バッド・キアリ症候群

人口100万人に約3.2人――。国が難病に指定する、非常にまれな病気「バッド・キアリ症候群」をご存じでしょうか。この病気は、肝臓から心臓へと血液を送る血管が詰まることで、体に深刻な影響を及ぼします。

恐ろしいのは、約7割の患者さんで原因が特定できていない点です。さらに、足のむくみやお腹の張りといった症状は、特に妊娠中にはよくあることと見過ごされがち。しかし、それが命に関わる病気のサインである可能性も否定できません。

この記事では、謎の多いバッド・キアリ症候群について、その原因や見逃されやすい症状、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切な人のために、ぜひ正しい知識を深めてください。

バッド・キアリ症候群の概要

バッド・キアリ症候群は、肝臓から心臓へ血液を送る血管が、何らかの原因で狭くなったり詰まったりする病気です。

体の血液は心臓から全身を巡り、再び心臓に戻ります。肝臓を通った血液も、肝静脈という血管を通って心臓に戻ります。この通り道がふさがると、肝臓から血液が出ていけなくなります。

行き場を失った血液は肝臓内にたまり、肝臓が腫れてしまいます。その結果、肝臓につながる別の血管(門脈)の圧力が異常に高まる「門脈圧亢進症」という状態を引き起こします。

原因は生まれつき血管の形に問題がある場合や、血液の塊(血栓)ができることなどが考えられています。特に妊娠中は血液が固まりやすい状態になるため、この病気を発症するリスクを高めることが知られています。しかし約7割の患者さんでは、はっきりとした原因はわかっていません。

日本では、国が指定する「難病」の一つです。人口100万人あたり約3.2人がこの病気にかかっていると推定される、非常にまれな病気です。

バッド・キアリ症候群のポイント

  • 場所 肝臓から心臓へ血液を送り返す血管(肝静脈など)
  • 状態 血管が狭くなったり、血の塊(血栓)で詰まったりする
  • 結果 肝臓に血液がたまり、門脈の圧力が上がる(門脈圧亢進症)
  • 指定 日本では治療が難しい「難病」に指定されている

バッド・キアリ症候群の種類

バッド・キアリ症候群は、原因や症状の進み方によっていくつかの種類に分けられます。ご自身の状態がどのタイプかを知ることは、適切な治療方針を決めるうえで大切です。

原因による分類

何が原因で血管が詰まるかによって、「原発性」と「続発性」に分けられます。

種類

特徴

原発性

肝臓から出る血管そのものに問題があるタイプです。

血液が固まりやすくなる体質や、血管の形が生まれつき狭いことなどが原因となります。

続発性

ほかの病気や体の変化が原因で、血管が外から圧迫されたり、詰まったりするタイプです。

特に妊娠中は、赤ちゃんを守るために体が出血しにくい状態になります。これは「過凝固状態」とよばれ、血のかたまり(血栓)ができやすくなるのです。そのため、バッド・キアリ症候群を発症するリスクが高まることがあります。

症状の進み方による分類

症状がどのように現れるかによって、「急性型」と「慢性型」の2種類に分けられます。

  • 急性型
  • 急にお腹の激しい痛みや吐き気、お腹の張りなどの症状が現れます。症状の進み方が速いため、すぐに治療を始める必要があります。
  • 慢性型
  • ゆっくりと症状が進行し、初めは自覚症状がほとんどありません。足のむくみやお腹に水がたまるといった症状が少しずつ現れます。日本ではこの慢性型が多く見られます。

バッド・キアリ症候群の原因

バッド・キアリ症候群は、肝臓の血管が詰まることで起こる病気です。 しかし、なぜ血管が詰まるのかという根本的な原因については、 残念ながら約7割の患者さんで、はっきりと特定できていません。

原因がわかっている場合は、生まれた後の何らかの要因で発症する 「後天性」のものがほとんどです。 ごくまれに、生まれつき血管の形に特徴がある方もいます。

後天的な原因には、主に次のようなものが考えられています。

  • 血液が固まりやすくなる状態
  • 骨髄増殖性腫瘍(血液を作る機能の病気)や、 生まれつき血が固まりやすい体質(血液凝固異常)などがあります。
  • お薬や体の大きな変化
  • 経口避妊薬(ピル)の服用が影響することがあります。 また、妊娠や出産も大きなきっかけの一つです。
  • 他の病気からの影響
  • 肝臓がんなどが血管を圧迫したり、お腹の中の感染症や 血管の炎症が原因になったりすることもあります。

特に妊娠中は、お腹の赤ちゃんを守るため、 体が出血しにくい「過凝固状態」という特別な状態になります。 この変化は、一方で血の塊(血栓)をできやすくするため、 バッド・キアリ症候群を発症するリスクを高めることがわかっています。

このように原因は一つとは限らず、いくつかの要因が重なっている場合もあります。

バッド・キアリ症候群の症状

バッド・キアリ症候群は、肝臓からの血液の流れが滞る病気です。 そのため、体にはさまざまなサインが現れます。 症状の出方は、急に始まる「急性型」と、 ゆっくり進む「慢性型」とで大きく異なります。

