特発性門脈圧亢進症

原因がはっきりしないまま、体の中で静かに進行する病気があります。特に40〜50代の女性に多く、人口100万人あたり約9.2人とされる「特発性門脈圧亢進症」は、まさにその一つです。

この病気は自覚症状に乏しく、突然の吐血など、命に関わるサインで初めて気づくことも少なくありません。原因は未だ不明ですが、近年の研究で患者さんの10人中9人以上に、肝臓の血管に共通した変化が見られることがわかってきました。

この記事では、謎に包まれた特発性門脈圧亢進症について、その症状や診断、そしてどのような治療が行われるのかを詳しく解説します。正しい知識を得て、ご自身の体の変化を見逃さないための参考にしてください。

特発性門脈圧亢進症の概要

特発性門脈圧亢進症とは、はっきりした原因がないのに、 肝臓につながる「門脈」という血管の圧力が上がる病気です。 門脈は、お腹の臓器から栄養を肝臓へ運ぶ重要な役割があります。

この病気では、肝臓の中にある門脈から枝分かれした、 とても細い血管に問題が起きて血液の流れが悪くなります。 その結果、門脈全体の圧力が高くなってしまうのです。

近年の研究では、この病気の患者さんの肝臓を調べると、 特徴的な変化が見られることがわかってきました。 例えば、門脈の血管が硬くなる「門脈硬化症」や、 血管が狭くなる「門脈の狭窄」が非常に高い確率で見られます。 ある調査では、10人中9人以上の方にこれらの変化が確認されました。 (門脈硬化症89.8%、門脈狭窄93.8%)

この病気の診断が難しいのは、一つの決まった特徴だけでなく、 血管の周りが硬くなるなど、複数の変化が組み合わさって、 起きているためです。

ただし、一般的に知られる肝硬変とは少し異なります。 すぐに肝硬変へ進行したり、肝細胞がんの原因になったりする 可能性は低いと考えられています。

かかりやすい方の特徴

  • 発症しやすい年齢 40〜50歳代が発症のピークです。
  • 性別 女性に多く見られる傾向があります。
  • 日本での患者数 人口100万人あたり約9.2人と推定されるまれな病気です。

特発性門脈圧亢進症の種類

この病気には、風邪のタイプを分けるような、 はっきりとした「種類」という分類はまだありません。 その代わりに、肝臓の組織を顕微鏡で詳しく調べることで、 病気の状態を判断していきます。

世界中の多くの研究結果をまとめた信頼性の高い分析によると、 患者さんの肝臓には、共通した変化が見られることがわかります。 これらは病気を見分けるための重要な手がかりになります。

特に、10人中9人という非常に高い確率で見つかる特徴は、 以下の2つです。

  • 門脈の狭窄(きょうさく) 肝臓に血液を送る血管が狭くなる状態です。(約94%)
  • 門脈硬化症(こうかしょう) 血管の壁が厚くなり、弾力を失って硬くなる状態です。(約90%)

さらに、患者さんのおよそ半数には、 次のような変化も確認されています。 これらの特徴が1つだけでなく、まるでパズルのピースのように 複数組み合わさって現れるのが、この病気の特徴です。

  • 門脈やその周りが硬くなる線維化(せんいか) (約60%)
  • 血液が流れる通路が異常に広がる (約53%)
  • 肝臓から血液が出ていく血管が詰まる (約53%)
  • 本来はない異常な血管ができる (約51%)

このように、どの特徴がどの程度現れるかは人によって様々です。 そのため、正確な診断には専門の医師による、 総合的な判断がとても重要になります。

特発性門脈圧亢進症の原因

この病気のはっきりとした原因は、残念ながらまだ解明されていません。 しかし、様々な研究から、いくつかの可能性が考えられています。 現在も、原因を特定するための調査が世界中で進められています。

特に有力な説が「自己免疫異常」という考え方です。 私たちの体には、ウイルスなどから身を守る「免疫」という仕組みがあります。 この免疫が、何かの間違いで自分自身を攻撃してしまう状態を指します。 この病気が中年以降の女性に多く見られることや、 他の自己免疫の病気を合併しやすいことから、関連が疑われています。

他にも、原因としていくつかの説が考えられています。

  • 肝臓の血管に血の塊ができる説 肝臓の中にあるとても細い血管に、 小さな血の塊(血栓)が詰まることが原因ではないか、という考え方です。
  • 脾臓(ひぞう)の異常が関係する説 血液の量を調整する「脾臓」という臓器の働きに、 異常が起きることが引き金になる、という考え方です。

このように原因は特定されていませんが、患者さんの肝臓を顕微鏡で調べると、 共通した変化が見られることが、近年の研究でわかってきました。 多くの研究結果をまとめた信頼性の高い分析によると、 患者さんの10人中9人以上という非常に高い確率で、 肝臓の血管が狭くなったり(狭窄)、硬くなったり(硬化症)する変化が確認されています。 この病気の診断が難しいのは、このような変化が一つだけではなく、 複数組み合わさって起きるためです。

