胆道閉鎖症

生まれてすぐの赤ちゃん、およそ10,000人に1人の割合で発症する「胆道閉鎖症」。国内にも5,000人ほどの患者さんがいるとされ、決して他人事ではない肝臓の病気です。胆汁という消化液の流れが止まることで、赤ちゃんの肌や白目が黄色くなる黄疸や、うんちが白っぽくなるなどの症状が現れます。

「うちの子の黄疸が長引いているかも…」「うんちの色がいつもと違う気がする…」。そんなご両親の気づきが、赤ちゃんの命を救う最初のステップになります。この病気は進行すると肝臓が硬くなる「肝線維化」を引き起こすため、治療はまさに時間との勝負なのです。

この記事では、見過ごしてはならない胆道閉鎖症のサインから、その原因、そして最新の治療法までを詳しく解説します。大切な赤ちゃんの未来を守るため、まずは正しい知識を身につけることから始めましょう。

胆道閉鎖症の概要

胆道閉鎖症は、生まれてすぐの赤ちゃんに起こる肝臓の病気です。 肝臓で作られる「胆汁」という消化液を運ぶための、 「胆管」という管が炎症で詰まってしまうことで発症します。

胆汁が腸に流れなくなると、肝臓の中にたまってしまいます。 その結果、赤ちゃんの肌や白目が黄色くなる「黄疸」が出たり、 うんちの色が白っぽくなったりする症状があらわれます。

日本では、およそ10,000人に1人より少し多い割合で見られます。 現在、国内には少なくとも5,000人ほどの患者さんがいるとされ、 決して珍しい病気ではありません。

この病気で特に注意が必要なのが「肝線維化」という状態です。 胆汁がたまって肝臓に負担がかかり続けると、 肝臓がだんだんと硬くなってしまうことを指します。

肝臓がどのくらい硬くなっているかを正確に知ることは、 赤ちゃんの状態を把握し、治療方針を決める上でとても重要です。 そのため、肝臓が硬くなる仕組みや、その進行度を詳しく評価する 新しい方法について、世界中で研究が進められています。

胆道閉鎖症のポイントは以下の通りです。

  • かかりやすい時期 新生児や、生まれてまもない乳児期早期の赤ちゃん
  • 原因 胆汁の通り道である「胆管」が炎症で詰まるため
  • 進行すると 肝臓が硬くなる「肝線維化」につながることがある

この病気は、お父さんやお母さんが赤ちゃんの変化にいち早く気づき、 できるだけ早く治療を始めることが何よりも大切です。

胆道閉鎖症の種類

胆道閉鎖症は、胆汁の通り道である「胆管」が、 どの場所で詰まっているかによって種類が分けられます。 どこで詰まっているかを知ることは、治療方針を決める上で重要です。

専門的には、胆管が詰まっている場所に応じて、 以下の3つのタイプに分類されています。 III型が最も重く、全体の約9割を占めています。

種類

胆管が詰まっている場所

特徴

I型

肝臓から少し離れた、胆管の終わりの部分

比較的まれなタイプです。

II型

肝臓の出口近くの胆管の一部

このタイプも少ないです。

III型

肝臓のすぐ出口の部分

最も多く、重症なタイプです。

また、胆道閉鎖症は体の他の部分にも影響を及ぼすことがあります。 特に、お口の中の健康への影響が報告されています。 胆汁の流れが悪くなると、胆汁の色素である「ビリルビン」が 血液中に増え、黄疸の原因となります。

このビリルビンは、歯が作られる時期に影響を与え、 歯が緑色っぽく変色させてしまうことがあります。 他にも、顎の形や歯の構造、歯ぐきの健康に 影響が出る可能性も指摘されています。

歯ぐきの炎症は、治療で使うお薬の影響や、 体調によってお口のケアが難しくなることも一因です。 そのため、病気の治療と並行して、早い段階から 歯医者さんと連携し、お口のケアを進めることが大切です。