多くの症状は、血液の流れがせき止められることで起こります。 行き場を失った血液が肝臓につながる「門脈」という血管にたまり、 その中の圧力が異常に高くなることが主な原因です。

主な症状のチェックリスト

ご自身の体に当てはまるものがないか、確認してみましょう。

  • □ お腹に水がたまる(腹水) 血液中の水分がお腹の中に漏れ出して、お腹が張ってきます。
  • □ 足がむくむ(下腿浮腫) 下半身からの血液の流れも悪くなり、足に水分がたまりやすくなります。
  • □ お腹の表面の血管が浮き出て見える(腹壁静脈怒張) 本来の血管が詰まるため、血液が別の道(う回路)を探して流れます。 その結果、お腹の表面の血管が太く浮き出て見えるのです。
  • □ 食道や胃にこぶができる(静脈瘤) お腹の血管と同様に、食道や胃の血管にも血液が流れ込みます。 血管がこぶのように膨らみ、破れると大出血につながる危険な状態です。

急性型では、突然の激しいお腹の痛みや吐き気で発症します。 一方、日本では多いとされる慢性型は、初期症状がほとんどありません。 健康診断などで偶然見つかることも少なくない病気です。

特に注意が必要なのが妊娠中です。 妊娠中は、体質的に血液が固まりやすい「過凝固状態」になります。 そのため、この病気を発症するリスクが高まることが知られています。 足のむくみやお腹の張りは妊娠中によくある症状と思われがちです。 そのため、この病気の発見が遅れることもあるので注意が必要です。 気になる症状があれば、放置せずに専門の医療機関へ相談しましょう。

バッド・キアリ症候群の検査・診断

バッド・キアリ症候群が疑われる場合、いくつかの検査を行います。 問診や診察の結果とあわせて、体の状態を正確に把握します。 これらの検査結果を総合的にみて、診断を確定していきます。

まず、基本的な情報として血液検査を行い、貧血や肝臓の機能を確認します。 そのうえで、診断の鍵となるのがお腹の中を画像で見る検査です。

  • 腹部超音波(エコー)検査 体に負担が少なく、診断の第一歩として非常に重要な検査です。 特にドップラー法を用いると、血の流れを色や音で確認できます。 肝臓の血管に血の塊(血栓)がないかなどを直接見つけられます。 妊娠中は放射線を使う検査が難しいため、この超音波検査が 診断の中心的な役割を果たします。
  • CT検査・MRI検査 超音波検査でさらに詳しい情報が必要な場合に行われる検査です。 体を輪切りにしたような精密な画像で、血管の状態を より立体的に詳しく調べることができます。
  • 内視鏡(胃カメラ)検査 門脈の圧力が上がることでできやすい、食道や胃の静脈瘤を 確認するために行います。この静脈瘤は破裂すると 大出血につながる危険があるため、事前に状態を把握することが大切です。

これらの検査で診断が難しい場合は、より専門的な検査を行うこともあります。 カテーテルという細い管を使った血管造影検査や、 肝臓の組織を一部採って調べる検査(肝生検)などです。

バッド・キアリ症候群の治療

バッド・キアリ症候群の治療目標は、大きく分けて2つあります。 肝臓からの血液の流れを良くすることと、 すでに出ているつらい症状を和らげることです。 治療法は、患者さん一人ひとりの原因や体の状態に合わせて、 専門の医師が慎重に選んでいきます。

治療は主に、以下の3つの方法を組み合わせて行います。

1. 血液の流れを良くする治療

病気の根本原因である血管の詰まりや狭さに対し、 直接アプローチして血液の流れを改善させます。

  • お薬での治療(抗凝固療法) 血液が固まってできた血の塊(血栓)が原因の場合に行います。 血を固まりにくくするお薬を使い、血栓の進行を防ぎます。 この治療は、病気の進行を抑えるための重要な柱です。
  • カテーテルでの治療(血管内治療) 体への負担が比較的少ない治療法です。 足の付け根などから細い管(カテーテル)を血管に入れ、 風船で狭くなった部分を広げたり、ステントという 金属の筒を置いて血管を広げたままにしたりします。
  • 手術 カテーテル治療が難しい場合に行われます。 手術で直接血栓を取り除いたり、血液のための 新しい通り道(バイパス)をつくったりします。

2. 今ある症状を和らげる治療

門脈の圧力が上がることで起こるお腹の水(腹水)や、 食道・胃にできたこぶ(静脈瘤)などに対応します。 肝硬変の治療と似た方法がとられます。

  • 腹水 おしっこを出しやすくするお薬を使ったり、 食事の塩分を控えたりして、お腹の張りを和らげます。
  • 食道・胃静脈瘤 静脈瘤が破れると大出血につながる危険があります。 内視鏡を使ってこぶを縛ったり、固めたりして破裂を防ぎます。

3. 妊娠を考える場合の特別な管理

特に妊娠中は、体が赤ちゃんを守るために血液が固まりやすい 「過凝固状態」になるため、この病気を発症しやすくなります。 かつては妊娠が難しいとされていましたが、治療法の進歩により、 専門医による適切な管理のもとで安全な出産を目指せるようになりました。 妊娠中や、将来妊娠を希望される方は、 計画の段階から専門の医師とよく相談することが非常に大切です。