神経内分泌がん

「神経内分泌がん」という病名をご存知でしょうか。日本では年間に診断される方が約4,000人と少ない「希少がん」ですが、すい臓や胃、肺など全身にできる可能性があり、決して他人事ではありません。

このがんの最も注意すべき点は、同じ名前でありながら、ゆっくり進行するおとなしいタイプと、転移しやすく悪性度の高いタイプという、全く逆の性質を持つ二面性があることです。

なぜ性質が異なるのか、そして希望の光となる「がんワクチン」などの最新治療はどこまで進んでいるのか。この記事では、あなたの知らない神経内分泌がんの正体から最新の治療法まで、その全貌を分かりやすく解説します。

神経内分泌がんの概要

神経内分泌がんとは、体の調子を整える「ホルモン」を作る、 「神経内分泌細胞」という細胞から発生する腫瘍のことです。 すい臓や胃、腸といったお腹の臓器や肺など、 体のさまざまな場所にできる可能性があります。 日本では、1年間に診断される方が約4,000人と少なく、 「希少がん」の一種として知られています。

この病気は、細胞が増える速さや見た目の違いから、 大きく2つのタイプに分けられることが特徴です。

分類

特徴

神経内分泌腫瘍(NET)

比較的おとなしい性質で、ゆっくりと進行するタイプです。

悪性度に応じてさらにG1、G2、G3に細かく分類されます。

神経内分泌がん(NEC)

細胞が増えるスピードが速く、転移もしやすい悪性度の高いタイプです。

このように、同じ名前がついていても性質が大きく異なるため、 どちらのタイプなのかを正確に診断することが、 今後の治療方針を決める上で非常に重要になります。

また、世界中で新しい治療法の研究が進められています。 例えば、子どものがんである「神経芽腫」という種類では、 新しい免疫療法(がんワクチン)の開発が期待されています。 これは、がん細胞だけを狙い撃ちする治療法で、 正常な細胞への影響を抑えることを目指しています。 将来の治療の選択肢を広げるものとして注目されています。

神経内分泌がんの種類

神経内分泌がんという病名は、実は一つの病気ではありません。 「神経内分泌腫瘍(NEN)」という、大きなグループの名前です。 このグループは、細胞の性質によって大きく2つのタイプに分けられます。

  • 神経内分泌腫瘍(NET) 比較的おとなしい性格で、ゆっくりと進行するタイプです。
  • 神経内分泌がん(NEC) 細胞が増えるスピードが速く、転移もしやすい悪性度の高いタイプです。

さらに、おとなしい性格のNETは、悪さのレベル(悪性度)によって、 3つのグレードに細かく分類されます。

グレード

特徴

NET G1

最もゆっくりと進行する、一番おとなしいタイプです。

NET G2

G1よりは速く進みますが、まだ比較的おだやかなタイプです。

NET G3

進行が速く、悪性度が高いタイプです。

一方、NECは子どもにみられる「神経芽腫」もその一種です。 神経芽腫は、神経のもとになる細胞から発生するがんで、 子どものがんの中でも治療が難しいものの一つとされています。 しかし、新しい免疫療法である「がんワクチン」の開発が進んでいます。 この治療は、元気な細胞への影響を抑えつつ、 がん細胞だけを狙って攻撃することを目指すもので、 将来の治療法として期待されています。

神経内分泌がんの原因

神経内分泌がんがなぜできてしまうのか、その原因はまだ全てが明らかになっていません。 しかし、最近の研究によって、体の設計図である「遺伝子」の異常が、 病気の発症に深く関わっていることが少しずつわかってきました。

私たちの体の中にある細胞は、遺伝子の指示に従って働いています。 遺伝子の中には、細胞ががんにならないように見守る重要な役割を持つものがあります。

  • がん抑制遺伝子(ブレーキ役) 細胞が異常に増えすぎないように、車のブレーキのように制御します。
  • がん遺伝子(アクセル役) 細胞が正しく増えるために必要な、車のアクセルのような働きをします。

普段はこれらの遺伝子がバランスを取り、細胞の増殖をうまく調整しています。 しかし、何らかの理由で遺伝子が傷つき、ブレーキが壊れたりアクセルが暴走したりすると、 細胞が勝手に増え続け、がんになると考えられています。

神経内分泌がんでは、特に次のような遺伝子の異常が高い確率で報告されています。

遺伝子の種類

具体的な遺伝子名

どのような異常か

がん抑制遺伝子(ブレーキ役)

p53、Rb1、p16 など

正常に働かなくなる(機能の喪失)

がん遺伝子(アクセル役)

CDC6、KRAS など

必要以上に働きすぎてしまう(暴走)

また、がん細胞がもともとどの細胞から生まれたかという「発生起源」も重要です。 神経内分泌がんは、体の成長過程で作られる「神経堤細胞」という細胞から発生することがあります。 この細胞は体の様々な場所に移動する性質を持つため、 神経内分泌がんが全身の臓器に見られる理由の一つとされています。 実は、子どものがんである「神経芽腫」も、 この神経堤細胞から発生する神経内分泌がんの一種です。

