代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)

健康診断で肝機能の数値を指摘されたものの、自覚症状がないため対策を後回しにしていませんか。日本人の約4人に1人が該当すると推定されるこの状態は、現在「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」と呼ばれ、全身の健康を脅かす病気として注目されています。

この記事では、単なる脂肪肝と侮れないMASLDの正体、心筋梗塞や不整脈など放置した場合のリスク、そして具体的な検査や治療法について、専門的な知見を基にわかりやすく解説します。

病気の全体像と、体重管理や食事といった今日からできる対策を正しく知ることで、ご自身の肝臓と将来の健康を守るための具体的な一歩を踏み出せるようになります。

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の概要

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肥満や糖尿病、高血圧といった生活習慣病が引き金となり、肝臓に中性脂肪が過剰にたまる病気です。

以前は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれていましたが、2023年に国際的な専門家の合意によって名称が変更されました。これは、「アルコールを飲まないのに肝臓に脂肪がたまる」という消極的な定義から、「代謝機能の異常が病気の根本原因である」という、より病態の本質を捉えた名前に変わったことを意味します。

日本人の約4人に1人がこの病気であると推定されており、自覚症状がないまま過ごしている人も含めると、その数は2,000万人にのぼる可能性があります。

MASLDは単なる脂肪肝ではなく、放置すると心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患、腎臓病、さらには特定のがんのリスクを高める「全身の病気」として捉えられています。

診断技術は日々進歩しており、近年ではAI(人工知能)を画像診断に応用する研究が活発です。物理学の知見を取り入れたAIを用いることで、MRIやCT、超音波検査で得られた情報から、肝臓の脂肪量や線維化(肝臓が硬くなること)の程度を、より客観的かつ正確に評価できるようになってきています。※

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の種類

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肝臓の状態によっていくつかの種類に分けられます。これは病気の進行度や将来のリスクを評価し、適切な治療方針を立てるための重要な分類です。

MASLDは、良性の状態から進行性の状態まで連続した病態(スペクトラム)として捉えられており、主に以下の3つに分類されます。

・単純性脂肪肝

MASLDの初期段階で、肝臓に脂肪が蓄積しているだけの状態です。この時点では、肝臓の炎症や線維化(肝臓が硬くなること)は見られません。進行のリスクは低いと考えられていますが、ここから悪化する可能性も十分にあります。

・代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)

脂肪の蓄積に加え、肝臓に炎症や細胞の風船様変性(バルーニング)、線維化が起きている進行性の状態です。放置すると肝硬変や肝がんに至るリスクが高まるため、積極的な治療が求められます。MASHの診断や進行度の評価では、超音波やMRIといった画像検査で肝臓の線維化の程度を客観的に評価することが重要です。※

・代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)

MASLDの診断基準を満たす方が、中等量の飲酒を伴う場合にこの診断名がつきます。代謝機能の異常とアルコールの両方が肝臓に負担をかけている状態で、より注意深い経過観察が必要です。

・中等量の飲酒の目安

・男性:1日あたり30~60gのアルコール摂取

・女性:1日あたり20~50gのアルコール摂取

これらの違いを下表に整理します。

種類 | 肝臓の状態 | 進行リスク

単純性脂肪肝 | ・脂肪の蓄積のみ | 低い(ただし進行の可能性あり)

MASH | ・脂肪の蓄積 ・炎症 ・細胞の風船様変性 ・線維化 | 高い(肝硬変・肝がんへ)

MetALD | ・MASLDの基準を満たす ・中等量の飲酒習慣あり | 飲酒によりリスクが高まる可能性

どの種類であっても、MASLDは肝臓だけの問題ではありません。長期的に心房細動といった不整脈のリスクを高めることも報告されており、全身の健康状態に目を向けることが大切です。※

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の原因

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の根本的な原因は、食事から摂取するエネルギーが消費エネルギーを上回る「エネルギー過多」の状態です。使い切れなかった余分なエネルギーは、中性脂肪に姿を変えて肝臓の細胞に蓄積されていきます。

