閉経

閉経に向けて体調の変化を感じ、「この不調はいつまで続くのだろう」と不安を感じていませんか?日本では平均的に50歳頃に閉経を迎える女性が多いですが、45歳から55歳の間と個人差が大きいものです。この閉経前後の約10年間は更年期と呼ばれ、心身にさまざまな影響が出やすい時期とされています。

この記事では、閉経の仕組みや心身に現れる症状、さらにはホルモン補充療法(HRT)をはじめとする治療方法まで、詳しく解説します。閉経は女性にとって自然な変化であり、適切な知識と対策で不調を和らげることが期待できます。

ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めることで、体の変化を理解し、閉経期を心身ともに快適に過ごすためのヒントが見つかるでしょう。

閉経の概要

閉経とは、女性の月経が完全に終わりを告げ、生殖機能が停止する自然な生理現象です。これは、女性ホルモンを分泌する卵巣の機能が徐々に低下し、その結果としてホルモン量が減少することで引き起こされます。日本では平均的に50歳頃に閉経を迎えることが多いですが、個人差が大きく、45歳から55歳の間に訪れる特徴があります。

閉経は単に生理がなくなるだけではありません。閉経前後の約10年間は「更年期」と呼ばれ、女性ホルモンが大きく変動するため、心身にさまざまな影響が現れる時期でもあります。このホルモンバランスの大きな変化は、女性の健康全体に深く関わってきます。

近年では、私たちの身の回りにある特定の化学物質が、女性の健康や疾患リスクに与える影響について、多角的な研究が進められています。例えば、ペルフルオロアルキル化合物(PFAS)と呼ばれる人工的な化学物質と乳がんリスクの関連性も疫学研究で調査されています。ある系統的レビューとメタアナリシス(複数の研究を統合して分析する手法)では、PFASの曝露と乳がん全体のリスクとの間に明確な関連は認められませんでした※。しかし、乳がん診断前のPFOA(PFASの一種)への曝露が増加すると、乳がんのリスクが上昇する可能性が示唆されています※。特に、閉経後の乳がんでは、腫瘍のホルモン受容体(エストロゲンやプロゲステロンの受け皿となるタンパク質)の状態によって、PFASとの関連性が異なるという異質性も報告されています※。ただし、現在のところ、これらの関連性を確定するには十分なエビデンス(科学的根拠)が不足しており、今後のさらなる研究が求められています※。

閉経は、その原因や起こり方によって大きく3つの種類に分けられます。ご自身の閉経がどのタイプに当てはまるのかを知ることは、体の変化を理解し、今後の健康管理を考える上で役立つでしょう。

閉経の主な種類は、次のとおりです。

自然閉経

自然閉経は、加齢に伴い卵巣の機能が自然に低下し、女性ホルモンの分泌が停止することで起こります。これは女性の体に備わった、ごく自然な生理現象です。日本では平均して50歳頃に閉経を迎える女性が多いとされていますが、その時期には個人差があり、40代後半から50代半ばに訪れるのが一般的です。

早期閉経

早期閉経とは、40歳未満で閉経を迎える状態を指します。自然閉経に比べて稀なケースであり、体質や遺伝的要因、あるいは特定の自己免疫疾患などが関与している可能性も考えられます。若年での女性ホルモン欠乏は、将来的に骨粗しょう症や心血管疾患のリスクを高めることがあるため、適切な診断と継続的なフォローアップが重要ですし、症状によっては対策も検討する必要があるでしょう。

人為的閉経(続発性閉経)

人為的閉経は、病気の治療や予防のために行われる医療行為が原因で、卵巣の機能が停止することで起こります。例えば、子宮や卵巣の疾患の治療として手術で卵巣を摘出した場合や、がん治療のために特定の薬物療法(化学療法など)を受けた場合に、閉経が誘発されることがあります。このように、医療介入が閉経のきっかけとなることがあるのです。

閉経前の女性におけるホルモンバランスに影響を与える薬剤については、さまざまな研究が進められています。例えば、配合経口避妊薬(COC)の使用と閉経前女性の健康への影響もその一つです。ある系統的レビューとメタアナリシス(複数の研究を統合して分析する手法)では、第三世代および第四世代のCOCを使用することで、悪玉コレステロールとして知られる低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール値が有意に低くなるなど、脂質プロファイルが改善される可能性が示唆されています。また、動脈血栓症の発生率が低下することも報告されており、閉経前女性の健康維持において薬剤が果たす役割を示す一例といえるでしょう※。

