探し出します。 これらの結果をパズルのように組み合わせ、正確な診断につなげます。

1. ホルモンの異常を調べる検査

腫瘍が作るホルモンは、血液に乗って体中を巡っています。 そのため、血液検査や尿検査でホルモンの量を測定します。 これは、腫瘍の種類を特定するための、とても重要な手がかりです。 必要に応じて、体に軽い刺激を与えてホルモンの反応を見る負荷試験も行います。

2. 腫瘍の場所や形を調べる画像検査

ホルモンの異常が見つかったら、次は腫瘍そのものを探しに行きます。 体の内部を画像として映し出す検査で、腫瘍の場所や大きさを調べます。 それぞれの検査に得意分野があるため、複数を組み合わせて行います。

検査の種類

どのような検査か

腹部超音波検査(エコー)

体への負担が少ない、基本的な検査です。お腹にゼリーを塗り、超音波で膵臓の様子を観察します。

CT検査

X線を使って体の断面を撮影します。造影剤という薬を使うことで、腫瘍の形や広がりがより鮮明になります。

MRI検査

磁気の力で体を撮影する検査です。特に肝臓など、他の臓器への転移を見つけるのに役立ちます。

超音波内視鏡検査(EUS)

胃カメラの先端に超音波装置を取り付けた機器です。胃の中から膵臓をすぐ近くで見るため、小さな腫瘍の発見に優れています。

3. 最終確認のための検査(生検)

画像検査で腫瘍が見つかった場合、その正体を確認する必要があります。 超音波内視鏡を使いながら、腫瘍の組織をほんの少しだけ採取します。 採取した組織を顕微鏡で詳しく観察し、良性か悪性かを確定診断します。 この結果が、今後の治療方針を決める上で最も重要な情報となります。

膵島腫瘍の治療

膵島腫瘍の治療法は、一つに決まっているわけではありません。 腫瘍の性質や大きさ、転移の有無などを総合的に見て決まります。 患者さん一人ひとりの状態に合わせた、最適な治療計画を立てます。 治療の基本は、手術によって腫瘍そのものを取り除くことです。

治療法は大きく3つに分けられ、状態に応じて組み合わせます。 ご自身の体に関わる大切な選択ですので、一緒に見ていきましょう。

治療法の種類

目的

対象となる主なケース

手術療法

腫瘍を完全に取り除き、病気の根本的な治癒を目指します。

腫瘍が膵臓やその周りにとどまり、切除が可能な場合。

薬物療法

ホルモン症状を和らげ、腫瘍が大きくなるのを抑えます。

手術が難しい場合や、腫瘍が他の臓器に転移している場合。

その他の治療

特定の場所にできた腫瘍を、ピンポイントで治療します。

肝臓への転移など、手術以外の方法が適している場合。

手術療法

腫瘍を物理的に取り除く、最も中心となる治療法です。 可能な限り、腫瘍を完全に取り除くことで根治を目指します。 手術の方法は、腫瘍の場所や大きさによって異なります。

  • 核出術(かくしゅつじゅつ)
  • 腫瘍だけを、果実をくり抜くように丁寧に取り除く手術です。
  • 周りの正常な膵臓をできるだけ残せるため、体への負担が少ないです。
  • 膵部分切除術
  • 腫瘍がある部分の膵臓を、安全な範囲を含めて切除する方法です。
  • 腫瘍の場所に応じて、切除する範囲が変わります。

薬物療法

手術で取り除くことが難しい場合などに行われる治療法です。 薬を使い、症状を和らげたり、腫瘍の進行を抑えたりします。

  • ホルモン症状を抑える薬
  • 異常に作られるホルモンが原因で起こる、つらい症状を和らげます。
  • 例えば、低血糖や治りにくい胃潰瘍などをコントロールします。
  • 腫瘍の増殖を抑える薬
  • 腫瘍が大きくなる仕組みに働きかけ、進行を遅らせる薬です。
  • 分子標的薬という、腫瘍細胞だけを狙うタイプの薬が使われます。

どのような治療が最適かは、専門の医師が慎重に判断します。 治療についてわからないことや不安な点は、遠慮せずにご相談ください。