このエネルギー過多を引き起こす背景には、主に生活習慣と、もともと持っている体質が関わっています。

具体的には、以下のような要因が複雑に絡み合って発症につながります。

・食生活(特に糖質と脂質)

・糖質:ご飯やパンなどの炭水化物はもちろん、お菓子や清涼飲料水に多く含まれる砂糖・果糖の摂りすぎは、肝臓で中性脂肪が作られるのを強力に後押しします。

・脂質:生クリームやバター、肉の脂身などに多い「飽和脂肪酸」の過剰な摂取も、肝臓への脂肪蓄積と深く関連しています。

・運動不足

体を動かす機会が少ないと、食事で摂ったエネルギーを消費しきれず、脂肪として体にため込みやすくなります。特に、お腹周りの内臓に脂肪がつく「内臓肥満」は、MASLDの大きな危険因子です。

・遺伝的な体質

特定の遺伝子(PNPLA3遺伝子など)を持っている方は、同じ生活習慣でもMASLDを発症しやすいことがわかっています。

・腸内環境の乱れ

腸内にすむ細菌のバランスが崩れることも、MASLDの発症や進行に関わっている可能性が指摘されています。

これらの要因は肥満に結びつきやすいですが、決して「太っている人だけの病気」ではありません。実際に、日本のMASLD患者さんのおよそ2割は、標準的な体型(非肥満)であると報告されています。

また、MASLDがもたらす影響は肝臓にとどまりません。近年の大規模な研究では、年齢や性別、肥満度(BMI)、高血圧、糖尿病といった他の要因の影響を差し引いてもなお、MASLDは不整脈の一種である「心房細動」の長期的な発症リスクを約1.2倍高める独立した危険因子であることが示されています。※

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の症状

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の最大の特徴は、病気がかなり進行するまで自覚症状がほとんど現れない点にあります。

肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、ダメージを受けても黙々と働き続けるため、多くの方は健康診断で肝機能の数値を指摘されて初めて自身の状態に気づきます。

症状がないからといって、身体の中で何も起きていないわけではありません。気づかないうちに肝臓の炎症や線維化(肝臓が硬くなること)が進み、やがて「肝硬変」という後戻りのできない状態に至る可能性があります。

肝硬変まで進行すると、肝臓が本来の役割を果たせなくなり、全身にさまざまなサインが現れ始めます。

・全身の倦怠感(だるさ)、食欲不振

・むくみ(浮腫)

・お腹に水がたまる(腹水)

・皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)

さらに、MASLDの影響は肝臓だけにとどまらず、全身に及びます。

近年の約1950万人を対象とした大規模な分析によると、MASLDを持つ方は、そうでない方と比べて、長期的に「心房細動」という不整脈を発症するリスクが約1.2倍高まることが判明しました。※

この関連性は、年齢や肥満度、高血圧、糖尿病といった他の心臓病リスクを高める要因を考慮してもなお認められており、MASLDが心房細動の独立した危険因子であることが示されています。※

このように症状に乏しい病気だからこそ、健康診断の結果を軽視せず、定期的な検査でご自身の肝臓の状態を正確に把握することが何よりも大切です。

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の検査・診断

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の診断は、問診で生活習慣などを伺ったうえで、血液検査や画像検査の結果を組み合わせて総合的に判断します。「沈黙の臓器」である肝臓の状態を客観的に評価するため、いくつかのステップで検査を進めていきます。

まず、MASLDと診断されるには、以下の2つの条件を満たすことが前提です。

1. 画像検査で肝臓への脂肪蓄積が確認されること

2. 肥満や糖尿病、脂質異常症など、心血管代謝のリスク因子が1つ以上あること

これらの条件を確認した上で、血液検査やさらに詳しい画像検査によって、病気の進行度(特に肝臓の硬さ=線維化)を評価していきます。

血液検査

健康診断でもおなじみの採血によって、肝臓の状態を間接的に推測します。

・肝機能の数値(AST, ALT, γ-GTP)

