胆のう炎

みぞおちや右わき腹に感じる、しつこい痛み。「食べ過ぎや胃痛だろう」と、つい自己判断してしまっていませんか?その不調は、肝臓の隣にある「胆のう」が炎症を起こす「胆のう炎」のサインかもしれません。

実は、日本人の約10人に1人は、胆のう炎の主な原因となる「胆石」を持っていると言われています。多くは無症状ですが、一度発症すると激しい痛みや高熱に見舞われることもあり、決して他人事ではない病気です。

さらに注意したいのは、胆のう炎が見逃されやすいという事実です。ある研究では、急性胆のう炎の約30%が見過ごされた可能性や、最初の診断の2割以上が誤診だった可能性も指摘されています。この記事では、胆のう炎の正しい知識について詳しく解説します。

胆のう炎の概要

胆のう炎とは、肝臓の下にある「胆のう」という臓器が炎症を起こす病気です。 胆のうは、肝臓で作られた胆汁という消化液を一時的にためておく袋です。

胆のう炎の主な原因は「胆石」という石で、急性胆のう炎の約9割は胆石が原因です。 日本人の約10人に1人は胆石を持っていると言われますが、多くは無症状です。 胆石を持つ人のうち、胆のう炎などの症状が出るのは年間1~3%と報告されています。

胆のう炎は、症状の現れ方によって、大きく2つのタイプに分けられます。

種類

特徴

急性胆のう炎

突然、おなかの激しい痛みや吐き気、発熱などの症状が現れます。

慢性胆のう炎

軽い炎症を何度も繰り返し、胆のうの壁が厚く硬くなっていきます。

胆のう炎による腹痛は、他の病気と症状が似ているため診断が難しい場合があります。 ある研究では、急性胆のう炎の約30%が見逃された可能性が指摘されています。 これを「偽陰性(ぎいんせい)」といい、本当は病気なのに見つからない状態です。

逆に、他の病気なのに胆のう炎と診断されてしまう「偽陽性(ぎようせい)」もあります。 最初の診断の20~36%が誤診だった可能性も報告されているのです。 このため、おなかの痛みが続く場合は、正確な診断を受けることが非常に重要です。

胆のう炎の種類

胆のう炎は、症状の現れ方によっていくつかの種類に分けられます。 急に激しい症状が出るものや、じわじわと長く続くものがあります。 また、原因が胆石ではない特殊なタイプも存在し注意が必要です。

急性胆のう炎(きゅうせいたんのうえん)

  • 特徴 胆のう炎の中で最も多いのが、この急性胆のう炎です。 胆石が胆のうの出口をふさぐことで、急に症状が現れます。
  • 症状 みぞおちから右上腹部にかけての突然の激しい痛みが特徴です。 吐き気や嘔吐、38度以上の高熱や悪寒をともなうこともあります。

慢性胆のう炎(まんせいたんのうえん)

  • 特徴 急性胆のう炎を繰り返すうちに、胆のうの壁が厚く硬くなります。 炎症が長く続くことで、胆のうが縮んでしまう状態です。
  • 症状 右上腹部の鈍い痛みや、胃もたれのような不快感が続きます。 急性胆のう炎ほどはっきりした症状が出ないこともあります。

胆石が原因ではない特殊な胆のう炎

まれですが、胆石がなくても起こる胆のう炎があり、重症化しやすい傾向があります。

種類

特徴と注意点

無石胆のう炎

(むせきたんのうえん)

胆石がないのに胆のうが炎症を起こすタイプです。

大きな手術の後や、長期間の絶食、糖尿病などが原因で起こります。

体の抵抗力が落ちている時に発症しやすく、重症化しやすいのが特徴です。

気腫性胆のう炎

(きしゅせいたんのうえん)

胆のうの壁の中で、細菌がガスを発生させる非常に危険な状態です。

糖尿病をお持ちの方に起こりやすく、胆のうが壊死したり破裂したりする危険があります。

緊急の手術が必要になることが多い、命に関わる可能性のある胆のう炎です。

胆のう炎の原因

胆のう炎がなぜ起こるのか、その原因は大きく2つのパターンに分けられます。 ほとんどは「胆石」という石が関係していますが、まれに石がないのに起こることもあります。 それぞれの原因について、詳しく見ていきましょう。