閉経の原因

閉経は、加齢による自然な変化だけでなく、病気や治療、さらには生活習慣や環境要因など、複数の原因が複雑に絡み合って起こる現象です。女性の体は、生まれつき卵巣に蓄えられた卵子の数が決まっています。この卵子を使い果たし、卵巣の機能が徐々に低下していくことが、女性ホルモンの分泌量減少につながり、最終的に閉経を迎えます。主な原因は次のとおりです。

加齢による卵巣機能の自然な低下

自然閉経の最も大きな要因は、加齢に伴う卵巣機能の低下です。女性が一生のうちに使う卵子の数は、出生時にすでに決まっています。思春期以降、毎月の排卵と卵子の自然な消失により、卵子の数は徐々に減少し、40代後半から50代にかけてほとんどなくなるといえるでしょう。卵巣に残された卵子が少なくなると、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌が急激に減り、排卵が停止することで閉経に至ります。これは、すべての女性に訪れる避けられない体の変化です。

病気や治療による影響

病気の治療のために行われる医療行為が原因で閉経が誘発されることもあります。例えば、卵巣の病気(良性腫瘍や悪性腫瘍など)により手術で卵巣を摘出した場合、あるいは子宮内膜症などの治療で女性ホルモンの分泌を抑える特定の薬剤を使用した場合には、年齢に関わらず閉経状態となります。また、がん治療のための放射線療法や化学療法が卵巣にダメージを与え、卵巣機能が損なわれることも閉経の原因です。これらは、医療介入によって引き起こされるため、「外科的閉経」や「薬剤性閉経」などと呼ばれ、自然な閉経とは異なる経緯をたどります。

生活習慣や環境要因の可能性

閉経の時期や体の変化には、生活習慣や身の回りにある環境要因も影響を与える可能性が指摘されています。例えば、特定の化学物質への曝露が閉経後の健康に影響を与えるという研究もあります。ペルフルオロアルキル化合物(PFAS)のような人工的な化学物質は、環境汚染物質として知られていますが、このPFAS曝露と乳がんリスクの関連性について複数の研究を統合分析したメタアナリシスがあります。

この分析では、全体的な乳がんリスクとPFASの関連性は明確には認められませんでした※。しかし、乳がん診断前のPFOA(PFASの一種)への曝露が増加すると、乳がんのリスクが上昇する可能性が示唆されています。また、閉経後の乳がんでは、腫瘍のホルモン受容体(エストロゲンやプロゲステロンの受け皿となるタンパク質)の状態によって、PFASとの関連性が異なるという複雑な側面も報告されています。現時点では、これらの関連性を確定するには十分な科学的根拠が不足しており、さらなる研究が求められています※。このように、閉経は単純な原因だけでなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こる現象です。

閉経の症状

閉経に伴う症状は多岐にわたり、心身にさまざまな変化をもたらします。これらの症状は、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が卵巣から減少することで、体内のホルモンバランスが急激に変化するために起こると考えられています。

閉経で多くの女性が経験する症状は、主に身体的なものと精神的なものに分けられます。

身体症状

まず、身体に現れる症状としては、次のものが挙げられます。

・ホットフラッシュ(急な体のほてりや発汗、顔の紅潮など)

・多汗

・肩こり、腰痛、関節痛

・倦怠感、疲労感

・動悸、息切れ

・頭痛、めまい

・手足のしびれ

・頻尿、尿失禁

・性交時の痛み、膣の乾燥(萎縮性膣炎)

・皮膚のかゆみ、乾燥

・筋力の低下や身体機能の変化

特に筋力低下などの身体機能の変化は、閉経後によく見られる症状の一つです。しかし、たとえ軽度なレジスタンス・トレーニングであっても、筋力向上に効果があるという研究結果が示されています。ある研究では、閉経後女性が週に2回、わずか4週間の軽度なレジスタンス・トレーニング(筋力トレーニング)を行うだけでも、ベンチプレスやレッグプレスの最大反復回数(1RM)筋力が有意に向上したと報告されています。このトレーニングは、心臓自律神経や血行動態(血流の動的な変化)には悪影響を及ぼさず、安定した状態を保つことが示されました。このことから、無理のない範囲での運動習慣が、閉経後の身体機能を維持・改善する上で大切だといえるでしょう※。

精神神経症状

次に、精神的な症状としては、以下のような状態が見られることがあります。

・イライラ、怒りっぽくなる

・不眠、寝つきの悪さ

・憂うつな気分、気分の落ち込み

・漠然とした不安感

・物事への意欲の低下

・記憶力の低下、集中力の散漫

閉経前の女性では、月経周期に伴う女性ホルモン(エストロゲンなど)の変動が、乳がんの化学療法の感受性(治療薬への反応性)に影響を与える可能性が指摘されています。ある研究では、特に黄体期後期(ジエストラス期)と呼ばれる特定のホルモン状態の時期に化学療法を開始すると、治療効果が低下する可能性があることが示唆されています。これは、ホルモンバランスが体の状態、ひいては治療効果にまで深く関わっていることを示す一例といえます。

