肝細胞がん
「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓。その名の通り、病気がかなり進行するまでSOSを出しません。日本で発生する肝臓がんの実に9割以上を占める「肝細胞がん」も、知らないうちに進行しているケースが少なくないのです。
原因はお酒やウイルス感染だけだと思っていませんか?実は肥満や生活習慣、さらには生まれ持った遺伝子のタイプも関係し、特に私たちアジア人でリスクとの関連が深いことも報告されています。しかし、希望もあります。近年、血液中の微小なカプセルを調べることで、約72%の確率でがんを見つける新しい検査法の研究が進んでいます。
この記事では、肝細胞がんの知られざる原因から症状、そして最新の治療法までを徹底解説します。手遅れになる前に、あなたの体を守るための正しい知識を身につけましょう。
肝細胞がんの概要
肝臓は、お腹の右上にある体の中でとても大きな臓器です。 大人の場合、重さが1kg以上もあり、多くの役割を担います。 栄養を蓄えたり、体に害のあるものを分解したりします。 私たちが生きていくために、一日も休まず働く重要な存在です。
この大切な肝臓にできるがんのうち、日本では9割以上が「肝細胞がん」です。 肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれており、とても我慢強いです。 病気がかなり進行するまで、ほとんど症状が現れません。 そのため、知らないうちにがんが大きくなっていることがあります。
症状が出にくいからこそ、定期的に健康診断などを受けることが大切です。 肝臓の状態を確認し、病気のサインを早期に見つける必要があります。 近年、体に負担をかけずにがんを早期発見する研究が進んでいます。
血液検査によって、がん細胞が作り出す特殊な物質を調べます。 特に注目されているのが、血液中にある「エクソソーム」です。 これは細胞から放出される非常に小さなカプセルのようなものです。
このカプセルに含まれる「circRNA」という物質を調べます。 複数の研究結果をまとめた報告によると、その診断精度が示されました。 がんの人を正しく「がん」と見つける確率は約72%です。 がんでない人を「がんでない」と判断する確率は約83%でした。 このような新しい検査が、今後の早期発見に役立つと期待されています。
肝細胞がんの種類
「肝細胞がん」と診断されても、実はいくつかの種類に分けられます。 がんの見た目やでき方によって、主に3つのタイプに分類されます。 この分類は、がんの性質を正確に把握し、治療方針を決める上でとても重要です。
- 結節型(けっせつがた)
- 肝臓の中に、はっきりとした塊(結節)が1つ、または複数できるタイプです。
- 塊状型(かいじょうがた)
- 結節型のがんがくっつくなどして、大きな一つの塊を形成するタイプです。
- びまん型
- ごく小さながんが、肝臓の広い範囲に散らばって存在するタイプです。
また、最近の研究では遺伝的な要因も注目されています。 私たちの体の設計図である遺伝子には、個人差を示す部分があります。 これを「遺伝子多型(いでんしたけい)」と呼びます。
「H19」という遺伝子にある特定の多型は、がんとの関連が報告されています。 複数の研究を分析した結果、その関係が示唆されました。 特に「rs2839698」というタイプを持つ人は、注意が必要かもしれません。 このタイプを持つ人は、持たない人に比べて肝細胞がんのリスクが高まる傾向にあります。
この遺伝的な特徴は、特に私たちアジア人で関連が深いことがわかっています。 ただし、遺伝的な要因だけでがんになるわけではありません。 がんの見た目や遺伝的な特徴を知ることが、最適な治療への第一歩となります。
肝細胞がんの原因
肝細胞がんができる原因は、一つだけではありません。 いくつかの要因が長い時間をかけて肝臓にダメージを与えます。 その結果、がんが発生すると考えられています。
主な原因には、以下のものがあります。
- ウイルスの感染 B型肝炎やC型肝炎ウイルスが体に入ると、肝臓で炎症が続きます。 この状態は「慢性肝炎」と呼ばれ、肝臓の細胞を傷つけます。 傷ついた細胞ががん細胞に変わることが、原因の一つです。
- お酒の飲みすぎ(アルコール) 長期間にわたりお酒をたくさん飲むと、肝臓に大きな負担がかかります。 その結果、「アルコール性肝障害」や「肝硬変」という病気になります。 肝硬変になると、肝細胞がんのリスクが非常に高まります。
- 肥満や生活習慣の乱れ お酒を飲まない人でも、食べすぎや運動不足には注意が必要です。 肥満になると肝臓に脂肪がたまり、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」になります。 この病気も肝硬変を経て、がんの原因になることがわかっています。
また、生まれ持った遺伝子のタイプも、がんのなりやすさに関係します。 私たちの体の設計図である「H19」という遺伝子には、個人差があります。 複数の研究によると、特定の遺伝子タイプを持つ人は注意が必要です。 例えば「rs2839698」や「rs217727」というタイプです。 これらのタイプを持つ人は、持たない人に比べリスクが高まる可能性があります。 特に私たちアジア人では、この関連が深いと報告されています。
これらの原因の多くは、肝臓が硬くなる「肝硬変」につながります。 肝細胞がんの患者さんの多くは、肝硬変を伴っています。 肝臓の病気を早めに見つけ、きちんと治療をうけることがとても大切です。
肝細胞がんの症状
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、とても我慢強いです。 肝細胞がんができてすぐの段階では、自覚できる症状はほぼありません。 そのため、知らない間にがんが進行してしまうことも少なくありません。
しかし、がんが大きくなったり、肝臓の働きが悪くなったりすると、 体はSOSのサインを出すようになります。 どのようなサインがあるのか、具体的に見ていきましょう。
肝機能の低下による症状
がん自体の症状より先に、肝臓の働きが悪くなることで現れる症状です。 もともとある肝臓の病気が悪化しているサインとも言えます。
