収縮性心膜炎

「最近、疲れやすくなった」「少し動いただけでも息が切れる」。そんな年齢のせいだと思いがちな不調は、もしかしたら心臓が発する危険なサインかもしれません。心臓を包む膜が硬い鎧のように変化し、大切なポンプ機能を妨げてしまう「収縮性心膜炎」という病気の可能性があります。

この病気は、感染症や過去の治療、免疫の異常など原因は多岐にわたりますが、ゆっくりと進行するため気づかれにくいのが特徴です。放置すれば全身の血液が渋滞し、むくみや呼吸困難といった深刻な心不全につながる恐れもあります。

この記事では、収縮性心膜炎の正体から、見逃しやすい初期症状、そして最新の検査・治療法までを専門医が分かりやすく解説します。ご自身の体調と照らし合わせ、早期発見の手がかりを見つけてください。

収縮性心膜炎の概要

心臓は、全身に血液を送る大切なポンプの役割をしています。 その心臓を包み、守っているのが「心膜(しんまく)」という袋状の膜です。

本来はやわらかい心膜が、何らかの炎症で分厚く硬くなる病気です。 硬くなった心膜は、心臓が十分にふくらむ(拡張する)のを邪魔します。 その結果、心臓のポンプ機能がうまく働かなくなってしまいます。

この状態になると、血液の流れに2つの問題が起こります。

  • 心臓に血液が戻りにくい
  • 全身をめぐった血液が心臓に戻れず、渋滞を起こします。
  • この状態を「うっ血性心不全」と呼びます。
  • 息切れやむくみ、お腹に水がたまるなどの症状が出ます。
  • 心臓から血液を送り出しにくい
  • 全身に必要な血液が十分に届かなくなります。
  • そのため、疲れやすさやだるさを感じやすくなります。

まれに、体の免疫システムが関わる病気が原因のこともあります。 例えば「IgG4関連疾患」では、最初の症状が心膜の異常として現れます。 心臓の症状が先に出るため、もとの病気の発見が遅れることもあります。

収縮性心膜炎の種類

収縮性心膜炎は、心膜がどのように硬くなるかで種類が分かれます。 この分類は、治療方法を正確に決めるうえでとても大切です。

心膜の状態によって、主に以下の2つの種類に分けられます。

種類

特徴

滲出性拘束性心膜炎(しんしゅつせいこうそくせいしんまくえん)

心膜が硬くなる「締め付け」と、水がたまる「圧迫」。

この2つの問題が同時に心臓に起こる、まれなタイプです。

結核などが原因で発症することがあり、水を抜くだけでは改善せず、

心膜を切り取る手術が必要になることも報告されています。

石灰化性心膜炎(せっかいかせいしんまくえん)

心膜にカルシウムが付着し、骨のようにカチカチに硬くなるタイプです。

心膜が弾力性を完全に失い、心臓がうまくふくらめなくなります。

全身性硬化症のような、体の免疫システムが関わる病気で、

この状態になることがごくまれに報告されています。

このように、心膜の状態によって病気の種類は異なります。 どのタイプかによって原因や治療の進め方が変わってきます。 そのため、検査で状態を正確に把握することが治療への第一歩なのです。

収縮性心膜炎の原因

心臓の膜が硬くなる原因は、実はたくさんあります。 ときには、原因がはっきりわからないことも少なくありません。 これを「特発性(とくはつせい)」と呼びます。

原因がわかっている場合は、主に以下の2つに分けられます。

  • 感染症が原因になるもの
  • ウイルスや細菌の感染 風邪などのウイルスや細菌が心膜で炎症を起こし、それがきっかけになることがあります。
  • 結核菌による感染 昔は多い原因でしたが、今は減りました。結核菌が原因で、心膜に水がたまりながら締め付ける特殊なタイプになることも報告されています。
  • 感染症以外が原因になるもの
  • 過去の治療の影響 心臓の手術や、胸へのがん治療(放射線)が、数年後に影響を及ぼすことがあります。
  • 体の免疫システムの異常 自分の体を守る免疫が、間違えて心膜を攻撃する病気です。 例えば「全身性硬化症」という病気で、ごくまれにこの状態になることが知られています。 また「IgG4関連疾患」では、最初の症状が心臓の異常として現れるため、もとの病気の診断が遅れる危険性も指摘されています。
  • 他の病気の影響 がんや、長く続く腎臓の病気(慢性腎不全)などが原因となることもあります。

このように、原因はさまざまです。 何年も前の出来事が関係することもあるため、気になる症状があれば、ささいなことでも医師に伝えていただくことが大切です。

収縮性心膜炎の症状

心臓の膜が硬くなると、ポンプが十分にふくらめなくなります。 その結果、心臓に戻るはずの血液が体の中で渋滞してしまいます。 この「血液の渋滞(うっ血)」が、全身に様々なサインとして現れます。