神経内分泌がんの症状

神経内分泌がんの症状は、がんができた場所やホルモンを作るかどうかで、 実にさまざまなサインとして現れます。 初期の段階では症状がほとんどないことも少なくありません。

症状は大きく分けて、がんそのものが原因の症状と、 がんが作り出すホルモンが原因の症状の2種類があります。

がんの場所や大きさによる症状 がんが大きくなり、周りの臓器を圧迫することで症状が出ます。

  • お腹(胃、腸、すい臓など)にできた場合 おなかの痛みや違和感、食欲がなくなる、 吐き気や嘔吐、下痢や便秘などが見られます。
  • 肺にできた場合 風邪でもないのに続く咳や痰、胸の痛み、 階段を上っただけで息が苦しくなる、などがあります。

ホルモンによる症状 がん細胞がホルモンを過剰に作り出すタイプもあります。 これを「機能性神経内分泌腫瘍」と呼び、全身に症状が出ます。

ホルモンの種類

主な症状

インスリン

めまい、冷や汗、けいれんなどの低血糖症状

ガストリン

激しい胸やけや、胃潰瘍によるおなかの痛み

セロトニン

急に顔がほてる、下痢、ぜんそくのような発作

また、この病気は大人だけでなく、お子さんに見られることもあります。 子どものがんである「神経芽腫(しんけいがしゅ)」も、 神経内分泌がんの一種で、治療が難しい病気の一つです。

症状は多岐にわたるため、気になることがあれば自己判断せず、 お早めに医療機関へご相談ください。

神経内分泌がんの検査・診断

神経内分泌がんの疑いがある場合、がんの正体を正確に突き止める検査が必要です。 検査は、がんの場所を探す「画像検査」と、性質を調べる「病理検査」が中心です。

まず、がんがどこにあり、どのくらいの大きさかを調べるのが画像検査です。 まるで探偵が虫眼鏡で手がかりを探すように、様々な機械で体を調べます。

  • CT検査・MRI検査 体の断面を詳しく撮影し、がんの位置や周囲への広がりを確認します。
  • 超音波(エコー)検査 体の表面から音波をあて、お腹の中などの臓器の状態を調べます。
  • 内視鏡検査 胃や腸にカメラを入れ、がんを直接目で見て確かめる検査です。

しかし、画像検査だけでは診断を確定できません。 最終診断には、がんの一部を採って顕微鏡で詳しく調べる「病理検査」が不可欠です。 この検査では、がん細胞の「顔つき」と「増えるスピード」を評価します。 特に「Ki67指数」という数字で、がん細胞が増える速さを調べ、性質を分類します。

分類

細胞が増える速さの目安(Ki67指数)

NET G1

3%未満(おとなしい)

NET G2

3~20%(やや速い)

NET G3

20%を超える(速い)

NEC

20%を超え、顔つきも悪い(非常に速い)

このように正確な分類をすることが、最適な治療法を選ぶための最も重要なステップです。 また、精密な診断は、未来の新しい治療法の開発にもつながります。 例えば子どものがん「神経芽腫」では、新しい免疫療法(がんワクチン)の研究が進んでいます。 これは健康な細胞を傷つけず、がん細胞だけを狙う治療法で、その第一歩は正確な診断から始まります。

神経内分泌がんの治療

神経内分泌がんの治療法は、がんの性質や場所、 体の状態などを考えて、一人ひとりに合わせて決めます。 治療の目的は、がんを小さくしたり、症状を和らげて、 つらい思いをせずに生活できるようにすることです。

主な治療には、手術、お薬、放射線の3つの柱があります。

治療法の種類

どのような治療か

手術(外科治療)

がんが限られた場所にある場合、手術で取り除くことが基本です。

がんを全て取り切れれば、病気が治る可能性が最も高まります。

薬物療法

がんが広がっている場合や、手術で取りきれない時に行います。

お薬を使い、全身に散らばったがん細胞の成長を抑えます。

放射線治療

がん細胞に特別な光線(放射線)をあててダメージを与えます。

がんを小さくしたり、痛みを和らげたりする効果が期待できます。

薬物療法では、がん細胞が増えるのを邪魔する「抗がん剤」や、 がんの弱点を狙い撃ちする「分子標的薬」などを使います。

未来の新しい治療法

世界中で、新しい治療法の研究が活発に進められています。 例えば、子どものがんである「神経芽腫(しんけいがしゅ)」では、 体の免疫の力を利用してがんと戦う治療法が期待されています。

これは「がんワクチン」と呼ばれるもので、 私たちの体を守る免疫細胞に、がん細胞だけを狙って 攻撃するように教える、新しいタイプの治療法です。 元気な細胞を傷つけにくいという利点があります。

このような研究が、将来の治療の選択肢を増やし、 より多くの患者さんを救う希望につながっています。 どの治療法を選ぶかは、担当の医師とよく相談し、 納得して決めることが何よりも大切です。