- 黄疸(おうだん) 体や目の白い部分が黄色っぽくなります。 肝臓の働きが落ち、黄色い色素が体の中にたまるのが原因です。
- むくみ 足などがパンパンに腫れることがあります。 肝臓で作られるタンパク質が減り、血管から水分が漏れ出します。
- だるさ・疲れやすさ 十分に休んでも、ひどい疲れがとれなくなります。 栄養をうまくエネルギーに変えられなくなるためです。
がんの進行による症状
がんが大きくなるにつれて、お腹に直接的な症状が現れることがあります。
- お腹にしこりや硬い部分を感じる
- お腹が張って苦しい感じがする(圧迫感)
- みぞおちやお腹の右上に痛みを感じる
- 原因のわからない熱が続く
体と心のつらさ
がんが進行すると、体の痛みだけでなく心にも影響が出ることがあります。 気持ちがひどく落ち込んだり(うつ)、強い不安を感じたりします。 また、物忘れが気になる(認知機能の低下)といった症状も報告されています。
最近の研究では、がん患者さんの痛みや心のつらさ、 頭の働きの低下といった症状を和らげる方法が調べられています。 これらの心身のつらい症状は、肝細胞がんだけでなく様々な種類のがんで見られます。
ここに挙げた症状は、必ずしも肝細胞がんだけが原因ではありません。 しかし、気になるサインがあれば自分で判断せず、医療機関に相談してください。 それが病気の早期発見につながる、とても大切な一歩になります。
肝細胞がんの検査・診断
肝細胞がんは症状が出にくいため、検査で早期発見することが何より大切です。 特に肝臓の病気がある方は、定期的なチェックが自分の体を守る鍵になります。 検査は主に、がんの可能性を探る検査と、詳しく調べる検査に分かれます。
まず、がんの可能性を探るために、以下の検査を組み合わせます。
- 血液検査 腕から少しだけ血液を採り、肝臓の状態やがんのサインを調べます。 肝臓の細胞が壊れていないか、ウイルスの感染がないかを確認します。 また、がん細胞が作る特殊な物質(腫瘍マーカー)の値も測定します。
- 腹部超音波(エコー)検査 お腹にゼリーを塗り、機械をあてて肝臓の様子を観察します。 体への負担が少なく、がんのしこりがないかを手軽に確認できます。
これらの検査でがんが疑われた場合は、さらに詳しく調べる検査に進みます。 CT検査やMRI検査という、体の輪切りの写真を撮るような検査です。 「造影剤」というお薬を使うと、がんの場所や大きさがより鮮明にわかります。
また近年、体に負担の少ない新しい検査法が研究されています。 血液中にある「エクソソーム」という、細胞が出す小さなカプセルを調べます。 このカプセルに含まれる「circRNA」という物質を分析するのです。
複数の研究結果をまとめた報告によると、その診断精度が示されました。 がんの人を正しく「がん」と見つける確率は約72%です。 がんでない人を「がんでない」と判断する確率は約83%でした。 このような新しい検査が、今後の早期発見に役立つと期待されています。
正確な診断は、その後の治療方針を決めるために非常に重要です。 検査でがんの状態を正しく知り、最適な治療法を選んでいきましょう。
肝細胞がんの治療
肝細胞がんの治療法は、一つだけではありません。 がんの大きさや数、体の他の場所への広がり具合をみます。 そして、肝臓自体の機能がどれだけ保たれているかも重要です。 これらを総合的に判断し、最適な治療法を選びます。
主な治療法には、以下のような選択肢があります。 それぞれの特徴を理解し、自分に合った治療を知りましょう。
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治療法の種類 |
どんな治療? |
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手術 |
がんの部分を直接切り取る(肝切除)、または肝臓ごと取り替える(肝移植)方法です。 |
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穿刺局所療法 |
体の外からがんに針を刺し、ラジオ波などの熱でがんを焼いて治療します(ラジオ波焼灼療法など)。 |
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塞栓療法 |
がんに栄養を送る血管を詰め、がんを「兵糧攻め」にする治療です(肝動脈化学塞栓療法など)。 |
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薬物療法 |
飲み薬や点滴で、体の中からがんの増殖を抑えたり、攻撃したりします。 |
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放射線治療 |
放射線をあてて、がん細胞を壊す治療です。骨への転移など、痛みを和らげる目的でも使われます。 |
これらの治療法は、単独で行うこともあれば、組み合わせることもあります。 特に、がんが進行して手術などが難しい場合は薬物療法が中心です。 薬には、がんの増殖を抑える「分子標的薬」などがあります。 また、自分の免疫力でがんと戦う「免疫チェックポイント阻害薬」もあります。
薬の種類も増え、どの薬を使うかは慎重に検討されます。 例えば、複数の研究を分析したある報告があります。 「レンバチニブ」という薬と、「アテゾリズマブとベバシズマブ」という薬の組み合わせを比較したものです。 それによると、生存期間やがんの進行を抑える期間はレンバチニブの方が長い傾向でした。 一方、がんを小さくする効果は、アテゾリズマブとベバシズマブの組み合わせの方が高い傾向にありました。
また、常に新しい治療法の研究が進められています。 「カボザンチニブとアテゾリズマブ」という新しい併用療法もその一つです。 この治療は、がんの進行を遅らせる効果は示されました。 しかし、これまでの薬と比べて生存期間を大きく延ばす結果には至りませんでした。
このように多くの研究を経て、より良い治療法が探されています。 ご自身の状態に合った治療法を、担当の医師とよく相談して決めることが何より大切です。










