バセドウ病

たくさん食べているのに痩せていく、安静にしていても心臓がドキドキする…。そんな不可解な体調の変化に、不安を感じていませんか?それは、体を元気にする「アクセル」の役割を持つ甲状腺ホルモンが暴走する「バセドウ病」のサインかもしれません。

この病気は、本来体を守るはずの免疫が自分自身を攻撃してしまうことで起こり、特に20代から40代の女性に多く見られます。その数は男性の3〜7倍とも言われ、決して他人事ではない病気です。

この記事では、バセドウ病の詳しい原因や症状、そして薬から手術、開発が進む新しい治療法までを分かりやすく解説します。ご自身の症状と見比べながら、病気への正しい理解を深めていきましょう。

バセドウ病の概要

バセドウ病は、甲状腺からホルモンが過剰に出る病気です。 私たちの体をウイルスなどから守る「免疫」という仕組みがあります。 しかし、この免疫が誤って自分の甲状腺を攻撃することがあります。 このような病気は「自己免疫疾患」と呼ばれています。

バセドウ病には、古くから知られる3つの代表的な特徴があります。

  • 甲状腺の腫れ 首の前側、のどぼとけの下あたりが全体的に腫れてきます。
  • 甲状腺ホルモンが多すぎる症状 動悸や手の震え、多汗、食欲旺盛なのに痩せるなどの症状です。
  • 目が飛び出して見える バセドウ病に特徴的な目の症状で、眼球突出と呼ばれます。

この病気は女性に多く、男性1人に対して女性は3〜7人ほどです。 特に20代から40代の方に発症しやすい傾向にあります。

現在の治療には薬や放射線、手術などがありますが課題もあります。 そのため、超音波を使った治療(HIFU)の効果を高める研究など、 より負担の少ない新しい治療法の開発が世界中で進められています。

バセドウ病の種類

バセドウ病は医学的に細かく種類が分かれているわけではありません。 しかし、患者さんによってどの症状が強く現れるかに個人差があります。 そのため、特徴から大きく3つのタイプに分けて考えると理解しやすいです。

これは、バセドウ病の代表的な3つの症状に基づいた考え方です。

タイプ

主な特徴

首の腫れが目立つタイプ

首の前側にある甲状腺が全体的に腫れて、見た目でも分かりやすいケースです。

目の症状が目立つタイプ

目が前に出てきたり、まぶたが腫れたりする「バセドウ病眼症」が強く現れます。

全身の症状が目立つタイプ

動悸や体重減少、手の震えなど、体全体の調子が悪くなる症状が目立ちます。

これらの症状は、どれか一つだけではなく、複数合わさって現れることがほとんどです。 また、年齢によっても症状の出方が変わる傾向があります。 比較的若い方では首の腫れが目立ちやすいです。 一方、ご高齢の方では、体重が減る、食欲がないといった症状が中心になることもあります。 ご自身の症状がどのタイプに近いかを知ることは、医師に相談する上でとても大切です。

バセドウ病の原因

バセドウ病の原因は、体を守る「免疫」という仕組みの誤作動です。 本来、免疫はウイルスなど外からの敵を攻撃する役割を担っています。 しかし、何らかのきっかけで自分自身の甲状腺を敵と誤認し、 攻撃してしまうことで、この病気は発症します。 このような病気は「自己免疫疾患」と呼ばれています。

正常な状態では、甲状腺は脳からの指令を受けてホルモンを作ります。 この指令を出すのが「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」です。 しかしバセドウ病になると、免疫システムが特殊な物質を作ります。 これが「TSH受容体抗体(TRAb)」という偽の指令物質です。

この偽の指令物質が、本来の指令の代わりに甲状腺を刺激し続けます。 その結果、甲状腺は必要以上にホルモンを大量に作り続けてしまいます。 これにより、全身の代謝が異常に活発になるのです。

バセドウ病が起こる仕組みは、以下の通りです。

  • 免疫システムの誤作動 体を守るシステムが、自分の甲状腺を「敵」と勘違いします。
  • 偽の指令物質が作られる 「TSH受容体抗体(TRAb)」という物質が作られ始めます。
  • 甲状腺への過剰な刺激 この抗体が、甲状腺を24時間休みなく刺激し続けます。
  • 甲状腺ホルモンの過剰分泌 結果として、甲状腺ホルモンが大量に作られ続けてしまいます。

なぜ免疫が誤作動を起こすのか、根本的な原因はまだ不明です。 しかし、遺伝的な要因が関わっていると考えられています。 ご家族にバセドウ病の方がいると、発症しやすい傾向があります。 また、強いストレスや妊娠・出産、喫煙なども発症のきっかけになり得ます。

バセドウ病の症状

甲状腺ホルモンは、体の活動を元気にするアクセルのような役目をします。 バセドウ病では、このアクセルが常に踏みっぱなしの状態になります。 そのため、体はずっと全力疾走しているようになり、 全身にさまざまなサインが現れるのです。