胆道閉鎖症の原因

胆道閉鎖症がなぜ起こるのか、そのはっきりとした原因は まだ完全にはわかっていません。 一つの原因だけではなく、いくつかの要因が複雑にからみ合って 病気が起こると考えられています。

現在、原因として考えられている主な説は以下の通りです。

  • ウイルス感染説 赤ちゃんがお腹の中にいる間や生まれてすぐに、 何かのウイルスに感染することがきっかけになるという説です。 この感染で胆管に強い炎症が起き、一度できた胆管が 壊れて詰まってしまうのではないかと推測されています。
  • 免疫の異常説 体をばい菌などから守る「免疫」という仕組みがあります。 この免疫が、間違って自分自身の胆管を攻撃してしまう、 という説です。この攻撃で胆管が壊され、胆汁が 流れなくなると考えられています。
  • 遺伝的な要因 生まれ持った体質も、病気の発症に関係する可能性が 指摘されています。近年の研究では、特定の遺伝子が 関係している可能性が報告されています。 例えば「ADD3」という遺伝子の特定のタイプが、 胆道閉鎖症の発症リスクを高める可能性が示されました。
    多くの研究結果をまとめて分析した調査によると、 この遺伝子のタイプは、特にアジア人の赤ちゃんにおいて 病気のリスクと関連していることがわかっています。 このADD3遺伝子は、細胞が新しくなったり、傷ついた細胞を 修復したりする大切な働きに関係しています。

このほか、胆道閉鎖症は男の子よりも女の子に少し多く見られます。 また、約10%の赤ちゃんは脾臓の異常など、 ほかの生まれつきの病気を一緒に持っていることがあります。

このように、さまざまな要因が重なって発症すると考えられており、 世界中の研究者が原因を突き止めるために研究を続けています。

胆道閉鎖症の症状

胆道閉鎖症は、赤ちゃんの体に現れるサインに、 ご家族がいち早く気づいてあげることが何よりも大切です。 特に、毎日確認できる「うんちの色」は、 病気を見つけるための最も重要な手がかりになります。

赤ちゃんの体が出す主なサインは以下の通りです。

  • 白っぽい色のうんち(灰白色便) 胆汁が腸に届かないため、うんちの色を作る成分が混ざらず、 便の色が白っぽくなります。クリーム色や薄いレモン色、 灰色に見えることもあります。
    母子健康手帳にある「便カラーカード」は、うんちの色を 比べるための大切な道具です。このカードは、赤ちゃんの 命を救うために有効な方法として世界的に評価されています。 もし、うんちの色がカードの1番から3番に近い場合は、 ためらわずに医療機関へ相談してください。
  • 長引く黄疸(おうだん) 肌や白目が黄色く見える症状です。多くの赤ちゃんは、 生まれてすぐ「生理的黄疸」が見られます。 これは通常2週間ほどで自然に消えていきます。
    しかし、胆道閉鎖症の黄疸は長引いたり、 一度消えたように見えても、また黄色くなったりします。
  • 濃い黄色のオシッコ 本来うんちと一緒に出るはずの「ビリルビン」という色素が、 血液にあふれてしまいます。そして、オシッコとして 体の外に出されるため、色が濃い黄色になります。
  • 進行すると現れる症状 病気が進むと、お腹の右上にある肝臓や、 左上にある脾臓(ひぞう)が硬く触れるようになります。
    また、胆汁が出ないと脂肪やビタミンの吸収が悪くなります。 特にビタミンKが不足すると血が止まりにくくなるため、 脳出血などを起こす前に発見することが非常に重要です。
    さらに、血液中のビリルビンが多い状態が続くと、 お口の中に影響が出ることもあります。 歯が作られる時期にビリルビンが取り込まれることで、 歯が緑色っぽく変色することが報告されています。
    ほかにも、歯ぐきの炎症が起きやすくなることもあり、 病気の治療と並行して、早い段階から歯医者さんと連携し、 お口の健康を守っていくことも大切になります。

