男性不妊

「なかなか子どもを授からない…」と悩んでいるとき、不妊の原因は女性側にあると考えがちではないでしょうか。しかし、ある調査では、不妊に悩むカップルのうち、実にその約半数(48%)は男性側にも何らかの原因があると報告されています。

もはや男性不妊は、決して他人事ではありません。むしろ、不妊を乗り越えるためには、男性が自身の身体と向き合うことが不可欠と言えるでしょう。幸い、近年の研究の進歩により、治療の選択肢は大きく広がっています。

この記事では、男性不妊の主な原因から、ご自身でできる対策、最新の治療法までを網羅的に解説します。パートナーと共に未来へ踏み出すため、まずは正しい知識を得ることから始めませんか。

男性不妊の概要

子どもを望むカップルが避妊をせず性交渉をしても、 一定期間妊娠しない状態を「不妊症」と呼びます。

「不妊」と聞くと女性側の問題を想像しがちですが、 決してそのようなことはありません。 妊娠は精子と卵子が出会って初めて成立するため、 原因は男女どちらにもある可能性があるのです。

実際に、不妊症に悩むカップルの原因を調べると、 約半数(48%)は男性側にも何らかの原因がある と報告されています。

  • 男性のみに原因がある
  • 24%
  • 男女ともに原因がある
  • 24%

このように、男性不妊は決して珍しいことではありません。 不妊について考えるときは、カップルで一緒に検査を受け、 必要に応じて治療を始めることがとても大切になります。

近年、男性不妊に関する研究は大きく進んでいます。 例えば、体の細胞をダメージから守る「抗酸化物質」を サプリメントで補うことが、精子の状態を良くする 可能性があると多くの研究で示されています。

具体的には、ビタミンCやE、コエンザイムQ10、亜鉛、 カルニチンなどが注目されており、これからの研究で 新たな治療の選択肢が増えることが期待されています。

男性不妊の種類

男性不妊とひとことで言っても、その原因はさまざまです。 原因は、大きくわけて次の3つの種類に分類されます。

精子を「つくる力」「届ける力」、そして「通り道」の どこに問題があるかで、種類が分かれていると考えると イメージしやすいかもしれません。

種類

割合

どんな状態?

造精機能障害

(ぞうせいきのうしょうがい)

約82.4%

精子を「つくる」過程に問題がある状態

性機能障害

(せいきのうしょうがい)

約13.5%

精子を「届ける」過程に問題がある状態

精路通過障害

(せいろつうかしょうがい)

約3.9%

精子の「通り道」に問題がある状態

1. 造精機能障害(ぞうせいきのうしょうがい)

男性不妊の原因の中で、約8割を占める最も多い状態です。 これは、精巣で精子をうまくつくれない、 あるいはつくられた精子の質が良くない状態を指します。

  • 乏精子症(ぼうせいししょう)
  • 精液の中にいる精子の数が少ない状態です。
  • 精子無力症(せいしむりょくしょう)
  • 精子の数はいますが、元気に動いている精子が少ない状態です。
  • 精子奇形症(せいしきけいしょう)
  • 形が正常な精子の割合が少ない状態です。
  • 無精子症(むせいししょう)
  • 精液の中に精子がまったく見つからない状態です。

2. 性機能障害(せいきのうしょうがい)

性行為(セックス)がうまくいかないために、 精子を女性の体内に届けられず、妊娠に至らない状態です。 これには、精神的なストレスなどが関係していることもあります。

  • 勃起障害(ED)
  • 性行為の際に、勃起が十分にできない、または維持できない状態です。
  • 射精障害
  • 射精ができない、腟の中で射精ができないなどの状態です。
  • 逆行性射精
  • 精液が体の外に出ず、膀胱の方に逆流してしまう状態です。

3. 精路通過障害(せいろつうかしょうがい)

精巣では精子が正常につくられているにもかかわらず、 精子の通り道(精管など)がふさがっている状態です。 そのため、精液の中に精子が出てこられないのが特徴です。

男性不妊の原因

男性不妊の原因は、決して一つだけではありません。 いくつかの原因が、複雑に絡み合っていることもあります。 主に、以下の3つのタイプに分けられます。

原因の種類

割合

どんな状態?

