子宮内膜炎

原因不明の不妊や、繰り返す流産。その背景には、自覚症状がほとんどない「慢性子宮内膜炎」が隠れているかもしれません。子宮内膜炎は、子宮の内側に細菌が感染して起こる炎症で、気づかないうちに進行することがあります。

ある報告では、不妊に悩む女性の60%以上にこの病気が見つかったともいわれており、決して珍しいものではありません。急な腹痛や発熱を伴う「急性」とは異なり、静かに不妊の原因となるため、正しい知識を持つことが重要です。

この記事では、子宮内膜炎の症状や原因、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体と向き合い、大切な未来を守るための一歩として、ぜひ参考にしてください。

子宮内膜炎の概要

子宮内膜炎とは、子宮の内側をおおう膜に細菌が入り、 炎症を起こしてしまう病気のことです。 子宮は、赤ちゃんが育つ大切なお部屋のような場所で、 その壁にあたるのが「子宮内膜」です。

主な原因は、腟から侵入した細菌による感染です。 普段、体には細菌の侵入を防ぐ仕組みが備わっています。 しかし、体の抵抗力が弱まると感染しやすくなります。 特に、以下のようなタイミングで注意が必要です。

  • 出産の後 お産の疲れや傷から細菌が入りやすくなります。
  • 流産や人工妊娠中絶手術の後 子宮内に処置を行うため、感染のリスクが高まります。
  • 閉経の後 女性ホルモンの減少で、腟の自浄作用が弱まります。

出産後の子宮内膜炎は、産後の感染症として知られます。 これに対し、予防策の研究も進められています。 例えば、経膣分娩の後に特定の抗生物質を飲むことで、 子宮内膜炎のリスクを下げられる可能性が報告されています。 ある研究では、アジスロマイシンという薬を1回飲むだけで、 子宮内膜炎を含む産後感染症の確率が、 薬を飲まない場合と比べて約35%減少したと示されました。

この病気は、急性と慢性の2種類に分けられます。 治療せずにいると炎症が卵管や骨盤全体に広がり、 不妊症や、より重い病気につながることもあるため、 早期の対応が重要です。

子宮内膜炎の種類

子宮内膜炎は、症状の進み方や炎症が続く期間で、 大きく2つの種類に分けられます。 急に強い症状が出る「急性」と、静かに続く「慢性」です。

急性子宮内膜炎

急激に症状があらわれるタイプの子宮内膜炎です。 急な下腹部の痛みや38度以上の発熱が特徴です。 また、膿が混じった黄色いおりものが出ることもあります。

出産や流産の後、子宮内の処置後などに起こりやすいです。 症状がはっきりしているため、比較的気づきやすいですが、 我慢すると炎症が広がるため、早めの受診が大切です。

慢性子宮内膜炎

炎症が長い期間、静かに続いている状態です。 急性と違い、はっきりとした症状はほとんどありません。 軽い不正出血や下腹部の違和感程度で見過ごされがちです。

しかし、気づかないうちに不妊症の原因になったり、 妊娠しても流産を繰り返す原因になったりします。 自覚症状がないため、より注意が必要なタイプと言えます。

産褥(さんじょく)子宮内膜炎

出産後に起こる子宮内膜炎で、急性の一種です。 産後は子宮が回復する過程で、体の抵抗力も落ちています。 そのため、細菌が侵入しやすく、感染リスクが高まります。

近年の研究では、予防策についても明らかになってきました。 経膣分娩の後にアジスロマイシンという抗菌薬を飲むと、 子宮内膜炎のリスクが約35%減少したと報告されています。

これら3つの特徴を、以下の表にまとめました。

種類

急性子宮内膜炎

慢性子宮内膜炎

産褥子宮内膜炎

症状

はっきりしている

(強い腹痛、発熱など)

ほとんどないか、軽い

急性と同じく、はっきりしている

気づきやすさ

気づきやすい

気づきにくい

気づきやすい

主な問題

卵管などへ炎症が広がる

不妊症や流産の原因

産後の体調悪化

子宮内膜炎の原因

子宮内膜炎は、細菌が子宮の中に入り込むことで起こります。 普段、体には細菌の侵入を防ぐ「バリア機能」があります。 しかし、その機能が弱まると細菌が増え、炎症につながります。

原因となる細菌は、実は私たちの身の回りにいるものが多いです。

【原因となる主な細菌】

  • 大腸菌
  • 主にお腹の中にいる細菌ですが、違う場所では悪さをします。
  • ブドウ球菌・連鎖球菌
  • 皮膚やのどなど、体の様々な場所に存在する常在菌です。
  • クラミジア・淋菌
  • 主に性交渉によって感染する、性感染症(STD)の原因菌です。

これらの細菌は、多くの場合、腟から子宮へと侵入します。 特に、以下のようなタイミングでは注意が必要です。

【子宮内膜炎が起こりやすいとき】

  • 出産や流産のあと
  • 子宮が傷つき、体全体の抵抗力も落ちている状態です。
  • そのため、細菌が侵入しやすく、感染リスクが高まります。
  • 子宮に関係する処置や検査のあと
  • 子宮内の検査などで使用する器具を介して、
  • 細菌が子宮の中に入ってしまうことがあります。
  • 性交渉
  • クラミジアや淋菌などの性感染症が、
  • 子宮内膜炎の直接的な原因になる場合があります。
  • 免疫力の低下
  • 疲れやストレスなどで体の抵抗力が落ちていると、
  • 普段は問題にならないような弱い菌にも感染しやすくなります。

子宮内膜炎の症状

子宮内膜炎の症状は、種類によってサインの出方が異なります。 急に強い症状が出る「急性」と、静かに続く「慢性」です。 ご自身の状態と見比べ、体の変化に気づくことが大切です。

【チェックリスト】こんな症状はありませんか?

