帝王切開瘢痕症候群
帝王切開での出産後、「月経がすっきり終わらず、茶色いおりものが続く」「以前より生理痛が重くなった」といったお悩みはありませんか。その不調、単なる産後の体調変化ではなく、帝王切開の“きずあと”が原因で起こる「帝王切開瘢痕症候群」かもしれません。
この病気は、帝王切開を経験した方の24~70%に起こるとされ、決して珍しいものではありません。帝王切開での出産が増加するにつれて、この症状で悩む方も増えています。見過ごされがちな症状ですが、時には次の妊娠を妨げる「不妊」の原因になる可能性も指摘されています。
この記事では、帝王切開瘢痕症候群の詳しい原因や症状、そしてご自身の状態に合わせた治療法について詳しく解説します。気になる症状の解決に向け、ぜひご自身の状況と照らし合わせながらお読みください。
帝王切開瘢痕症候群の概要
帝王切開の手術でできた子宮のきずが、産後にうまく治りきらないことがあります。そのきずあとがくぼみ(瘢痕:はんこん)となり、体に様々な不調を引き起こす状態を「帝王切開瘢痕症候群」と呼びます。
帝王切開を経験した方のうち、24~70%の方に起こるといわれており、決して珍しい病気ではありません。近年、帝王切開による出産が増えているため、この病気で悩む方も増加傾向にあります。
子宮のきずあとにできた くぼみには、月経の血液やおりものが溜まりやすくなります。この溜まったものが原因となり、以下のような症状を引き起こすことがあります。
・月経の症状
・月経が終わった後も、茶色いおりものがだらだらと続く
・月経の期間
・通常よりも長くなる(過長月経)
・月経の痛み
・以前よりもひどくなる
また、これから妊娠を希望する方にとって、この病気は不妊の原因になる可能性が指摘されています。きずあとのくぼみに溜まった血液などが、受精卵が子宮内膜にくっつくこと(着床)を邪魔してしまうためです。
実際に、帝王切開のきずあとがある方は、体外受精などの治療における妊娠率や出産率が低下するという研究報告があります。特に、きずあとのくぼみに液体が溜まっている状態だと、妊娠や出産がさらに難しくなることもわかっています。このことから、きずあとに液体が溜まる状態は、妊娠を妨げる大きな原因の一つと考えられています。
帝王切開瘢痕症候群の種類
帝王切開瘢痕症候群は、医学的にはっきりとした分類があるわけではありません。
ある研究で「一つの問題、多様な様相」と表現されるように、同じ病気でも人によって症状やきずあとの状態が大きく異なるのが特徴です。
そのため、主に「どのような症状が出ているか」と「きずあとはどのような状態か」という2つの視点から、その人のタイプを考えていきます。
症状による分け方
・月経のトラブルが中心のタイプ
月経が終わった後も、茶色いおりものがだらだらと続きます。
きずあとのくぼみに溜まった古い血液が、少しずつ出てくるためです。
・妊娠のしづらさが中心のタイプ
きずあとに溜まった液体が、受精卵が子宮にくっつくのを邪魔します。
この状態が、不妊の原因になっている可能性があります。
・痛みが中心のタイプ
月経のときの痛みが、以前よりも強くなることがあります。
また、性交のときに痛みを感じる場合もあります。
これらの症状は、一つだけではなく複数重なって現れることも少なくありません。
きずあとの状態による分け方
治療方法を選ぶうえで、こちらの分類がとても重要になります。
超音波検査などで、子宮のきずあとの状態を詳しく調べます。
・きずあとのくぼみの深さ
・残っている子宮の筋肉の厚さ
特に、子宮の筋肉がどれくらいの厚さで残っているかは非常に大切です。
筋肉が薄いと、次の妊娠の際に子宮が破れてしまう危険性が高まるためです。
筋肉が比較的厚い場合は、体への負担が少ない子宮鏡を使った手術が考えられます。
一方で、筋肉がとても薄い場合は、お腹の中からしっかりきずあとを修復する手術(腹腔鏡手術など)が必要になることがあります。
このように、症状ときずあとの状態を総合的に見て、一人ひとりに合った治療法を慎重に判断していきます。
帝王切開瘢痕症候群の原因
帝王切開瘢痕症候群は、帝王切開で切った子宮の筋肉のきずが、産後にうまくくっつかずに、くぼみや隙間ができてしまうことが原因で起こります。
このきずあとのくぼみは「ニッシェ」とも呼ばれ、完全に治りきらないと、月経の血液やおりものが溜まる場所になってしまいます。
ある海外の研究では、初めて帝王切開を受けた方のうち、3年後には約42.5%の方に帝王切開瘢痕症候群が見られたという報告もあります。
この結果からも、この病気は決して珍しいことではないとわかります。
すべての方に起こるわけではありませんが、以下のような場合に、きずがうまく治りにくくなる可能性があるといわれています。
・複数回の帝王切開
同じ場所を何度も切ると、組織がだんだん硬くなり、きずの治りが悪くなることがあります。
・緊急帝王切開
お産が始まって子宮の入り口が開くと、子宮の壁は赤ちゃんを出すために薄く伸びています。
この薄い部分を手術するため、きずがくっつきにくくなることがあります。
・肥満の傾向がある方
おなかの脂肪が多いと手術が複雑になり、きれいに縫い合わせることに影響する場合があります。
・妊娠中に糖尿病だった方
血糖値が高い状態は、体全体のきずの治りを遅らせる要因になる可能性があります。
・子宮が後ろに傾いている方(子宮後屈)
子宮がもともと後ろ側に傾いている方は、きずの部分に力がかかりやすいといわれています。
これらの要因が一つ、あるいは複数重なることで、帝王切開のきずあとがうまく治らない可能性につながります。