胆道閉鎖症の検査・診断

赤ちゃんの黄疸が長引いたり、うんちの色が白っぽかったりして 胆道閉鎖症が疑われる場合、いくつかの検査を組み合わせて 慎重に診断を進めていきます。

一つの検査だけで診断がつくわけではなく、 赤ちゃんの体の状態を総合的に見て判断することが大切です。 主な検査には、以下のようなものがあります。

  • 便カラーカードによる確認 ご家庭でできる最も大切なチェック方法です。母子健康手帳にある 色の見本と、赤ちゃんのうんちの色を毎日見比べましょう。 この方法は、病気の早期発見に非常に有効であることが、 多くの研究結果をまとめた分析でも証明されています。
  • 血液検査・尿検査 肝臓の機能を示す数値(ビリルビン値など)に異常がないか、 血液や尿を採って詳しく調べます。
    最近では、血液中の「MMP-7」という物質が診断の 手がかりになる可能性が報告されています。 この検査は、胆道閉鎖症ではない赤ちゃんを、 「病気ではない」と正しく見分ける力が高いのが特徴です。 ただし、これだけで診断はできず、他の検査とあわせて 判断するための大切な情報の一つとなります。
  • 腹部超音波(エコー)検査 お腹にゼリーを塗り、機械をあててお腹の中の様子を 画像で確認する、体に負担のない検査です。 胆汁をためる「胆のう」という袋の大きさや形に 特徴的な変化がないかなどを詳しく調べます。

これらの検査結果を総合的に判断しても診断がはっきりしない場合、 最終的には手術によって確定診断を行います。 手術中にお腹の中を直接見ながら、胆管に造影剤というお薬を入れ、 胆汁の通り道が本当に詰まっているかを確認します。 これを「術中胆道造影」といい、最も確実な診断方法です。

胆道閉鎖症の治療

胆道閉鎖症の治療は、まさに時間との勝負です。 できるだけ早く診断し、手術を行うことが赤ちゃんの肝臓を守る鍵となります。 治療の大きな目標は、まず手術で胆汁が流れる新しい道を作ることです。

手術による治療

治療の基本は、手術で胆汁の通り道を確保することです。 赤ちゃんの状態に合わせて、主に2つの方法が考えられます。

  • 葛西(かさい)手術 多くの場合、最初に行われる手術です。 詰まってしまった肝臓の外側にある胆管を取り除きます。 そして、肝臓と腸を直接つないで、胆汁の新しい通り道を作ります。 この手術で黄疸がなくなることが、まず目指すゴールです。
  • 肝移植 葛西手術を行っても黄疸が良くならない場合があります。 また、一度は改善しても肝臓が硬くなる「肝硬変」が進んだ場合は、 肝移植が必要になります。 ご家族などから健康な肝臓の一部をもらい、取り替える手術です。

手術後の大切なケア

手術が終わった後も、赤ちゃんの体を守るための継続的なケアが続きます。

  • お薬による治療 胆汁の流れを助けるお薬(利胆剤)や、感染を防ぐお薬(抗菌薬)、 不足しがちなビタミンなどを使い、肝臓の働きをサポートします。
  • 合併症への注意 手術後は、腸の細菌が肝臓に入り炎症を起こす「胆管炎」に 注意が必要です。
    特に肝移植を受けたお子さんで注意したいのが、 「細菌性血流感染症」という合併症です。 これは、細菌が血液の中に入り込んでしまう状態を指します。
    ある調査研究によると、胆道閉鎖症の病歴を持つお子さんは、 肝移植後にこの感染症を起こすリスクが高いことがわかっています。 そのため、抗菌薬でしっかり予防したり、熱が出た時などは 慎重に様子を見たりすることが非常に大切になります。

手術後も、ご家族と医療チームが力を合わせ、 赤ちゃんの成長を長期的に見守っていくことが重要です。