ほとんどは「胆石」が原因です

急性胆のう炎を発症する人のうち、およそ9割は胆石が原因です。 胆石とは、肝臓で作られる胆汁という消化液の成分が固まってできた石のことです。

この胆石が、胆汁の通り道である胆のうの出口をふさいでしまうことがあります。 すると胆汁の流れがせき止められ、胆のうがパンパンに膨らんでしまいます。 この状態が、胆のうの壁に強い炎症を引き起こすのです。

胆石そのものは、日本人の約10人に1人が持っていると言われるほど身近なものです。 しかし、胆石があるからといって、すぐに胆のう炎になるわけではありません。 実際に症状が出るのは、胆石を持つ人のうち年間で1~3%ほどと報告されています。

胆石ができやすくなる生活習慣として、以下のようなものが知られています。

  • 脂肪分の多い食事 胆汁は脂肪の消化を助けるため、脂肪の多い食事は胆のうに負担をかけます。
  • 不規則な生活習慣 過度なストレスや睡眠不足、運動不足なども胆汁の流れを悪くする一因です。

まれに胆石がなくても発症します

ごくまれですが、胆石がないのに胆のう炎が起こるケースもあります。 これを「無石胆のう炎(むせきたんのうえん)」と呼びます。 体の抵抗力が落ちているときや、胆のうの機能が弱ったときに起こりやすいです。

  • 大きな手術やケガの後
  • 長期間、口から食事ができていない状態
  • 糖尿病や動脈硬化などの持病がある方
  • 細菌の感染

これらの原因によって、胆のうの動きや血の流れが悪くなることで炎症が起こります。 無石胆のう炎は、胆石が原因の場合よりも重症化しやすいため特に注意が必要です。

胆のう炎の症状

胆のう炎の症状は、おなかの痛みが最も代表的なサインです。 しかし、ただの腹痛とは違う、いくつかの特徴的な現れ方をします。 ご自身の症状と見比べて、早期発見につなげることが大切です。

最も多いのは「おなかの痛み」です

胆のう炎の痛みは、みぞおちから右の肋骨の下あたりに感じます。 胆石が原因の一時的な痛みとは違い、より激しく長く続くのが特徴です。 痛みは数時間以上も続き、じっとしていてもなかなか楽になりません。

また、痛みが背中や右肩にまで広がる「放散痛(ほうさんつう)」も特徴です。 これは、痛みの信号が神経を通じて別の場所に伝わるために起こります。 深く息を吸い込むと、痛みが強くなるのも重要なサインの一つです。

痛み以外のサインにも注意しましょう

胆のう炎は、おなかの痛みだけでなく、体全体に症状が現れます。 炎症が起きているサインとして、以下のような症状がないか確認しましょう。

【胆のう炎の症状チェックリスト】

  • おなかの痛み みぞおちや右上の腹部に、持続する強い痛みがあります。
  • 熱が出る 38度以上の高熱が出たり、悪寒や体の震えをともなったりします。
  • 吐き気・嘔吐 消化器の不調から、吐き気や実際に吐いてしまうことがあります。

こんな症状は特に注意が必要です

高齢の方の場合、はっきりとした腹痛や発熱が出にくいことがあります。 「食欲がない」「なんとなく元気がない」といった変化がサインかもしれません。

また、炎症がひどくなると、次のような危険な症状が現れることがあります。

  • 黄疸(おうだん) 皮膚や白目が黄色くなります。胆管が詰まり胆汁が逆流するサインです。
  • 尿の色が濃くなる 黄疸と同じ原因で、血液中の色素が尿に混じって色が濃くなります。

これらの症状は、胆のうが破裂するなど重症化している可能性があります。 症状の現れ方は人によって違うため、自己判断はせず早めに受診しましょう。

胆のう炎の検査・診断

おなかの右上が痛いからといって、すぐに胆のう炎だと断定はできません。 他の病気と症状が似ているため、診断が非常に難しいことがあるからです。 ある研究では、急性胆のう炎の約30%が見逃された可能性も指摘されています。 そのため、いくつかの検査を組み合わせて慎重に原因を探っていきます。