1. 急性子宮内膜炎の症状 急性の場合は、細菌との激しい戦いが体の中で起きています。 そのため、次のような分かりやすい症状が出ることが特徴です。

– 38度以上の高い熱が出る – お腹の下のあたりや腰がズキズキと痛む – 生理の時期ではないのに出血する(不正出血) – 膿のような黄色いおりものや、嫌なにおいがする

2. 慢性子宮内膜炎の症状 慢性の場合は、はっきりした症状がほとんどないこともあります。 そのため「静かな病気」とも呼ばれ、気づきにくいのが特徴です。

– なんとなくお腹に違和感がある – 少量の出血がだらだらと続く – 症状はないものの、なかなか妊娠しない(不妊症) – 妊娠しても、残念ながら流産を繰り返してしまう

3. 出産後の子宮内膜炎(産褥子宮内膜炎) 出産後は体が疲れており、細菌への抵抗力が落ちています。 風邪と間違えやすい、全身の症状が出やすいのが特徴です。

– 急な発熱や、ブルブルとした寒気 – 体が重くてだるい感じ(倦怠感)

最近の研究では、出産後に特定の抗菌薬を1回飲むだけで、 子宮内膜炎になるリスクが約35%減少したと報告されています。 予防策も進んでいますが、まずは症状を知ることが重要です。

もし一つでも当てはまる症状があれば、我慢せずにご相談ください。

子宮内膜炎の検査・診断

子宮内膜炎が疑われる場合、まずはお体の状態を調べます。 どのような検査で病気を突き止めるか、見ていきましょう。

診察では、まず問診で症状について丁寧にお話を聞きます。 次にお腹の痛みや炎症の広がりを内診で確認します。 これにより、痛みの場所や程度を正確に把握できるのです。

次に、炎症の原因となっている「犯人」の細菌を探します。 どの細菌が悪さをしているか特定するための検査です。

【原因菌を調べる主な検査】

  • 培養検査 おりものなどを少しだけ採取し、原因菌を育てて特定します。
  • PCR検査 細菌が持つ特有の遺伝子(名札のようなもの)を調べます。

これらの検査で、どの抗菌薬が効くかを判断できます。 細菌の種類に合わせた薬を選ぶことが、回復への近道です。

また、症状が静かに続く「慢性子宮内膜炎」の診断には、 より詳しい検査が必要になることがあります。

【慢性子宮内膜炎を調べる検査】

  • 子宮内膜組織検査 子宮の中からごく小さな組織を採り、顕微鏡で調べます。 この検査で「CD138」という炎症の目印が見つかると、 慢性子宮内膜炎と診断されます。

なかなか妊娠しない方や流産を繰り返す方では、 60%以上にこの病気が見つかったという報告もあります。 症状がなくても、検査で原因がわかることがあるのです。

気になる症状があれば、自分で判断せずにご相談ください。 正確な診断を受けることが、回復への大切な第一歩です。

子宮内膜炎の治療

子宮内膜炎の治療は、原因の細菌を退治することが基本です。 そのため、「抗菌薬」という細菌と戦うお薬を使います。 症状の強さや原因によって、治療の方法は異なります。

【主な治療の流れ】

  • 原因菌の特定と薬の選択 まずは検査で、どの細菌が悪さをしているか突き止めます。 その細菌に最も効果的な抗菌薬を選ぶことが重要です。 多くは飲み薬で治療しますが、熱が高いなど症状が重い場合は、 点滴で直接お薬を体に入れ、素早く効果を発揮させます。
  • つらい症状を和らげる治療 お腹の痛みや腰の痛みに対しては、炎症を抑えるお薬も使い、 つらい症状をできるだけ早く和らげるようにします。

処方された抗菌薬は、途中でやめないことが非常に大切です。 症状が良くなっても、菌が体の中に潜んでいる可能性があります。 自己判断で中断せず、指示された期間は必ず飲み切りましょう。

まれに炎症がひどくなり、子宮の周りに膿がたまることがあります。 この場合は入院し、点滴や膿を体の外に出す処置が必要です。

また、出産後は子宮内膜炎が起こりやすい時期でもあります。 ある研究では、経膣分娩の後に特定の抗菌薬を1回飲むだけで、 子宮内膜炎のリスクが約35%減少したと報告されています。 このことからも、抗菌薬による適切な治療が重要だとわかります。

症状がほとんどない慢性子宮内膜炎は、不妊の原因にもなります。 抗菌薬による治療で炎症を抑えることで、 妊娠への道が開けることも少なくありません。 気になることがあれば、どんな小さなことでもご相談ください。