閉経に伴うこれらの症状は、日常生活に大きな影響を与えることがありますが、適切な知識を持ち、対策を講じることで、症状を和らげ、より快適に過ごせる可能性があります。症状が強く、生活に支障をきたす場合は、無理をせず医療機関を受診し、専門家のアドバイスを求めることが大切です。

閉経の検査・診断

閉経の検査・診断は、主に問診と血液検査を主軸に進めます。これらの検査を通して、女性の体が経験する大きな変化の背景を医学的に解き明かし、正確な診断へと導きます。

問診

問診では、まず最終月経からの期間や生理周期の変化、ホットフラッシュ、多汗といった閉経期特有の自覚症状について詳しくお伺いします。生理周期の乱れや最終月経からの期間は、卵巣の機能低下に伴うホルモンバランスの変動が直接的に反映されるため、閉経の可能性を探る上で重要な情報となります。また、体のほてりや発汗など、日々の生活で感じている症状を具体的に把握することで、閉経期の体の状態を多角的に理解できるよう努めます。

血液検査

血液検査では、卵胞刺激ホルモン(FSH)とエストラジオール(E2)の値を測定します。FSHは卵巣に卵子の成熟を促すホルモンで、卵巣の機能が低下すると脳は卵巣をもっと働かせようとFSHの分泌を活発にするため、FSH値が高くなります。一方、エストラジオール(女性ホルモンの一種)は卵巣からの分泌が減るため、値が低くなります。このFSH高値とE2低値の組み合わせは、閉経状態の重要な手がかりとなります。

閉経は女性ホルモンの変化が背景にありますが、その病態診断においては、患者さんの体質や遺伝的要素まで含めた詳細な評価が、より正確な診断や将来的な健康管理につながることもあります。例えば、エストロゲン受容体に関連するESR1という遺伝子の変異は、特定のホルモン関連の病態診断、特に乳がんの治療選択においてその特性を考慮する必要があることが知られています※。このように、遺伝子レベルでの情報が、単なる閉経の有無だけでなく、女性の生涯にわたるホルモン関連の健康状態を深く理解する手がかりとなるケースもあるのです。

最終的な閉経の診断は、月経が12カ月以上停止している期間、年齢、自覚症状、そしてこれらのホルモン値を総合的に判断して行います。

閉経と症状が似ている疾患との鑑別

甲状腺機能異常やその他の内分泌疾患など、閉経とよく似た症状を示す別の疾患も存在します。これらの疾患を閉経と混同しないよう、鑑別診断も重要なプロセスです。気になる症状がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、専門の医師に相談することをお勧めします。

閉経の治療

閉経に伴う心身の変化や症状に対しては、一人ひとりの状態や悩みに合わせてさまざまな治療法があります。治療の目的は、閉経による不調を和らげ、心身ともに快適な生活を送れるようサポートすることです。

閉経の治療は、主に次の4つのアプローチを組み合わせて行われます。

・ホルモン補充療法(HRT)

・対症療法

・生活習慣の改善

・関連疾患への対応

ホルモン補充療法(HRT)

ホルモン補充療法(HRT)は、閉経によって減少する女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を補う治療法です。特に、のぼせ、発汗、動悸といった更年期特有の症状の改善に高い効果が期待できる治療法の一つです。加えて、骨密度の低下を防ぎ、骨粗しょう症の予防にもつながります。これは、エストロゲンが骨の形成と維持に深く関わっているためです。

HRTには、患者さんのライフスタイルや症状、治療への希望に応じて、さまざまなタイプが用意されています。

・飲み薬(経口剤): エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤を内服するタイプです。手軽に始められます。

・貼り薬(経皮吸収型製剤): エストロゲン製剤を皮膚に貼るパッチタイプです。一定期間ごとに貼り替えます。肝臓への負担が少ないという特徴があります。

・塗り薬(経皮吸収型製剤): エストロゲン製剤を皮膚に塗布するジェルタイプです。毎日塗布することでホルモンを補給します。

・膣剤: 膣の乾燥や萎縮による性交時の痛み、かゆみ、頻尿といった局所的な不快な症状に特化した治療法です。膣に直接作用し、症状の緩和を目指します。

HRTを開始する際は、期待できる効果と起こりうるリスク(例えば、乳がんや子宮体がんのリスク増加の可能性など)を十分に理解することが大切です。医師とよく相談し、ご自身に合った方法を選ぶようにしましょう。治療期間中は、定期的な健康チェックも欠かせないポイントです。

