副甲状腺機能亢進症
原因不明の疲れやイライラ、集中力の低下など、日常の不調に悩んでいませんか?副甲状腺機能亢進症は、体内のカルシウムバランスが崩れることで全身に影響を及ぼす病気です。
この状態が長く続くと、総死亡率や心血管関連の死亡リスクが高まる可能性も報告されています。この記事では、副甲状腺機能亢進症の症状から原因、種類、そして検査・治療法までを詳しく解説します。
病気への理解を深め、ご自身に合った適切な対処法を知ることで、気になる症状の改善や、より健康的な毎日を送るための手助けとなるでしょう。
副甲状腺機能亢進症の概要
副甲状腺機能亢進症は、血液中のカルシウム濃度を調整する副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌される病気です。甲状腺の裏側に位置する米粒ほどの小さな副甲状腺(通常4つ)からPTHが異常に分泌されることで、体内のカルシウムバランスが崩れ、高カルシウム血症を引き起こし、全身にさまざまな不調につながります。
この状態が続くと、体中のいたるところに影響が現れるのが特徴です。過剰なPTHは骨からカルシウムを溶け出させるため、骨がもろくなる骨粗しょう症や骨折のリスクが高まります。また、血液中のカルシウム濃度が高くなると、腎臓で結石ができやすくなる尿路結石を招くことがあります。消化器系では、食欲不振や吐き気、便秘などを感じることがあります。さらに、疲労感や倦怠感、集中力の低下といった、日々の生活に影響を及ぼす症状も現れる可能性があります。
特に、妊娠中に原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)を発症した場合、母体だけでなくおなかの赤ちゃんにも影響が及ぶ可能性があるため注意が必要です。PHPTを抱える妊婦さんを対象としたある研究(システマティックレビュー)では、母体の妊娠時の平均カルシウム値が高いほど、母体および産科合併症が増加することが示されています。さらに、新生児における合併症は、非外科的治療を選択した場合に有意に多く発生することもわかっています(p < 0.001)。一方で、外科的治療を受けたグループの母体および全体的な産科転帰は、非外科的治療グループと比較して劣らないことも確認されました。この結果から、たとえ軽度の高カルシウム血症であっても、妊娠中のPHPTに対しては副甲状腺切除術が非外科的治療よりも有利である可能性が示唆されています。※
このように副甲状腺機能亢進症の症状は全身に及ぶため、気になる症状がある場合は「たかが疲れ」と自己判断せず、早めに医療機関を受診して適切な診断を受けることが大切です。早期に発見し、適切な治療を開始することで、深刻な合併症を防ぎ、穏やかな日常を取り戻せる可能性が高まります。
副甲状腺機能亢進症の種類
副甲状腺機能亢進症は、その発症メカニズムや原因によって、大きく分けて3つのタイプに分類されます。具体的には、「原発性(げんぱつせい)」「二次性(にじせい)」「三次性(さんじせい)」です。ご自身の病気がどのタイプに当てはまるかを知ることは、適切な治療方針を立てる上で欠かせません。
1. 原発性副甲状腺機能亢進症
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺そのものに異常が生じ、副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌される状態を指します。多くの場合、副甲状腺にできた良性の腫瘍(腺腫)が原因となり、これがホルモンを過剰に産生してしまうと考えられています。その結果、血液中のカルシウム濃度が必要以上に高くなってしまうことが特徴です。
2. 二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)
二次性副甲状腺機能亢進症は、体内のカルシウム濃度が低下したことをきっかけに、副甲状腺が刺激されてPTHを過剰に分泌する状態です。特に、慢性腎臓病の患者さんに多く見られます。腎臓の機能が低下すると、体内で活性型ビタミンDが十分に作られなくなり、腸からのカルシウム吸収が悪化します。また、腎臓からのリンの排泄も滞るため、血液中のカルシウム濃度が低下し、リン濃度が上昇しやすい状態になります。このカルシウム低下とリン上昇を改善しようと、副甲状腺が懸命にPTHを放出しすぎることが原因です。