代表的な症状として、古くから知られる以下の3つがあります。 ただし、これら全てがそろうとは限りません。

  • 甲状腺の腫れ 首ののどぼとけの下にある甲状腺が、全体的に大きく腫れます。 これは、ホルモンを作る工場が過剰に働いているサインです。
  • 目の症状 目が前に出てきたり、まぶたが腫れたりすることがあります。 バセドウ病の方のうち、10〜40%に見られる特徴的な症状です。
  • 心臓のドキドキ(頻脈) 全身の代謝が上がるため、心臓がたくさん血液を送ろうと頑張ります。 その結果、安静にしていても脈が1分間に100回以上になることもあります。

甲状腺ホルモンは全身に作用するため、他にも多彩な症状が出ます。 ご自身の体調に当てはまるものがないか、確認してみましょう。

分類

具体的な症状

全身の症状

□ 疲れやすく、いつもだるい

□ たくさん食べるのに体重が減る

□ 暑がりになり、汗をかきやすい

精神・神経の症状

□ イライラして怒りっぽくなる

□ 落ち着きがなくなる

□ 手指が細かく震える

その他の症状

□ 髪の毛が抜けやすくなる

□ 便がゆるくなったり、回数が増える

□ 筋力が落ちて、階段を上るのが辛い

□ 女性では月経不順になることも

これらの症状は、年代によって現れ方が変わることがあります。 若い方では首の腫れが目立ちやすい一方、 ご高齢の方では体重減少や食欲不振が中心になることもあります。 気になる症状が複数あれば、早めに専門の医療機関にご相談ください。

バセドウ病の検査・診断

バセドウ病が疑われる場合、いくつかの検査を組み合わせて診断します。 多くは問診と診察、そして血液検査で確定診断に至ります。 医師がどのように診断を進めるのか、具体的な流れを見ていきましょう。

まずは、患者さんから自覚症状について詳しくお話をうかがいます。 動悸や体重減少、手の震えといった症状の有無や程度を確認します。 いつから症状が始まったかなども、診断の重要な手がかりになります。 その後、首を触って甲状腺の腫れがないかなどを丁寧に診察します。

診断の決め手となるのが、血液検査です。 この検査では、主に3つの項目を調べて病気の正体を探ります。

検査項目

働き

バセドウ病の場合

甲状腺ホルモン(FT3, FT4)

全身の代謝を活発にするホルモンです。

過剰に作られるため、数値が高くなります。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)

脳から出る「ホルモンを作れ」という命令です。

ホルモンが十分なため命令が止まり、数値が低くなります。

TSH受容体抗体(TRAb)

バセドウ病の原因となる特殊な物質です。

陽性になります。患者さんの95%以上で見られます。

この3つの検査結果で、ほとんどの場合バセドウ病の診断が確定します。

さらに詳しく状態を調べるため、追加の検査を行うこともあります。

  • 甲状腺超音波(エコー)検査 甲状腺の大きさや形、血流が増加していないかを確認します。
  • 心電図検査 動悸の症状がある場合に、心臓への影響を調べます。

これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定させます。

バセドウ病の治療

バセドウ病の治療は、出すぎている甲状腺ホルモンを抑えるのが目的です。 最終的には、お薬なしで甲状腺の働きが安定した状態を目指します。 このゴールを「寛解(かんかい)」と呼びます。

主な治療には、大きく分けて3つの方法があります。

  • 薬で治す方法(薬物療法)
  • 放射線で治す方法(アイソトープ治療)
  • 手術で治す方法(手術療法)

どの治療法を選ぶかは、ご自身の年齢や症状の重さ、生活の予定などを 医師としっかり相談して、一緒に決めていくことが大切です。

治療法

どんな治療?

良いところ

気をつけること

薬物療法

甲状腺ホルモンを作るのを邪魔するお薬を毎日飲みます。

・体への負担が少なく、手軽に始められます。

・入院の必要がありません。

・治療が数年単位で長くなることがあります。

・かゆみなどの副作用が出ることがあります。

アイソトープ治療

放射線を出す特殊なカプセルを1回だけ飲みます。

・手術の必要がなく、体への負担が少ないです。

・治療の成功率が高い方法です。

・将来、逆にホルモンが少なくなることがあります。

・妊娠中や近いうちに妊娠を希望する方は受けられません。

手術療法

ホルモンを作っている甲状腺そのものを手術で取り除きます。

・最も早く、確実な効果が期待できます。

・薬の副作用が強い方にも向いています。

・入院が必要です。

・首に手術の傷あとが残ります。

これらの方法は確立されていますが、それぞれに注意点もあります。 そのため、超音波を使った治療(HIFU)の効果を高める研究など、 より体に優しい新しい治療法の開発が世界中で進められています。 また、タバコはバセドウ病を悪化させることがわかっています。 治療の効果をしっかり出すためにも、禁煙はとても大切です。