肝細胞がダメージを受けて壊れると、これらの酵素が血液中に漏れ出してきます。数値が高い場合は、肝臓で何らかの異常が起きているサインと考えられます。

・線維化の評価(FIB-4 indexなど)

年齢、AST、ALT、血小板の数値を組み合わせて計算する指標です。肝臓の線維化(硬くなること)がどの程度進んでいるかを推定でき、MASH(進行した状態)への移行リスクを評価する上で重要な手がかりとなります。

画像検査

お腹に超音波(エコー)を当てるなどして、肝臓の様子を直接観察し、脂肪の蓄積具合や硬さを評価します。

・腹部超音波(エコー)検査

脂肪がたまっている肝臓は、通常よりも白く明るく映ります。この「輝度(きど)」を見ることで脂肪の蓄積具合を評価します。また、特殊な技術(SWE法など)を使えば、超音波で肝臓の硬さを測定することも可能です。

・AI(人工知能)を用いた画像解析

近年、画像診断の精度をさらに高める技術として、AIの活用が世界中で研究されています。特に物理学の知見を応用したAIを用いることで、超音波やCT、MRIの画像から、人の目では捉えきれない微細な変化を読み取る試みが進んでいます。※

これにより、肝臓にたまった脂肪の量や線維化の進行度を、より客観的な「数値」として把握できるようになることが期待されています。※

肝生検

ここまでの検査でMASLDが強く疑われ、特に進行したMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の可能性がある場合には、確定診断のために「肝生検」を検討することがあります。

これは、お腹に細い針を刺して肝臓の組織を少量だけ採取し、顕微鏡で直接観察する検査です。炎症や線維化の程度を最も正確に評価できる方法とされています。

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の治療

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の治療は、肝臓にたまった脂肪を減らし、炎症や線維化の進行を食い止めることを目的とします。現在のところ、この病気に特化した「特効薬」はないため、治療の根幹をなすのは、病気の根本原因である代謝機能の異常を正すための生活習慣の改善です。

具体的には、「体重管理」「食事療法」「運動療法」の3つが治療の柱となり、これらを組み合わせて実践することで、より高い効果が期待できます。

治療の3本柱と具体的な目標

それぞれの治療法には、肝臓の状態を改善するための科学的根拠に基づいた目標が設定されています。

治療の柱 | 具体的な目標 | なぜ、それが効果的なのか?

体重管理 | ・現在の体重から7%の減量 ・(線維化が進んでいる場合)10%以上の減量 | ・7%の減量で、肝臓の脂肪が減り炎症が改善する ・10%以上の減量で、硬くなり始めた肝臓(線維化)の改善が見込める

食事療法 | ・摂取カロリーの適正化 ・糖質(特に果糖)や飽和脂肪酸を控える | ・エネルギーの過剰摂取を止め、肝臓で新たな脂肪が作られるのを防ぐ

運動療法 | ・ウォーキングなどの有酸素運動 ・週に合計150分以上 | ・蓄積されたエネルギーを消費し、インスリンの働きを良くして脂肪がつきにくい体質へ導く

これらの目標はあくまで目安であり、ご自身の体力や生活スタイルに合わせて、無理のない範囲から始めることが大切です。

治療効果を「見える化」する新たな技術

生活習慣の改善は、効果が実感しにくく、モチベーションの維持が難しいと感じる方も少なくありません。しかし、治療の成果は血液検査の数値だけでなく、画像検査によっても客観的に評価できます。

近年では、AI(人工知能)技術を画像診断に応用する研究が進んでおり、治療効果を「見える化」する試みが始まっています。物理学の知見を取り入れたAIを用いることで、CTやMRIの画像から肝臓の脂肪量や線維化の程度をより正確に測定し、数値として把握できるようになってきました。※

こうした技術は、治療によってご自身の肝臓がどれだけ良くなっているかを客観的に示してくれるため、治療を継続する上での大きな支えとなり得ます。

MASLDの治療は、糖尿病や高血圧といった合併症の管理と並行して行います。医師と二人三脚で、ご自身の体の変化を確認しながら、根気強く取り組むことが回復への鍵です。