この二次性副甲状腺機能亢進症の治療には、シナカルセトという薬剤が用いられることがあります。この薬剤は、過剰なPTHの分泌を抑え、血清中のカルシウムやリンのバランスを改善する効果が期待できます。実際、機械学習を用いた大規模な体系的レビュー(システマティックレビュー)とメタ分析では、シナカルセトが血清PTH、カルシウム、カルシウムリン積を減少させ、リンレベルを改善することが示されています※。
ただし、どのような治療薬にもリスクは伴います。この研究では、シナカルセトの使用が全死因死亡率、心血管疾患による死亡率、副甲状腺摘出術の発生率に有意な差をもたらさなかった一方で、悪心、低カルシウム血症、嘔吐といった副作用のリスク増加と関連していることも報告されています※。そのため、治療に際しては、医師と十分に相談し、ご自身の状態に合わせた最適な選択をすることが重要です。
3. 三次性副甲状腺機能亢進症
三次性副甲状腺機能亢進症は、二次性副甲状腺機能亢進症が長期間続くことで、副甲状腺が自律的にPTHを過剰に分泌し続けるようになる状態です。本来であれば、体内のカルシウム濃度が正常に戻ればPTHの分泌は落ち着くはずです。しかし、三次性では副甲状腺が独立した機能を持つようになり、血液中のカルシウム濃度が正常範囲内であっても、あるいは高くなってしまってもPTHの分泌が止まらなくなってしまいます。この状態になると、治療がより複雑になる傾向があります。
これらのタイプによって、副甲状腺機能亢進症の治療法や病気の経過(予後)は異なります。そのため、まずはご自身の病気がどのタイプに該当するのかを正確に診断してもらうことが、回復への第一歩といえるでしょう。
副甲状腺機能亢進症の原因
副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌されることで生じます。この過剰な分泌には、副甲状腺そのものに原因があるケースと、他の病気の影響でPTHが過剰に出るケースがあります。病気のタイプによって原因が異なるため、自身の状態を正しく理解することが回復への第一歩となります。
- 原発性副甲状腺機能亢進症の原因
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺そのものの異常によってPTHが過剰に作られるタイプです。最も多いのは、副甲状腺の一つに良性の腫瘍(腺腫)ができることで、この腺腫がPTHを過剰に分泌してしまいます。非常にまれに、複数の副甲状腺が大きくなる「過形成」や、さらに珍しい「副甲状腺がん」が原因となることもあります。
PTHが過剰な状態が続くと、総死亡率や心臓血管に関連する死亡リスクが高まることが報告されています※。しかし、副甲状腺摘出術(PTX)を受けることで、これらのリスクだけでなく、心血管疾患(CVD)のリスクも低下できる可能性が示されています※。そのため、早期に原因を特定し、適切な治療を受けることが重要です。 - 続発性副甲状腺機能亢進症の原因
続発性副甲状腺機能亢進症は、主に慢性腎臓病が原因で起こります。腎臓の機能が低下すると、体内でカルシウムの吸収を助ける活性型ビタミンDが十分に作られません。これにより、血液中のカルシウム濃度が慢性的に低下する「低カルシウム血症」になります。このカルシウム不足を補おうと、副甲状腺が反応的にPTHを過剰に分泌し続けることで発症すると考えられています。 - 三次性副甲状腺機能亢進症の原因
三次性副甲状腺機能亢進症は、続発性副甲状腺機能亢進症が長く続くことで、副甲状腺が独立した機能を持つようになる状態です。本来、血液中のカルシウム濃度が正常に戻ればPTHの分泌は抑えられます。しかし、このタイプでは、副甲状腺が自律的にPTHを過剰に分泌し続け、コントロールが難しくなると言えます。
副甲状腺機能亢進症の症状
副甲状腺機能亢進症の症状は、血液中のカルシウムバランスが崩れることで全身に現れるのが特徴です。初期には自覚しにくいこともありますが、病気が進行すると多様な症状につながります。
現れる症状は、主に精神症状、身体症状、そして心血管系症状に分けられます。
精神症状
副甲状腺機能亢進症の患者さんは、イライラや集中力の低下、抑うつ気分、不安感といった精神的な不調を感じやすいことがわかっています。これらの症状は、うつ病の重症度を測るPHQ-9スコア(Patient Health Questionnaire-9)や、不安障害の評価に用いられるGAD-7スコア(Generalized Anxiety Disorder 7-item scale)でも示されています※。