①造精機能障害

約82%

精子を「つくる力」に問題がある状態

②性機能障害

約14%

精子を「届ける力」に問題がある状態

③精路通過障害

約4%

精子の「通り道」に問題がある状態

①造精機能障害

男性不妊の8割以上を占める、最も多い原因です。 精巣で精子をうまくつくれない状態を指します。

精子の数が少ない、元気に動く精子が少ないなどが特徴です。 精巣の血管にこぶができる「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」や、 子どもの頃にかかったおたふく風邪の影響が考えられます。 しかし、はっきりとした原因がわからないことも少なくありません。

②性機能障害

性行為がうまくいかないために、妊娠に至らない状態です。 勃起が十分にできない勃起障害(ED)や、 射精がうまくできない射精障害などがこれにあたります。

精神的なストレスが大きく影響することもありますし、 糖尿病のような生活習慣病が原因になることもあります。

③精路通過障害

精巣では元気に精子がつくられているのが特徴です。 しかし、精子が通る道がふさがっているため、 体の外に出てこられない状態を指します。

生まれつき通り道がない場合や、過去の炎症が原因で、 道がふさがってしまうことなどが考えられます。

その他の原因

上記以外に、生活習慣や環境も精子の質に影響します。

  • 喫煙
  • 過度な飲酒
  • 肥満
  • ストレスや睡眠不足

これらの要因は、体内で「活性酸素」を増やします。 活性酸素は、体の細胞をサビつかせる原因物質です。 この体のサビ(酸化ストレス)が、精子の質を 低下させることがわかっています。

最近の研究では、体のサビを防ぐ「抗酸化物質」を 積極的に摂ることが、精子の状態を良くする可能性が あると報告されています。

具体的には、ビタミンC・E、コエンザイムQ10、 亜鉛、カルニチン、セレン、葉酸などが挙げられます。 原因は人それぞれですので、まずはご相談ください。

男性不妊の症状

男性不妊の最も大きな特徴は、痛みやかゆみといった、 ご自身で気づける症状がほとんどないことです。

そのため、パートナーと妊活を始めて、 「なかなか妊娠しない」という状況になって初めて、 男性側に原因がある可能性に気づくことが大半です。

一般的に、避妊をせず定期的な性交渉があるにもかかわらず、 1年以上妊娠しない状態を「不妊」と呼びます。 この「妊娠しない」こと自体が、男性不妊における 最も重要なサインといえるでしょう。

ご自身で確認できるサイン

はっきりとした症状は少ないものの、注意深く観察することで 気づける身体の変化もあります。 以下のような点に心当たりがあれば、一度ご相談ください。

  • 陰嚢(いんのう)の変化
  • 精巣(睾丸)が入っている袋が腫れている感じがする
  • 陰嚢の血管が浮き出て、でこぼこしている
  • 左右の精巣の大きさが、明らかに違う
  • 精液の状態
  • 射精したときの精液の量が、いつも極端に少ない

精液の見た目について

精液の色がいつもと違うと心配になるかもしれませんが、 必ずしも不妊に直結するわけではありません。

例えば、精液が黄色っぽく見えるのは、射精までの期間が 長かったことによる自然な変化であることがほとんどです。 また、血液が混じり赤っぽく見える場合もありますが、 多くは自然に治まります。

ただし、精液の見た目だけでは、精子の数や運動率といった 妊娠に関わる最も重要な情報を知ることはできません。 症状がほとんどないからこそ、気になることがあれば 専門家による詳しい検査を受けることが大切です。

男性不妊の検査・診断

男性不妊は、ご自身で気づける症状がほとんどありません。 そのため、原因を特定するためには検査がとても重要です。 まずは問診で普段の生活などをお聞きし、診察に進みます。