特発性門脈圧亢進症の症状

この病気の症状は、肝臓への血液の流れが悪くなることで起こります。 血液の通り道である「門脈」という血管の圧力が異常に高まるためです。

多くの研究結果をまとめた信頼性の高い分析によると、 この病気の患者さんの肝臓では、非常に高い確率で 血管が硬くなったり(門脈硬化症)、狭くなったり(門脈の狭窄) する変化が見られます。 (門脈硬化症 約90%、門脈の狭窄 約94%)

血液がうまく流れなくなると、体は様々なSOSサインを出します。 はじめは自覚症状がないことが多いですが、 進行すると以下のような症状が現れます。

【体に現れる主なSOSサイン】

  • お腹の症状 血液の水分がお腹の中に漏れ出し、水がたまって張ってきます(腹水)。 また、お腹の皮膚の血管が浮き出て見えることもあります。
  • 出血に関する症状 突然、血を吐いたり、真っ黒な便が出たりします。 これは食道や胃にできた血管のこぶ(静脈瘤)が破裂したサインで、 命に関わるため、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。 また、ぶつけた記憶がないのに青あざができやすくなります。
  • 血液の異常による症状 体がだるく、疲れやすい状態が続きます(白血球の減少)。 顔色が悪くなり、めまいや息切れが起こることもあります(貧血)。
  • 意識や行動の変化(肝性脳症) 本来、肝臓で処理されるはずの有害な物質が脳に影響を与えます。 その結果、判断力が鈍ったり、時間や場所がわからなくなったりします。

特発性門脈圧亢進症の検査・診断

この病気の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 様々な検査結果をパズルのように組み合わせて、慎重に判断します。 まずは、似た症状が出る肝硬変などの病気ではないかを確認します。

そのうえで、体の状態を詳しく調べるために、 以下のような検査を組み合わせて行います。 不安に思われるかもしれませんが、正確な診断にとても大切です。

検査の種類

何を調べるか

血液検査

貧血の有無や、血を固める働きを持つ

血小板の数などを調べます。

画像検査

超音波(エコー)やCTで肝臓や脾臓の

大きさ、形、腹水の有無を確認します。

内視鏡検査

胃カメラで食道や胃の血管にこぶ(静脈瘤)が

できていないかを直接観察します。

肝生検

お腹に細い針をさし、肝臓の組織を

わずかに取って顕微鏡で詳しく調べます。

特に診断を確定するために重要なのが「肝生検」です。 多くの研究結果をまとめた信頼性の高い分析によると、 この病気の患者さんの肝臓には、共通した変化が見られます。

例えば、10人中9人という非常に高い確率で、 肝臓の血管が硬くなる「門脈硬化症」や、 狭くなる「門脈の狭窄」という変化が確認されています。 さらに、患者さんの約半数には、血管の周りが硬くなったり、 血液の通り道が異常に広がったりする変化も見つかります。

このように、一つの特徴だけでなく、いくつかの変化が 組み合わさっていることを確認し、最終的な診断に至ります。

特発性門脈圧亢進症の治療

この病気を完全に治すための治療法は、まだ見つかっていません。 そのため治療は、症状を和らげて生活しやすくすることが中心です。 命に関わる危険な状態を防ぐことが、一番の目的になります。

この病気は、肝臓の血管が硬くなる「門脈硬化症」や、 狭くなる「門脈の狭窄」などが原因で、血液の流れが悪くなります。 多くの研究で、患者さんの10人中9人という高い確率で、 これらの変化が見られることがわかっています。

人によって血管の変化の仕方が違うため、治療も一人ひとり異なります。 主に、以下の2つの症状に対して治療を行います。

  • 食道や胃にできる血管のこぶ(静脈瘤) こぶが破れると大出血を起こす危険があります。
  • 脾臓(ひぞう)の働きが強くなりすぎること 血を止める成分などが減り、血が止まりにくくなります。

これらの症状に対して、どのような治療が行われるのか見ていきましょう。

どんなSOSサインに?

どんな治療をするの?

食道や胃の血管のこぶ

(静脈瘤)

内視鏡(カメラ)での治療

カメラを使い、血管のこぶを小さな輪ゴムで

しばったり、薬で固めたりして破裂を防ぎます。

手術

血液の新しい通り道を作ったり、

脾臓を取り除いたりして、こぶに流れる

血液の量を減らします。

脾臓の働きが強すぎる

(脾機能亢進症)

血管を詰める治療(PSE)

脾臓へつながる血管の一部を詰め、

働きすぎを少し抑える治療です。

脾臓を取り除く手術(脾摘)

手術で脾臓そのものを取り除きます。

どの治療法を選ぶかは、症状の重さや体の状態を総合的に見て、 医師が慎重に判断します。 不安なことやわからないことは、遠慮せずに主治医に相談してください。