特に、副甲状腺機能亢進症が原因で臨床的に意味のあるうつ症状(PHQ-9スコアが10点以上)がある場合、手術による治療(副甲状腺摘出術:PTX)によってそのスコアが有意に改善し、うつ病の有病率が大幅に減少することが報告されています※。さらに、不安症状や自殺念慮も低下する傾向にあるため、PHQ-9スコアが10点以上であることは、無症候性の原発性副甲状腺機能亢進症患者さんにおける副甲状腺摘出術の新たな適応基準となり得るとも提案されています※。
身体症状
過剰な副甲状腺ホルモンは、体内のカルシウムバランスを大きく乱します。これにより、以下のような身体症状が現れることがあります。
- 骨への影響:
- 骨からカルシウムが溶け出すため、骨密度が低下し、骨折のリスクが高まります。
- 腰や関節に痛みを感じることもあります。
- 腎臓への影響:
- 血液中のカルシウム濃度が高まることで、腎臓に結石ができやすくなり、尿路結石のリスクが増加します。
- 尿の量が増える「多尿」の症状が見られることもあります。
- 消化器症状:
- 全身の倦怠感とともに、食欲不振や吐き気、便秘などを感じることがあります。
心血管系症状
副甲状腺機能亢進症は、心臓や血管への影響も見逃せません。原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)は、総死亡率や心血管(CV)関連の死亡率が高まることと関連しています※。
ただし、PHPT自体が一般集団と比較して心血管疾患(CVD)イベントのリスクに直接的な有意差をもたらすとは限りません。ここで重要なのは、副甲状腺摘出術(PTX)が、PHPT患者さんの総死亡率、心血管関連の死亡率、そしてCVDのリスクを低下させる効果があることです※。つまり、早期に適切な治療を行うことで、これらの深刻なリスクを軽減できる可能性があるといえます。
これらの症状は、日常生活の中で「たかが疲れ」や「年のせい」と見過ごされがちです。しかし、気になる症状が複数見られる場合は、一度医療機関を受診し、適切な診断を受けることが大切です。早期発見と早期治療が、症状の改善と合併症の予防につながります。
副甲状腺機能亢進症の検査・診断
副甲状腺機能亢進症の診断は、血液検査と画像検査が中心です。これらの検査によって、体内で過剰に分泌されている副甲状腺ホルモン(PTH)の状態や、異常を起こしている副甲状腺の正確な位置を特定します。
血液検査でわかること
副甲状腺機能亢進症が疑われたら、まず血液検査で次のような項目を詳しく調べます。
- 副甲状腺ホルモン(PTH)の濃度: PTHが過剰に分泌されているかを確認します。通常、副甲状腺機能亢進症では高い値を示します。
- 血中のカルシウム濃度: PTHには血中のカルシウム濃度を上げる働きがあるため、この病気では高いカルシウム値が見られます。
- 血中のリン濃度: PTHはリンを体外へ排出する働きがあるため、リンの濃度が低くなることがあります。
特に、血中のカルシウム濃度が高いにもかかわらず、PTHも高値である場合は、副甲状腺機能亢進症である可能性が高いといえます。この病気は、骨がもろくなり骨折しやすくなったり、心臓や血管に影響を与える心血管系の合併症につながったりするリスクがあります。早期に診断し適切な治療に進むことで、深刻な合併症を回避できる可能性が高まります。
原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)の患者さんでは、副甲状腺摘出術(PTX)を行うことで、全体的な骨折リスク、特に股関節骨折のリスクを有意に減少させられる可能性が示されています※。また、PTXを受けたグループでは、股関節、大腿骨頸部、橈骨(とうこつ:腕の骨)、脊椎といった部位の骨密度(BMD)が年間で有意に増加することも報告されています※。
さらに、PHPTは一般集団と比べて総死亡率や心血管関連の死亡率のリスク増加と関連があることがわかっています※。しかし、PHPT患者と一般集団の間で、心血管疾患(CVD)イベントのリスク自体には有意な差がない可能性も指摘されています※。このことから、PHPTの診断はこれらのリスク評価にもつながります。
画像検査でわかること
血液検査で副甲状腺機能亢進症が強く疑われる場合、次に画像検査を行います。これにより、ホルモンを過剰に分泌している副甲状腺がどこに位置しているのか、またその大きさなどを確認できます。
主な画像検査は次のとおりです。
- 超音波(エコー)検査: 首の表面から超音波を当てて副甲状腺の状態を調べます。体に負担が少なく、簡便に実施できる検査です。