問診では、これまでの病気や生活習慣、性生活の状況など、 プライベートなことも含めて丁寧にお話をうかがいます。 その後、医師が目で見て、手で触って確かめる診察を行い、 精巣(睾丸)の大きさや硬さなどを確認します。

精液検査

男性不妊の検査で、最も基本となるのが「精液検査」です。 精液の中に、元気な精子がどれくらいいるかを調べます。

一般的に2〜3日ほど射精をしない期間を設けてから、 ご自身で精液を採っていただき、顕微鏡で詳しく観察します。

精子の状態は、その日の体調などによっても変わりやすいです。 一度の結果が悪くても、落ち込む必要はありません。 再検査では問題ないことも多いため、総合的に判断します。

<WHO(世界保健機関)が示す精液検査の基準値>

検査項目

基準値

どんなことを見ている?

精液量

1.4ml 以上

一度の射精で出る精液の量

精子濃度

1,600万/ml 以上

精液1mlの中にいる精子の数

総精子数

3,900万/射精 以上

一度の射精で出る精子の合計数

総運動率

42% 以上

元気に前進している精子の割合

正常形態率

4% 以上

形が整っている精子の割合

この基準値は、妊娠するために必要とされる最低限の目安です。 この数値を上回れば必ず妊娠できるわけではありません。

その他の検査

精液検査の結果や診察の内容に応じて、 さらに詳しい検査を行うことがあります。

  • 血液検査
  • 精子をつくる働きに関係する、男性ホルモンなどの値を調べます。
  • 超音波(エコー)検査
  • 体の表面から超音波をあてて、精巣の内部や、
  • 精索静脈瘤という血管のこぶがないかを詳しく確認します。
  • 感染症検査
  • クラミジアなど、不妊の原因となる感染症にかかっていないか調べます。

これらの検査を組み合わせ、不妊の原因を丁寧に探ります。 その上で、一人ひとりに合った治療方針を一緒に考えていきます。

男性不妊の治療

男性不妊の治療は、原因や精子の状態、お二人の状況を 丁寧にお聞きした上で、最適な方法を一緒に考えます。 原因がはっきりしている場合は、その原因を取り除きます。 しかし、原因が特定できない場合も少なくありません。

主な治療の選択肢は、以下の4つに大きく分けられます。 一人ひとりの状態に合わせて、これらを組み合わせて 治療計画を立てていくのが一般的です。

治療の種類

具体的な内容

対象となる主な状態

生活習慣の改善

食生活の見直し、禁煙、サプリメントの活用など

精子の質を全体的に高めたい場合

薬物療法

ホルモン剤、漢方薬など

ホルモン分泌の異常、原因がはっきりしない場合

手術療法

精索静脈瘤手術、精巣内精子回収術(TESE)など

精索静脈瘤、精子の通り道の詰まり、無精子症など

生殖補助医療

人工授精、体外受精、顕微授精

上記の治療で妊娠に至らない場合や、重度の男性不妊など

まずは、体への負担が少ない治療から始めることが基本です。 特に、精子の質を全体的に高めるための生活習慣の改善は、 どのような状態の方にも取り組んでいただきたい大切な一歩です。

体のサビつき(酸化ストレス)から精子を守るために、 抗酸化物質をサプリメントで補うことも有効な選択肢です。 多くの研究で、これらの成分が精子の質を改善し、 最終的に赤ちゃんが生まれる確率を高める可能性が 示唆されています。

<精子の質を高める可能性のある抗酸化物質>

  • ビタミンC、ビタミンE
  • コエンザイムQ10
  • L-カルニチン
  • 亜鉛、セレン
  • 葉酸、リコピン

ホルモンのバランスに問題がある場合は、お薬を使って 精子がつくられるのを助ける治療(薬物療法)を行います。 精索静脈瘤など物理的な原因があれば、手術が有効です。

これらの治療で改善が難しい場合や、より早く妊娠を望む 場合には、生殖補助医療を検討します。 どの治療法が最適かは人それぞれですので、 まずは専門の医師にご相談ください。