とくに、全身から心臓へ血液が戻る力が弱まる症状が特徴的です。 例えば、結核が原因の場合、この症状がなかなか改善しないこともあります。

主な症状

  • 息切れ・呼吸が苦しい 階段をのぼるなど、少し動いただけでも息が苦しくなります。 心臓が全身に十分な血液を送り出せないために起こります。
  • むくみ 血液の渋滞で水分が血管から漏れ出し、皮膚の下にたまります。 夕方になると足がパンパンになったり、靴下の跡が残ったりします。
  • お腹の張り(腹水) お腹にも水がたまることで、張った感じがしたり食欲が落ちたりします。
  • 疲れやすさ 全身に栄養や酸素が十分に行き渡らず、体がだるく感じます。
  • 首の血管が目立つ 心臓に戻れない血液が、首の静脈で渋滞してふくれて見えます。

これらの症状は、他の病気が背景にあるサインかもしれません。 例えば、体の免疫システムが関わる病気の経過で心不全として現れたりします。 また、他の臓器にも影響が出る病気の最初の症状として出ることもあります。 そのため、もとの病気の発見が遅れる危険性も指摘されています。

こんなサインに気づいたら注意しましょう

  • □ 以前より疲れやすくなった
  • □ 少し動いただけでも息が切れる
  • □ 夕方になると靴がきつく感じる
  • □ なんとなくお腹が張って食欲がない
  • □ 食べていないのに体重が増えた

症状はゆっくり進むことが多いため、変化に気づきにくいこともあります。 気になるサインがあれば、早めに医療機関へご相談ください。

収縮性心膜炎の検査・診断

収縮性心膜炎が疑われる場合、まずはお体の状態を丁寧に診察します。 首の血管の張りや足のむくみなど、心臓の働きが弱まったサインを確認します。

診察で疑わしい点があれば、診断を確定するためにいくつかの検査に進みます。 心臓の状態を多角的に調べるため、複数の画像検査を組み合わせることが重要です。

検査の種類

この検査で何がわかるの?

胸部X線検査

心臓の大きさや形、肺に水がたまっていないかを確認します。

また、心膜が骨のように硬くなる「石灰化」もわかります。

心電図検査

心臓が動くときの弱い電気信号を記録します。

心臓のリズムの乱れや、負担の程度を調べます。

心エコー検査

超音波で心臓の動きをリアルタイムで見る、とても大切な検査です。

心膜の厚さや、心臓のふくらみ方を詳しく観察します。

CT・MRI検査

CT検査は、心膜の石灰化をより鮮明に映し出せます。

MRI検査は、心膜で起きている炎症の様子を詳しく見るのが得意です。

特に心エコー検査では、心臓の筋肉の細かな動きを評価できます。 「ひずみ画像解析」という方法で、心臓のしなやかさが失われていないかを調べ、病気の早期発見に役立つことがあります。

これらの検査でも診断が難しい場合は、心臓カテーテル検査を行います。 これは、腕や足の血管から細い管を心臓に入れ、中の圧力を直接測る精密検査です。 一つの検査結果だけでなく、これらを総合的に判断して最終的な診断を下します。

収縮性心膜炎の治療

硬くなった心臓の膜(心膜)を治療する目的はただ一つです。 それは、心臓を締め付けている鎧(よろい)を外し、再び自由に動けるようにすることです。

治療法は、患者さんの症状や病気の進行具合によって変わります。 主に「お薬で症状を楽にする治療」と「手術で根本から治す治療」の2つです。

お薬による治療

まずはお薬を使い、心臓の負担を軽くすることから始めます。 息切れやむくみといった、つらい症状を和らげるのが目的です。

  • 利尿薬
  • 体の中にある余分な水分を尿として出すお薬です。
  • 全身の血液の渋滞を解消し、むくみや呼吸の苦しさを改善します。
  • 抗炎症薬(ステロイドなど)
  • 心膜にまだ「炎症」という火事が残っている場合に効果が期待できます。
  • 最近ではMRIなどの詳しい検査で、炎症の活発さを見極めることができます。
  • このような画像検査は、お薬が効きやすい患者さんを見つけるための重要な道しるべになります。

手術による治療

お薬で症状が良くならない場合や、病気を根本から治すためには手術が必要です。 硬くなった心膜を切り取り、心臓が本来の動きを取り戻せるようにします。

治療法

内容

心膜切除術

硬くなった心膜を外科的に切り取り、心臓を締め付けから解放する手術です。

この病気を根本的に治すための治療法とされています。

結核などが原因で、心臓の周りに水がたまりながら締め付ける特殊なタイプもあります。 この場合、ただ水を抜くだけでは症状は改善しません。 根本原因である硬い心膜を取り除く手術が必要になることも報告されています。

どの治療法が良いかは、CTやMRIなどの画像検査の結果と体の状態を総合的に見て判断します。 担当の医師とよく相談し、ご自身に合った治療法を選んでいきましょう。