- CT検査やMRI検査: より詳細な位置関係や、他の臓器との区別を評価するために行われることがあります。
- シンチグラフィ: 特殊な薬剤を体内に投与し、その薬剤が異常な副甲状腺に集まる様子を画像で捉える検査です。小さな病変や、一般的な画像検査では見つけにくい場所にある病変を発見するのに役立ちます。
これらの画像検査によって、異常な副甲状腺の位置を正確に特定することは、もし手術が必要になった場合に、安全かつ効果的な手術計画を立てる上で非常に重要です。原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)は、総死亡率や心血管関連の死亡率のリスクを高めることと関連していますが、副甲状腺摘出術(PTX)は、これらのリスクに加え、心血管疾患(CVD)のリスクを低下させる可能性が示されています※。そのため、適切な診断と治療を行うことで、これらの深刻なリスクを低減できる見込みが高まります。
副甲状腺機能亢進症の治療
副甲状腺機能亢進症の治療は、患者さんの状態や症状の有無、合併症のリスク、そして妊娠の有無などを総合的に考慮し、主に手術か経過観察かを選択します。病気の状況や、他に抱えている病気(持病)との兼ね合いを深く考慮し、最適な治療法を医師とよく相談して決めることが大切です。
1. 手術(副甲状腺摘出術)
副甲状腺摘出術は、肥大したり腫瘍ができたりした副甲状腺を取り除くことで、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される根本原因を改善する治療法です。一般的に、手術が検討されるのは以下のような場合です。
- 疲れやすい、骨が痛む、集中できないなどの症状がある
- 血液中のカルシウム濃度が著しく高い場合
- 腎臓結石や骨粗しょう症などの合併症がある
- 比較的若く、将来的な影響を避けたい
- 血液中のカルシウム値が高いが、手術をしないと診断や治療が困難なケース
副甲状腺摘出術は、骨折のリスクを顕著に減らす効果があることが複数の研究で示されています。特に、経過観察(OBS)と比較して、任意の部位での骨折リスクを20%(相対リスク[RR], 0.80; 95% CI, 0.74-0.86)、股関節骨折のリスクを37%(RR, 0.63; 95% CI, 0.52-0.76)有意に減少させることが明らかになっています※。一方で、前腕や椎体骨折においては、手術による有意な減少は観察されていません※。
また、手術を受けた患者さんでは、以下に示す部位でベースラインから年間で骨密度(BMD)が有意に増加することも報告されています※。
- 大腿骨頸部:1.91%
- 股関節:1.75%
- 橈骨(とうこつ:腕の骨):1.75%
- 脊椎:2.13%
この骨折リスクの減少は、骨密度のわずかな増加だけでは説明できない、副甲状腺摘出術による追加的な利点がある可能性も示唆されています※。
妊娠中の治療について
特に妊娠中に原発性副甲状腺機能亢進症と診断された場合、副甲状腺摘出術は母体と胎児にとって有利な選択肢となる可能性があります。システマティックレビューでは、非外科的治療を受けた場合に比べ、新生児の合併症が有意に多く発生することが示されています(p < 0.001)※。一方で、外科的治療を受けた場合の母体および全体的な産科転帰は、非外科的治療と比較して劣らないことが確認されています※。
母体の妊娠時平均カルシウム値が高いほど、母体および産科合併症が増加する傾向にあるため、たとえ軽度の高カルシウム血症であっても、副甲状腺摘出術が非外科的治療よりも有利である可能性が示唆されています※。
2. 経過観察・薬物療法
症状がなく、血液中のカルシウム濃度が著しく高くない場合など、手術をすぐに行わないケースでは、定期的な検査と薬物療法による経過観察が選択されます。この治療法は、高カルシウム血症による症状を和らげたり、骨への影響を抑えたりすることを目的としています。
薬物療法では、主に次のようなお薬が使われます。
- ビスホスホネート製剤: 骨が壊されるのを抑え、骨密度を維持・改善するお薬です。骨粗しょう症の治療にも用いられます。
- カルシウム受容体作動薬(シナカルセトなど): 副甲状腺ホルモンの分泌を直接抑えることで、血液中のカルシウム濃度を下げるお薬です。
経過観察中も、定期的な診察や血液検査、尿検査などを受けて、病状の変化がないかを確認することが重要です。もし症状が出てきたり、合併症が悪化したりする場合には、改めて手術を検討することもあります。