体の中の火事を見つける「血液検査」

まず、採血をして体の中で炎症が起きていないかを調べます。 血液の中には、ばい菌と戦う「白血球」というパトロール隊がいます。 また、炎症が起きると「CRP」という物質が煙のように増えてきます。 これらの数値が高い場合、体のどこかで火事が起きているサインになります。

胆のうの状態を直接見る「画像検査」

次に、お腹の中を機械で直接観察して、胆のうの状態を確認します。 画像検査には、主に2つの種類があり、それぞれ役割が違います。

検査の種類

詳しくわかること

腹部超音波(エコー)検査

胆のう炎の診断で、最も基本となる大切な検査です。

・胆石があるか

・胆のうが腫れていないか(壁の厚さが4mm以上など)

・機械で押した時に特別な痛み(マーフィー徴候)が出るか

CT検査

エコー検査で胆のう炎が強く疑われた時に行います。

・炎症が周りの臓器に広がっていないか

・膿がたまるなど、危険な状態になっていないか

特にエコー検査は、胆のうを詳しく観察するのにとても優れています。 医師は胆のうの大きさや壁の厚さなどをミリ単位でチェックしているのです。

証拠をそろえて診断を確定します

胆のう炎の診断は、パズルのピースを組み合わせるように行われます。 日本の診療ガイドラインでは、以下の3つの証拠をそろえて判断します。

  1. 炎症の証拠 熱や、血液検査での白血球・CRPの上昇など
  2. お腹の症状 右上腹部の痛みや、押したときの強い痛みなど
  3. 画像の証拠 エコー検査やCT検査で見つかった胆のうの異常

これらの証拠がそろうことで、初めて「急性胆のう炎」と確定診断されます。 症状や検査結果を注意深く検討し、慎重に診断を進めていくことが重要です。

胆のう炎の治療

胆のう炎と診断されたら、基本的には入院して治療を進めます。 治療の目的は大きく分けて、次の2つのステップになります。 まず炎症を抑え、その後で炎症の原因を根本から取り除きます。

患者さんの体の状態や、炎症の重さ(軽症・中等症・重症)で、 治療の進め方は一人ひとり変わってきます。

まずは炎症を抑える「初期治療」

急性胆のう炎では、まず体への負担を減らし症状を和らげます。 胆のうをしっかり休ませることが、回復への第一歩です。

  • 絶食と点滴 食事をとると胆のうが働いてしまうため、一時的にお休みします。 体に必要な水分や栄養は、点滴でしっかり補給するので安心です。
  • 抗菌薬(こうきんやく) 炎症の原因となっている細菌と戦うためのお薬(抗生物質)です。 点滴で投与することで、体の中からばい菌の活動を抑えます。
  • 鎮痛薬(ちんつうやく) おなかの痛みが強い場合には、痛み止めのお薬を使います。 つらい症状を和らげて、体を楽にすることも大切な治療です。

再発を防ぐための「根本治療」

初期治療で炎症が落ち着いたら、原因を取り除く治療に移ります。 胆のう炎は再発しやすいため、胆のうを取り除く手術が基本です。 症状が出てから早めに(24~48時間以内)手術するのが望ましいです。

手術の種類

特徴

腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術

今の主流となっている手術で、体への負担が少ない方法です。

お腹に数カ所小さな穴を開け、カメラで中を見ながら胆のうを取り出します。

傷が小さく済むため、手術後の回復が早いのが利点です。

開腹(かいふく)手術

炎症がひどい場合や、お腹の中の癒着が強い場合に行います。

腹腔鏡での手術が難しいと判断された時に選択される方法です。

すぐに手術ができない場合の治療

体の状態が悪く、すぐに手術ができない場合もあります。 その際は「胆のうドレナージ」という応急処置を先に行います。 これは、胆のうに溜まった胆汁や膿を体の外に出す治療です。

お腹の外から胆のうに細いチューブを刺して、悪い液体を排出します。 この処置で炎症を抑え、全身の状態が安定するのを待ちます。 そして、体が手術に耐えられる状態になってから改めて手術を検討します。