対症療法

更年期症状がホルモン補充療法だけでは十分に改善しない場合や、HRTが適用できない患者さんの場合には、症状に応じた対症療法が選択されます。

・漢方薬: 体全体のバランスを整え、さまざまな更年期症状を和らげることを目的として使用されます。個々の体質や症状に合わせて処方されるため、副作用が少なく、心身ともに穏やかに症状を改善できる可能性があります。

・向精神薬: 不安感、抑うつ気分、不眠などの精神神経症状が強く、日常生活に支障をきたす場合には、症状を和らげるために抗不安薬や抗うつ薬、睡眠導入剤などが処方されることがあります。これらは一時的に症状を軽減し、精神的な安定を取り戻す手助けとなります。

・サプリメント: 大豆イソフラボンや、それを腸内細菌が代謝して生成されるエクオールなど、女性ホルモン(エストロゲン)と似た作用を持つとされる成分を補給する方法です。これらの成分は、体内でエストロゲン受容体に結合し、更年期症状の緩和に役立つことが期待されています。ただし、サプリメントは医薬品とは異なり、効果には個人差があるため、使用前に医師や薬剤師に相談するとよいでしょう。

生活習慣の改善

閉経期を健康的に、そして快適に過ごすためには、日々の生活習慣を見直すことが非常に重要です。薬物療法と並行して、または治療の基盤として、次の点に気を配るとよいでしょう。

・バランスの取れた食事: カルシウムやビタミンDを積極的に摂り、骨の健康を保つことが大切です。これらは骨粗しょう症予防に不可欠な栄養素です。バランスの取れた食事は、全身の健康維持にもつながります。

・適度な運動: 身体活動を増やすことは、心身の健康維持に役立ちます。特に閉経後の女性では、ホルモンバランスの変化により筋力が低下しやすくなります。しかし、週に2回、わずか4週間の軽度なレジスタンス・トレーニング(筋力トレーニング)であっても、筋力を有意に向上させることが研究で示されています※。このトレーニングは、心臓の自律神経の働きや血流の動的な変化、運動能力に悪影響を与えることなく、安定した状態を保てることが報告されています※。無理のない範囲で継続できる運動習慣を見つけ、身体機能を維持・改善していきましょう。

・十分な睡眠: 疲労回復とストレス軽減のためには、質の良い睡眠を確保することが重要です。寝室環境を整えたり、就寝前のリラックス習慣を取り入れたりする工夫も有効です。

・ストレス管理: 閉経期は、ホルモン変動だけでなく、仕事や家庭の環境変化などによるストレスも感じやすい時期です。自分に合ったリラックス方法を見つけ、ストレスをため込みすぎないようにすることが大切です。趣味や軽い運動、瞑想なども有効な手段といえるでしょう。

関連疾患への対応

閉経後は、女性ホルモンの減少に伴い、骨粗しょう症や心血管疾患、特定のタイプのがんなど、さまざまな疾患のリスクが高まることが知られています。これらの疾患の予防、早期発見、そして適切な治療も、閉経期の大切なケアの一環です。

・骨粗しょう症: エストロゲンの減少は骨密度を低下させ、骨折しやすくなる骨粗しょう症のリスクを高めます。定期的に骨密度検査を受け、必要に応じて薬物療法や生活指導が行われます。

・心血管疾患: エストロゲンには血管を保護する働きがあるため、閉経後は動脈硬化が進みやすくなり、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患のリスクが増加します。定期的な健康診断で血圧や脂質の状態を確認し、適切な管理を行うことが大切です。

・乳がん: 定期的な乳がん検診は非常に重要です。乳がんの治療研究も進んでおり、例えばエストロゲン受容体陽性、HER2陰性の進行乳がん(乳がん細胞が女性ホルモンであるエストロゲンを受け取る「受容体」を持っていて、HER2というタンパク質は持たないタイプ)の患者さんを対象とした研究では、過去に治療を受けた患者さんでも、giredestrantという薬剤が有効性を示す可能性が報告されています※。特に、乳がん細胞のエストロゲン受容体に関連するESR1(イーエスアールワン)という遺伝子に変異がある患者さんでは、この薬剤がより良い治療傾向を示すことが示唆されています※。これは、乳がん治療においても、個々の患者さんの遺伝子変異に応じた、よりパーソナルな治療選択肢が期待できることを示しています。

これらの治療法の中から、ご自身の状態や価値観に最も適した選択肢を医師とともに見つけることが、閉経期を乗り越え、その後の人生を豊かに過ごす上で非常に重要となります。