帝王切開瘢痕症候群の症状
帝王切開のきずあとが原因となり、体に様々な変化が現れることがあります。
特に月経に関するトラブルが多いですが、痛みや不妊につながる場合もあります。
具体的にどのような症状があるか、一つずつ見ていきましょう。
【帝王切開瘢痕症候群でみられる主な症状】
・月経に関するトラブル
・月経が終わった後も、茶色っぽいおりものや少量の出血が続きます。
・きずのくぼみに溜まった古い血液が、少しずつ排出されるためです。
・月経期間が8日以上と長引いたり(過長月経)、月経ではない時に出血したりします。
・きずあとの影響で子宮の収縮がうまくいかず、月経痛が以前よりひどくなることもあります。
・痛みに関するトラブル
・月経とは関係なく、下腹部に慢性的な痛みを感じることがあります(慢性骨盤痛)。
・性交のときに痛みを感じる場合もあります。
・妊娠に関するトラブル
・きずのくぼみに溜まった血液や液体が、受精卵の着床を妨げます。
・この状態が、次の妊娠を望んでもなかなか妊娠しない「不妊」の原因になる可能性があります。
これらの症状は、帝王切開を受けたすべての方に現れるわけではありません。
しかし、ある海外の研究では、初めて帝王切開を受けて3年後の方のうち、約42.5%に何らかの症状が見られたと報告されています。
特に多かった症状は、慢性的な骨盤の痛み(約35.0%)、月経後の少量の出血(約32.8%)、おりものの異常(約23.2%)でした。
この結果からも、決して珍しい状態ではないことがわかります。
また、まれなケースですが、きずあと部分の子宮の壁が非常に薄くなることがあります。
筋肉の壁が薄いと、次の妊娠の際に子宮が破れてしまう危険性が高まる可能性も指摘されています。
帝王切開の後、気になる症状があれば我慢せず、婦人科へご相談ください。
帝王切開瘢痕症候群の検査・診断
帝王切開のきずあとが原因で不調が起きているか確かめるため、いくつかの検査を組み合わせて診断します。
主に、子宮の中の様子を画像で見る検査を行い、きずあとの状態を詳しく調べていきます。
経腟超音波検査(エコー検査)
まず基本となるのが、腟から細い器具を入れて子宮の状態を見る超音波検査です。
この検査で、帝王切開のきずあとがどのようになっているかを確認します。
ある研究では、この超音波検査で以下の点を見ると、きずの治りが良くない状態を高い精度で見つけられると報告されています。
・きずのくぼみ
きずあとが黒っぽく見え、液体が溜まっていないかを確認します。
・子宮の筋肉の厚さ
きずの周りの筋肉が、ペラペラに薄くなっていないかを調べます。
・きずの形
きずあとの形がいびつになっていたり、境界線がぼやけていないかを見ます。
より詳しく観察するために、子宮の中にお水を少し入れてから超音波で見る方法(ソノヒステログラフィー)を行うこともあります。
MRI検査
超音波検査で、さらに詳しい情報が必要だと判断された場合に行う検査です。
強力な磁石と電波の力で、体の断面を細かく撮影し、きずの状態をより立体的に捉えることができます。
ある研究報告では、超音波検査よりもMRI検査の方が、きずの深さや広がりをより正確に診断できるとされています。
この詳しい情報が、今後の治療方針を決めるための大切な判断材料になります。
子宮鏡検査
子宮の中に直接、とても細いカメラを入れて中の様子を観察する検査です。
きずあとのくぼみや、通常はないはずの血管ができていないかなどを、医師が目で見て直接確認できます。
これらの検査結果を総合的に判断し、帝王切開瘢痕症候群かどうかを診断します。
そして、一人ひとりのきずあとの状態に合わせた治療計画を立てていきます。
帝王切開瘢痕症候群の治療
帝王切開のきずあとが原因の不調は、治療で改善が期待できます。
今後の妊娠を希望するかどうかや、症状のつらさで治療法が変わります。
主に「お薬を使う方法」と「手術で治す方法」の2つの選択肢があります。
お薬を使う方法(ホルモン療法)
妊娠を希望しておらず、月経後の出血などの症状を和らげたい場合に考えます。
低用量ピルなどのお薬を使い、子宮内膜が厚くなるのを抑えます。
これにより、月経の出血量を減らしたり、月経痛を軽くしたりする効果が期待できます。
手術で治す方法(手術療法)
不妊の原因になっている場合や、将来の妊娠を考えている方に提案します。
また、出血や痛みがひどい場合にも、手術を検討することがあります。
きずあとの状態は「一つの問題、多様な様相」と表現されるほど人それぞれです。
そのため、きずの深さや子宮の筋肉の厚さに合わせて、最適な手術を選びます。
手術の種類 | どのような手術か
子宮鏡下手術 | 腟から細いカメラを入れ、子宮の内側からきずの余分な部分を整えます。 お腹にきずがつかず、体への負担が少ない方法です。
腹腔鏡下手術 | お腹に数か所小さな穴を開け、カメラや器具を入れて手術します。 きずの部分を一度切り取り、きれいに縫い直します。
ロボット支援手術 | 腹腔鏡手術の一種で、より精密な操作が可能です。 人の手よりも細かく動くロボットアームを使い、丁寧にきずを修復します。
開腹手術 | お腹を直接切って、きずの部分を治す方法です。 他の方法では手術が難しい場合に選択されます。
子宮の筋肉が比較的厚く残っている場合は、体への負担が少ない子宮鏡下手術が考えられます。
一方で、筋肉が薄い場合は、お腹の中からしっかり治す腹腔鏡下手術などが適しています。
どの治療法がご自身に合っているか、医師とよく相談して決めていきましょう。










